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エピソード1-4

エピソード1-3からの続きです。

明けて翌日、15時前。

「2号機と5号機の手合いが中止!?」

シロは訓練用操縦席床に座り、2号機対5号機の手合いを観戦しようとしていた。 だが、「操機戦管理」から、『今日の手合いの中止』通知が出されたのが手合い開始直前だったため、思わず大きな声を上げてしまった。

「・・・なあ、3号。 手合いの中止って、初めてだよな?」

と、シロは天井を見上げながら3号に尋ねる。

「そうね。」

訓練用操縦席天井付近から3号の声が響き渡る。 3号はいつものように、操機補状態で訓練用操縦席内のシロと一緒に手合いを観戦しようとしていたのだった。

「中止って、明日以降に再戦するのか、このままなのか・・・。 『操機戦管理』は、何の知らせも出さないんだな・・・。」

と、「操機戦管理」への愚痴を言いつつ、立ち上がったシロは訓練用操縦席から出て、3号の本体が座っている休憩椅子の右隣に腰を下ろした。 3号も訓練用操縦席を操作していた操機補状態から、知能情報を「人」本体に戻したようだ。 黒い「面」の付いた顔をシロに向け、

「まあ、初めてのことだし、『操機戦管理』も対応に困っているんでしょ。」

と、優しい口調で答える。

「え~・・・。 これくらいのこと、想定できただろ・・・。」

一方、シロも呆れたような表情と口調で3号の黒い「面」を覗き込むと、

「さあね。」

と、3号は突き放したような言い方をする。 その言動に対し、

『各操機補って、本当に、「操機戦管理」の管理下なのだろうか・・・。 それとも、全く、何も知らされていないのだろうか・・・。』

ふと、以前から不審に思っていた疑問を抱くシロ。 しかし、今は2号機と5号機のことが気になり、

「・・・2号機も5号機も、手合い開始時刻に姿を見せなかったってことは、『両機になんらかの異常があった』ってことだよな?」

と、シロは3号に向かい、唐突に疑問を投げかける。 すると、

「おお、探偵とやらの真似事? シロ。」

と、3号は冷やかすように返してきた。

「いや・・・。 別に・・・詮索しようって訳じゃなく・・・。 2号機のレイ、5号機の17号、昨日は両方に会いに行って会えなかったからな・・・。 レイは体調不良、17号は調整中。 機体の整備不足は考えにくい・・・。 そうすると、今日の手合い中止の原因は、『両方の操機主が機体に搭乗出来ず』、って、勝手な予想。 ははは・・・。」

3号から視線を外したシロは正面を向き、訓練室内中空を睨みつつ、一人で話しているように答えた。

「鋭い推理ね、探偵さん。」

片や、3号はおふざけが止まらないように合の手を入れてくる。 が、続けて、

「まあ、手合い中止の原因が、シロって訳じゃないでしょ。 あまり気にしないことね。」

と、シロを気遣うような一面もみせる3号だった。


結局、2号機対5号機の手合いは行われず、次の手合いは、翌々日15時の1号機対6号機となった。

雲が厚く覆っている天候の中、地上に出てきた1号機の装備は、今まで通り「ロングソード」と「ラージシールド」。 対する6号機も、今まで通りの「ショートソード」と「スモールシールド」を装備している。 救援の5号機は、今までの救援位置より離れた位置に、何事もなかったかのように到着している。

今回、3号は「人」の姿で訓練用操縦席に入り込み、シロと一緒に手合いを観戦しようとしていた。

「・・・なあ、3号。 6号機にも、新しい武具の支給ってないのかな?」

ふと、6号機の武具装備について疑問に思ったシロは、左隣に座っている3号に尋ねてみる。 すると、

「さあね。」

と、3号からは素っ気なく、言葉短い返事がくる。 一方、シロはそんな3号の返事の仕方が気に障ったのだろうか、

「・・・なんだよ・・・。 少しは、『調べてみるよ』とか、気の利いた返事はできないのかよ・・・?」

と、3号に対し、不貞腐れた表情で、八つ当たりのような文句をぼそりと言う。 すると、

「あのね! 前にも言った通り、調べられないものは調べられないの! そんなに知りたいなら、シロが6号機の格納庫にでも張り付いてればいいでしょ!」

と、3号もシロの文句に対して反発する。 結果、シロと3号、お互いに軽い口喧嘩のような状態になり、訓練用操縦席内正面画面に映る1号機対6号機の手合い進行など、目もくれなかった。 だが、

「シロ! 手合いを見て!」

言い合いになってしばらく後、突然、3号が話を切り替えた。 片や、シロは3号に向かって文句を言っている最中だったが、3号の言うとおり、正面画面に視線を戻す。 すると、いつの間にか、1号機対6号機の手合いは始まっていたようだ。

「・・・なんだよ・・・、また、マリナが一方的に・・・」

と、呆れたような口調で返事をするシロ。 が、正面画面に映し出されている手合い映像を見た途端、言葉を失う。

なんと、1号機は「ラージシールド」を機体正面に構えて防戦一方となり、6号機が一方的に猛攻を仕掛けている。 みるみるうちに傷だらけになっていく、1号機の「ラージシールド」表面。 そして、今まで見たことのない6号機の動き。 別「人」・・・、いや、人間が操っているかのような動き。

「・・・どうなっているんだ、3号!? 6号機は、人間が操縦でもしているのか!?」

今までの手合いでは、常に防戦一方だった6号機の動きから打って変わり、人間が操縦しているかの如き動きにシロは驚く。 3号に対し、思わず焦った口調で尋ねるも、

「わからないわ。 突然動きが変わって、私も混乱している。 対2号機時とは別『人』。 いや、シロの言う通り、人間が操縦しているのかしら?」

と、3号も混乱しているかのように、シロの質問に対し、質問を返してしまう。 シロと3号、暫し、1号機対6号機の手合い映像に、呆然と釘付けになってしまう。 だが、

「ああ・・・。 これ、6号機は負けるな。」

と、映像に釘付けになっていたシロが、唐突に6号機の負けを予想する。

「どうして? シロ。」

だが3号は、なぜシロが『6号機は負ける』と言ったのか納得できていないようだ。 不思議そうな口調でシロに聞き返すと、

「6号機が一方的に攻めているのは確かだけど、結局、攻め切れていない。 ・・・というか、1号機の『ラージシールド』にしか攻撃していない。 マリナも気付き始めているだろうな。」

と、シロは映像を見ながら3号に解説してあげた。 その解説を聞いた3号は、

「ほう。」

と、感嘆したような声を上げる。

「『ほう』って・・・。 3号だって、気付いていたんだろ?」

シロは再び左隣に座る3号の黒い「面」に向かい、冷やかすように問いかけた。

「いや。」

片や、再度、言葉短く答える3号。 一方、3号の『いや』に対して、更に冷やかそうと何かを言いかけたシロだったが、正面画面に映る手合い映像に変化があったため、口には出せなかった。

6号機は変わらず、1号機の「ラージシールド」に向かって猛然と攻撃をしていた。 が、突然、1号機は6号機の剣戟を「ラージシールド」で受け止めつつ、自機の左側に逸らす。 一方、突然剣戟をそらされたことにより、少々重心を崩してしまう6号機。 それでも、「スモールシールド」は1号機に向けていた。 だが、「スモールシールド」を1号機に向けていたのが災いしたのか、1号機は「ロングソード」の鍔を器用に使って6号機の「スモールシールド」を容赦なく払い飛ばす。 結果、左腕の内側が露わになってしまう6号機。

1号機は露わになった6号機の左前腕内側を見逃さず、「ロングソード」の素早い突き上げ攻撃を放つ。 狙いは、6号機の左前腕内側。 何かが潰れたような音が闘技場内に鳴り響くと、1号機の突き上げ攻撃は、6号機の左手首に、装甲を貫通して突き刺さる。 一拍置いて、1号機は突き刺さった「ロングソード」を力任せに引き抜くと、6号機は一段と重心を崩して前のめりになってしまう。 さらに1号機は「ロングソード」の柄尻を使い、前のめりになっている6号機の後頭部を殴打する。

鈍い音が響き、完全に重心を崩してしまった6号機は、よろよろと数歩よろめいた挙句、なんとか転倒を防ごうと、右手の「ショートソード」を手放し、地面に両手をつく。 だが、左手首の損傷が影響したのか、6号機は両手で機体を支えきれず、重苦しい音を立てて左肩から地面にうつ伏せで倒れ込んでしまった。

一拍置いて、転倒した6号機に『とどめ』を打とうと、「ロングソード」を逆手で掲げつつ近づく1号機。 そして、6号機後頭部に「ロングソード」剣先が突きつけられた時、

「それまで。」

「操機戦管理」管理者が発する手合い終了の声が聞こえる。 すると、1号機、6号機とも、時が止まったように動かなくなった。

やがて、止まった時が流れ始めたように、1号機が闘技場から引き上げようと、再び動き始める。

一方、固唾をのんで訓練用操縦席内正面画面を見入っていたシロ。 手合い終了時は、画面内の操機のように固まってしまっていたが、1号機に動きがあったのを見届けると、画面から視線を外し、深く息を吐いた。 シロの脳裏には、鮮やかに『とどめ』を取った1号機の動きではなく、6号機の猛攻が焼き付いて離れない。

『・・・6号機・・・。 いや、18号に、何か起きているのか・・・?』

今までは、自ら攻めてくるような立ち回りをしなかった6号機。 しかし、今回の手合いにおける6号機の攻撃姿勢に対し、シロは動揺していた。

『この前・・・。 3号機区画に、18号が来たのといい・・・。 何か嫌な感じがする・・・。』

それじゃあ『何が不安なのか』と聞かれても、シロは言葉にできなかった。 このことは3号に話すこともできず、黙り込んでしまう。

「どうしたの、シロ? とりあえず、訓練用操縦席から出たら?」

左隣に座っている3号に促され、セーフティベルトの補助を受けつつ、シロはゆっくり、無言で立ち上がる。 そして訓練用操縦席から出ると、訓練室内の休憩椅子に座り込んだ。

3号もシロの後を追うように訓練用操縦席から外に出て、シロが座っている休憩椅子の左隣に座り込む。 だが、シロは休憩椅子に座り込んだ後も、訓練室内中空を険しい表情で睨み、何も話さない。

「1号機。 今日も強かったわね。」

暫しの沈黙後、左隣に座った3号が、シロを覗き込みながら明るい口調で声を掛ける。 が、

「・・・。」

と、シロからの反応は無い。

「それとも、今日の6号機の動きが気になるの?」

3号は間をおかず、今度は心配そうな口調でシロに問いかけると、

「・・・ああ・・・。」

シロは険しい表情を崩さず、うすぼんやりと答えた。

「大丈夫よ。 マリナだって6号機を退けたし、シロだってやれるわよ。」

3号は落ち着いた口調で話すが、シロは無反応のままだった。 再び暫しの沈黙後、今度はシロが沈黙を破り、

「・・・なあ、3号。 今期の最終手合い・・・俺と6号機・・・だったよな・・・?」

と、3号を見ず、相変わらず中空を睨んだままたどたどしく話す。

「そうね。 次の4号機対5号機、その次の1号機対2号機手合い後だけど。」

と、3号はシロを見ながら冷静に答えてあげる。

「3号・・・。 今期最終手合い時の6号機は・・・、今日より・・・数段強くなっていると思う・・・。」

と、シロが覇気のない口調で話すと、

「それは、人間の『勘』ってやつ?」

と、3号は冷やかすように問いかける。

「ああ・・・。 そう思ってくれて構わない。 が、6号機に対して、『負けたくない』ではなく、『全力で戦いたい』。 なんか・・・、そんな気分になってきてな・・・。」

と、シロは感慨深く話した。 その言葉を聞き、珍しく3号も考え込んだかのように黙り込んでしまった。 三たび、お互いの沈黙後、3号が沈黙を破り、

「わかったわ。 ただ、あまり集中しすぎるのも良くないわね。 まずは一休憩してから、今後のことを考えましょ。」

優しい口調で告げると、左隣に座っているシロの背中を右手でぽんぽんと優しく叩き、休憩を促すのだった。


翌々日の4号機対5号機の手合い。 4号機、5号機とも、手合い開始時刻の15時までに闘技場に現れず、「操機戦管理」から手合い中止の通知があった。

次戦、1号機対2号機の手合い。 1号機は手合い開始時刻の15時までに闘技場に姿を表したが、2号機は開始時刻までに姿を見せなかった。 結局、1号機対2号機の手合いも、「操機戦管理」から中止の通知が出されてしまう。

その間、シロに至っては、レイとゴウに何度も会いに行っていたが、その都度、門前払いとなっていた。

日が過ぎ、3号機対6号機の手合い前日。 夕方の食事部屋内。 シロは夕食を終えても、気分が落ち着かなかった。

『もしかして、レイもゴウも、このまま操機主をやめてしまうのだろうか・・・。 俺がもう少し別の対応をしていたら、こんな事態にはならなかったのだろうか・・・。』

手合いに出ないレイ、ゴウの事を考えると、シロは自身の対応が『適切だったのか』を自問し、少なからず悔やむ。 さらに、シロは「操機戦管理」に、『操機主を辞めた場合、どうなるのか』ということを聞こうとした時のことも思い出していた。 が、結局、「操機戦管理」に、『シロ自身が辞めたいと思っている』と勘違いされるのが嫌で、聞けずじまいになっていた。

『3号に、「操機主をやめた場合」の話を聞いても、「知らない」と返されるだけだろうし・・・。』

そんなことを考えていると、食事部屋の奥にある調理場から、食後の温かい飲み物を運んでくるアムが近づいてくる。 シロは、アムの黒い「面」を見ながら、

『・・・まして、アムじゃな・・・。 なおさら、知らないだろうし・・・。』

と、消沈しながら考えていた。 片や、アム自身もシロに見られているのに気が付いたのであろうか、

「どうかしましたか?」

と、アムは座っているシロの前のテーブルに飲み物の入った容器を置きつつ、優しい口調でシロに問いかけてきた。

「・・・べつに・・・。」

片や、問いかけられたシロは、アムへの視線を外し、回答をはぐらかすように覇気無く答える。 一方、そんなシロの姿を見かねたかのように、アムはシロの座っている向かい側の椅子に腰掛け、

「どうしました? あまり落ち込んでいると、明日の手合いに影響がでますよ。」

と、優しい口調で気さくに話しかけてくる。 しかし、

「・・・。」

シロは変わらず、アムへの視線を外し気味にしたまま、何も答えずにいた。 すると、しばしの間後、アムは徐に、自分の付けている「面」に両手を掛け、外し始めてしまう。 片や、視界端に「面」を外そうとしているアムの姿がちらりと見えたシロは、

