第19話:共鳴する魂と『二重奏』
放課後の演習場。夕闇が迫り、茜色の空が紫へと溶け始めていた。
他の生徒たちが疲れ果てて寮へ戻る中、演習場の片隅にはまだ二人の人影があった。
「……はぁ、はぁ……っ。ヒルス君、今の……どうだった?」
リナが肩で息をしながら、俺の顔を覗き込む。彼女の足元には、先ほど放った『穿孔』によって穿たれた無数の穴が開いていた。
「精度は上がってる。でも、さっきのヴォルガン先生の反応を見る限り、単発の『穿孔』じゃ、アルドの五重ダークマターには防戦一方になる。……リナ、次は『並列』じゃない。**『共鳴』**を試そう」
俺の『反復継続』で最適化された「術式」を、リナの膨大な「魔力」に直接流し込む。
「……信じるよ、ヒルス君。私の全部を預ける」
リナが俺の手を握る。一、二、三……。俺の『反復』がリナの魔力の鼓動を読み取り、完全に同調していく。
「術式展開……。『双極・螺旋穿孔』!!」
リナの左右に二つの巨大な水の螺旋が出現した。右をリナが、左を俺の『反復』が制御する。完璧な同期によって生まれた二つの渦は、互いの回転を増幅させ合い、周囲の空気を切り裂く真空の刃を撒き散らした。
その光景を遠くから見つめていたアルド・イグニートは、無言のまま、獲物を狙う獣のような鋭い視線を残して闇に消えた。
■ 怪物たちの晩餐
「……ふぅ、今日はもう魔力も頭も空っぽだよ。早く行かなきゃ、夕飯食べられちゃう!」
リナに急かされ、俺たちは学生寮の食堂へと駆け込んだ。扉を開けると、そこは既に熱気に包まれていた。
「おいリナ、遅いぞ! 特大の肉塊は俺様が全部頂いたぜ!」
新入生のゼクスが、口の周りにソースをつけたまま豪快に笑う。隣ではカイが、「重力で肉を自分の皿に引き寄せようとして、ソフィアさんに怒られたんだよ」と苦笑いしていた。
「あら、ヒルス君にリナちゃん。また二人でお残り? 熱心ねぇ」
声をかけてきたのは、四年生のエルナ・ルミナス先輩だ。金髪のエルフらしく、優雅にスープを運びながらも、その鋭い目は俺たちの「魔力の残滓」を見透かしているようだった。
「エルナ、あまり新入りをからかうな。……ヒルス、これでも食え」
そう言って、六年生のバルト先輩が山盛りの温野菜を放り込んできた。「最後は根性がものを言うからな!」と笑う熱血漢に対し、五年生のレイラ先輩が静かに口を開く。
「……筋肉で解決できるなら誰も苦労しないわ。ヒルス、貴方のさっきの魔力運用、少し『歪めて』いたわね。興味深いわ」
流石は上級生だ。ただの特訓から俺たちの意図を察知している。さらに、三年生のユーリが眼鏡を光らせて割り込んできた。
「ヒルス君、さっきのデータの提供を。君の同期率、計算したいんだ。……でも、アルドの『五重起動』の数値は、僕の解析スキルでも測りきれなかった。あいつ、本当に新入生か?」
ユーリの言葉に、一瞬食堂が静まり返った。天才・アルドの存在は、上級生たちにとっても無視できない脅威となっていた。
「アルドは一人で深淵へ行こうとしています」と俺は答えた。「でも、俺とリナは二人で、あいつとは違う場所を目指します。それが正しいかは分かりませんが」
「いいんじゃない? 面白い音よ、貴方たちの共鳴は。頑張りなさい、辺境の新入生たち」
エルナ先輩のいたずらっぽい微笑みに、クラスの連帯感がわずかに深まった気がした。
■ 眠れぬ夜の反復
夕食を終え、自室に戻りベッドに腰を下ろすと、急激な疲労が襲ってきた。
窓の外、遠くに見える王都中央都市の方向を見つめる。
ヘミング先生が言っていた、王都の近衛騎士や影。そして、それを凌駕する可能性を秘めたアルドの闇。
「……一、二、三」
俺は目を閉じ、今日一日の動作を再び脳内で「反復」し始めた。
リナの魔力波形。同期の際のわずかなズレ。バルト先輩の助言と、レイラ先輩の指摘。
それら全てを材料にして、俺は頭の中で新しい「設計図」を書き換えていく。
眠りにつくその瞬間まで、俺の『反復継続』は止まらない。
明日、また一歩、あの中央の空に近づくために。




