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エピソード1-1

「ミライガタリ」の前日譚にです。

(と言っても、「ミライガタリ」から300年程さかのぼりますが。)

遥か遥か、ミライの話。


人間たちは争いも無く、飢えることも無く、働くことも無い、

理想郷へたどり着きました。


遥かミライの話。




「全世界の人口が9億人を割りました。 このままでは・・・」

早めの昼食を取っていた青年シロは、窓に映し出されている映像を見て、ふと、食事の手を止めた。

「どうかしましたか?」

一方、食後用のお茶を持ってきていた『人間型人工知能「人」』であるアムは、食事の手を止めたシロを気遣うように近づきながら、成人女性の優しい口調で話しかけてくる。

片や、シロは再び手を動かし、昼食の残り一口を食べ終え、ひと落ち着きした後、

「・・・ああ・・・、ちょっと、気になった情報があってね・・・。 ・・・と、ごちそうさま。 『大盛りタンパク質の煮込み』、美味しかったよ。」

と、少々皮肉っぽく答え、アムが差し出しているお茶の入った器を受け取った。

「ひどいじゃないですか。 『肉の煮込み料理』です。」

と、シロの話を聞いたアムは、優しい口調で極々自然に受け答をする。

「一方、人工知能体の総数は300億を超える数となっています。 これは昨年・・・」

と、窓に映し出されている映像は、情報の再生を続けている。 だが、シロは映像を見るのを途中で止め、

『・・・まあ・・・、俺ごときには、関係のない話か・・・。』

と、手にした暖かいお茶を一口飲みながら思った。 そして、

「・・・そういえば、3号はどうしている?」

と、後ろに振り返りながらアムに問いかける。 シロの問いかけた先には、表情が伺えない黒い「面」を顔に付け、頭部に黒い覆いを纏い、人工知能体の証である黒い上下一体服を着た、人間型の「人」が立っていた。


「人」。 総人口、約9億人まで減ってしまった、人間の生活を助ける機械や知能体の総称。 その数、約300億体。 その中でも、体を持つ個体の中には、顔、体温、頭髪等、人間そっくりに作られた、見た目では「人」なのか人間なのか、ほぼ区別がつかない個体がある。 そのため、人間型に作られている一部個体の「人」は、常に「人」と分かる黒い上下一体型の服を纏うことが決まり事となっている。 さらに、仕えている人間以外の人間に会う場合は、頭部を隠す頭部覆いと、表情を判別することができない、黒い「面」を顔部に付けること等、色々な決まり事がある。


「格納庫ですね。 午後の手合い用に、操機の最終確認をしているようです。」

シロから質問を受けたアムは、優しい口調で淡々と答える。 そして一拍置いて、

「3号が、『準備は完了している』と言っていますね。」

と、続けて答えてくれた。

「・・・わかった。 それじゃあ、3号に、『14時までには、格納庫に行く』と、伝えてくれるかな。 後、『面』と頭部覆いは外してていいよ。 ここに他の人間が来ることは、滅多にないからね。」

シロはアムに落ち着いた口調でゆっくり答えると、窓に映る映像情報に目を戻した。

「わかりました。 それでは、食べ終えた食事の器、片付けますね。」

アムはそう答えると、シロが食事を終えた食器類を持ち、食事部屋の奥にある調理場に入っていく。 シロは横目でアムの姿を追っていたが、「面」は外してくれなかった。

「・・・さて・・・、午後の天気は・・・。」

シロが気を取り直し、呟くように話すと、窓に映る映像が切り替わる。 映像が切り替わった窓には、小雨が降っている水墨画のような外の景色が映し出された。

『雨か・・・。 まもなく止むと・・・。 う~ん・・・。 腹いっぱい食べたから、眠くなってきたな・・・。』

と、食後の眠気が差してきたシロは、

「・・・なあ、アム・・・。 ちょっと、休ませてくれ・・・。」

シロは雨降りの映像を映し出している窓に向かい、気だるそうに話しかける。 すると、

「わかりました。」

と、通話機能の備わっている窓からは、アムの優しい口調での返事が聞こえてきた。

「・・・それじゃあ、しばし休憩・・・と・・・。」

シロはそう呟き、食事をしていた椅子からゆっくりと立ち上がり離れる。 広い食事部屋内をゆっくり歩き、今度は大きなソファーに腰を下ろした。

「う~ん・・・。」

シロが脱力した様子でソファーの背もたれに体を預けると、背もたれは自動でゆっくりと後方に倒れ、ひざ下からも足を延ばせるように足乗せが展開し、ほぼ仰向け寝の体勢となった。 そして、窓に映っていた雨降りの景色映像は、静かに黒い映像へと変わった後、部屋全体も薄暗くなる。

『ここに来て、もう半年近く経ったか・・・。 寝て起きての毎日が嫌になっていた時、「操機主候補募集」の通知を見て、応募して・・・。 で、どうにかこうにか合格して・・・。 もっとも、募集に集まったのは・・・』

と、仰向け寝の状態になったシロは、ここに来た当初の事を思い出しながら、浅い眠りに落ちていった。


「シロ。 起きてください。」

虚ろな意識の中、シロを呼ぶ優しい声が静かに響く。

『・・・誰かに・・・呼ばれて・・・いる? ああ・・・。 アムが呼んでいるのか?』

などと、徐々に意識がはっきりとしてくるシロ。 そして、今度は自身の左肩を軽く突かれる感覚。

「シロ、まもなく14時ですよ。 シロ。」

どうやら、アムが肩を突っついて起こしてくれているらしい。

「・・・ああ・・・。 ありがとう・・・アム・・・。 って! 近いな!」

ゆっくりと目を開けたシロは、目の前の光景にどきりとする。 黒い「面」と頭部覆いを外したアムが、シロの目の前で微笑みながら、シロ自身を覗き込んでいる。 「人」特有の整った顔立ちに、シロは目が釘付けになってしまう。 一方、そんなシロを気にもせず、

「14時になりますよ。 3号が、格納庫で待ちくたびれていますよ。」

引き続き、シロを優しい表情と声で起こそうとしているアム。 片や、シロは寝ぼけ半分の状態から、アムの素顔を間近で見たのと、時刻が14時に間近なのを知ったため、一気に目が覚めた。 にこやかに話かけているアムから懸命に目線をそらしつつ、ぶつからないように急いでソファーから立ち上がる。 そして、服に付いている襟のマイクを使い、