「・・・アム。 『面』は・・・外さないでもらえるかな・・・。」

と、視界端にアムを捉えていた状態から、そっぽを向き、不機嫌な表情で口重くお願いするも、

「大丈夫ですよ。 食事部屋の扉は施錠しますし、来客があれば、すぐに『面』を付けますので。」

アムは優しい口調でそう告げると、外した「面」をテーブルの上に置き、頭部覆いも上部下部と、ゆっくり外してしまう。 その後、食事部屋の扉を右手人差し指で指差し、施錠完了を示した。 そして、そっぽを向いたままアムを直視できずにいるシロに対し、アムはシロを直視するどころか、テーブル上に上半身を乗り出し、無理に視線を合わせようと、笑顔でシロを覗き込んでくる。

「・・・アム・・・。 何が・・・したいの・・・かな・・・。」

シロは小声でたどたどしくそう言いつつ、少々頬を赤らめ、懸命にアムと視線を合わせないようにしていた。 だが、シロが完全にそっぽを向いてしまうと、アムはゆっくり椅子から立ち上がる。 さらにテーブルを回り込み、シロが座っている椅子前で両膝立ちになった。

「・・・ア・・・ム・・・。 なっ・・・にをして・・・」

あまりにも突飛なアムの行動に、シロは気が動転してしまう。 自身でも何を話していいのか、わからなくなってきていた。 すると、アムはシロの両手を握り、

「明日は、全力で頑張ってくださいね。」

と、シロに優しい口調で話した後、笑顔で見つめてくれる。

「・・・あ・・・ああ・・・。 がんばる・・・よ・・・。」

さすがに両手を握られたシロは、アムを見ないわけにもいかず、アムの整った「人」特有の素顔を直視して返事をする。 すると、笑顔のまま、シロを見つめてくれるアム。 暫し、見つめ合いの時間が流れる。

「さて、まだ後片付けが残っていますので。」

いかばかりかの時間が経っただろうか。 アムは優しい口調でそう告げると、シロの両手を優しくシロ自身の膝上に戻した。 そして立ち上がり、頭部覆いを被ると、テーブル上の「面」を手に取って顔に装着する。 その後は足早にその場から立ち去ろうとしつつも、思い出したかのように食事部屋の扉を右手人差し指で指差して、

「部屋の施錠は解除しましたよ。」

と、優しい口調で告げた後、食事部屋の奥にある調理場に消えていってしまった。

『・・・なにがしたかったんだ・・・アムは・・・?』

気が付けば、顔全体が火照り、自身の心音が聞こえそうなくらいどきどきしているのがシロ自身にもわかる。 困惑しか残らないシロだったが、アムが握ってくれた両手を暫し見つめた後、

「・・・全力で頑張れ・・・。 か・・・。」

アムから言われた言葉をぽつりと復唱しつつ、ふと、安らいだ気分で微笑んでいた。


翌日。 操機総当たり戦3巡目の最終戦、3号機対6号機の手合い日。 手合い開始は、15時と通知が来ていた。 軽めの昼食を13時までに済ませ、13時30分頃には操機格納庫に到着したシロ。 静まり返った格納庫内を見渡してみると、「人」整備士達はおらず、「面」と頭部覆いを付けた3号が、格納庫奥の休憩椅子に腕組みをして座っているのが目に入った。 3号が腕組みをしている姿は滅多に見たことがない。 シロは3号に近づきつつ、

「どうした、3号? 腕組みなんかして。」

と、冷やかしながら3号の右隣りに座る。 すると突然、3号が「面」と頭部覆いを素早く外し、シロの前に両膝立ちになる。 そして昨晩のアムと同じように、シロの両手を握りつつ、

「シロ! 今日は、全力で頑張ってくださいね!」

と、アムの声真似をするように、笑顔で告げる。 さすがに、3号が「面」と頭部覆いを取った瞬間、シロはどきりとしたが、それ以上の反応は出来なかった。 暫し後、

「・・・見てたのか?」

シロは冷たい口調と眼差しで、3号に向かい問いかける。

「ええ、見ていたわ。 心拍数、呼吸、発汗等々、あれだけの急上昇! 何が起こったのかとびっくりしたけど。 いや~。 心拍数に至っては、18号が来た時よりも上だったわね・・・」

と、両膝立ちのまま、調子よく話している3号だった。 が、その話の途中で、シロは3号の額付近を左手拳で軽く小突くように触れる。 すると、

「あ~っ! 暴力! 『人』に暴力振るった! 犯罪だ! 『操機戦管理』に訴えてやるんだから!」

3号は調子よく話していたのを止め、膝立ちの体勢から素早く立ち上がり、触られた額付近を両手で抑えて逆上したかのように騒がしく振る舞う。

「いいから隣に戻れ。 それから、誰もいないからって、勝手に『面』を外すなって言っただろ。」

一方、シロは暫しの間、逆上したかのような3号の姿を呆れたように見ていた。 その後は口調も呆れたようになり、元々座っていたシロの左隣りに座るように、左手を翳して促す。 すると、

「はい、はい。」

シロの反応が予想に反して冷ややかだったためか、3号は突然冷静になって素直な返事をした後、元居たシロの左隣りに戻り、おとなしく「面」と頭部覆いを再び装着し始めた。 片や、そんな3号の仕草を暫し見ていたシロだったが、3号が「面」と頭部覆いを装着し終えたのを確認すると、

「では、確認だ。 機体は新品。 機体、及び操縦席内の調整や確認作業は完了。 装備は対4号機の手合い時と同じ、『ハンドシールド』を左前腕に。 そして、『ツーハンドソード』の装備。」

と、整備台で操縦席扉を開け、操機主が乗り込み可能になっている操機3号機を見つめながら冷静に告げる。 すると、

「ええ。」

と、3号は言葉短く返事をする。

「・・・『操機戦管理』から、なにか通知や連絡は?」

返事を聞いたシロは、機体から視線を3号に戻しつつ尋ねると、

「いいえ。 『操機戦管理』から、シロに通知や連絡が無ければ、こちらにも通知や連絡は無いわよ。 今日の手合い中止や、機体の変更点、追加武具の連絡も無いわね。」

と、3号は冷静に答える。

「そうか・・・。」

シロは落ち着いた口調で答え、

「最後! 対6号機・・・いや、対18号想定の作戦は?」

と、引き続き3号に尋ねる。 口調は機嫌よく、力強くなっている。

「なし! 出たとこ勝負! 以上!」

3号も機嫌よく、調子よく答える。 そんな回答を聞いたシロは、左手で3号の右肩を軽くぽんぽんと叩き、

「・・・上出来だな。 それじゃあ、よろしく頼む。」

と、少しだけ微笑んで満足気に告げると、立ち上がって整備台のエレベーターに向かった。 そして歩いている途中、左手で「面」を服の背中から取り出し、模造柄と「面」を同時に左手で持つ。 その後、右手のみで器用に頭部覆いを装着。 続けて「面」も装着するシロ。 左前腕の模造籠手の位置を整えると、整備台備え付けのエレベーターを使って整備台平面に移動し、出入り口の扉が開かれている操縦席前にたどり着いた。

だが、操縦席に入り、セーフティベルトに背中を向けた時だった。 突然、頭部覆い内スピーカーに、アムからの通話通信の呼び出し音が鳴った後、

「シロ。 マリナが尋ねて来ています。 どうしますか?」

と、アムの優しい声が聞こえてくる。 一方、通信の内容を聞いたシロは困惑する。

『・・・マリナが・・・? こんな時に、何の用事だ・・・。』

と思いつつも、

「通してくれ。 もっとも、こっちは格納庫で手合いの準備中だとも伝えてくれ。」

シロは体に覆いかぶさってきたセーフティベルトが、自身の服を挟んでいないか確認しつつ、早口でアムに伝える。

「わかりました。」

と、アムが優しい口調で答え、通話通信が切れると、

「どうするの、シロ? マリナの到着を待つの?」

アムからの通信を聞いていたのであろうか。 今度は3号の心配そうな声が、頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

「ああ・・・。 まだ、少し時間に余裕もあるしな・・・。 待ってみる・・・。」

と、シロは落ち着いた口調で答えた。

程なく、シロの「面」視界内に、マリナが格納庫入口に到着したことを知らせる表示が出た。

「久しぶりだな、マリナ。 応援に来てくれたのか?」

シロは格納庫床面に立っているマリナに向かい、頭部覆い内のマイクを使って挨拶をしようと、操縦席内から少し身を乗り出す。 すると、セーフティベルトはシロの体から自動で外れていく。

「そうだな・・・、久しぶりだな・・・。 なあ、シロ・・・。 レイやゴウの事、何か知っているか・・・?」

マリナも操機主用服の襟のマイクで応答をする。 が、マリナの弱々しい声に、

『マリナでも、こんな声を出すんだな・・・。』

そう思い、シロは唖然としてしまう。 一拍置いて、

「・・・ああ・・・。 ご存じなかったのね・・・。」

と、シロは少々呆れたような、冷やかすような口調で答えた。

「そうだな・・・。 あまりにも、他人に無関心だったというか・・・。 レイが5号機との手合いに出なかった時、始めて事態に気付き始めたというか・・・。 なあ、レイとゴウが手合いに出ない事は、何か関係があるのか? シロ、教えてくれないか・・・?」

と、シロの頭部覆い内スピーカーから聞こえてくるマリナの声は、依然として弱々しい。 再び、一拍置いて、

「・・・ただ、俺も全てを知っているわけじゃあないしな・・・。 まあ、この手合いが終わったら、ゆっくり話をしよう。」

と、自身が手合い前のため、話を長引かせたくなかったシロは、話を一旦断ち切るような答え方をした。

「そうか・・・。 わかった。」

一方、そう答えるマリナの声は、安堵した声のようにシロには聞き取れた。 が、改めて「面」越し視界でマリナの顔を見てみると、作り笑いというか、元気が無いように見て取れる。 そんなマリナの姿を暫し眺め、

『あの顔・・・。 俺の知っている限りを、マリナに説明した方がいいか・・・。 いや・・・まだ少し、時間に余裕があるとはいえ・・・さすがに、これ以上マリナに説明していると、手合い開始時刻に間に合わなくなる可能性が・・・。』

そう考え、

「・・・それじゃあ、行ってくる。」

踏ん切りをつけたシロはマリナにそう告げると、操縦席内に戻り、再度、セーフティベルトを装着し直そうとしていた。 そこへ、

「そうだ! シロ!」

と、マリナの声が、再びシロの頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

「どうした?」

片や、シロは軽い口調で答えると、

「機体が立ち上がったら、その後は、シロ自身が全ての機体操作をするんだ! 操機補に頼るなよ! 自身で機体を動かせば、操機や地面の状態がよくわかる!」

と、マリナの力強い声が聞こえてくる。 その声を聞いたシロは、マリナの声がいつもの調子に戻ったように感じつつも、

「ご助言、ありがとうございます。」

と、皮肉るように答えた。

「シロ。」

あまり間をおかず、またもマリナからの通話通信が入る。

「なんだ!?」

再三の通話通信に対し、若干の鬱陶さを感じていたシロ。 自然と応答の声が大きくなってしまう。 だが、

「頑張れよ。」

と、思ってもみなかった優しい口調の『頑張れ』が、頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。 そんなマリナの優しい声を初めて聞いたシロは、

「お・・・おう・・・。」

と、少々照れたように答えるのが精一杯だった。 そして、マリナとの通話通信は切れた。

「・・・それじゃあ3号! 機体を起こしてくれ!」

シロは少しいい気分になり、セーフティベルトが服に挟まっていないかの確認をしながら、にこやかな口調で3号に指示を出す。 すると、操縦席扉が音も無く閉じ始め、

「了解!」

と、3号も機嫌がよさそうな口調で答える。 操縦席の扉が完全に閉まると、整備台ごと起き上がる手順に入る操機3号機。 数分程度で整備台を含め、機体は完全に立ち上がる。

「どうするの、シロ? マリナの助言通り、自分で操作し、歩くの?」

機体が立ち上がって一拍置くと、3号が冷静に聞いてきたので、

「そうだな・・・。 自分で・・・歩くか・・・。 3号、機体との同期を頼む。」

と、シロはあまり気乗りしないようだが、マリナの助言を尊重して3号に答える。 すると、

「了解!」

再び3号が機嫌のよさそうな声で答えてくれるのと同時に、シロの着ている操機主用服に負荷圧がかかり、「面」視界内も機体目線に切り替わる。 操縦席床も、柔らかな感触から、格納庫内床の固い感触に切り替わった。 シロは整備台から数歩踏み出し、機体と同様に起き上がってきた「ツーハンドソード」の柄部分を右手で持って引き抜くと、左逆手のみで柄を握り、持ち手を替えた。 その後、地上へのエレベーターに向かって歩き出す。 数歩歩くうちに、マリナが立っている場所から離れた傍らを通過する操機3号機。 シロは歩きながらマリナを横目で見ていたが、3号機がマリナの横をすれ違う時、

「・・・・・。」

と、マリナが何かを言ったように口が動いたのを、シロは見逃さなかった。

『・・・ん・・・? マリナ、何か喋った・・・か・・・?』

と、マリナが何を言ったのか、シロは気になり始めた。 頭部覆い内のマイクを使い、マリナに問いかけようとするも、

『・・・まあ・・・、見なかったことに・・・するか・・・。』

と、手合いに集中しているふりをして、そのまま歩みを止めずにエレベーターに向かって行った。


エレベーターで地上に出た、シロの操る操機3号機。 シロは「面」視界内映像で辺りを見渡すが、6号機の姿は見つけられないでいた。 空は、周囲が薄暗くなるほどの厚い雲が覆っている。

「・・・3号。 6号機は、まだ地上に出てきていないよな?」

シロは幾分不安になり、3号に確認すると、

「そうね。 6号機は、まだ地上に出てきていないわ。」

と、冷静に答えてくれる。 現在の時刻を確かめると、手合い開始の15時まで、まだ30分以上ある。

『・・・もう少しくらいは、マリナと話す時間はあったか・・・。』

シロは少々後悔しつつも、淡々と機体を闘技場に歩ませ、早々に手合い開始位置まで到着してしまう。

「ちょっと早く着いてしまったか・・・。 まあ、時間まで、ゆっくり待つか・・・。」

シロは3号に聞こえるように呟くと、

「機体との同期を一旦切る?」

と、3号が察したかのようにシロに問いかけてくる。

「ちょっと待ってくれるか。」

と、シロは左逆手で持った「ツーハンドソード」を機体の前面に掲げるように突き出した後、剣先を地面へ突き立て、柄尻に右手を添えた。

「3号。 この待機姿勢で頼む。 あと、セーフティベルトに寄りかかっていいか?」

シロが両腕を伸ばしたままの姿勢で3号に指示すると、

「了解。 それじゃあ、セーフティベルトに寄りかかっても大丈夫よ。」

3号からの声に応じ、シロを包んでいたセーフティベルトの位置が切り替わり、服の負荷圧も無くなる。 操縦席床も柔らかな感触になったことで、シロは機体と同期が外れたのを感じ取った。

