第13話:砕け散る剣と、十五人の放課後
『聖域空間』の加護により、俺の体は温かな光の粒子に包まれて蘇生した。砕けた骨が繋がり、止まった心臓が再び脈打ち始める。死の淵から引き戻される不快な浮遊感と共に、俺は草原に大の字になって横たわっていた。
ヴォルガン先生は剣を鞘に収め、冷徹な声で告げた。
「勝負ありだ。……ヒルス、お前の『反復』は確かにこの場にいた全員の度肝を抜いた。だが、武器も体も魔力も、まだ完成には程遠い。……今日はここまでだ。各自、自分の課題を整理しておけ」
先生はそれだけ言うと、教室に戻って事務的な連絡を始めた。
「この学校は、週に三回ほど出席すれば残りの時間は自主鍛錬に充てることが許されている。家が遠い者や、より早く自立を望む者のために宿舎も完備されている。……以上だ。解散」
七歳にして独り立ちが推奨される自由な校風。だが、教室内の空気はまだ先ほどの余韻でピリついていた。
教室を出て、リナと一緒に長い廊下を歩いていると、背後から冷たい気配が迫ってきた。
「……おい」
振り返ると、そこには『暗黒物質』を操る少年、アルド・イグニートが立っていた。
彼は上級生さえも圧倒したその力に絶対の自信があるのだろう。俺を射抜くような鋭い視線で睨みつけてくる。
「ヒルスと言ったか。さっきの立ち回り、見ていて不愉快だったぞ。ただ避けるだけの無様な戦い方で、ヴォルガン先生の手を煩わせるな」
アルドの周囲に、ドロリとした黒い魔力が揺らめく。
「運が良かっただけの出来損ないが、第一クラスにいるというだけで虫唾が走る。……いいか、二度と調子に乗るなよ。次は、再生が追いつかないほどに飲み込んでやる」
吐き捨てるようにそう言うと、アルドは俺たちの脇を乱暴に通り過ぎていった。
リナが憤慨して「なんなの、あの言い方……!」と拳を握りしめている。
(……調子に乗るな、か)
俺は、遠ざかるアルドの背中を冷めた目で見つめた。
前世の記憶を持つ俺からすれば、七歳の子供が「闇を統べる」などと粋がっている姿は、どこか微笑ましくさえある。だが、彼が傲慢になれるのも、この国の「異常な教育」が生んだ結果なのだろう。
「いいよ、リナ。あいつの言う通り、俺の剣は折れたし、負けたのは事実だからね」
「でも、ヒルス君は凄かったよ! 私はかっこいいと思った!」
リナの真っ直ぐな言葉に、少しだけ心が軽くなる。
俺たちは校門を抜け、夕焼けに染まる王都の道を歩き出した。
「リナ、学校のことだけど。週三回の通学でいいって言ってたよね。寮に入ることもできるみたいだけど……どうする?」
「うーん……。私はまだ、お父さんやお母さんと一緒にいたいかな。でも、もっと強くなるためには寮の方がいいのかなって、少し迷っちゃう」
「そうだね。早い人はもう独りで暮らし始めるみたいだし……。とりあえず、今日は帰って家族と相談しよう。俺も、父さんと母さんに今日のことを話したいし」
「そうだね! ヒルス君の家でお話ししようよ。リナもお邪魔していい?」
俺たちは並んで歩きながら、家路を急ぐ。
アルドの警告、砕け散った剣、そして寮生活という選択肢。
これからどう動くべきか。家族の顔を思い浮かべながら、俺はこれからの「反復」の計画を練り直していた