「すまん、3号! すぐ格納庫に行く!」

と、早口で叫ぶ。 すると、今度は服の肩に付いているスピーカーから、年少女児のような声で、

「手合いは15時からよ。 大丈夫なの?」

と、不安そうな口調で話している声が聞こえてくる。 操機補3号の声だ。

「こっちは大丈夫だ。 そっちも大丈夫だろ? お前や整備のみんなが、万全に確認してくれているんだからな。」

と、シロは3号をおだてるように答える。 すると、

「それは、まあ、機体は準備万全にしてあるけど。」

今度は3号のまんざらでもない、嬉しそうな声が聞こえてくる。

「ありがとよ。 すぐそっちへ行く!」

と、シロはしっかりした口調で襟のマイクを使って答えた。 その後、小走りで食事部屋内を移動し、扉が自動で開いた出入り口から出て、通路に到達する。 そして操機格納庫に行こうとするが、はっと思い振り向くと、

「・・・なあ、アム・・・。 やっぱり、『面』と頭部覆いは、付けたままでお願いできないかな・・・。」

シロは通路から食事部屋内に少し戻り、アムに目を合わさず、照れたような口調で告げると、

「ふふ。 わかりました。」

一方のアムはシロを見て、微笑みながら優しい口調で答えてくれる。

「それじゃあ、行ってくる!」

片や、アムの返事を聞いたシロは力強く告げると、自動で閉まりかけている扉の隙間から、アムの笑顔を微かに見つつ食事部屋を後にした。


食事部屋から区画奥へと進み、操機格納庫前にやってきたシロ。 格納庫出入り口の扉が自動で開き、格納庫内に小走りで入って行く。 すると、扉から少し奥に、シロの着ている服とほぼ同じ形状だが、黒い色の上下一体服を着ている、背の低い、後姿の人影が目に入る。 操機補3号だ。


「操機補」。 『操機主』である人間が、『操機』を操りやすくするため、人工知能が生み出した、人間と操機の中間制御機構。 もっとも、外見や基本的な能力、機能は、人間型の「人」となんら変わりがない。


「遅いじゃないの! シロ!」

と、3号は背を向けたまま、シロが格納庫内に来たことを察知しているかの如く、少々声を荒げて話す。 実際の眼球位置ではない、他の視覚装置を使ってシロを認識しているのであろう。 もしかすると、シロがここに来るまでの道のり、はたまた、食事部屋でのアムとのやり取りも、各所の視覚装置を使って見ていたのかもしれない。

格納庫内の3号を見つけたシロは、小走りから速度を落としてゆっくり歩き、3号に近づいて右横に並ぶ。 すると3号が、

「午前中の訓練もさぼった挙句、昼食を食べ過ぎるから眠くなるのよ。」

と、シロを見上げるように顔を向けながら、少々不機嫌そうな口調で話しかけてきた。 一方、シロも、

「そう言うなって・・・。 遅くなって、すまないな・・・。 でも、どうせ食事部屋でのやり取りも見ていたんだろ・・・。」

と、背の低い3号を見下ろしながら、言い訳するように話しかけた。 が、

「・・・って、3号、『面』はどうした!」

と、シロは3号の顔を見てどきりとする。 なんと、3号は「面」を付けておらず、頭部覆いの下部も付けていなかった。 「人」特有の整った素顔が、ほぼ露わになってしまっている。

「ん? 心拍数、アムの素顔を見た時ほど上がらないわね。」

3号は残念そうに答えると、頭部覆いの上部側もゆっくりと右手で外し、シロに微笑みかける。 シロが着ている操機主用服の機能の一つ、生体データ監視機能の一部を使い、心拍数を感知していたようだ。

「区画内にある各種の装置は、人間であれ『人』であれ、自由に使っていいことになっているものもあるからね。 私もアムみたいに、シロの心拍数を上げてみたくて。」

と、微笑みながらいたずらっ子のように答える3号。 片や、

「・・・3号・・・。 『人』なんだから、『面』を付けていなきゃだめだろ。」

シロは背の低い3号の整った素顔に見とれてしまっていたが、暫し後、真面目な口調と表情になり苦言を言う。 一方、

「さっき、『人間がいなければ外してていい』と、言っていたじゃない。」

と、3号は整った顔を不機嫌そうな表情にした後、不貞腐れたように反論をしてきた。

「・・・やっぱり、食事部屋でのやり取りを見聞きしていたのか・・・。 あれは、アムに対して言ったんだ。 ほら、『面』を付けるんだ!」

シロは左手で自分の顔に「面」を着けるような仕草をし、3号に「面」を付けるように、口重く催促する。

「は~い。」

3号は再び不機嫌そうに間延びした口調で答えた後、頭部覆いの上部側をゆっくりと付け直し始める。

『・・・かまってほしくて、わざとやっているのだろうか・・・。』

シロは困惑しながらも話を変えようと思った。 辺りをよくよく見てみると、周囲には3号しかおらず、格納庫内は静まり返っている。

「・・・整備士たちは?」

シロが格納庫内をぐるりと見渡した後、視線を3号に移しながら聞くと、

「機体の整備と点検が終わって、今はお休み中。」

と、頭部覆いの装着を終え、素っ気ない口調で答える3号。 さらに続けて、

「どうするの? 歩いて、機体の最終確認でもする?」

シロに見つからないよう、上下一体服の腹部内側に隠していた黒い「面」を取り出した後、両手で「面」を装着しながら話しかけてくる。 一方、シロは3号が「面」を装着している仕草から目線を移し、広大な格納庫内の一角、整備台で横になっている、真っ白い塗装の巨大な『操機』を見入った。


「操機」。 全高、約24メートル。 巨大な「人」を基礎部に持ち、古代から中世時代の欧州騎士に似た、全身鎧を纏った姿をしている。 専用の知能情報を持つ「操機補」を「操機主」との中間制御に作動させ、「操機主」の動きをそのまま操機に伝える。 「操機主」が機体を操作した時、感じられる時間差は皆無に等しい。 この機体胸部内にある半球形の操機操縦席に人間の「操機主」が乗り込み、古代の形を模した武具を使い、いにしえの剣闘士が如く戦い合う、見世物用として作成された機械が、「操機」である。 そしてその戦いの事を、シロ達「操機主」は、「操機戦」、若しくは「手合い」と称している。

ただし、「操機戦」は現在、試験運用段階である。 「人」同士が機体を操縦して「操機戦」をさせた最初期の試験運用が終わり、次の段階、人間の「操機主」が操作をし、「操機戦」の試験運用をおこなっている段階になっている。


「いや。 3号と整備の皆を信じるよ。 それじゃあ乗り込むから、上半身を起こしてくれないか。」

シロはそう言うと、再び3号に視線を移し、左手を水平から垂直に振り起す動作を3号に見せた。

「了解。 私は先に乗り込むわね。」

シロの身振りを見た3号がそう答えると、操機の周囲にある整備台の一部が重苦しい音を立てて動きだし、操機の上半身が起き上がってくる。 数分程度で、操機は上半身を起こした状態となった。 すると、