「それじゃあ、暫し・・・。」

シロは右手で「面」を外し、頭部覆いも右手のみで取り去ると、目を閉じて少し脱力気味にセーフティベルトに寄りかかる。 が、

「寝ないでね。 6号機、すぐに出てくるわよ。」

と、3号がすかさず釘を刺す。

「わかってるよ。」

一方、3号を冷やかすように、シロはにこやかに答えた。 だが、急に冷静になり、指組みをして、

『・・・それにしても、この前の18号・・・。 一体、何をしに来たんだ・・・。』

シロは数日前、18号が3号機区画出入り口に来ていた時のことを思い出した。 18号が来た日から幾度となく、『18号が3号機区画に来た理由』をシロは自問していた。 結局、答えは出ていない。 左手に握った模造柄を弄び、『18号が3号機区画に来た理由』を再度考えていると、あっという間に時間は経過し、

『・・・やっぱり、この手合いが終わったら、18号に直接・・・』

などと、結論を出そうとしていたシロの思いを遮るように、3号の声が操縦席天井付近から響く。

「6号機、出てきたわよ。」

落ち着いた口調で話しかけてきた3号の声だったが、考え事をしていたシロにとっては十分に驚かされる声量だった。 どきりとしたためか、手合い直前のためか、自身の心拍数が上昇しているのを感じる。

「少し後ろ、5号機もいるわね。」

3号からの声に応じ、シロも、6号機と5号機が向かってきている方向を映し出している操縦席内画面を見る。 確かに、こちらに向かって歩いてきている真っ黒な塗装の操機が2体。 前方に6号機、後方には5号機がいる。 前方の6号機に目を凝らして見てみると、左前腕には、当初から支給されている円形の「スモールシールド」を装着し、右手には、「ラージアックス」を所持しているのが見て取れる。

「『ラージアックス』か・・・。」

と、シロは厄介な物でも見たかのように呟く。 「ラージアックス」は、「アックス」と似ている片手持ちの武具だが、柄や刃部分を含め、全体的に「アックス」よりやや大きい。 そして、6号機が所持している「ラージアックス」は、刃部分が前方だけではなく、後方にも同一形状の刃部分が付いている意匠のものだ。

「なあ、3号。 『ラージアックス』も、『ハンドシールド』で受け止めない方がいいんだよな?」

4号機との手合いを思い出し、シロは困り果てたように3号に尋ねると、

「そうね。 とはいえ、1号機対6号機手合い時序盤のようになった場合、6号機の攻撃を全て回避するのも無理な話でしょうね。 『ハンドシールド』を労わりつつ使ってね。」

と、冷静に答える3号。 暫し後、

「・・・わかった。」

と、3号からの回答を噛みしめるように答えるシロ。 その後、6号機の後方を歩いている5号機にも注視してみるが、5号機はいつもの救援時と同じ、武具を持たずに来ているのが見て取れた。 そんな5号機の姿を見ていると、シロは再び4号機との手合い時を思い出し、

『・・・今日の5号機は、17号が搭乗しているのだろうか・・・。 それとも、5号が単独で機体を動かしているのだろうか・・・。 結局、対4号機手合い時は、どんな状態で救援に着ていたのだろうか・・・。』

などと考えながら、シロは5号機を暫し眺めていた。 そして5号機は、「操機戦管理」から通知が来ていた通り、今までの救援機待機位置のかなり手前で歩みを止める。

「まあ・・・、手合い中の機体と救援機が交錯してしまったんだからな・・・。 再発防止策としては、『救援機は、今まで以上に手合い中の機体から距離を取って待機』って・・・なるよな。」

立ち止まった5号機を眺め、シロは一人呟くように話す。 そこに、

「シロ。」

と、3号が不意に話しかけてきた。

「なんだよ?」

と、軽い口調で応じるシロ。 それに対し、

「6号機を5号機にぶつけないでね。」

と、シロを冷やかすように話しかけてくる3号。

「・・・はぁ・・・。 ぶつけねーよ・・・。」

片や、シロはため息のように深く息を吐いた後、呆れたように答えた。 一拍置いて、シロの返事を聞いた3号は、

「さて、6号機も間もなく手合い開始位置ね。 再度、シロを機体と同期させるから、手合い開始の姿勢を取ってくれないかしら。」

と、一転して冷静な口調に切り替わり、そう告げる。 3号の言う通り、6号機は手合いの開始位置目前まで到達していた。

「おう!」

シロは元気よく返事をすると、外していた頭部覆いと「面」を装着し直す。 そしてセーフティベルトに寄りかかっていた姿勢を正し、模造柄を左逆手に握り直した。 その後は、操機主用服に負荷圧がかかり、「面」視界内も操機目線に切り替わる。 操機3号機も「ツーハンドソード」を左逆手で持ち、操縦席のシロと同じ姿勢になると、シロ自身は機体と同期したのを感じ取れた。

「同期したわよ。」

と、3号が知らせてくれるのとほぼ同時に、6号機も3号機正面に対峙する。

程なく、「操機戦管理」管理者の声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

「15時になりました。 本日の手合いを始めましょう。 対戦は、3号機対6号機。 なお、不測の事態に備え、5号機に待機をしてもらっています。」

シロは「操機戦管理」管理者の声を聞くと、再び、離れた待機位置にいる5号機を目線のみで見入ってしまい、

『・・・あの5号機・・・。 今回は、17号が搭乗しているのだろうか・・・。 それとも、5号が単独で機体を・・・。』

などと、ぼんやり考え込んでしまう。 さらに3号から言われた、『ぶつけるなよ』も、頭の中で木霊してしまっていた。

「では、構えて。 始め!」

「操機戦管理」管理者が発した手合い開始の声に対し、反応出来ていないシロ。 そして、棒立ちのような状態になってしまう操機3号機。

「シロ!」

3号に強い口調で呼びかけられたシロは、はっと気付く。 すると目前には、「スモールシールド」を機体正面に掲げ、突進してくる6号機が迫っていた。

『しまった!』

咄嗟に左前腕の「ハンドシールド」を機体正面に掲げつつ、右足を少し引き、6号機の突進を防ごうとする3号機。 一方、武具の間合いに入った6号機は、「ラージアックス」を真上に振り上げ、3号機が辛うじて機体正面に翳した「ハンドシールド」めがけて振り下ろす。 辺りに響き渡る鈍い音。 3号機は、どうにか6号機の「ラージアックス」の攻撃を「ハンドシールド」で防いだ。 だが、6号機は攻撃の手を止めず、今度は「ラージアックス」を右側から左側に振りぬいて攻撃。 なすすべもなく、再度「ハンドシールド」で防ぐ3号機。 6号機は数日前の対1号機手合い同様、開始早々に猛攻を仕掛けてきたのだった。 5撃目、6撃目と、攻撃の手を止めない6号機。

『・・・くっ・・・。 このままだと、左前腕が・・・。』

服の負荷圧を切っている左手から左前腕付近は何も感じないが、それ以外の左腕全体からは、相当な力量負荷を感じているシロ。 左前腕の損傷を考えている間も、9撃目、10撃目と、6号機が「ハンドシールド」に攻撃を集中している状況が続く。 だが次の瞬間、6号機は「ラージアックス」をひと際大きく真上に振り被った。 シロはその隙を逃さず、6号機に機体正面を向けたまま、大きく後方へ退く操作をする。

片や、6号機は振り上げた「ラージアックス」を3号機が立っていたであろう場所に振り下ろしてしまったため、攻撃は空振りとなる。 「ラージアックス」は闘技場地面を叩く寸前で止まったが、6号機は大きく体勢を崩し、前屈みで右膝を闘技場地面についてしまっていた。

『突き攻撃を・・・。 いや。』

数歩踏み込み、左逆手のままの「ツーハンドソード」で無理やり突き攻撃を放てば、体勢を崩している6号機を転倒させられたであろう。 だが、シロは自機の体勢を立て直す判断をした。 ようやく「ツーハンドソード」の柄を両手で握り、右脇横向きに構えた姿勢を取る3号機。

「なにしているのよ! シロ! 迂闊よ!」

と、頭部覆い内スピーカーからは、3号が厳しい口調で怒鳴っている声が聞こえてくる。 だが、シロは悪びれる様子もなく、平然とした口調で、

「ああ・・・。 左前腕は?」

と、3号に機体の損傷状況を問いかける。

「『ハンドシールド』が大きく損傷。 あと数回、攻撃に耐えられるかどうかね。 左前腕自体も、打撲相当の損傷よ。」

冷静な口調に切り替わった3号の報告を聞き、シロは左前腕のずたずたになった「ハンドシールド」を目線のみで見た後、

『・・・確かに・・・迂闊だったよな・・・。 今度こそは・・・。』

と、6号機に注視する。

一方の6号機は、前方にかがみ込んでしまった体勢を戻しつつ立ち上がろうとしていた。 だが、完全に立ち上がったように見えた6号機は、背中を丸め、両膝を曲げた前屈みの低い姿勢を取り、3号機に対峙する。 片や、6号機の取った構え方に不気味さを感じ、血の気が引くシロ。

「・・・な・・・なんだ・・・。 あの・・・構え・・・?」

今まで見てきた操機戦手合いで、あんな低い姿勢の構え方をした操機はシロの記憶に無かった。 そのため、震えたような言葉がもれてしまう。

「『ツーハンドソード』を6号機に向けて。 牽制になるわ。」

シロの言葉に反応したかのように、3号からの冷静な助言が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

『・・・3号の・・・言う通りか・・・。』

「・・・わかっ・・・た・・・。」

シロはまだ不気味さを感じつつも、3号の助言に従うことにする。 「ツーハンドソード」を右脇横向きの構えから中段正面に構え直し、剣先を6号機に向ける3号機。 片や、「ツーハンドソード」の剣先を向けられ、3号機を睨んだまま身動きしなくなる6号機。 3号機、6号機、双方共に身動きせず、沈黙の時間が流れる。

その沈黙を破ったのは、6号機だった。 前屈みで低い姿勢のまま、3号機に向かってゆっくり歩き出し、近づき始めた。

「・・・なんだ・・・。 くるのか・・・。」

シロには、6号機が無防備かつ無策で近づいてくるように見えた。 近づかせまいと、武具の間合いに入った瞬間、「ツーハンドソード」で牽制するように素早い突きを放とうとする。 だが、

「ん!?」

突き攻撃を放つために両腕を動かし始めた時、服の負荷圧を通じて、左腕の肘付近に若干の違和を感じてしまう。

『・・・損傷の・・・影響か・・・?』

そう考えつつも、違和感をかえりみず、シロは突き攻撃を放つ。

一方、3号機の突き攻撃を予測していたかのように、6号機は3号機の突きが放たれるより幾分早く、「スモールシールド」を機体正面に掲げた。 重い金属同士がぶつかる音が闘技場内に鳴り響き、6号機の「スモールシールド」中央に命中する、3号機の「ツーハンドソード」剣先。 片や、3号機の「ツーハンドソード」による突き攻撃を、「スモールシールド」に受けた6号機は、3号機に近づこうとしていた歩みを止められるどころか、「スモールシールド」中央が大きくへこんでしまった挙句、左腕を上空に向けるように仰け反って数歩ほど後退させられてしまう。 突き攻撃の衝撃が後退により相殺されると、仰け反ったまま硬直する6号機。 そして、数秒後には我に返ったかのように、再び前かがみの姿勢をとり、またも3号機に向かってゆっくりと歩きだす。

「どうしちまったんだ! 6号機は!」

3号機の攻撃を恐れず、再び無策で近づいてくるように見える6号機に対し、少々混乱気味になるシロ。 だが一転、

『・・・いい加減に・・・!』

と、怒りにとらわれたような感情が湧き上がると、微かに震えながら握っていた模造柄を両手でしっかりと握り直し、

「このっ!」

再度、6号機が「ツーハンドソード」の間合いに入って来た瞬間、今度は機体背面付近まで振りかぶった「ツーハンドソード」を、6号機めがけて目一杯の速度で振り下ろし始める。 狙いは、6号機頭頂部。 しかし、6号機はまたも3号機の「ツーハンドソード」の剣戟が放たれるより幾分早く、「スモールシールド」を頭部付近に掲げていた。

『・・・そんな防御!』

シロは6号機が掲げた「スモールシールド」の防御など構いなく、「ツーハンドソード」を振り下ろす。 結果、3号機の「ツーハンドソード」は、6号機の「スモールシールド」に轟音を立てて命中。 しかも3号機の剣戟は凄まじく、6号機が掲げていた「スモールシールド」をつぶれたように変形させた挙句、守りきれなかった頭部防具に達する一撃となった。

強烈な一撃を受けた6号機は、ゆっくりと前のめりに倒れ始める。 だが、右手に握った「ラージアックス」と左膝を闘技場地面に突き、どうにか倒れこむのは踏みとどまった。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・。 ・・・どうだ・・・。」

シロにしてみれば、『全力の一撃』に近い攻撃を行えたように思えた。 乱れている息を整えつつ、

『・・・かなりの手応えはあった・・・。 この損傷なら、6号機は降参するはずだ・・・。』

総当たり戦1巡目、2巡目の対6号機手合いを思い出したシロはそう考え、「ツーハンドソード」を右手のみで持つと、右脇に下ろし、3号機は待機したような姿勢となってしまった。 だが、しばらくすると、シロの考えは脆くも崩れさる。

6号機は右手の「ラージアックス」を杖のように使い、跪いていた左膝を地面から離し、ゆっくりと立ち上がり始める。 頭部付近に掲げていた半壊の「スモールシールド」も、ゆっくりと体左側に戻していく。 同時に、「スモールシールド」で隠れていた頭部が露わになる6号機。 6号機の頭部防具は右側部分が半壊し、口と鼻腔が無い、不気味な操機の顔面基部がむき出しになってしまっていた。 シロは、その不気味な顔面基部を凝視してしまったためだろうか、

『・・・目が・・・睨んで・・・。』

と、6号機に睨まれたような錯覚に陥ってしまう。

次の瞬間、6号機は立ち上がった状態から、一旦体勢を低くした後、無防備な待機姿勢のようになっていた3号機に向かい、飛び掛かるように組みついてきた。 片や、睨まれたような感覚のためか、6号機の動きにまったく反応出来なかったシロ。 そして、棒立ちの3号機上半身正面にしがみ付く6号機。

「うわー!」

と、シロは悲鳴のような声を上げ、混乱してしまう。 同時に、シロの操機主用服各所にも、6号機にしがみ付かれている影響で、重い負荷圧がかかる。

「シロ! 6号機を振り落として!」

3号も、6号機の予測外な行動のためか、シロへの助言が早口になってしまっている。

一方、3号機にしがみ付いた6号機は、3号機を引きずり倒そうとしているのだろうか、3号機を何回となく前後に揺さぶり始めた。

「くっ・・・。 重心制御が・・・。」

シロは操縦席で倒されまいと、重い負荷圧に抵抗しつつ、3号の重心制御補助も受け、機体の重心制御に集中する。 だが、6号機の揺さぶりは次第に強くなり、ついには体勢を崩して前のめりに倒れそうになる。 しかし、倒れそうになる3号機に対し、6号機は左足を後方に付き、倒れそうになる3号機を支えたかのように見えた。 が、次の瞬間、6号機はしがみ付いていた右足を外し、3号機の胴部分を勢いよく蹴り飛ばした。

