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第12話:不滅の演武と、十五人目の標的

ヴォルガン先生に連れられてやってきたのは、校舎の地下にひっそりと佇む石造りの扉の前だった。

 扉を潜った瞬間、目の前の世界は一変する。そこには見渡す限り広大な草原と、抜けるような青空が広がっていた。空間を司る守護者によって作られた**『聖域空間エデン・フィールド』**。

「ここでは肉体が消滅しようが王様の慈愛によって瞬時に復活する。本気で、相手を殺すつもりで戦え」

 ヴォルガン先生の号令と共に、草原のあちこちで戦いの火蓋が切られた。

1. 剛体 vs 雷霆:バルト(六年生) vs ゼクス(一年生)

「ガハハ! 来い新入り! その雷で俺を焼いてみろ!」

「言われなくても! 『雷霆』最大出力だ!」

ゼクスが吼えると同時に、青白い雷光が炸裂した。猛烈な電位差が空気を引き裂き、雷柱がバルトを直撃する。だが、バルトは肌を鈍色に変え、一歩も引かずに立っていた。

「……熱いな。だが、この程度じゃ俺の肌は通らんぞ」

ゼクスは雷を剣の形に凝縮し、神速の踏み込みでバルトの懐へ潜り込む。しかし、バルトはその剣を胸板で受け止め、筋肉の締め付けだけで雷の刃を粉砕した。

「いい威力だ。だが、練り込みが足りん」

バルトの拳がゼクスの腹部を貫通した。ゼクスは光の粒子となって霧散する。数秒後、草原の端でゼクスが呆然と立ち尽くしていた。

【勝者:バルト】

2. 暗黒 vs 影縫い:アルド(一年生) vs カイン(二年生)

二年生のカインが音もなく地面の影に沈み込み、アルドの死角から迫る。

「……そこだ」

カインの『影縫い』がアルドの足元の影を捉え、動きを封じた。勝負あったかと思われたが、アルドは眉一つ動かさない。

「影があるから、縫われるんだ」

アルドが掌を広げると、周囲数メートルから「光」が消失した。影さえ存在できない純粋な闇。カインが潜んでいた影そのものが『暗黒物質』に食われ、行き場を失ったカインが闇の圧力で圧砕される。

「影の王にでもなったつもりか? 笑わせるな」

カインの絶叫さえ闇に飲み込まれ、アルドは無傷で勝利を収めた。

【勝者:アルド】

3. 精霊の風 vs 烈位の清流:エルナ(四年生) vs リナ(一年生)

「リナさん、あなたの水の音……とても澄んでいて綺麗よ。でも、風はもっと鋭いの」

リナが放つ高圧の水の弾丸がエルナを襲うが、エルナは舞うように回避する。リナは即座に水を霧状に散布し視界を奪うが、エルナは目を閉じたまま首を傾け、死角からの水の刃を避けた。

「無駄よ。風があなたの魔力を囁いてくれるもの」

エルナが指先で円を描くと、草原に巨大な真空の渦が発生し、リナの体は宙に浮き上がる。無数の風の鎌がリナを襲い、喉元に風の剣が突き立てられた。

「……参りました。先輩、凄いです」

【勝者:エルナ】

4. 爆裂 vs 守護ゴーレム:ジーク(四年生) vs マリエル(一年生)

「でっかい粘土細工だな! 吹っ飛べ!」

ジークが右手を掲げると、マリエルが作り出した三体の石の巨像が次々と爆発四散する。マリエルは涙目になりながらも、即座に土を練り直し、爆発の衝撃を吸収する「ゴムのようなゴーレム」を作り出して対抗した。

「おっ、やるな! だったら最大出力だ!」

ジークの魔力が膨れ上がり、太陽のような巨大な火球がマリエルを飲み込む。ゴーレムごとマリエルが爆散し、勝負は決した。

【勝者:ジーク】

5. 空間 vs 解析:シルヴィア(一年生) vs ユーリ(三年生)

「門の展開速度、魔力の収束点……解析終了だ」

シルヴィアは次々と『空間門ポータル』を開き、あらゆる角度から石礫を飛ばすが、ユーリは眼鏡を光らせ、門が「開く前」の座標に自らの魔力を打ち込み、空間を逆流させた。出口から自分の攻撃を食らったシルヴィアが弾け飛ぶ。

【勝者:ユーリ】

6. 瞬歩 vs 地形改変:メイ・リン(三年生) vs テオ(二年生)

テオが大地を波立たせ、鋭い土の槍を無数に突き出す。「逃げ場はないぞ!」とテオが叫ぶが、メイ・リンは空中に足場を作るような神速の移動術『瞬歩』を使い、一歩も地面に触れることなくテオの背後に回った。

「足元ばかり見てちゃダメよ」

手刀がテオの延髄を打ち抜き、テオは地面に沈んだ。

【勝者:メイ・リン】

7. 絶対零度 vs 引力:レイラ(五年生) vs カイ(一年生)

「私の重力圏からは逃げられないよ!」

カイが掌を向け、レイラを地面に叩きつけようとする。しかし、カイの不可視の力がレイラに届く前に、その「力」の通り道さえもが凍りつき始めた。

「……熱苦しいわ。少し黙っていなさい」

レイラの冷気がカイの体内の水分を瞬時に凍らせ、カイは彫刻のように固まって砕け散った。

【勝者:レイラ】

8. 神聖光 vs 拘束泡:ソフィア(二年生) vs リプリー(二年生)

「泡の中に閉じ込めちゃえーっ!」

リプリーが放つ無数の虹色の泡がソフィアを包囲するが、ソフィアが優雅に手を合わせると、神聖な光の輪が全方位に広がった。

「浄化しましょう」

光に触れた泡はすべて弾け、光の槍がリプリーの周囲に突き刺さる。身動きを封じられたリプリーは「降参です〜!」と手を挙げた。

【勝者:ソフィア】

 次々と肉体が破壊され、そして再生していく。負けた生徒たちは「死」など忘れたかのように、互いの健闘を称え合っていた。

 そんな中、俺は一人、草原の真ん中に取り残されていた。

「……先生。俺が余っています」

 十五名という奇数。

 ヴォルガン先生は、軍刀の鯉口を音もなく切った。

「ああ、分かっている。ヒルス、お前は特別だ。その『地味なスキル』で、これまでどうやって生きてきたのか……私が直接、鑑定してやろう」

 周囲の空気が凍りつく。元八法候補の男が、たかが一年生を相手に剣を抜いたのだ。

「ヒルス! 逃げて!」

 再生を終えたリナが悲鳴を上げる。俺はわざとらしく剣を震わせ、泣き出しそうなふりをして構えた。だが、内側では四年間の狂気的な『反復継続』で練り上げた意識を、針の先ほどまで研ぎ澄ませていた。

「手加減? この空間では、手加減こそが相手への侮辱だ。死ぬ覚悟で来い」

 ヴォルガンの体が、音もなく消えた。爆発的な踏み込み。

 俺は、脳内で何百万回と反復してきた「回避の軌道」を呼び起こす。

 見せるのは、あくまで「たまたま転んで避けた」ように見える無様な動き。だがその中身は、ヴォルガンの刃を0.1ミリの差で受け流す、極限の重心移動だ。

 銀閃が、俺の首筋を撫でるように通り過ぎた。

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