⑥変態の土下座
マサクニは、サッカー用のゴールポストに向かって、手をかざした。
目測で高さは二メートル、横幅は五メートル程ありそうだ。
グラッ!
なんと念力により、大きなゴールポストを宙に浮かせた。
だが、茜も負けていない。
マサクニと同じように、念力で重そうな朝礼台を、宙へと持ち上げた。
こちらは縦横、一・五メートルほどだ。
パラパラと砂を落としながら、鉄製の物体が二つ、宙に浮かんでいる。
その異様な光景に、私はゾクリとした。
『くらえっ!』
先に攻撃を仕掛けたのは、マサクニだ。
殺意に満ちたゴールポストが、猛烈な勢いで、私達に向かって飛んでくる。
茜も、朝礼台を投げつけた。
同じく、猛スピードだった。
ゴールポストと朝礼台が、空中で激しく衝突する。
バキーン‼︎‼︎ \\\\☆////
耳をつんざく、金属性の激しい音。
その衝撃音が伝わって、私の身体は小さく揺れた。
その後、ゴールポストと朝礼台は、つば迫り合いの様に一進一退の押し合いを展開した。
砂塵を撒き散らしながら、ギリギリと鉄同士の軋む音がする。
『くっ、小娘の分際で……念力まで使えるのかっ……』
「負けるかぁ、ジジイ!」
茜が、更に両手に力を込めると、遂に朝礼台が打ち勝った。
マサクニの操るゴールポストが、弾かれたのだ。
バキッ‼︎‼︎
飛ばされたゴールポストは回転しながら、校舎の三階へと突き刺さった。
\\\\ ドゴォォォォン‼︎‼︎ ////
物凄い轟音だった。
コンクリートの壁や、窓ガラスの破片が、バラバラと地上に落ちる。
「どうだっ、ジジイ!」
『まさか……ワシが、念力で負けるとは……』
「トドメは、阿部さん直伝、死神消滅ビーム!」
『な、なにぃ! 死神消滅ビームじゃとお‼︎』
茜が人差し指を、マサクニに向けた瞬間だった。
『た、助けてぇぇぇぇ! もう悪さしないからぁぁぁ!』
マサクニは土下座をして、地面に額を擦り付けた。
「えっ?」と、茜の力が緩んだ。
突然、態度を変えたマサクニ。
なおも『許してぇぇぇぇ』と、涙声で命乞いを続けている。
『もう二度と、人の書いた小説に現れないからぁぁ。大人しくするからぁぁ! 命だけはぁぁぁ……ごごご、ご勘弁をぉぉぉぉ……』
私達は、呆気に取られた。
死神消滅ビームと聴いただけで、あのマサクニがここまで怯えるとは……。
やはり死神を一瞬で消滅させる、強力なビームなのだろう。
涙と鼻水、ヨダレまで垂らした情けない顔を見た茜は、すっかり戦意を失くしてしまったようだ。
砂の上には、涙と思われる黒いシミが点々と見えた。
茜の全身を包んでいたオーラが、フッと消える。
「……もうっ、しょうがないな。二度と悪さをしないと誓う?」
『誓う、誓う! 誓いますとも! 神様、仏様、マリア様! ワシは、心から誓うぞい‼︎』
茜が振り返って、私を見た。
「ねえ、春香。しょうがないよね。阿部さんはやっつけろって言ったけど、もう悪さしないって言ってるし」
「う……うん……」
これでいいのかな? と思っていると……。
ニヤリと、邪悪な笑みを浮かべたマサクニが立ち上がり、茜の背後へと近づいた。
「あ、茜っ! 後ろっ!」
「え?」
『スキありっ!』
マサクニの、赤いフンドシが長く伸びると、茜の首をグルグル巻きにした。
「うっ、しまった!」
『キシシシ……馬鹿な小娘じゃ』
フンドシはギリギリと、茜の首を容赦なく絞めあげた。
「く……く……苦しい……ぃ……」
ガクッ。
首元を押さえていた両手が、ダランと脱力した。
「えっ? 茜? 死んだの? 死んじゃったの、茜?」
フンドシが緩くなり、茜が地面に崩れ落ちた。
『キシシシ……気絶してるだけじゃ。こいつはムカつくからな、後でゆっくり料理する事にして、まずは、お前からじゃぞい……』
マサクニの目が、怪しく光る。
「ひっ……!」
私は身構えた。
ヒタヒタと近づいてくる、裸の中年男。
うう……寒気がする……。
やばい……私、殺される……。
つづく……