「うわっ!」

重苦しい音が鳴り響きよろけた後、複雑な重低音を立て、闘技場地面に仰向けで転倒してしまう3号機。 片や、地面との水平が維持された操縦席のシロは、振動吸収機構で吸収しきれなかった揺れに襲われていた。 そのため操縦席床に仰向けで倒れそうになってしまうが、セーフティベルトに支えられ、転倒や大きな負傷をするようなことは無かった。 しかし突然の事態に、シロは自身の力で立っていられず、操縦席床に崩れ落ちるように右膝をついてしまう。 更に、服の負荷圧は無く、機体との同期は完全に外れてしまっていた。

「大丈夫!? シロ!?」

と、3号が焦ったような口調で問いかけてくる。

「ああ・・・、どうにか・・・。 いてて・・・。 蹴っ飛ばしてくるなんて・・・。 3号・・・、同期を戻せるか?」

シロは、セーフティベルトによって強めに締め付けられた両肩から両脇腹付近に若干の痛みを感じつつも、そのセーフティベルトによって支えられながらどうにか立ち上がる。 そして、3号に落ち着いた口調で確認すると、

「了解。 まさか、蹴ってくるなんて。」

3号にも予測外の行動だったのだろうか、呆れたような口調でシロに答える。 3号機は手放さなかった「ツーハンドソード」を支えにしつつ、6号機から距離を取るように素早く立ち上がった。

「再同期するわよ!」

3号からの力強い声と共に、シロが直立した姿勢を取ると、操機主用服に負荷圧が戻るのを感じる。 その後、セーフティベルトが通常位置に戻り、「面」視界も操機目線に戻る。

「同期完了!」

再び3号の力強い声を聞くと、シロはずたずたになった「ハンドシールド」を6号機に向け、「ツーハンドソード」は右脇横向きに構え、右足を引いた姿勢を素早く取った。

一方、6号機。 転倒した3号機に『とどめ』を打つことも無く、蹴り飛ばした位置で、前屈みの姿勢のまま傍観していた。 3号機の立ち上がり中も、攻撃してくるかと思いきや、3号機が立ち上がるのを待っているかのように動かないでいた。

『・・・6号機・・・。 こちらの転倒時から立ち上がり中、攻撃してこなかった・・・。』

と、攻撃してこなかった6号機に対し、少々の違和を感じるシロ。 6号機の動きに注視しつつも、

『・・・ひょっとして・・・こちらが手合い再開の意思を表すまで、動かないつもりか・・・。』

そう判断したシロは、右脇横向きの構えのまま、

「・・・3号、機体の損傷は?」

と、3号に落ち着いた口調で機体の損傷状況を確認する。

「転倒による損傷は、背中側装甲表面が傷ついた程度よ。 蹴られた胴部も、装甲がへこんだ程度。 最初に受けた左前腕の打撲相当の損傷と、『ハンドシールド』の損傷以外、大きな損傷は無いわ。 大丈夫。」

と、3号の冷静な返答を聞き、シロはひとまず安心する。 機体の損傷状況によっては、降参が頭をよぎった。 しかし、

『全力で頑張ってくださいね』

と、昨日、アムに言われた言葉が脳裏に響く。

『・・・そうだよな・・・。 頑張らないと!』

そう決断したシロは、

「それじゃあ、続行するぞ!」

と、力強く答える。

「了解!」

と、3号も力強く答える。 そしてシロは右脇横向きの構えから、ゆっくりと直立の姿勢を取り、

『6号機・・・。 やはり、攻撃してこなかった・・・。 俺たちの・・・人間の手合い再開所作の意味を学習したのか・・・。』

などと考えつつ、「ツーハンドソード」を機体正面に掲げ、手合い再開の意思を表す。 片や、6号機も前傾姿勢のままだが、半壊してしまった「スモールシールド」を機体正面に掲げ、手合い再開の動作を取った。 その後、3号機は「ツーハンドソード」を中段正面に構え、剣先を6号機に向ける。 が、

「・・・続行・・・とは言ったものの・・・。 ・・・また睨み合いか・・・。」

と、ぼやきのような言葉が漏れてしまうシロ。 一方、6号機は手合い再開の動作を取った後も、相変わらず3号機を蹴り飛ばした位置で、前傾気味の低い姿勢のままとどまっている。 シロも自ら攻めに転じられず、睨み合いが続いてしまう。

その睨み合いから先手を取ったのは、またも6号機だった。 沈黙を破り、低い姿勢を保ったまま、再度、無策にゆっくりと3号機に近づき始める。

「また同じ手なら、こちらも!」

無策に近づいてくる6号機を見たシロは、早口で叫んだ後、6号機に機体を踏み込ませ、

「・・・!」

武具を振り抜く絶好の間合いに達すると、言葉にならない声を上げ、中段正面に構えていた「ツーハンドソード」を、反動をつけ、大きく右側に振りかぶる。 その時、

『ん!?』

またも服の負荷圧から、左腕全体に若干の違和を感じてしまい、

『左前腕の・・・損傷か・・・。』

と、シロは一瞬考えてしまったため、6号機に対し、狙おうとしていた部位が定まらなくなってしまう。 だが、

『・・・頭・・・胴・・・。 いや! このまま振り抜く!』

そう決断し、狙いを付けず、「ツーハンドソード」を全力で左側へ、横一閃に薙ぎ払う。

片や、6号機。 またも3号機の剣戟が達する位置を予測していたかのように、幾分早く「スモールシールド」を3号機の剣筋上に向ける。 だが、3号機の放った剣戟がすさまじかったため、「ツーハンドソード」が「スモールシールド」に命中すると、6号機左前腕から半壊の「スモールシールド」は轟音と共にもぎ取られてしまう。 挙句、左前腕だけでは受けた剣戟の衝撃を止められず、「ツーハンドソード」が機体左側面に達した6号機は、重苦しい音を立て、闘技場地面に勢い良くうつ伏せで転倒してしまった。 そして6号機の右側十数メートル先へ、乾いた音を立てて転がっていく、全壊してしまった「スモールシールド」。

一方、6号機の転倒を見届けた3号機は、数歩下がり、転倒した6号機を警戒しつつ「ツーハンドソード」を中段正面に構えなおす。

「シロ! 好機よ! 6号機に『とどめ』を!」

珍しく、高揚したかのような3号の声が、シロの頭部覆い内スピーカーから発せられる。 片や、シロは手合い中の興奮状態だったためだろうか。 それとも、対6号機との手合いに集中しすぎてしまったためだろうか。 3号の声はシロの耳に届いていない。

「はぁ・・・はぁ・・・。 また・・・、立つ・・・だろ・・・。」

結局、シロは3号の助言を聞き入れず、『とどめ』を取らなかった。 乱れた息を整えながら、模造柄を中段正面に構え、立ち尽くしたようになっていた。 さらに、何の根拠も無かったが、6号機が起き上がって来るのを期待するかのような言葉を呟いてしまう。

暫し後、シロの期待は現実となり、6号機はうつ伏せ状態から、盾連結部分が激しく損傷している左腕を闘技場地面に突き立て、痛みに耐えて起き上がるかのように上体を起こす。 手放さなかった右手の「ラージアックス」も支えにし、ゆっくりと、直立に立ち上がった。

一拍置いて、6号機は「ラージアックス」を機体正面に掲げ、手合い再開の動作を取る。 そのまま柄部分の短い「ラージアックス」に、痛みに耐えているかのように震えている左手を添え、機体正面に構えると、3号機に対峙した。

『・・・手合いの続行・・・。 そうこなくちゃ・・・。』

6号機の手合い続行所作を見た後、「面」下で不敵に微笑むシロ。 そして何かに掻き立てられるかのように、自身も「ツーハンドソード」を機体正面に掲げる。 手合い再開の意思を表した後は、「ツーハンドソード」を再度中段正面に構え、剣先を6号機に向ける3号機。

またも睨み合いになると思われたが、今回は間を置かず、6号機が動く。 両手で握りしめた「ラージアックス」を機体右側に傾け、3号機へ向かい、突進しながら振り抜くように大振り攻撃を繰り出してきた。

「うぉー!」

一方、シロは叫び声を上げ、正面に構えていた「ツーハンドソード」を、6号機が攻撃してくる「ラージアックス」の軌道に振りかざし、攻撃を受け止めようとする。 3号機、6号機、互いの武具がぶつかり合い、鈍い重低音が闘技場内に響き渡る。 3号機はどうにか6号機の「ラージアックス」を「ツーハンドソード」で受け止め、組み合った状態となった。 そこからシロは6号機に対して、

「・・・!」

と、言葉にならない声を上げ、さらに押し込むように踏み込む。 が、

「組まないで、シロ! また蹴られる・・・」

と、3号が警告を発するのとほぼ同時に、3号機の踏み込みに合わせ、6号機は大きく一歩引き、3号機の重心を前のめりに崩す。 その後、前のめりに重心を崩した3号機胸部を突き上げるように、右膝を素早く振り上げて膝蹴りを繰り出してきた。

「くっ!」

片や、重心を崩されてしまったシロは悔しそうに叫び、前方に重心を崩した機体を転倒させまいと、重心制御に集中するも間に合わなかった。 胸部を蹴り上げられた3号機は、不意に蹴られた勢いに耐え切れず、数歩よろよろと後退した後、轟音を立てて闘技場地面に座り込むように倒れてしまう。 操縦席のシロに至っては、振動吸収機構で吸収しきれなかった、『蹴り上げられた衝撃』と『倒れた衝撃』が時差で襲い掛かり、3号機と同様、操縦席床に座り込んでしまっていた。

「いてて・・・。」

セーフティベルトがシロの体を支え、地面との水平が維持された操縦席床は、柔らかく調整されていた。 一方で、強めに圧迫された両肩から両脇腹付近に加え、打ち付けた臀部にも若干の痛みを感じるシロ。

「シロ! 今の力量負荷、負傷したでしょ!? 6号機に対し、降参しましょ!」

と、3号が切羽詰まった声で話しかけてくる。 が、

「はぁ・・・はぁ・・・。 ・・・まだだ! 大した怪我じゃない!」

一方のシロは、どうにか手合いを続行させようと、苦しいながらも興奮気味に応答する。

「だけど、シロ! このまま続けても・・・」

と、3号がシロを説得しようと話しかけていた時、すでに6号機は3号機に向かってゆっくりと歩み寄って来ていた。 やがて3号機の足元近くに達すると、6号機は両手で「ラージアックス」を頭上近くまで高々と振り上げる。 すると、

『・・・この武具の振り上げ方、「とどめ」じゃない!』

「面」視界内映像でその光景を見たシロは、直近の対4号機手合いが脳裏を過る。 次の瞬間、6号機は闘技場地面に座り込んでしまっている3号機に向かって飛び上がり、そのまま倒れこむように「ラージアックス」を振り下ろしてきたのだった。

「・・・くっ!」

その光景を見たシロは、咄嗟に操縦席床に左手をついて自身の体を支え、右手のみで握った模造柄を空中に浮いている6号機に向かって突き出す。 すると、シロと3号機の同期は奇跡的に外れていなかった。 そのため3号機はシロの動作に追従し、左腕で機体を支え、右手のみで握っていた「ツーハンドソード」を6号機へと突き出した。

3号機、6号機、すれ違う互いの武具。 その後、闘技場内に轟音が2重に鳴り響く。

しばらく後、響き渡った音が静まり返った闘技場内。

3号機は、「ツーハンドソード」で6号機の胸部を深々と貫いていた。

6号機は、「ラージアックス」で3号機の胸部に深々と武具を突き立て、3号機に覆いかぶさっていた。

3号機を支えていた左腕が力を失ったかのように機体を支えきれなくなり、ゆっくりと地面に倒れ込んだ後、重なり合った3号機、6号機は、力尽きたかのように動かなくなる。

そして、静かに雨が降り出す。


「・・・どこだ、ここは・・・。」

虚ろな意識から、ゆっくりと目覚めたシロ。 目に入る光景から、

『・・・見たことのない・・・天井・・・。 いや・・・、覆いのような物だろうか・・・。』

どうやら自身が、大きな『仕切り幕で囲われた』寝具で、仰向けに寝ている事に気付く。 すると、目を明けてから間を置かず、アムの整った素顔が視界右側から入ってくる。

「シロ。 気が付いたのですね。」

今にも泣き出しそうな顔でシロを見つめているアムは、心配そうな声で話しかけてくる。

「・・・はは・・・。 ・・・アム・・・。 『面』は外すなって・・・言ってるだろ・・・。」

片や、シロは少々苦笑いをしながらアムに話しかけるも、思い通りに体に力が入らず、小声になってしまう。 続けて、

「なあ・・・、アム・・・。 いったい、何がどうなって・・・」

寝ている状態から起き上がろうとするシロだったが、次の瞬間、自身の体の異変に気付く。

『左腕の感覚が・・・無い!?』

シロは咄嗟に自身の左腕に注視する。 だが、薄布の服越しに、左腕が普通に存在しているのは見て取れた。 『腕があるのに感覚がない』という状況が理解できず、

「・・・アム! 左腕の感覚が無いんだ・・・。 どうなっているんだ!」

シロは震えた声でそう告げた後、瞳孔が開き切り、口も半開きとなり、完全に混乱状態になってしまう。 力の入らない体ながらも、藻掻き始めてしまう。

「落ち着いてください、シロ。 落ち着いて。」

一方、必死にシロを落ち着かせようとするアム。 ついには抱きついて、シロが暴れないように優しく両手で包み込んであげるのだった。


いかばかりかの時間が経っただろうか。 シロは徐々に落ち着きを取り戻した。

「・・・なあ、アム。 なにが・・・あったのか・・・話してくれないか・・・。」

シロは抱きついているアムを右手で優しく起こし、力なく話しかける。 すると、

「それは、私が話すわ。」

聞き覚えのある声が視界外から聞こえてくる。 3号の声だ。

「・・・3号か? どこに・・・いるんだ・・・?」

と、シロは体を動かさず、首だけを左右に振って3号を見つけようとする。 そうすると、

「入るわよ。」

再び3号の声が聞こえ、仕切り幕全体が僅かに揺れる。 そしてシロの視界左側から、3号の整った素顔がゆっくりと覗き込んできた。

「大丈夫、シロ?」

と、深刻な表情を浮かべながら、3号は心配そうに問いかけてきた。

「・・・3号か・・・。 俺の身に・・・何が・・・あったんだ? 左腕の感覚が無いんだ・・・。」

3号の声が聞こえなかったかのように、問い掛けに答えなかったシロは、右手で半泣きのような顔を隠しつつ、3号に力なく問いかけた。

「シロ。 6号機との手合いは、どこまで覚えているの?」

一方、3号はシロの問いかけに対し、重い口調で質問を返す。

「えっ・・・? 6号機との手合いって・・・。 手合い・・・手合い・・・。」

3号から、6号機との手合いを尋ねられたシロは、手合いの状況を懸命に思い出そうとする。 だが、すぐに思い出せず、ぶつぶつと独り言を呟いてしまっていた。 しばらくすると、