「それじゃあ、どうぞ。 シロ。」

と、3号の声が操機から聞こえるように切り替わる。 3号の知能情報が、操機側に移ったようだ。 やがて胸部にある装甲の一部が動き、中にある操機主用の操縦席が露わになる。

一方、シロがふと横を見ると、さっきまで会話をしていた3号の本体は、無口にゆっくりと歩き出して格納庫内奥にある壁際の休憩用長椅子に腰掛けた。

「なあ! いつも本体をここに置きっぱなしにするけど、大丈夫なのか!?」

シロは心配しているような口調で、3号の知能情報が移った操機に大きな声で問いかける。 すると、

「ここには、シロ以外の人間が来ることも滅多にないでしょ。 それに、誰か来たとしても、『面』は付けてあるし、大丈夫よ。」

と、3号の声が、シロの操機主用服にある肩スピーカーから聞こえてくる。 片や、

「わかった!」

3号の答えに納得し、そう叫んだシロは、上半身を起こした操機へ向かって歩いて行く。 整備台備え付けのエレベーターで整備台平面へ上がり、露になっている操縦席の内側に一歩入ると、

「いらっしゃ~い。」

と、3号の声が操縦席天井付近から聞こえてくるように切り替わる。 そして見えてきたのは、天井からぶら下がっている『セーフティベルト』が、人間の指のようにシロを誘い込む動きをしている、いつもの光景だった。 3号がシロを冷やかすため、セーフティベルトを操っているのだろう。


「セーフティベルト」。 操縦席内の天井から操縦席内に伸びていて、自在に稼働する1本の太いフレキシブルパイプ先端に、自在に稼働する4つのベルト状の器具が付いている装置。 セーフティベルト自体の操作は、操機補が担当する。 この装置が操機主の背中側から覆いかぶさり、両肩、および両脇の下から胸部付近にかけ、直接接触しないように操機主の体を包み込む。 そして、操機操縦席内の重心維持機構や振動吸収機構が作動しなかった場合でも、操機主が転倒などをして怪我を負わないように、操機主の体に接触して転倒などを防止する。 更に、操機主の服に、非接触による電源供給もしている。


そんな見慣れた光景をよそに、シロは操縦席内をぐるりと見渡す。 操縦席内壁は、全周囲に格納庫内の映像が映し出されており、操縦席の状態に問題は無いようだ。

操縦席内を確認したシロが操縦席内中央に歩み寄り、セーフティベルトに背中を向けると、指のように動いていたセーフティベルトは一旦動きを止める。 その後、シロの両肩および両脇の下から胸部付近にかけ、直接接触しないように、シロの体をゆっくりと包み込んだ。 そして、

「セーフティベルト、服に当たっていない?」

と、3号の心配そうな声が操縦席天井付近から響く。 シロはゆっくりと体を左右に動かしたり、捻ったりして、セーフティベルトが服と絡んでいないかを確認し、

「ああ、大丈夫だ。」

と、軽い口調で告げる。 続けて、

「ちょっと待ってくれ・・・。 俺も準備を・・・。」

シロはそう言うと、自身の服の背中側にある頭部覆い内から右手で白い「面」を取り出し、手に持つ。 次に左手のみで頭部覆い上部側を被った。

「・・・さて・・・、問題なさそうだな・・・。 操縦席扉を閉めてくれ。」

シロはセーフティベルトに異常がないかを再度確認しつつ、3号に話しかける。 一通りの確認が終わると、操機操縦席の扉が音もなくゆっくりと閉じ始める。

「3号。 前回の手合いから、何か変更点はあるか?」

操縦席扉が完全に閉まり、正面画面にも格納庫内の映像が映し出されたのを確認したシロは、落ち着いた口調で3号に尋ねる。 すると、

「残念ながら、機体、武具とも変更無しね。 強いて言えば、前回の手合いで傷ついた部分を含め、全身の装甲が丸ごと新品に交換されているわ。 形状は、以前と同じままだけど。」

今度は3号の声が頭部覆い内にあるスピーカーから聞こえるように切り替わり、冷ややかな回答が返ってきた。

「そうか・・・。 『操機戦管理』の話だと、『新しい装甲形状や武具は、早い時期に提供を開始します』って話だったが・・・。 今日から、手合い総当たり戦も3巡目・・・。 かれこれ10戦近く手合いをしているんだし、そろそろ変化がほしいよな・・・。」

と、シロは操縦席天井付近を見上げつつ、愚痴のようなことを3号に言ってしまう。


「操機戦管理」。 操機戦の試験運用及び、それに関わる闘技場や資材を管理する組織。 シロ達はここに所属し、「操機戦管理」からの指示に従って、操機戦の試験運用をおこなっている。


「そういうことで、シロ。 残念ながら本日の武具も、いつもの『ショートソード』と『スモールシールド』よ。」

3号の冷静な声を聞きながら、シロは操縦席内画面で格納庫内を見渡す。 すると、操機用の巨大な武具が格納されているいつもの場所に、いつもの見慣れた武具、「ショートソード」と「スモールシールド」が置かれていた。

「・・・はあ・・・。」

見慣れた武具類しか置かれていない状況を見て、渋い顔をしてため息をつくシロ。 その後、

「・・・で・・・、本日のお相手だが・・・?」

と、今日の手合い相手を知ってはいたが、敢えて3号に問いかけてみる。 すると、

「今日の手合い相手は、1号機。 マリナね。」

と、冷静に答えてくれる3号。 一方、シロは3号の回答が、自分の思っていた手合い相手と同一だったので、

「・・・はあ・・・。 そうだよな・・・。 俺、マリナ・・・苦手だ・・・。」

と、再度ため息が漏れてしまった挙句、思わず本音も漏れてしまう。

「それは、操機戦の相手として? それとも、人間として苦手なの?」

と、3号からは手痛い質問が返ってくる。

「・・・ああ・・・両方・・・。」

暫し後、シロはしょんぼりと答えるのが精一杯だった。

「まあ、マリナは操機戦が強いし、シロは苦手でしょうね。 『人間として苦手』なのは、『人』である私にはわからないけど。」

3号はシロを慰めようとしているのだろうか、優しい口調で話をしてくれる。 続けて、

「でも、マリナとは2戦して、1勝1負じゃない。」

と、今度はシロを励ますような口調で話しかけてくる。

「ああ・・・。 ただ、『操機戦管理』曰く、『操機戦は勝ち負けではありません』って話だから、『勝った』、『負けた』はあまり気にしないようにしているつもり・・・だけど・・・」

