6話 歪んだ虹
ワールド04-F52
ここは数百年、野蛮な異世界人がいないホワイトで平和な世界だ。
魔法でドンパチする人も魔獣を従えるものも戦争をする異世界人もいない。
多くは元サラリーマン、アラサー、童貞、彼女無しのテンプレは変わらないが、若い姿に戻って農村や商人に知識をひけらかしてスゴイネーって言われるくらいの生活をしている。
女性の場合、他の世界では女騎士として男に勝って私TUEEEEする人が多いが、ここは悪役令嬢に虐げられる貴族になって王子と恋をするのを希望するよくわかんない人も多かった。
女も男も所詮承認欲求。
欲望なんて単純だ。
魔王はもちろん居ない。
設定上いることにはなってるが、需要がないので求人募集をしていない。
最近来た異世界人は鳥に転生した。
希望シナリオは自由に空を飛びたい。
こいつも意味不明だ。
監視部もほとんど見てない。
環境管理部は草木に水を与え、
魔獣管理部は魔獣に餌を与え世話をする。
1つ難があるのは悪役令嬢役ばかり需要があるので、気が強い女性を演じすぎて、仕事終わりでも役が抜けない人が増えている。
それがいいと言う男性職員も一部いる、虐げられたい想いで転勤希望も少なくない。しかしそれを口に出すことは社会的に死を意味することになる。
ある日の昼、平穏ワールドと対照的に本社に衝撃が走った。
本社結界担当のアラームが鳴り響く。
「結界に穴!?」
この世界は無限ではない。
最北端の先へ進むと最南端へ移動する。
東も西も同じである。
空は永遠と青空が続く。
それを実現しているのが結界魔法である。
「監視部の監視も感知していない!?一体誰が……?!」
「鳥……?」
鳥だった。
自由に飛んでいるだけの転生した鳥。
鳥は様々な世界を見た。
アンデッドで溢れた崩壊した世界。
魔界があり魔王が存在する世界。
貴族が世界を支配している世界。
魔法使い同士が戦争を繰り広げる世界。
鳥は転生10回目である。
2度目の転生で世界の"違和感"に気づき、バレないよう慎重な検証を繰り返した。
彼は最初は鳥ではなかった。
光の魔法使いだった。
ある日、彼は虹を作る魔法を練習していた。
動機は単純に虹が癒しだから。
空高くに現れた虹。
成功かと思われた。しかし何度やっても虹が僅かにズレる。
綺麗な弧を描けない。
手の上では小さな虹が作れる。
場所を変えると成功する時と僅かにズレる時がある。
世界の仕組みは学園で学んでいた。
世界は平面であるのが常識であった。
疑問を持って解析するものは皆消された。
誰も覚えていない。最初からいなかったように。
彼も解析者の事は覚えていないが、危険なことなのは本能的に肌で感じていたが探究心が勝った。
何度も転生を繰り返しながら検証をはじめた。
1日に一回虹を出す。
時間を変えてまた虹を出す。
途方もない作業だった。
1日1回1分1秒単位の違いで虹を出していく。それも果てしない空に向かって繰り返す。
そして、100年に1回、必ず深夜の決まった時間に一瞬だけ空間が揺れる事を知った。
これはこの世界の地震と学園で学んだが疑惑を更に深めた。
5度目の転生。
この世界は四角く作られている。
角を跨いで虹を出すとほんの僅かにズレる。
虹は光が空気中で屈折して生まれる。本来、球体の世界なら均一に曲がるはずだ。しかし四角く作られた世界では、角の近くだけ空間のゆがみが生じる。その歪みが虹をほんの僅かにズレさせていた。
学園では世界は平面と教わった。しかし虹は嘘をつかなかった。
そして決まった時間に起きる地震と呼ばれる現象。
その日は雨が降っていた。
光の魔法使いは円柱状の光線を角に目掛けて放った。
光の中に見えた景色は晴れていた。
疑惑は確信に変わった。
6回目の転生。それは鳥になる。
表面上はほのぼのと空を旅したい。
真の目的は地震に合わせて角に飛び込むこと。
より近くで世界の角を見ること。
8回目の転生。
気付けば彼が飛び立つと彼を先頭にV字の群れが出来るようになっていた。
そして、10回目の転生。
地震のタイミングで角への突撃。
群れは先頭を失った。
「これが全てです……。」
捕らえられた鳥(彼)は全てを白状した。
対策はすぐに行われた。
結界は円を描き角を無くす。
結界を2重にかけること。
そして、転生は1度だけにすること。
――これが異世界で命を落としてまた異世界に転生する物語が存在しない理由だった。
次の日から、群れは先頭のいないUの字を描いた。
導く者はもういない。それでも鳥たちは飛んだ。
鮮やかな羽がUの字を描く様は、まるで虹のようだった。
彼が人生かけて作ろうとした、あの綺麗な弧に似ていた。