「ああ・・・思い出した・・・。 確か・・・、6号機が飛び掛かってきて・・・。 俺は、座ったような状態から、6号機に『ツーハンドソード』を向けて・・・。 だめだ・・・そこから先が思い出せない・・・。」

シロは懸命に思い出し、自身が覚えている対6号機手合い終盤の描写を説明する。 ただ、思い出せないのか、本当に記憶がないのか、ある一定の部分に差し掛かると、右手で頭を抱え込み、苦しそうに黙り込んでしまう。

「シロ。 シロが思い出せない部分。 つまり、対6号機手合いの最終盤からその後に起きたことを、これから説明するわ。 落ち着いて、聞けそう?」

黙り込んでしまったシロを暫し見つめていた3号は、心配そうにシロをのぞき込んだまま、重い口調で話しかける。

「・・・ああ・・・。」

片や、シロは右手を頭からおろして自分の胸元に乗せた後、3号を虚ろに見つめ、力なく答えた。

「『6号機が飛び掛かってきた』までは覚えているんだったわね。 その後、6号機の武具が3号機の胸部、つまり、操縦席を直撃したわ。 ここまでは大丈夫、シロ?」

3号はシロの表情を窺い、重い口調のままゆっくりと説明を始めた。 そして、再度シロの表情を窺うように話を一旦区切る。 シロが混乱した場合、すぐに話を止めるつもりなのだろう。

「・・・ああ・・。 続けて・・・くれ・・・。」

一方、シロは力なく小声で告げる。 が、シロの顔がみるみる青ざめていくのが、3号には見て取れた。 それ以上に、シロに接続されている生体データ監視装置の値を「人」の視界で見ているため、呼吸、心拍数、発汗等の数値が、大きく変化していくのがわかってしまう。 3号はしばらく間を開けた後、

「続けるわね。 操機の操縦席は、手合いで発生する衝撃や、力量負荷がかかっても耐えられるような強度で設計されているわ。 だけど、今回の6号機飛び掛かり攻撃では、想定以上の力量が3号機の操縦席を直撃してしまったの。 結果、3号機の操縦席は、全壊に近い状況となってしまったわ。」

そこまで話すと、3号は再度、話を区切った。 またも、シロの様子を窺っているようだ。

「・・・それからどうなったんだ! 続けてくれ!」

しばらく後、弱々しいながらも怒鳴っているように話すシロ。 目にうっすらと涙も浮かべている。

「わかったわ。 私はシロの安全を確保するべく、セーフティベルトを使って、操縦席の損傷範囲からシロを出来るだけ遠ざけたわ。」

またも3号は話を区切った。 そして、シロと視線を合わせないように俯いてしまう。

「・・・3号。 続けて・・・くれ・・・。」

そんな3号の仕草を見たシロは、何かに気付いたように、一転して落ち着いた口調で3号に話しかける。 その後は、シロも3号から視線を外すように天井を見上げ、やがて目を瞑ってしまう。

「操縦席の損傷範囲は広く、損傷物のいくつかがシロの左腕を直撃したわ。 そして。」

3号はシロに聞こえるか聞こえないかの声で話していた。 だが、まるで言葉に詰まったかのように、またも話を区切ってしまう。

「・・・つづ・・・けて・・・。」

シロは天井を向いたまま、穏やかな口調でゆっくりと3号に話しかける。 すると、

「動けなくなっていた私、つまり3号機に対して、待機していた5号機がすぐにシロの救助作業をしてくれたわ。 そして、ここ、『操機工場側の医療施設』に運び込んでくれたのだけど、シロの左腕は損傷が酷く、回復困難と判断され、左腕を切断しなければならないことになったわ。 以上よ。」

と、3号はかぼそい声で話し終えると、黙り込んでしまった。

「・・・わかった・・・。」

いかばかりかの時間が経っただろうか。 3号の説明を半分も理解できていないシロだったが、いつもの口癖のように、『わかった』と、口重く答えてしまう。 その後は再度、重苦しい沈黙が辺りを制する。

「・・・なあ・・・、アム。 これは・・・なんだ・・・?」

沈黙を破ったのはシロだった。 右手を使い、無表情で自身の左上腕部から左前腕の周辺をそっとさすっている。

「義手です。 私たち『人』と、ほぼ同じ構造で作られています。 まだ、シロが使えるように設定されていないので動きませんが。」

と、アムが冷静に答えてくれた。

「・・・そう・・・か・・・。」

と、アムの回答に対し、無感情にぽつりと呟くシロ。 その後は、再び、シロ、アム、3号を沈黙が支配する。

「・・・なあ、アム、3号。 暫く・・・一人に・・・なりたいんだ・・・。 外してくれないか・・・?」

再びシロが沈黙を破り、目をつむったまま静かに話した。 一方、シロの指示に従い、部屋内からゆっくり立ち去ろうとするアムと3号。 しかし、

「・・・3号・・・。 ちょっと・・・こっちに・・・。」

と、シロは部屋を出て行こうとしていた3号を力なく呼び止め、右手を掲げて招いている。 一方、シロに呼ばれた3号は、シロが掲げている右手側にゆっくりと近づき、掲げている右手を、同じく右手で優しく握ってあげると、

「どうしたの?」

いつもの明るい口調ではなく、またも、重々しい口調でシロに尋ねる。

「・・・俺を・・・守ってくれて・・・ありがとう・・・。」

と、シロは首を少し曲げて3号に微笑みかけ、右手を少し力強く握りしめてあげるのだった。


アムと3号が部屋を出て行った音がして暫く後。 シロは自身の身体と今後のことを考えているうち、再び半泣きになってしまっていた。

『・・・左腕が・・・ないって・・・。 ・・・こんな体じゃあ、操機主は勤まらないだろうな・・・。 またも、アムに起こされるぐうたら生活に逆戻りって訳か・・・。 3号とも・・・お別れか・・・。 親に・・・なんて・・・説明しよう・・・。 「事故で左腕を失いました」ってか・・・。 この、ご時世に・・・。』

頭の中で色々な事が浮かんでは消え、結局、良く無い結論にしかたどり着かない。 そんな状態のシロは、再び混乱しそうになる。 一旦、気を取り直そうと上半身に力を入れ、寝具から起き上がろうとした時、無意識に左腕を使おうと動かしてしまい、

「うぐっ!」

と、左腕上腕に激痛が走り、悶絶する。 あまり間を置かず、アムがシロのいる部屋に飛び込んで来た。 アムもシロに装着されている生体データ監視装置の値を「人」の視界で確認し続け、呼吸、脈拍等の変化を感知したのであろう。

「駄目ですよ、シロ! 安静にしていないと!」

起き上がろうとしていた上半身をアムに優しく抑え込まれ、シロは再び寝具で仰向けに寝かされてしまった。

「・・・なあ、アム。 どれくらいの期間・・・、安静にしていないと・・・いけないんだ?」

しばらく後、左腕の痛みが治まり始めたシロは、再び、力なくアムに尋ねる。 片や、部屋外に出ていたため、「面」と頭部覆いを装着していたのだろうか、シロのいる部屋内に戻ったアムは、右手のみで「面」と頭部覆いを外しつつ、左腕のみでシロを優しく抑え込んだまま、

「『医療管理』からは、『30日程度の期間は安静に』と聞かされています。」

と、心配そうな表情と口調で答えた。 このことを聞いたシロに、ふと疑問が湧き、

「・・・アム・・・。 6号機との手合いから、何日経っている?」

シロはアムが自身の体を抑え続けている左手を、右手で優しく外しながら聞くと、

「6日経っています。 その間、シロの意識が戻らなくて心配していたのですよ。」

アムから『6日』という日数を聞き、シロは愕然となった。

「・・・そう・・・か・・・。 6日も・・・。」


シロが『操機工場側の医療施設』に来て、15日が経った。 その日の昼食後、常に付き添いをしてくれているアムから、

「シロ。 明日、『医療管理』が、『左腕義手の稼働確認』をしたいそうですが、どうしますか? 別の日にしてもらいますか?」

と、アムが「人」特有の整った素顔で微笑みながら、シロに聞いてきた。 この部屋にいる時、訪問者がいなければ、「面」と頭部覆いを外すようになってしまったアムと3号。 一方、シロは自身に接続されている生体データ監視装置の数値を気にしてか、アムや3号の顔を長い時間直視できずにいる。

「まあ、体調も悪くないし・・・、他に断る理由もないし・・・稼働確認するなら、いいんじゃないか・・・。」

と、アムから視線を外し、歯切れの悪い返事をするシロ。 アムはその返事を察したかのように、

「では、『医療管理』に、明日の『左腕義手の稼働確認』を依頼しておきますね。」

と、優しく答えてくれた。 稼働確認の予定時刻は、昼食後とのことだった。

翌日。 シロは昼食を残さず食していた。 昨日から、寝具を覆っていた仕切り幕が取り外され、食事も普通の食事が出されるようになっていた。 今食べた昼食も、アムが作ってくれたものには少々及ばないが、美味しい食事だった。 それまで、意識が戻った後の数日間は、シロの大嫌いな、栄養満点『湿布栄養剤』での栄養摂取だった。 その後の食事も、寒天と液体の中間状の何かだったので、食事のたびに気分が滅入っていた。

昼食後、1時間も経った頃、部屋の壁際にある椅子に座っていたアムが、頭部覆いと「面」を取り出して装着しつつ、

「いらしたようですね。」

と言い、部屋扉に向かって歩いて行く。 暫し後、

「失礼します。」

聞きなれた中年男性のような声が扉の方から聞こえてきて、やがて黒い服を着た「人」がシロの視界に入ってくる。 毎日、診察に来る医療担当「人」だ。 操機整備士のように人間の顔を持たない、「面」が固定された種類の「人」。

「では、これから左腕義手の稼働確認をします。 と、その前に、左上腕部の接合部分を確認させてください。」

冷静な口調でそう告げると、やってきた医療担当「人」はシロの左側に回り込み、着ている薄布の服を慎重にずらし、何やら左上腕部分を凝視し始める。 しばらくすると、

「ちょっと、義手だけを動かすので、痛かったら言ってくださいね。」

薄布の服を元に戻した医療担当「人」はそう言うと、今度は左腕義手をゆっくりと持ち上げたり、いろいろな方向に動かしたりし始めた。 その都度、シロの左上腕部に鈍い痛みが襲ってきそうになる。 だが、ちょっとでも痛みが出た瞬間、シロが声を上げるより早く、医療担当「人」は義手を動かすのを止め、痛みの出ない位置に戻す。 そんな動作をいろいろな方向で数回ほど確認する。 その後、意識が戻った日に受けた、『左腕の痛みの終息見込み』や、『痛み止め薬』、『義手について』を改めて説明してくれた後、

「では、義手を稼働させますね。」

と、冷静に告げると、医療担当「人」は両手でシロの左手を優しく握る。 暫し後、

「はい。 では、左手を握ってみてください。」

医療担当「人」はそう言うと、横になっているシロにも見やすいように、開いている左掌の義手部分をほんの少し握って持ち上げる。

『・・・握ってみろって・・・。 そういわれても・・・。』

一方、シロは困惑する。 自身の左腕があった頃には、意識なんてせず、『握る』という行為は出来ていたように思えていた。 ところが、

「あ・・・。」

義手である左手が、シロの思った通り、医療担当「人」の手を握り返しているのが見て取れる。 触っている感触が無いので混乱しそうだったが、確かに動かせている実感がある。

「・・・他も・・・動かしていいですか・・・?」

シロは驚いたような、喜びのような声と表情で医療担当「人」に話しかけるも、

「いいですが、まだ可動範囲を制限していますので、無理をしないでくださいね。」

と、医療担当「人」は冷静な口調で答える。 どうやら、左肩を使って腕全体を動かそうとすると、可動制限がかかるようだ。 が、各指、手首、肘は、ほぼ思い通りに動くことが分かった。 一方で、肌の色は右腕と若干違っているため、よくよく見ると違和を感じてしまう。

「・・・これ、凄いな・・・。」

と、感嘆するシロ。 おもちゃを与えられた子供のように左腕を動かし続けている。

「動力は電気。 充電無しの連続可動でも、12時間程度は可動します。 非接触充電なので、室内にいるときは充電のことは考えなくても大丈夫ですよ。 ただ、力は今までと同程度の力しか出せないので、怪力になったとは思わないでください。 それから、って、聞いていますか!?」

医療担当「人」が、再度、義手についての説明をしている最中にもかかわらず、シロは義手部分の左腕を動かすのに夢中になってしまっていた。 医療担当「人」から強めの口調で注意のような発言を受けてしまったシロは、恥ずかしそうに笑って誤魔化し、

「・・・ははは・・・。 ・・・ああ、すまない。」

と、平謝りをする。

「まあ、私が全部説明するより、あなたの専属『人』から説明を受けた方が良いでしょう。 その他、義手に関する詳細な内容は、あなたの専属『人』に送信しておきますので、時間がある時に説明を受けてください。 違和感や不明点、不具合があれば、すぐに対応しますので、『医療管理』まで連絡をください。 以上、よろしいでしょうか?」

と、医療担当「人」は全ての用件を済ませたように話してきた。

「・・・ああ。 ありがとう。 アム、見送りを。」

シロは幾分明るい口調でそう言うと、アムに見送りのお願いをする一方で、再び左腕を動かすことに夢中になってしまう。

「では。」

医療担当「人」はシロに向かって挨拶をした後、アムの方に向かって歩いて行き、部屋の扉から出ていく足音だけが、シロの耳に聞こえてきた。


やがて日も経ち、「医療管理」から安静の指示があった期間の30日が過ぎた。 昼過ぎ。 いつも診察に来る医療担当「人」が来て、

「義手はまだ完全な可動範囲ではありません。 左上腕部付近の痛みも少し残っているようですが、安静状態は今日までで大丈夫でしょう。 『操機戦管理』には、私から報告しておきます。」

と、寝具で横になっているシロに告げる。

「自分の・・・いや、操機の区画に戻っていいのですか?」

医療施設を離れられるのは嬉しかった。 が、シロは行く当てが思いつかないので、とりあえず操機区画の名前を出してみる。

「はい。 何かあれば、『医療管理』まで連絡をください。 お大事に。 では。」

シロは寝具で上半身を起こし、診察に来た医療担当「人」を見送った。 その後、

「・・・ただ、戻るといってもな・・・。 この状態の左腕じゃあ、操機の操縦は無理そうだし・・・。 でもまあ、とりあえずは服着て、自分の区画に戻るか・・・。」

と、「面」と頭部覆いを付けたアムに向かい、穏やかに話しかけた。 ただ、シロの内心は、自身の操機区画に戻れる嬉しさと同時に、今後の事を考えると不安がよぎる。

『・・・まあ、今は、将来のことを考えてもしょうがないか・・・。』

シロはそう考えた後、ゆっくりと寝具から降り、自分の足で立ち上がろうとする。 だが、あまり使っていない自身の足で立とうとしたためか、普通に直立しようとするのですら、ふらついてしまう。 アムに手伝ってもらい、足取りがおぼつかないまま、着ていた薄布の服を脱ぎ、3号が無言で差し出している新しい服・・・操機主用の服を右手のみで受け取ると、