シロは3号に話しかけている途中だったが、ふと、前回の1号機との手合い終了後を思い出し、3号との話がとぎれてしまう。

シロの1号機に対する初勝利にして、現在、試験的におこなっている操機戦において、開始以来全勝を続けていた1号機の初敗戦であった。 そして手合い終了後、1号機と3号機が格納庫に戻る途中の事だった。 マリナは何かを話したかったのだろうか、シロに通話通信をしてきたが、

「・・・。」

と、シロに聞き取れない声の後、すすり泣くマリナの声だけが通信で聞こえてきた。 そんな音声が流れるまま、永遠とも思える時間を感じるシロ。 1号機からの音声を遮断してしまっても良かったのだろうが、シロはあえて遮断しなかった。 結局、シロはマリナに声を掛けられないまま、1号機からの通信は途切れてしまった。

あの手合いから後、マリナが会いに来ることも、通信や通知がシロ宛てに来ることもなかった。 そもそも、操機主同士が会う機会や、話す機会は非常に少ない。 さらに、ここに来る前の普通の生活でも、他の人間と交流する機会は少なかったし、

『まあ・・・、勝負事に近い状況だし・・・。 人間同士の交流なんて、こんなものなのかな・・・。』

と、シロは納得してしまっていた。

「どうしたの、シロ。 黙り込んで。」

3号の冷静な声が頭部覆い内スピーカーから聞こえ、回想にふけっていたシロは我に返り、

「・・・いや・・・。 何でもない・・・。 1号機は・・・どうかな・・・って・・・考えていた。」

と、たどたどしい口調で、3号への返事を胡麻化すような答え方をした。 すると、

「どうかなって、『操機戦管理』から手合い中止の通知は着ていないし。 1号機は、問題無いのでは。」

と、シロの曖昧な返事に対し、真面目に答えてくれる3号。

「・・・そうだな・・・。 考えてもしょうがない・・・。 1号機は現在、操機戦10戦9勝。 勝ち負けではないとはいえ、負ける手合いはしたくない! 1号機に対しては、今日も勝つ!」

と、シロは3号に対し、気分一新を感じさせるような大声で力強く答える。

「了解。 それじゃあ、機体を立たせるわね。」

3号が明るい口調で告げると、上半身が起き上がっていた操機は、背面の整備台ごと再度ゆっくりと上半身が倒れこみ、仰向けに寝ている体勢に戻った。 間をおかず、今度は仰向け状態の操機が、整備台の足元側を軸に、整備台ごと頭部側からせり上がってくる。 数分程度で操機は立ち上がった状態となった。 その間、操縦席は常に地面との水平を維持している。

「闘技場までの移動だけど、いつも通り、3号にお任せしていいか?」

操縦席内画面を見て機体が立ち上がったのを確認したシロは、3号にそう問いかけると、

「了解。 武具はどうする?」

3号からは小気味よい回答が返ってきた。 が、後半の言葉を聞いたシロの頭に疑問符が浮く。 3号は、からかって言っているのだろうか。 数秒後、

「・・・どうするって・・・さっき、『武具は「ショートソード」と「スモールシールド」しかない』、って言っていたのは3号だろ・・・。」

と、シロが真面目な口調で答えると、

「ほら、『ショートソード』か『スモールシールド』、どっちか置いて行くかなって、確認。」

と、3号は軽い口調で返事をする。

「『スモールシールド』はともかく、『ショートソード』を置いていったら、『操機戦管理』になに言われるかわかったもんじゃない! 素手殴りが禁止事項なのは知っているだろ!」

と、軽口の3号に対し、少々声を荒げ気味に答えたシロだったが、はっとなり、

『・・・3号・・・。 人間らしさを出すために、敢えて冷やかすような事を言っているのか・・・? さっきの「面」を外していたのも、わざとやっているとしか思えないし・・・。』

などと思いつつも、

「・・・ともかく、武具は『ショートソード』、『スモールシールド』の両方で頼むよ。 さすがに『ショートソード』のみじゃあ・・・」

気を取り直し、落ち着いた口調で話していたシロだったが、再び、話が途切れてしまう。 ふと、いつぞやに見た、『人間対人間の手合い』のような、古い映像が脳裏をよぎったためだ。 剣のみで相手からの武器攻撃を受け止め、瞬時に攻撃に転じる動き。 だが、今はそれを試す時では無いのを、シロは十分承知していた。 だが、そんなことを暫く考えてしまっていると、

「大丈夫、シロ? 今日も集中出来ていないわね。」

と、3号が呆れたような口調で忠告をしてくる。 片や、忠告を受けたシロは、少々頭に血が上ってしまい、

「どうせ、毎度毎度、集中できていませんよ! 申し訳ありませんね! 『スモールシールド』は左前腕固定! 『ショートソード』は左手で刀身持ち!」

3号に、『集中できていない』と指摘されたのが気に障ったのだろうか。 不機嫌な表情と強めの口調で指示を出すシロ。 一方、

「『いつもの持ち方で』で、わかるわよ。」

と、3号からは、不満そうな小声の応答がある。 すると、

「・・・だったら、それで・・・。」

一転、シロは呆れた表情と口調で呟くように返事をした。

操縦席内での軽い悶着が落ち着くと、整備台を離れ、重々しい音を立てて歩きだす操機3号機。 だが、操縦席の揺れは一切ない。 そして操機基準の数歩先、操機用の武具が格納されている場所には、先ほど見た通り、左側に西洋風な円形の「スモールシールド」、右側にも西洋風の「ショートソード」が置かれている。 両方とも飾り気は無く、実用的な形状を模しているようだ。

機体が「スモールシールド」と「ショートソード」の置かれている場所に到達すると、歩行を一旦停止し、機体は左腕を僅か前に振り上げる。 すると「スモールシールド」は自動でせり上がり、機体の左前腕に装着、固定された。 次にせり上がっている「ショートソード」の柄を機体右手で握り、引き抜く。 その後、「ショートソード」の刀身を左手で握り、右手から持ち替えた。 各武具を装着し終えた機体が、再び重々しい音を立てて歩き出すと同時に、

