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妖精のセシリヤ

作者: euReka

 妖精は、私の手のひらの上で眠ってゐる。

 ゐは、るではなく、いだ。

「あたしはセシリヤ」

 妖精はあくびをしながら目覚め、何も聞いてゐないのに、自分の名前や生い立ちを私に話し始める。

「深い霧の立ち込める、何も見えない夜だったの」

 ほう。

「そんな霧の夜に誰かの流した涙のしずくが地面に落ちたときにはじけた小さな何かから生まれたあたしは、生まれたときからセシリヤといふ名前が決まってゐたみたい。その何かといふのは人の話す言葉にはない、小さくて夢のやうにすぐに消えてしまふ何かよ…………。え、なぜニホンゴがしゃべれるかって? あたしは、いましゃべってゐるのがニホンゴだといふことも知らないわ…………。それよりあなた、さっきからあたしの体をジロジロ見てゐるけれど、なんだか不快な気分」

 あ、いや、君があんまり美しくて、その、現実のやうにはとても思へないから……。

「あたしは生まれたときから、この世界のたいていのものよりは美しいから、醜くなったりはできないのよ。きっとあなたのやうに醜い姿の生き物にとってあたしは美しすぎるから、ついジロジロ見てしまふのね」

 妖精から醜い生き物と言はれても心は別段傷つかないし、むしろ春の野を歩いてゐるやうな――もしくは何かエモいはれぬ気分の自分が居る。

  

 さう言へば、私が十年ほど前に出会った旅人が、妖精は人間とは全く違ふ世界に生きてゐる存在だと話してゐた。

 そして妖精と出会ふことがあっても、普通は少し言葉を交はしただけでやつらは去っていくが、中には人間と心を通はせて死ぬまで一緒に居るやつもあると。


 果たしてこの妖精は、すぐに去っていくのか、それとも死ぬまで一緒に居るのか、どちらの種類なのだらう。

「あたし、自分のことをよく知らないのよ。霧の夜に落ちた誰かの涙から生まれたってこと以外はね。ほかに行くあてもないし、あなたとは言葉が通じるやうだから、しばらくここに居ることにするわ」

 しばらくって、いつまで?

「まあ、五十年か、百年ぐらいかしら」




 ――――この小説のような文章は、私が妖精と出会った明治時代になんとなく書いたものだ。

 今はそのときから三百年も過ぎているのだけど、どういうわけかこの文章の書かれた紙が突然郵便で届いて、そういえばこんなものを昔書いたなあと。

「なんだか、あたしの会話がおばあちゃんみたいね……。それにあたしはセシリヤじゃなくてセシリアよ」

 そうだね。

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