「その服、シロ用の特別誂えですって。」

と、アムがうれしそうな口調で話しかけてくる。

「服って・・・、服はひとりひとり専用だろ。」

3号が渡してくれた服は、いつも着ていた操機主用の白い上下一体服と同一に見える。 それに、一般的な服ですら、各個人の体形に合わせ支給されている。 そのようなことは、シロでも知っていることだった。

「この服、服自体の蓄電量が多くなっているのと、左腕を含め、シロの動作を、いつも以上に補助してくれるそうですよ。」

再度、うれしそうな口調で説明するアムの話を聞いたシロ。 服の蓄電量が多いのは、『左腕が充電切れを起こさないように、服側からも腕に非接触充電するため』なのは予想が付いた。 が、もう一つの、

「動作補助って?」

と、シロは予想できなかったもう一点について、アムに問いかける。 すると、

「シロは暫く寝たきりだったので、筋力がだいぶ低下してしまっています。 そのためこの服は、服側から筋力等を補助してくれる機能が強化されています。 もちろん、左腕義手の動作も統合して補助してくれます。」

と、アムが身振り手振りを添え、新しい服の説明をしてくれた。

再び、アムに手伝ってもらい、新しい服に着替え終えたシロは、ゆっくりと歩き出してみる。 すると、

「・・・ああ・・・。 なるほどね。 なんか、操機を操っているみたいだ・・・。」

少し動いてみてわかったが、今のシロ自身はとても弱々しくしか動けない。 が、新しい服を着てみると、以前の筋力が戻ったような力強さで身動き出来るのがわかった。 服から圧力がかかり、シロの動きや重心制御を補助してくれている。

「・・・まあ、あまりこの服に頼っていたら、体に悪そうだ。 早くこの服に頼らなくていいよう、鍛えなおさないとな。 そうだろ、3号!」

シロに新しい操機主用服を渡す前から、沈黙したままだった3号。 シロがにこやかに声を掛けると、

「ああ。」

「面」と頭部覆いを付けている3号は、いつも以上に感情が無く、珍しい返事をした。 だが、シロは自身の操機区画に戻れる嬉しさのあまり、3号の返事の変化はあまり気にせず、

「それじゃあ、区画へ戻るか!」

と、アムと3号に対してにこやかに声を掛け、部屋の出入り口へ向かった。


「借間とはいえ、やっぱり落ち着くな・・・。」

3号機区画内の食事部屋。 アムが出してくれた暖かいお茶を飲みつつ、くつろぐシロがぽつりと呟いた。 だが、先に3号機格納庫内を見て、操機が格納されていない状況に、少々気落ちもしていた。

『・・・やっぱり、ここを追い出されるのかな・・・。』

シロの頭の中に、またもやそんな考えが浮かんだ。 「操機戦管理」からは、何の連絡が来ていないことに不安を感じつつも、自分から「操機戦管理」に連絡を入れるのはためらっていた。 どう考えても、ここを出されてしまう結論にしかならないからだ。

『・・・そういえば、レイやゴウは・・・どうしているんだろう・・・。 操機主をやめて・・・出て行ってしまったのだろうか・・・。』

しばしの間、食事部屋の中空を眺めながら色々と考え事をしていたシロは、ふと、二人のことを思い出した。

「・・・連絡・・・してみるか・・・。」

そう呟き、襟のマイクを使おうとした時だった。 突然、服の肩スピーカーから呼び出し音が聞こえた後、

「シロ。 マリナがお会いしたいと来ていますが、どうしますか?」

と、続けてアムの優しい声が聞こえ、シロは驚く。

「えっ! ・・・と・・・。 ああ、マリナが・・・? 食事部屋に案内して。」

突然の呼び出し音と、マリナが来たという二重の驚きで、シロは上ずった声で答えてしまう。

「わかりました。」

と、アムが落ち着いた口調で返答すると、通話通信は切れた。 が、

『マリナが・・・俺に・・・会いに・・・来た・・・?』

という疑問がシロに湧いた。

『マリナは俺が、今日、ここに戻って来ることを知っていたのか・・・? それとも・・・偶然か・・・?』

などと暫し考えていると、十分も経たず、食事部屋出入り口の扉が開き、アムの声が聞こえてくる。

「シロ。 マリナをお連れ・・・」

と、「面」と頭部覆いを付けたアムが案内を言い終わらないうち、マリナはアムの脇をすり抜け、シロの元にすごい勢いで走り寄ってくる。 そして、息遣いが分かりそうなほどシロの間近まで近づき、暫し顔を凝視すると、

「はぁ・・・。 ・・・なんだ・・・。 元気そうじゃないか。 怪我が治って戻ってきたって、アムから聞いたから飛んできてみれば・・・。 ・・・で、どこを怪我したんだ?」

軽く息を切りながらも、安心したような口調でシロに質問するマリナ。 その後は、何かの良い香りを残しつつ、シロの対面にある椅子に勝手に座ってしまった。

『どこを・・・って、俺の怪我の箇所は、公表されていない・・・のか・・・?』

と、疑問に思ったシロだったが、対面に座ったマリナから視線をそらし、

「ああ・・・。 え~と・・・。 そう・・・、左上腕骨だっけ・・・が、折れちゃってね・・・。 で、どうにか治ったというか・・・。」

と、マリナを心配させたくなかったシロは、咄嗟に嘘をついてしまった。

「・・・そうか・・・。 まあ・・・、あれだけ操機の胸部が壊れたんだからな・・・。 それぐらいの怪我、するよな・・・。」

と、シロの嘘に対し、マリナは納得してしまったようだ。 シロは後ろめたさを感じつつも、

「・・・手合い、見ていたんだ・・・。 ははは・・・。」

と、照れ隠しのようにマリナから視線を外したまま、右手で頭の後ろをかき、苦笑いで答えた。 一方、マリナはそんなシロの苦笑いを少し見た後、突然、座ったまま身を乗り出し、

「それはそうと、レイとゴウがここを出されてしまったようなんだが、シロは何か聞いていないか!?」

と、衝撃的な言葉がマリナの口から出てきた。

「いや・・・。 さっき、レイとゴウに連絡しようとしていたんだが・・・。 って、出されたって、どういうことだ!?」

と、マリナに視線を戻しながらも話の内容が理解できず、たどたどしい聞き方になってしまうシロ。

「・・・う~ん・・・。 区画の封鎖が解けた、一週間前だったかな・・・。 レイとゴウに会えないかなと、二人それぞれの区画に行ったんだ。 そうしたら、操機補の2号と4号がそれぞれの区画出入り口にいて、レイもゴウも、『ここを出て行った』って言っていたんだ・・・。 二人の件を『操機戦管理』に問い合わせても、『お答えできることはありません』の一点張りで・・・。」

と、マリナは落ち込んだ口調で自身の近状を説明する。 一方、シロ自身はなんとなく予想できていた事態なので、そんなに驚くことはなかった。 が、レイとゴウ、二人とも挨拶もなく去ってしまったのかと思うと、シロは何とも寂しい気持ちになり、

「・・・そうか・・・。 何も・・・知らなかったよ・・・。」

と、呟くように答えるのが精一杯だった。 その後はシロ、マリナ、双方とも互いから視線を外し、俯き気味に沈黙してしまう。 暫く後、顔を上げながらシロが沈黙を破り、

「・・・そういえば、操機戦はどうしていたんだ?」

シロはふと、疑問に思っていたことをマリナに聞いてみた。

「3号機と6号機があんなことになってから、操機戦は一切行われていないよ・・・。 それどころか、私の機体まで回収されてしまうし、各区画連絡通路は封鎖されるし・・・で・・・。」

と、俯いたまま、悲しそうな声で話すマリナ。 片や、マリナもこんな声を出すのかと少々驚くシロ。

「それじゃあ、今日までずっとお休みで?」

シロは真面目な口調だが、少々からかったようにマリナに聞くと、

「いや・・・。 私は、1号と、訓練室を使って色々・・・。 仮想の模擬戦みたいなことをやっていたけど・・・。 それと・・・、1週間前、ようやく各区画連絡通路の封鎖が解けて・・・。 それからは、散歩がてらに各格納庫の出入り口までの巡回とか・・・。」

そんな話をしている最中、食事部屋の奥から、「面」と頭部覆いを付けたアムが歩み寄ってきて、マリナの前に無言で透明なガラスの器を置いた。 中身は、氷も入っていない水のように見える。

「ありがとう。」

マリナはにこやかに告げると、ガラスの器を手に取り、勢い良く数口飲んだ。 一方、シロは水しか出さなかったアムに少々驚き、

『お客様に水だけって、失礼だろ。』

そう注意しようとした。 だが、よくよく考えると、アムはどうやら、

『もしかして・・・、先ほどの、「マリナが自分の案内を無視して食事部屋に入った行為」に、抗議しているのか・・・? それで、水だけを・・・。』

シロは、アムが相手への無礼返しの意味合いで、あえて『水だけを出す行動をとった』ことを読み取った。 だが、当のマリナは水だけを出された意味など気にしていないようだ。 シロは、食事部屋奥の調理場に戻って行くアムをひやひやしながら目線のみで見送った後、

「『操機戦管理』からは、俺のところにも何も連絡が来ていないんだ! 今日あたり何か連絡があるだろうから、その時に、レイとゴウの件も聞いてみるよ! もっとも、『操機戦管理』が、二人の状況を話してくれるか、期待はできないけどね!」

と、シロはわざと大きな身振り手振りと大きな声で、マリナの意識をシロ自身に集中させるような話し方をする。

その後も、シロとマリナは暫く会話したのち、マリナは自分の区画に戻って行った。 各区画連絡通路までマリナを見送った後、シロは3号機区画の出入り口まで戻ってきていた。 が、

『・・・レイとゴウの区画・・・。 俺も見てきてみるか・・・。』

ふと、そう思い、まずはレイの区画である2号機区画に向かった。

各区画連絡通路をゆっくり歩いた後、角を曲がってしばらく歩き、2号機の区画出入り口に到着するシロ。 区画出入り口内側には、黒い「面」を付け、黒い操機補服を着た、操機補2号と思しき華奢な体型の「人」が待ち受けていた。 レイの操機補には1、2度しか会ったことが無いが、2号機区画出入り口に立っているし、先ほどのマリナの話からも、恐らく操機補2号だろうとシロは判断した。

「やあ、2号・・・?」

シロはいつものように右手を上げながら「人」に話しかけようとしたが、挨拶のような、尋ねるような声の掛け方になってしまう。 だが、

「はい。 シロ、何か御用でしょうか。」

浅めの会釈をしつつ、若い女性の声色で「人」が返事をしてくれる。 操機補2号で間違いないようだ。

「レイに会いに来たんだが、いるかな?」

と、レイがいないことを知っていながら、シロは意地悪な問いかけをしてしまう。

「レイは不在です。」

と、冷静な口調で答える2号。 一方、俯き気味に発している2号の声が、不思議とシロには物悲しく聞こえた。

「不在か・・・。 戻りの予定とか、聞いてないかな?」

2号の物悲しい声を打ち消そうと、明るい口調で話しかけるシロだったが、

「いいえ。」

と、2号にあっさりと、言葉少なに答えられてしまった。

『このまま、ここにとどまっても仕方ないか・・・。』

2号の話を聞き、そう思ったシロは、

「それじゃあ、2号。 レイがここに戻ったら、『シロに連絡してくれ』と、伝えてくれるかな。」

と、冷静な口調で告げると、2号を見つつも体半分を2号機区画出入り口の反対側に向けた。

「わかりました。」

2号から落ち着いた口調の返事を聞き取ったシロは、右手を腰の高さで振りつつ、ゆっくりと2号機区画を後にした。 そして各区画連絡通路に戻り、通路壁に寄りかかって一休みしていたシロは、

『はぁ・・・。 なんか、さみしそうだったな・・・。 「人」にも、そういう感情的な・・・反応があるんだろうか・・・?』

などと思いつつ、一息ついた後、今度は4号機区画に向かう。

角を曲がって程なく、シロは2号機の区画出入り口で見た光景と同じような光景を見ることになる。 黒い「面」を付け、黒い操機補服を着た操機補4号が、区画出入り口内側に立っている。 ゴウの操機補である4号には何度か会っているし、3号と同じくらいの身長なので見間違えることもなかった。 4号に近づいたシロは、少しかがみ込みつつ、

「やあ、4号。 ゴウに会いに来たんだ。 いるかい?」

と、2号にした質問と同じような聞き方をしてしまう。 自身でも、意地悪だなと思いつつも、他の聞き方が思いつかなかった。

「やあ、シロ。 ゴウはね、外に行くって、出て行っちゃった。 だからね、ここにはいないよ。」

覇気はあるが、やはり、物悲しいような年少男児の声色で答える4号。 シロには、ついさっき、2号に答えてもらった時と情景が重なって見える。

「そうか・・・。 それじゃあ、ゴウが戻ってきたら、『シロに連絡してくれ』と、伝えてくれるかな。」

と、シロはかがみ込んだ姿勢を戻しつつ、4号に優しく話しかける。 すると、

「わかったよ! シロ!」

と、シロを見上げ、今度は元気よく答える4号。

「じゃあな! また来る!」

シロも元気よく答えると、4号に向かって右手を腰の高さで振りながら、4号機区画出入り口を後にした。 4号機区画出入り口から各区画連絡通路に戻り、またも一休みしていたシロは、

『はぁ・・・。 「また来る」は・・・余計だった・・・か・・・。』

と、後悔した。 自身の左腕を眺めていると、『自分自身も、いつまでここにいられるかわからない状態』だということを、シロは改めて認識させられる。

『・・・さて、どうしたものか・・・。 部屋に戻るか・・・。』

案の定、レイとゴウには会えず、シロは途方に暮れてしまう。 3号機区画に戻ろうかと辺りを見回した時、ふと、各区画連絡通路のとある表示を見て、シロは突然、ふつふつと怒りがこみあげてきた。

『6号機区画方面』

と、表示されている掲示板がシロの目に入ったのだった。

「・・・6号と18号! 出てこい!」

自分以外には誰もいない各区画連絡通路上、大声で叫びながら6号機区画へ向かって走り出すシロ。 走って体が揺れるたび、左上腕部付近に鈍い痛みが襲う。 しかし、シロは痛みをものともせず、新しい操機主用服の補助を受けながら走り続ける。

『この痛み、どうしてくれようか!』

と、完全に頭に血が上ってしまっていた。 だが、

「はぁ・・・はぁ・・・。 ・・・なな・・・なんだ!?」

息を切って角を曲がり、シロの視界に6号機の区画出入り口が遠目に見えてくると思った時、なんと、区画出入り口手前が大きなシャッターで閉ざされているのが目に入る。 走る速度を落としたシロは、シャッターの目前までゆっくりと歩き到達し、唖然と棒立ちになった挙句、しばらくその場に佇んでしまう。