「装備完了!」

と、各装備を装着し終えた3号は、元気のいい口調で報告をする。 が、

「・・・。」

シロからの返事は無い。 しばらくすると、

「緊張しているの、シロ? 呼吸が早いし、心拍数も高いわね。 操縦席内の酸素濃度を若干上げ、温度と湿度は少し下げるわよ。」

3号から、自身の身体に関する報告が告げられると、シロは服内と操縦席内の空気が冷ややかになっていくのを感じ、

「・・・ああ・・・。 すまないな・・・。 ありがとよ・・・。」

と、辛うじて3号が聞き取れる声で礼を告げる。

『・・・もう11回目・・・。 まだ11回目・・・。 どちらなのだろうか・・・。 何回目になっても、緊張する手合い前・・・。』

と、シロ自身も緊張し、両手が微かに震えているのを実感していた。

格納庫内を歩いていた機体は、格納庫がある地下から地上に出るためのエレベーターに向かい歩いて行く。 エレベーター上へ到着すると、左膝を床につけ、しゃがんで機体を安定させた。 機体が静止すると、エレベーターは低音を響かせながらゆっくりと斜めにせり上がっていく。 暫くせり上がっていくと、閉まっていた天井部分が動き、外の光が操縦席内画面にも照らし出されてきた。

雨は予報通りに上がっていた。 雲の合間から日の光も見える。 手合いを行う気象条件は良さそうだ。 手合いを行う闘技場までは、エレベーターで登り切った地点から、操機の歩きで10分程かかる。 地上に出たエレベーターの動きが止まり静かになると、機体はゆっくり立ち上がり、再び、重々しい音を立てて歩き始めた。


操機関係の施設は、廃止された大規模空港の跡地に作られている。 広大で平坦な立ち入り禁止の土地中心部に、円形に大きく深く窪んだ場所がある。 そこは、さながら『古代剣闘士たちの戦いの場』を模して作ってあるように見える。 この場所が、『闘技場』と言われている操機戦を行う場所である。 操機が地上に出るエレベーターの地上到着地点から闘技場までの通路間も、大きく深く窪んでいる。 まだ一般に公開されていない操機を、周囲の目から隔離するためであろう。


「早速だけど、操縦席の床、地面再現状態に切り替えるわよ。」

3号がにこやかに告げると、シロが立っている操縦席床の感触が切り替わる。 柔らかい感触だった操縦席の床から、舗装された固い地面の感触に切り替わったのが、足裏を通じて感じ取れる。 そして、

「後ろ、1号機が出てきたわね。」

3号が教えてくれるのと同時に、機体後方の映像が操縦席内正面画面に大きく映し出される。 操機1号機のエレベーター地上出入り口に、エレベーターに乗ってせり上がってくる、跪いている状態の操機が見える。 マリナの機体、操機1号機だ。 操機は現時点で1号機から6号機までが存在し、形状は同一である。 だが、人間の操作機である1号機から4号機までは機体表面塗装が白色。 「人」操作機である5号機、6号機は、機体表面塗装が黒色と、色分けがされている。 更に、各号機を見分けるため、全ての機体の両肩に、各機の号機番号が印されている。

「ん~・・・? ちょっと待て! 1号機の盾、なんか大きくないか!?」

と、操縦席内正面画面に映る操機1号機の立ち姿を見たシロは、焦ったような大声で叫ぶ。 画面に映る操機1号機をよく見ると、明らかに自分の機体が装備している盾と、大きさや形状が異なっている。 1号機左腕側には、操機の肩付近から膝付近まである、細長い楕円形のような大きな盾を持っているのが見て取れる。

「あら。 1号機には、新しい装備品の支給があったのね。」

一方、3号は落ち着いた様子で平然と返事をする。

「あったのねって・・・。 1号機だけ!? それって、不公平じゃないか!?」

片や、1号機のみ新しい装備品がある状況に納得のいかないシロ。 3号に対して、八つ当たりするような口調で反論するも、

「別に、不公平じゃないでしょ。 あんな大きな盾、まともに使えるわけないでしょ。」

と、3号からはもっともな見解が返ってきたため、

「なるほど・・・。」

と、シロは思わず納得してしまいそうになるが、

「・・・って、・・・いやいやいや。 そうじゃなくて、なんでこっちには新しい装備が・・・」

と、懸命に追加の反論をする。 だが、納得がいかないシロを無視するが如く、

「1号機のマリナから、通話通信の接続要求が入ったわ。 繋ぐ?」

と、3号がシロの話を遮り、冷静な口調で割って入ってきた。

「え・・・? ・・・ああ・・・。」

一方、話を遮られてしまったシロは、渋々3号に答える。 すると、頭部覆い内スピーカーから、

「よ~! 3号機とシロ! ごきげんよう!」

と、機嫌の良さそうな、若い女性の声が聞こえてくる。 操機1号機の操機主、マリナの声だ。

「『ごきげんよう』じゃねえよ! なんだ、その大きな盾!」

片や、逆に不機嫌な口調で応答をするシロ。

「いいだろ~。 新しい装備だ。 ちなみにこっちも。」

マリナは引き続き機嫌のよさそうな声で答えると、『歩行中の操機1号機が、右手で逆手持ちしている武具を肩の高さまで持ち上げる映像』が、操縦席内正面画面に映し出される。 持ち上げられた武具の形状は剣のようだが、操機3号機の持っている「ショートソード」とは形状が違い、刀身の中間位置に小さな突起がある。 刃渡りも、明らかに「ショートソード」より長い。

「そんな・・・装備だけで・・・操機戦の有利不利が決まる・・・とは思えないがな!」

1号機が掲げる武具を見たシロは、そう強がってみせた。 だが、ところどころで話に詰まってしまい、明らかに動揺しているのがばれてしまう。

「そうだな。 一概に、大きな武具が有利とは言えない・・・かな。」

と、逆にマリナからは落ち着いた、冷静な返答をされてしまった。

「・・・だいたい・・・、そんな大きな盾、扱えるのかよ!」

マリナの冷静な返答が気に障ったシロは、先ほど3号に言われたことを、そのままマリナに強気に投げつける。 が、

「扱えるかどうか、お楽しみに~。」

と、にこやかな口調で軽く流されてしまう。 そんなマリナのからかっているような言動に対し、だいぶ頭に血が上り始めたシロは、

「そうかよっ! 通信切るぞ!」

と、怒ったような大声を言い放つ。 同時に、3号が通話通信を止めてくれた。

「3号! 1号機の詳細な情報をくれ!」

シロは頭に血が上ったような状態から冷静になろうとしつつも、怒りの収まっていない口調で3号に指示を出す。

「1号機、装甲形状を含めた操機自体の外見に変化無し。 歩行速度、3号機とほぼ同速。 右手を振り上げた時の速度からも、機体自体に増力等の変更がかかっているようには見えないわね。 左前腕、『ラージシールド』を装備。 表面を見る限り、素材はこちらの『スモールシールド』と同一素材。 右手、『ロングソード』を装備。 こっちの素材も見た目での判断になるけど、こちらの装備している『ショートソード』と同一素材。」