「・・・。」

何か言いたかったが言葉にならなかった。 シロはやり場の無い怒りをシャッターにぶつけようと、右足を振り上げ、蹴り飛ばそうとする。 しかし、療養のために筋力が弱ってしまったのだろうか。 右足を振り上げると、左足だけで体を支えきれず、ふらふらと体の重心が崩れてしまう。

『うわっ! 転ぶ!』

どうにか転倒しないようにと、右腕を器用に振り回して重心を取ろうとしていたシロ。 そんな時、服の筋力補助機能によって強制的に重心を戻されてしまう。 結果、転倒こそしなかったが、上半身を強く揺さぶられたシロは、左上腕部付近に激痛が走り、右手で左上腕部を抑え、屈みこんだまましばらく動けなくなってしまった。

「・・・いてて・・・。」

だが、左腕の痛みの影響で、少し冷静さを取り戻すと、

『・・・まあ・・・。 シャッターに・・・当たり散らしてもな・・・。』

怒りが収まったわけではない。 が、痛む左上腕部を右手で抑え、不貞腐れ顔のシロは、不満を残しつつ、6号機区画をゆっくりと後にした。

各区画連絡通路に戻ってきての休憩が3度目になるシロ。 体が直ぐに疲れてしまい、休憩を入れないと動けなくなってしまいそうな感覚に襲われる。 今度こそ、自分の区画に帰って休もうと思った。 が、再び、シロの目に入った表示があった。

『5号機区画方面』

「5号機か・・・。」

シロは3号の話を思い出しながら、一人呟いていた。

『3号の話だと・・・、5号機が、俺のことを救助してくれたって言っていたな・・・。 一応、礼を言っておくか・・・。』

そう思いつつ、6号と18号への怒りを鎮めながら、ゆっくりと5号機の区画方向に歩いて行く。

角を曲がると、程なく5号機の区画出入り口が見え、その内側には人影が二人分見える。 一体は背が高い、黒い操機補服と黒い面の「人」。 もう一体は、華奢な体型に、黒い操機補服・・・いや、黒い操機主用の服、そして白い「面」を付けている「人」。 操機補5号と、「人」操機主17号が出迎えてくれているようだ。 身長の高い5号の間近に17号が立っているためか、シロよりもやや身長の低い17号が、とても小さく見えてしまう。

「やあ、5号、17号。」

5号達の目の前に来たシロは右手を肩の高さで振り、気さくに挨拶をした。 5号からの返答は無かったが、頷くように軽く頭を下げてくる。 そして17号は、

「こんにちは、シロ。 怪我は大丈夫なの?」

と、挨拶を返しながら聞いてくる。 片や、明るい女性の声色に、強い違和を感じるシロ。 以前、通信で話した時とは、別「人」のような話し方。

『あれ・・・? 17号って、こんな話し方だったっけ・・・?』

そう思い、シロは呆然と17号を見入ったようになってしまう。 そのためだろうか、

「うん? な~に?」

17号は少しだけかがみ込むと、シロを見あげるように白い「面」を向け、にこやかな口調で問いかけてくる。 一方、問いかけられたシロは慌てて、

「ああ・・・。 怪我は・・・大丈夫。 それより、6号機との手合い時、怪我した俺を助け出してくれたって聞いて・・・。 今日はそのお礼というか、感謝と言うかを言いに・・・。」

17号の声色に気を取られてしまったシロは、5号機の区画出入り口に来るまで頭の中でまとめていた謝意の台詞が台無しになってしまっていた。 そのため、たどたどしい話し方になってしまう。 一拍置くと、

「そんな、お礼など。 するべきことをしたまでですので。」

と、5号が冷静に答えてくれる。 そして、

「そうそう。」

と、機嫌の良さそうな、にこやかな合いの手を入れてくる17号。 その声に、ますますの違和を感じるシロだったが、

「・・・まあ、今日は・・・、挨拶をしに来ただけなんで・・・。 それじゃあ・・・。」

と、再びたどたどしく告げると、シロは右手を腰の高さで振りつつ、5号機区画出入り口を立ち去ろうと数歩歩きだした。

しかし、ふと、いつぞやに見た夢の一部が、シロの脳裏を過る。 黒髪の「人」操機主が虚ろな顔で、

『どうして助けてくれなかったの』

と言い、シロに問いかけてきた、夢の中の姿が鮮明に思い出される。

5号や17号に背を向けて歩いていたシロは足を止め、暫し考えた後、17号に再度近寄り、

「あの・・・17号。 すまないが・・・素顔を見せてもらっても・・・いいかな?」

と、唐突に切り出した。 もちろん、5号が割って入ってくる事を承知の上で話しかけたのだった。 シロは17号が付けている白い「面」を見つつ、少し後ろにいる5号の動きにも注視していた。 だが、シロの思惑は外れ、5号が割って入ってくる気配はない。 17号は、素直に白い「面」と頭部覆いを外し始めたのだった。

「これでいいかな。」

「面」を右手で持ち、頭部覆いを完全に外した17号は明るい口調で答え、「人」特有の整った女性の素顔が露わになった。

『あれ・・・?』

シロは更に違和を強く感じた。 17号の頭髪が、綺麗な赤茶色だったのだ。 シロの記憶では、17号は黒くて真っすぐな長髪だった。 今見ている17号も長髪ではあるが、緩やかなくせ毛である。 もっとも、17号の素顔を見るのは、ここに来た時、全操機主と全操機補の顔合わせ時以来なので、記憶が定かではない。

「・・・17号。 髪の毛の色、変えた?」

自分で言っていても馬鹿げたことを言っているとは思っていた。 だが、シロは無礼にも質問をしてしまう。

「あはは。 私たち『人』が、そんなことするわけないでしょ。 それとも、何か思うところでもあるのかな? あははは。」

シロは微笑んだ17号から、からかわれているような返答をされた後、笑顔で見つめられてしまう。 少し後ろに立っている5号も、事の成生を静観している。

「・・・あっ・・・。 いや! 別に・・・思うところがあるわけじゃないんだ・・・。 ありがとう! もう、『面』を付けてもらえるかな・・・。」

17号に笑顔で見つめられ、頬が少々赤らんできたシロは、だんだんと17号の整った素顔を直視できず、目線をそらして焦ったような口調で話していた。 最終的には、横を向いたような格好で17号に話しかけている。 そして、17号が頭部覆いと白い「面」を装着し終えたのを見届けると、

「それじゃあ、また来る!」

シロは早口でそう言い、5号と17号に背を向ける。

「は~い! シロ、またねー!」

片や、17号はにこやかな口調で答え、右手を振ってシロを見送っている。 そんな姿に見向きもせず、シロは5号機区画出入り口から小走りで逃げるように去ってしまった。

程なく、今日4度目の休憩を区画連絡通路で取っていたシロ。 小走りをしたため、再び左上腕部付近に鈍い痛みが走っていた。 区画通路の壁に寄りかかると、僅かに痛む左上腕部付近を右手で軽く押さえ、

『はぁ・・・。 またも、「また来る」なんて言ってしまった・・・。』

と、呼吸を整えつつ、自身の発言を後悔する。 そして今日の散々な行動を思い出すと、自身の場当たり的な行動に嫌気がさし、シロは暫し反省していた。 が、再び、いつぞやの、

『どうして助けてくれなかったの』

そう言われた夢を思い出した。 夢の中の黒髪「人」。 今、見てきた17号とは完全に別「人」だと確信できた。 が、別の疑問がシロの頭の中に湧き上がる。

『・・・夢の中とはいえ、あの「人」を、なぜ17号だと思ったのだろうか・・・。』

シロはそう考えながら、ゆっくりと自分の区画出入り口への帰路についた。


その日の夕方。 夕食を終えたシロが食事部屋で寛いでいると、部屋出入り口の扉が開く音が聞こえる。 ふと、開く音が聞こえた扉の方を見ると、「面」と頭部覆いを付けた3号が室内に入って来るのが見えた。 広い食事部屋内、3号はシロが何処にいるかわかっているかの如く、シロの座っている場所に向かって迷うことなく歩いてくる。

「珍しいじゃないか、3号。 食事部屋に来るなんて。」

自身が座っているソファーの前に来た3号に対し、微笑みながら冷やかすように話しかけるシロ。 一方、そんなシロの態度に対し、無反応だった3号。 一拍の間を置いた後、

「シロ。 『操機戦管理』から、シロに『連絡を取りたい』という通知が来たわ。 対応してもらえるかしら。」

と、3号は覇気のない、冷静な口調で話しかけてきた。 片や、3号の話を聞いたシロの顔からは微笑みが消え去る。 3号から視線を外し、しばらく考えたようになった後、

「・・・そう・・・か・・・。 ・・・わかった・・・。」

シロは一転して落ち込んだ口調と表情で答えた。 「操機戦管理」からは、何を言われるのか、だいたいの察しがついていたからだ。 座ったまま、かすかに震える右手で背中から白い「面」を取り出し、膝上に置く。 その後、頭部覆いを被り、「面」を装着するシロ。 そして深呼吸をすると、

「『操機戦管理』に繋いでくれ。」

と、冷静な口調で「操機戦管理」への接続を要求した。 そこから、シロにとっては、永遠かと思えるほどの緊張と沈黙の長い時間が流れる。

「お待たせしました。」

数秒後、シロの「面」視界内に、女性のような容姿をした人物の立ち姿映像が映し出される。 頭部覆い内スピーカーから聞こえてきた女性のような声も、「面」視界内で見えている人物が発しているようだ。

「はじめまして、シロ様。 私は、『操機戦管理』の責任者をしているものです。」

と、「面」視界内の人物は、優しい口調でシロに語りかけてきた。 半年程前のここに来た初日、全操機主と全操機補の顔合わせ時、「操機戦管理」の責任者は姿を見せていなかったため、シロは初めて責任者の姿を見ることとなった。 その立ち姿をまじまじと見ると、

『整った・・・顔立ち・・・。 膝付近まである豊かな黒髪・・・。 操機補と同一形状・・・?の・・・黒い服・・・。』

どう見ても、「人」の容姿、風貌であった。 そして、

『あれ・・・? ・・・見覚えのある・・・顔・・・。 どこかで・・・。』

と、シロは「操機戦管理」責任者の顔立ちに、既視のようなものを感じる。 数秒置いて、

『・・・ああっ! 思い出した! いつぞやの夢の中で、「どうして助けてくれなかったの」と、言っていた「人」の顔立ちに似ている・・・。 いや、そっくりだ!』

と、確信できた。 だが、よくよく考えればそんな夢の中の話など聞けるわけもなく、シロは責任者の容姿に見とれたようになってしまっていた。

「どうかなさいましたか?」

片や、シロが返事も身動きもせずに固まったようになっていたため、心配でもしたかのように、微笑みと優しい口調で問いかけてくる、「操機戦管理」の責任者。 その問いかけを聞き、はっとしたシロは慌てて、

「あっ・・・! いえ・・・! あの・・・。 はじめて・・・まして・・・。」

と、上ずったような声で変な挨拶をしてしまった。 その影響と、責任者の「人」のような容姿の影響もあってか、シロの「面」下の顔が少し赤らんでしまい、自身の心音が聞こえそうなほど緊張してしまう。 しかし、責任者はシロの変な挨拶を気にもせず、

「まず、シロ様には、私たち『操機戦管理』の管理不足によって、大怪我をさせてしまいました。 責任者としての謝罪で済むとは思っていませんが、謝らせてください。」

と、優しい口調だが、淡々と話を始める。 そして深々と頭を下げ、

「申し訳ありませんでした。」

一転、あまり感情がこもっていない口調でシロに謝罪をしてきた。 片や、頭を下げられ、困惑するシロ。 内心、「操機戦管理」が謝罪をして来たら、文句の一つも言おうと考えていた。 だが、実際の場面になってみると、緊張の影響もあってか、言葉に出来なかった。

「・・・あの・・・。 頭を・・・上げてください・・・。」

どうしたらいいかと対応に困ったシロは、なぜか責任者に対して申し訳なさそうに話しかける。 その言葉に応じ、ゆっくりと頭を上げる責任者。 そして、責任者は改めてシロを見つめているかのように、

「さて、操機戦は、操機を操る人間の安全を第一に考えた運用が行われるはずでした。 しかし、シロ様やレイ様、ゴウ様と、実際の操機戦は、安全とはほど遠い運用実態になってしまいました。 そこで、『操機戦管理』としては、操機にかかわる全ての人間の安全が確保できるまでの間、操機に関する運用を一旦休止にします。 よろしいでしょうか?」

と、優しい口調で話しかけてきた。 一方、少々緊張しながらも、責任者の話に聞き入っていたシロだったが、

『・・・そんな・・・。 運用の話を・・・俺ごときに、「よろしいでしょうか」と、言われても・・・。』

などと、困惑してしまったため、

「・・・はあ・・・。」

と、感情の薄い返事をするのが精一杯だった。 しかし、責任者の話をよくよく反芻してみたシロは、

『・・・安全を第一・・・。 ・・・安全第一・・・。 その結果が、この・・・俺の左腕ってことなのか・・・。』

などと考えてしまうと、右手で左腕の義手部分を強く握りしめ、沸々と怒りがこみあげてきてしまう。 おもむろに俯くと、責任者から視線を外し、

「・・・6号機・・・。 6号と18号は・・・、どうなったのですか・・・?」

シロは怒りを抑えようと、強く握っていた右手を左腕から離し、冷静になっているつもりでゆっくりと話す。

「6号と18号に関しては、3号機との手合い時の行動を解析中です。 まだ、シロ様にお話出来ることが無くて申し訳ないのですが。」

一方の責任者は、再び優しい口調でシロに向かい話した。 だが、その、他人事のような優しい口調が、シロの癇に障ったようだ。 些か冷静さを欠いて、

「こっちは左腕を失っているんだ! そんな・・・、『お話出来ることがありません』で、納得できるか!」

と、シロは俯きながらも声を荒げ、責任者に当たるように話す。

「そうですね。 6号と18号に関しては、行動解析が完了するまで、全ての稼働を停止にしています。 この程度では、納得していただけないのは十分承知していますが、どうかひとまず、お怒りを鎮めて頂けないでしょうか。 シロ様。」

責任者は、またもやあまり感情がこもっていない口調でそう言うと、シロが俯いてしまっているにもかかわらず、再び頭を下げた。 だが、責任者に怒りの矛先を向けたところで左腕が戻ってくるわけでもなく、『操機戦中には、ある程度の怪我が発生するかもしれない』ことは、操機主になった時点で説明を受けていた。 そのことを思い出したシロは、暫し黙り込んでしまう。 そして、

「・・・5号機は・・・どう・・・なるんだ・・・?」

沈黙を破り、シロは俯いたまま不満を呟くように責任者に問いかける。

「5号機。 5号と17号に関しても、行動解析は行う予定です。 ただし、即使用停止ではなく、6号と18号の解析後に対応する予定になります。」

と、責任者は頭を上げ、優しい口調に戻って話をする。 そんな責任者の話を聞き、シロはふと、昼間に会った17号の明るい声と容姿の違和感を思い出す。 一拍置いて、シロは顔を上げ、「面」視界内で責任者を見つつ、

「・・・17号だが・・・。 俺とゴウが手合いした時、救援機で巻き添えを受け、体を損傷したのか?」

唐突だったが、シロは17号に感じていた違和の件を質問してみる。 以前、「操機戦管理」にした質問だと、同じ回答が返ってきそうだと思ったので、少し質問の内容を変えてみた。

「・・・。」

一方の責任者はシロの話を聞くと、表情から微笑みが消え、考え込むように暫し沈黙した後、

「いいえ。 そのようなことはありません。」

と、微笑みが戻り、優しい口調で答える。 責任者が『いいえ』と答えた以上、シロには更に問い詰める術がない。 だが、17号の話になり、

「・・・そうですか・・・。 ・・・あの・・・。 17号の頭部って、最近、変更したとか・・・?」

と、聞くまいと思っていた質問が、思わず口をついて出てしまったシロ。 一拍置いて、

「シロ様。 おっしゃっていることが、よくわかりませんが?」

と、シロの質問を聞いた責任者は、微笑んだまま、軽くあしらう様に優しい口調で告げてくる。 片や、シロは、

『・・・しまった・・・。 ・・・失敗・・・した・・・。』

と、後悔する。 やはり的外れな質問だったようだ。 シロは照れ隠しのように右手で頭の後ろを抑えつつ、

「あの・・・、いえ・・・。 変なことを言ってすいません。 気にしないでください・・・。」

そう答えたものの、だんだんと気が動転しているような感覚になってきてしまう。 その後は話の流れを変えようと考え込んだため、またも黙り込んだようになってしまうシロ。 が、

「・・・そういえば、レイとゴウはここを・・・操機主を辞めさせられたのですか?」

と、冷静さを取り戻したように、責任者を見ながら問いただした。

「いいえ。 お二方とも、操機主は辞めていません。 ですが、疲弊の様子でしたので、遠地にて静養されていらっしゃいます。」

と、責任者は優しい口調で微笑みながらシロに答える。

「そう・・・ですか・・・。 なら、良かった・・・。」

片や、責任者から、『レイとゴウは操機主を辞めていない』との話を聞き、ひとまず安堵するシロ。 そして、改めて『レイやゴウの静養の件』を考え込むように沈黙してしまったシロは、暫し後、一つの結論を出した。

「・・・まさか・・・。 俺も・・・何処かで静養しろ・・・と・・・!?」

と、シロは座っているソファーから立ち上がりそうな勢いで身を乗り出しつつ、恐る恐る責任者に問いかける。 すると、

「あら、察しがいいですね。 そうです。 左腕の件と、操機の運用休止の件もありますので、暫くは、遠地で静養されてはいかがかと。」

と、優しい口調で告げた後、シロを笑顔で見つめているようになる責任者。 その笑顔を見ていると、シロは依頼を聞き届けなければならないような、使命感すら湧いてくる。 『魅了される』とは、こういうことをいうのだろうかと実感しつつも、

「あの・・・。 静養させてもらえるのはありがたいのですが、いくつか質問を・・・。」

顔が火照ったような感覚の中、シロは懸命に「操機戦管理」に聞きたかったことを思い出そうとする。 一方、

「どのような質問でしょうか?」

と、再び、微笑みと優しい口調で答える責任者。

「俺が静養に入った場合、3号は・・・どうなるのですか?」

シロがまず思い浮かべたのは、つい先ほど聞いた、3号の覇気の無い声だった。 今日の昼間に見た、操機補の2号と4号の物悲しそうな声と姿を思い出すと、3号には同じ思いをさせたくないと思ってしまう。 だが、

「そうですね。 操機補3号は、他の操機補同様、ここでお留守番になります。」

と、優しい口調で微笑みながらも冷たい回答をする責任者。 片や、嫌な予感が的中してしまったシロは、3号をどうにかここから連れ出せないか、色々と考えを巡らす。

「・・・責任者さん・・・いや、責任者様! その・・・なんとかして、3号を俺の静養先に同行させてもらうことは出来ないだろうか?」

と、シロは責任者に対し、『さん』や『様』付でお願いするような言い方をして頼み込むものの、

「いいえ。 許可できません。」

と、責任者は微笑みながらもあっさり冷淡に断ってくる。 だが、ここはシロも引き下がらず、

「・・・あの・・・そう、左腕の補助! アム・・・俺専属の『人』だけだと、補助しきれない場面があるかもしれないし・・・、追加の補助『人』ってことで、静養先への同行をお願いできないだろうか?」

などと、もっともらしい言い訳を並べ、シロは責任者を言いくるめようとした。 はては、座ったままだが、頭を深々と下げてしまう。

「・・・。」

片や、シロの話を聞いた責任者は、表情から微笑みが消え、またも考え込んだようになってしまう。 暫しの沈黙後、

「わかりました。 シロ様の静養先に、操機補3号が同行することを許可します。 ただし、3号がここから出て行っている限り、3号が操機に関する情報を取り扱うことは、全て制限させていただきます。 よろしいでしょうか?」

と、責任者の顔に再び微笑みが戻り、優しい口調で話してくる。 一方、話の内容を聞いたシロは、「面」下で笑顔になり、頭を上げつつ、

「・・・おお! ありがとうございます。 ただ、情報の制限・・・とは・・・?」

と、疑問点を責任者に尋ねた。

「操機戦は、世界に向けて発表された正式な運用ではありません。 外部に情報が漏れるのは、極力避けたいのです。 静養先での操機補3号は、シロ様専属の『人』としてのみ機能するようにします。 もし、操機戦の試験運用再開の見通しが立ち、3号がここに帰ってくれば、『操機補』の3号として機能するように手配しておきます。 よろしいでしょうか?」

そう説明を終えた責任者は、先ほどとは別の微笑み方をしているようにシロには見て取れた。 だが、シロはそんなことは気にせず、

「わかりました。 これでいいか、3号!?」

『・・・あの覇気のない口調、俺が遠地に出されることを知っていたのだろうか・・・。』

そんなことを考えつつ、3号を見ないまま大きな声で尋ねると、

「ありがとう、シロ。 私を連れていってくれるんだ。」

と、頭部覆い内スピーカーでシロの背面側を表すスピーカーから、3号の震えつつも喜んでいるような微かな声が聞こえてくる。

「なんだ、やっぱり一緒にいたかったのか! 俺はてっきり、『一緒は嫌だ』って言うと思ったんだが!」

と、シロは3号を冷やかすように大きな声で話す。 その後、後ろに振り向き、立ち姿だった3号を「面」越しに見つめると、

「嫌なんていわないよ。 ひどいな、シロは。」

相変わらず、震えたような、泣き喜んでいるような口調で話す3号だった。 だが、シロは黒い「面」を付けている3号を見ると、急に冷静になり、

『3号は・・・「人」なんだよな・・・。 震えているような声は、演技なのだろうか・・・。それとも、反応なのだろうか・・・。』

などと考えてしまう。 そこに突然、

「シロ様。 他に質問はありますか?」

と、責任者から優しい口調の問いかけがくる。 一方、責任者からの声に驚いたシロは、責任者が「面」視界内に見える方向に向かって姿勢を正し、

「あの・・・、え~っと・・・。」

と、再び考え込んでしまう。

「他に質問が無ければ、この度の謝罪は終わりにさせていただいてよろしいでしょうか。」

しばらく後、責任者が優しい口調で微笑みながらそう告げてくる。 だがシロは、

「あの・・・一つ・・・。 ・・・俺の静養先って、何処なのですか?」

と、咄嗟に思いついた質問をする。 「操機戦管理」の責任者と話せる機会なんて滅多にないが、緊張のためなのか、責任者の容姿が気になってしまっている影響なのか、シロは聞きたかったことが思い出せない。 自分が心配している事を、思いついた先から口にしてしまっていた。

「シロ様の静養先については、私たちが管理している場所があります。 なので、そちらに滞在してもらうことになります。 詳しい場所などについては、後ほどご連絡します。 よろしいでしょうか。」

と、シロの質問に対し、微笑みながら優しい口調で答える責任者。

「わかりました。」

片や、シロは軽くうなずくように答えた。

そして、微笑みを絶やさず話していた責任者だったが、

「シロ様。 もう一度言いますが、操機戦は、まだ世界に向けて正式に発表された運用ではありません。 先ほどお話しした、『人間の安全確保』。 即ち、操機主の安全が保障できないという結論が今後に出た場合、操機に関する件は存在しなかったものとして処理される可能性すらあります。 ですが、我々『操機戦管理』は、操機戦を『人間の希望』としたいのです。」

と、凍ったような眼差しと、冷静な口調で告げた後、

「では、再びお会いできるよう、願っています。」

一転、微笑んでいるような顔から、更に、泣き出しそうな複雑な表情でシロに優しく語りかけた後、「操機戦管理」責任者の姿は、シロの「面」視界内から、霧が晴れるが如く、ゆっくりと消え去った。



3日後。 操機工場区画、建物出入り口の扉外にある車両乗降場。 朝9時頃、雲一つない快晴の中、シロ、アム、3号が静養に出発しようとしていた。 唯一、マリナが見送りに来てくれている。

「シロ達まで居なくなったら、ここもだいぶ寂しくなるな・・・。 でも、まあ、留守は任せて!」

マリナは強がっているように話しているが、内心はかなり寂しいのだろう。 何しろ、この施設内での人間が、一人だけになってしまうかもしれないのだから。

「この際、『操機戦管理』に言って、マリナも静養させてもらったらどうだ?」

シロはにこやかに、冗談めいた口調でマリナに話しかけると、

「・・・いや。 やめておくよ。 ここに人間がいなくなったら・・・なんか・・・あれが終わってしまいそうで・・・。」

マリナは落ち着いた口調で告げると、闘技場のある方向を見つめた。

「あれって・・・、『操機戦』の事か?」

一方、シロが確かめるようにマリナに聞き返すと、

「・・・まあ・・・、それ以外にも・・・。」

と、感慨深く話していたマリナだったが、話を途切り、目を瞑ってしまう。 暫し後、

「・・・さあ、行った、行った。 『人』様を待たせたら、まずいだろ。」

と、シロに視線を戻したマリナはそう言うと、4輪車両型の「人」が扉を開けて待っている方に両手を振り、シロ達をせわしなくにこやかに追い立てた。 「面」と頭部覆いを付け、黒い服を着たアム。 「面」と頭部覆いを付け、一般的な「人」用の黒い服を着た3号。 と、順に車両へ乗り込み、私服のシロが最後に乗り込もうとしていた。 が、シロは車両に乗り込むのを止め、突然振り向き、

「・・・本当に、一人で大丈夫か?」

と、シロは真顔でマリナの顔を見ながら尋ねる。

「ははは・・・。 大丈夫だって。 1号や17号達と、仲良くやるよ。 心配するなって。」

と、マリナは呆れたような口調で苦笑いした後、真剣な表情でシロに答える。

「・・・そう・・・か・・・。」

片や、シロの方が寂しそうな顔と答え方になってしまっていた。 内心、左腕の痛みはかなり治まってきているし、義手や体調も、『自分専用に仕立てられた服』のお陰で問題は出ていなかった。 なので、シロは静養を断るか考えていたほどだった。

「・・・それじゃあ・・・また・・・。」

シロはマリナから視線を外し、覇気なく挨拶を告げ、今度こそ車両に乗り込もうとする。 だが、

「あはは! 違うだろ、シロ! 『またここに戻ってくる』だろ! あははは!」

と、大笑いしながら話しかけてくるマリナによって、またも車両への乗り込みが引き留められるようになってしまう。

「・・・そうだな! また、戻ってくる!」

シロはマリナに振り向き、力強く自信満々に答えると、マリナに向かって右掌を肩の高さで掲げる。 一方、シロの掲げた右掌を、自身の右掌で軽く叩き返すマリナ。

「レイとゴウと俺と、誰が一番早く戻ってくるか、楽しみに待っててくれ!」

シロが再び力強く告げ、4輪車両に乗り込み終えると、車両扉は音も無く閉まる。

そして、右手を振り続けているマリナの元から、静かに走り去って行った。


シロ達を乗せて走っている4輪車両内。 進行方向に向いた座席に座っているシロは、覆いかぶさってきている車両用セーフティベルトを鬱陶しそうに眺め、

「・・・また、こんな物に纏わりつかれるとは・・・。 車両の事故なんて、ありえないのに・・・。」

などと、文句のようなことを言ってしまう。 だが、一方で、操機主の癖のようなものであろうか、セーフティベルトが自身の服を挟んでないか、確認しようともしてしまう。

「そんなこと言わないで。 セーフティベルトは、万が一を考慮しているのよ。 それよりシロ、静養先ってどこなの?」

シロの座っている座席と反対側、対面の座席に座っている3号は、諭すように答えた後、一転してシロに質問をしてきた。

「あれ? 3号は、『操機戦管理』から、行き先を聞いているんじゃないのか? ・・・って、3号・・・3号・・・。」

と、3号の質問に答えようとしていたシロだったが、ふと、何か別のことが気になったようだ。 考え込むように、一人で何か呟いてしまっている。

「どうしたの、シロ? 一人でぶつぶつと。」

と、3号が不思議そうな口調でシロに聞いてきた。

「・・・いや・・・。 これから、『操機戦管理』の管理下から外れるのに、3号って呼び方、良くないよなって思ってさ・・・。 何か、3号に新しい名前を・・・。 う~ん・・・。」

シロはそう言った後、目を瞑って指を組み、考え込むかのように黙り込んでしまった。

「新しい名前?」

一方、シロの話を聞き、不思議そうに頭を傾げる3号。 暫し後、シロは何かを閃いたかのように目を開く。 そして、3号に微笑みながら、

「・・・そうだな・・・。 名前、『サンゴ』ってのはどうだ? あまり捻りが無いけど。」

と、優しい口調で話しかけた。 片や、一瞬、固まったようになる3号。 だが、

「私に名前をくれるの? サンゴ、サンゴね。 わかったわ。 私は今日から、サンゴと名乗れるのね。」

3号改めサンゴは、自分の名前をかみしめるようにゆっくりとした口調で答える。

「あら、いい名前。 よろしくね、サンゴ。」

と、サンゴの隣に座っているアムも、シロの呼び方に答えるように、サンゴに向かって優しい口調で挨拶をする。

一方、サンゴはよほどうれしかったのだろうか、勝手に黒い「面」と頭部覆いを取り去ってしまい、

「ありがとう! シロ!」

と、シロとアムに満面の笑みを見せるのであった。


「ミライバナシ」、1巻相当分になります。

楽しんでいただけたのでしたら幸いです。

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