と、3号の冷静な説明に対応して、操縦席内正面画面に映し出されている1号機の映像が色々と切り替わっていく。 続けて、

「まあ、さっき言った通り、あの大きな武具を使いこなせるかが、今回の1号機の注目点ね。 ただ、武具扱いの上手なマリナだから、ある程度は自身で武具訓練をしているでしょうし、操機での手合いでも、それなりに使いこなすだろうと予測できるわね。 以上。」

と、3号が締めくくった。 その報告を聞き、考え込むように黙ってしまったシロだったが、しばらくすると、

「・・・今更の確認だが、1号機の前回手合い・・・。 武具の変化は無かったよな・・・。」

と、シロは呟くように3号に対して確認する。 そうすると、操縦席内正面画面には、1号機対2号機の手合い映像が映し出された。

「これは、5日前の1号機対2号機の手合い開始時映像よ。 見ての通り、1号機は今の私たちと同じ武具だし、2号機とも同じ武具ね。」

3号がそう言うと、追加で色々な角度から撮影された、複数の手合い時映像が操縦席内正面画面に映し出される。 その内のいくつかの映像は、更に1号機が大写しになり、武具に違いが無い事をわかりやすく映し出している。

「5日か・・・。」

と、3号の応答を聞き、ぽつりと呟くシロ。 現在、操機戦は1日1手合い、翌日は手合い無し。 その次の日は手合い。 この順序で6機の総当たり戦手合いが進んでいる。 手合いの順は、同一機が連戦にならないように考慮されているようで、今まで連戦になったことは無い。 次戦については、当日の手合いが終わった後、「操機戦管理」から発表されている。

『もし、武具の支給が5日前だとすると、マリナなら十分使いこなせるようになっているだろうな・・・。 3号の言う通り、手合いしている相手の中で、武具類の扱いが1番上手だし・・・。』

などと、考えを巡らせていたシロだったが、

「この・・・武具間合いの不利な状況・・・。 だけど、対処としては、相手武具の長さに注意するぐらいしかないか・・・。 こっちは武具の間合いが短いから、押し気味の距離を保つ・・・か・・・。」

と、一旦、対1号機の作戦案を呟く。 が、

『・・・そう言ってはみたものの、実行するのは、俺自身なんだよな・・・。 どうしたものか・・・。』

と、引き続き考えてしまう。

「了解。 最終的には前回同様、右手狙い?」

と、唐突に3号が聞いてきたが、

「・・・。」

3号にそう言われたシロは、前回の1号機対3号機の手合いを思い出し、更に考え込んで、黙り込んでしまう。 1号機との前回手合いは、手合い開始後間もなく、シロの操る3号機の剣戟が、偶発的に1号機の右手に命中。 1号機右手指のほとんどを損傷させてしまった。 そして、1号機が武具を握れなくなったためだろうか、早々に「操機戦管理」が手合いを止めてしまったのだった。 わざと狙ったわけではなかったが、シロにとっては、なんとも後味の悪い手合いとなった。

『前回の対1号機のような手合いにはしたくない・・・。 では、どうすればいい・・・。』

と、シロは自問する。

『・・・だが・・・他号機同士の手合いでも、武器所持側の手を破壊して手合いが終了している場合はある・・・。 でも、それでいいのだろうか・・・。』

などと、自身の問いかけに答えを求めるように深く考え込んでいると、

「お~い! シロ。 大丈夫~?」

と、考え込んでしまっていたシロに対し、3号は間延びした口調で声をかけてくる。

「ん・・・。 ・・・ああ、すまない・・・。」

片や、シロはようやく薄ぼんやりと答える。

「それで、作戦は決まったの?」

と、3号は呆れた口調で再度問いかけてくる。 一拍置くと、

「・・・やっぱり、出たとこ勝負で!」

一転、シロは嬉々として自信満々に大きな声で答える。

「りょうかい。 『いつもと同じ』、ね。」

一方、3号からは、またも呆れ口調の声が聞こえてくる。 そしてゆっくりと歩き続けていた操機3号機は、いつの間にか闘技場の出入り口を過ぎ、高い壁で囲われた闘技場内まで到達していた。

「間もなく手合い開始位置ね。 シロ、『面』の装着を。」

と、3号の声色が変わり、真剣な口調の指示がくる。

「おう!」

シロも真剣な口調で答えると、操機3号機を自身で操作できるように準備を始める。 頭部覆いの上部をもう一度しっかりとかぶり直し、頭部覆い下部も首元から顎の方に引き上げ、更に口元、そして鼻上までを覆った。 その上から、「人」と同じ形状だが、表面の色が白い、『操機主用の「面」』を装着する。 装着した「面」からは、目の網膜に直接投射された映像により、裸眼で見ているのと何ら変わらない視界が確保され、操機の操縦席内風景が見えている。

「それじゃあ、機体との同期を開始してくれ。」

と、『操機を操作する準備』を整え終えたシロは、3号に指示を出す。

「了解。」

3号から小気味よい回答がくると、重々しい音を立てて歩いていた機体は一旦停止し、直立姿勢を取った。 同時にシロも操縦席内で直立姿勢を取る。 すると、シロの着ている操機主用服全体に重いものを纏ったような負荷圧がかかる。 左前腕には「スモールシールド」の重さが再現され、左手指先にも、「ショートソード」の刀身を握っている感覚が手袋を通じて伝わってくる。 「面」視界内も操機の高い目線に切り替わり、シロは操機と一体になったような感覚になると、

「シロ。 機体との同期、完了したわよ。」

と、3号から冷静な口調の報告が来る。

「よし! 問題無しだ! 手合い開始位置へ向かう!」

シロは力強く告げると、機体を自身の操作で歩かせ始めた。 ここから先、シロ自身が操機3号機の一挙一動を操らねばならない。


片や、シロが搭乗する操機3号機から少し間隔をあけて後ろを歩いている、マリナの搭乗する操機1号機。 3号機が闘技場内に少し入った位置で一旦停止し、十数秒置いて再び歩き出す。 その光景を見たマリナは、

「この距離くらい、自分で歩かないと・・・。 操機に不慣れ。 だから負ける。」

と、1号機の操縦席にいるマリナが呟くように話す。 マリナはすでに頭部覆いや「面」の装着を済ませ、自身の操作で操機1号機を動かしている。

「ご主人よ、何か言いましたか?」

と、マリナの頭部覆い内スピーカーから、青年男性のような声が冷静な口調で問いかけてくる。 操機1号機の操機補、1号が発したものだ。

「3号機だよ・・・。 今、歩みを止めただろ。 操作を操機主に切り替えたんだ。 ここまでは、操機補に自動で届けてもらったってこと。」

と、マリナは機体を操作しながら自信ありげに話す。

「つまり、どういう意味でしょう?」

一方、マリナの話の意味をくみ取れなかったのか、1号はマリナに冷静な口調でさらに問いかける。

「3号機の操機主・・・シロは操機を操るのが好きじゃない。 好きじゃないから操機補に頼る。 操機補に頼るから、普段の機体の動作がぎこちなくなる。 そして、ぎこちない動作の結果、手合いに負ける。」

と、マリナは再度、自信満々にそう答えた。 『シロが操機を好きではない』という持論には、自信があるようだ。

「ご主人よ、操機主シロが、『操機補に闘技場までの移動を任せる』件について、私の見解は違います。 この手合いが終わりましたら、話をさせてください。」

片や、1号はマリナの考えに否定的なようだ。 またも、冷静な口調でマリナに話しかけてくる。

「・・・わかった・・・。 この手合いが、終わったらな・・・。」

と、マリナは余裕を見せ、1号にゆっくりと答えた。

しばらく後、マリナの操る操機1号機も闘技場内に入ると、

「今回の手合いは格納庫で話したとおり、3号機は自分たちの武具間合い、つまり、私たちに接近気味に挑んでくるはずだ。 なので、あえてこちらもその距離で戦う! 前回負けた屈辱、晴らさせてもらう!」

と、既に準備万全のマリナが操縦席内で感情的に叫ぶ。

「了解。」

一方、マリナに応じて答えた1号の声は、変わらず冷静だった。


1号機、3号機、共に闘技場の手合い開始位置に到着し、両機共に各武具を構えていない、直立した待機姿勢を取った。 その間合い、約60メートル。 操機2体以上の間合いである。 そして時刻は14時55分を過ぎようとしていた。

「両機共、暫しお待ちを。」

シロの頭部覆い内スピーカーからは、手合い時にいつも聞いている中年男性のような声、「操機戦管理」管理者の声が聞こえてくる。 そんな中、再び、重々しい操機の歩行音も頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。 ふと、音のする方向、闘技場の出入り口方向を見てみると、

「お~。 今日は5号機が来た。」

シロは闘技場の出入り口外側から、闘技場内に向かってゆっくり歩いてくる操機を見つけ、一人呟く。 真っ黒な表面塗装の操機5号機は武具の類を所持しておらず、闘技場内に入ると、手合い開始位置にいる1号機と3号機からかなり離れた位置で立ち止まった。 操機5号機が立ち止まってからしばらくすると、

「では、本日の手合いを始めましょう。 対戦は、1号機対3号機。 なお、不測の事態に備え、5号機に待機をしてもらっています。」

と、「操機戦管理」管理者が手合いの進行を開始する。 そして、

「手合い開始は、予定通り15時とします。」

と、告げられる手合いの開始時刻。 一方、シロはそんな声を聞き流し、

「なあ、3号・・・。 あの5号機の待機って、必要なのかな・・・?」

と、離れた位置に立つ5号機を目線だけで捉え、3号に不思議そうな口調で問いかけた。

「そうね。 操機はまだまだ試験段階のものだからね。 人間が操機に乗る前段階、『人』対『人』で試験的な手合いをおこなっていた時、操機が派手に壊れることは何度もあったわ。 この機体は、そういった試験や計算から、強度設計を何度も見直して作られているの。 それでも万が一、事故が起こった時に備えているのが、待機している機体ね。」

と、3号が事細かに答えてくれる。 気のせいだろうか、シロには3号のその声が、妙に優しい声に聞こえた。 だが、

「ほら、始まるわよ。 1号機に、集中、集中。」

と、今度は3号がシロを急き立てるように厳しい口調で話しかけてくる。

「では、構えて。」

再び頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる、「操機戦管理」管理者の声。 その声を聞き終えると、シロは1号機に向かって律儀にお辞儀をする。 その後、左手で刀身を握っていた「ショートソード」の柄を右手で握り、腰下にさげつつ「ショートソード」の剣先だけを1号機に向け、両足の位置を肩幅に広げる操作をする。

一方、1号機は右手に逆手持ちしていた「ロングソード」を機体正面に掲げ、刀身を左手で掴んだ後、右手で「ロングソード」の柄を握り直した。 その後は3号機同様、腰下で「ロングソード」を構えるものの、剣先は地面に向け、右足を半歩引いている。 そして、1号機の「ラージシールド」と、3号機の「スモールシールド」は共に相手機体に向けられた。 上空には、小型の無人撮影機が複数飛びながら手合いの様子を記録している。

片や、3号機操縦席内のシロ。 正面に立つ1号機を注視していたが、同一視界に見えている自身の機体左前腕の「スモールシールド」にも目線が行ってしまう。 すると、

『「スモールシールド」は前腕に固定されているから違和感は少ない・・・。 だけど・・・ 右手の「ショートソード」がな・・・。 手袋の負荷圧で、「ショートソード」の柄を握っている感覚はあるんだが・・・、なんか・・・違和感があるんだよな・・・。』

と、シロは一瞬、「ショートソード」を握っている機体右手に視線を落とす。 そして視線を1号機に戻した瞬間、

「始め!」

15時。 「操機戦管理」管理者が手合い開始を告げ、総当たり戦3巡目の初戦、1号機対3号機の操機戦が始まった。

「まずは、お決まりの!」

開始早々にシロは大声を上げると、3号機は掲げていた「スモールシールド」を機体側に少し引き、右足も半歩ほど引くと、1号機に向かって突進攻撃を始めようとする。

「まって! シロ!」

と、3号はシロの突進攻撃を止めさせようと大きな声を上げるも、シロは聞く耳を持たず、

「うぉー!」

と、操縦席で叫び声を上げつつ、1号機に向かって走り出す操作をしてしまう。 一方の1号機は、3号機が重々しい足音を立てて走り寄って来るのに対し、「ラージシールド」を機体正面に掲げつつ、さらに右足を引いて構えた。 3号機の突進攻撃を受け止める判断をしたようだ。 そして巨大な盾同士がぶつかり、鈍い轟音が闘技場内に響き渡る。

『くっ!』

左前腕に重い負荷圧が掛かり、自機の盾が1号機の盾に激突したのを感じ取ったシロ。 すかさず、「ショートソード」でも攻撃を試みようとするが、

「しまった!」

シロは1号機の「ラージシールド」の大きさを見くびっていた。 近づいてみて改めてわかったが、間近に接近すると、大きな「ラージシールド」で相手機体が隠れてしまい、1号機の姿が足先くらいしか見えない。 接近して1号機の左足腿か、頭部付近を突き攻撃で捉えようとしていた目論見は崩れ去った。 それどころか、3号機の両足先は、1号機の武具間合いに入ってしまっているはずである。

『まずい!』

咄嗟に危機を感じ取ったシロは、

「くっ!」

と、左前腕の「スモールシールド」を強引に押し込んだ後、すれ違うように1号機の左側に移動。 さらに重心を崩しつつも、辛うじて1号機の左側面をすり抜けた。 その直後、1号機の「ロングソード」剣先が、3号機左足のあった地面に甲高い音を立てて突き刺さる。

「危なかった・・・。 あのまま、力比べをしていたら・・・。」

シロは重心を崩してしまった3号機をどうにか立て直しつつ呟く。 続けて、

『「ロングソード」だけ届く間合い・・・。 ・・・引くしかないか・・・。』

冷静にそう考えると、機体を1号機に向け直しつつ1歩下がり、一旦、1号機が持つ「ロングソード」の間合いから距離を取った。

一方、1号機は地面に突き立てていた「ロングソード」を素早く引き抜き、3号機に振り向きつつ高々と掲げる。 そして3号機が引いた以上に大きく踏み込み、「ロングソード」を上段から大振りに振り下ろしてきた。

「なにっ!」

片や、予想外に大きく踏み込んできた1号機に対し、慌てて左前腕の「スモールシールド」を頭部付近に掲げようと操作するシロ。 「ロングソード」と「スモールシールド」がぶつかり合い、再び鈍い重低音が闘技場内に響き渡る。 3号機の防御はどうにか間に合ったが、1号機の大振り剣戟を「スモールシールド」でまともに受けてしまった。 シロは操機主用の服を通じ、またもかなりの力量負荷を左前腕に感じてしまう。 そして感じた負荷圧が収まらないうち、今度は1号機が「ロングソード」を左真横から薙ぎ払おうとしている光景が目に入る。

『・・・くっ・・・。 さらに下がるしか・・・ないか。』

シロは間合いを広げたくなかったが、1号機を正面に捉えたまま、急いで数歩ほど後退し、さらに距離を取った。 その直後、距離を取った3号機のほんの数センチ先、空を切り裂きながら胸部付近を真横に通過して行く、1号機の「ロングソード」剣先。 だが、薙ぎ払いが空ぶったためだろうか、少々体勢を崩した1号機は、「ロングソード」、「ラージシールド」、共に機体正面に構え直して素早く1歩ほど後退し、体勢を整えなおした。 その後は詰め寄ってくる気配も無く、固まったようになっている。

「3号! 左腕は?」

1号機の動きを警戒しつつ、シロも「スモールシールド」を機体正面に構えなおす。 そして早口で機体の損傷状況を3号に確認すると、

「振り下ろし攻撃を受けた『スモールシールド』の表面が少し歪んだわ。 左肘関節相当部も軽く損傷。 けど、まだ機体の動作に支障なし。 大丈夫。」

と、3号が冷静に機体の損傷状況を報告してくれた。

「すまないな。 いきなり不利になっちまって・・・。」

と、シロは3号に申し訳なさそうな口調で謝る。 が、

「この程度、まだまだ逆転は可能よ。」

と、3号からは頼もしい返事が返ってくる。

その後は、間合いが開き過ぎたためか、お互いに相手の動きを警戒したのか、1号機、3号機とも、互いに機体正面に盾を掲げ、微動だにしないまま、暫しの時が流れる。

「・・・さて、向こうからは来てくれそうにないし、こっちから仕掛けるか・・・。」

両機が睨み合ったまま数分が経ったろうか。 しばらくの間、「スモールシールド」を機体正面に掲げていた影響か、左腕が痺れたような感覚になってきていたシロは、踏ん切りをつけたように呟く。 その後、再度「スモールシールド」を機体側に少し引き、「ショートソード」を側頭部付近まで振り上げ、

「それじゃあ、もう一度!」

と、またも1号機に向かって突進を始める。

一方の1号機は、3号機の突進ではなく、剣戟を受け止めようとしたのだろうか。 真正面に構えていた「ラージシールド」を少し左外側に移動させた。 それを見たシロは、

『かかった!』

瞬時にそう判断し、「ショートソード」の剣先が1号機の「ラージシールド」に届くわずか手前で、突進中だが、「ショートソード」の空振り剣戟を繰り出す。 片や、3号機の空振りに合わせるように、1号機は「ラージシールド」を機体正面附近から左外側に勢い良く振り払う。 1号機は、3号機の「ショートソード」剣戟を、自身の「ラージシールド」で弾き飛ばすつもりだったようだ。 「ラージシールド」を大きく振り抜いてしまったため、一瞬無防備な状態となってしまう1号機。 咄嗟に「ロングソード」を3号機に向けて防御しようとするも間に合わない。

「うぉー!」

と、シロは左腕全体に力を込め、操縦席で叫び声を上げつつ、さらに走り込む操作をする。 そして機体正面に構えて突進する3号機の「スモールシールド」は、1号機の胸部付近に轟音を立てて激突した。

一方、3号機の突進攻撃を胸部付近にまともに食らってしまった1号機は、突進攻撃の勢いに耐えられず、仰向け大の字で吹き飛ばされた後、複雑な音を立てて背中から地面に激しく叩きつけられ、転倒してしまう。 その音は広い闘技場内に、反響するように響き渡る。


「んぐぐ・・・。」

転倒してしまった1号機の操縦席内。 少々体勢を崩したマリナは、悲鳴を上げてしまいそうになるのを必死にこらえていた。 操機の操縦席は、かなりの力量の衝撃に耐え、振動も吸収する構造になっている。 しかし、相手機体の突進攻撃を食らってしまった挙句、機体が地面に叩き付けられては、操機主にも少なからず影響が出る。 1号機の操縦席は、振動吸収機構で吸収しきれなかった少々の揺れに襲われた。 が、操縦席床は地面との水平を保っている。 セーフティベルトはマリナの両肩、および両脇の下から胸部付近を強く押さえつけたが、そのおかげで重心を崩して転倒してしまう事態からはどうにか免れていた。 だが、自分の服に負荷圧が無いのと、「面」視界が操機目線では無いことから、マリナは機体との同期が切れている事がすぐにわかった。 こうなってしまうと、操機主は機体の操作を一切出来なくなってしまい、『操機補に、機体との同期を戻してもらう』まで、操機主は何もできない状態となってしまう。

「・・・1号! 立ち上がって! 早く!」

マリナは機体が転倒した驚きで、自身の心拍数が速くなっているのを感じていたが、それを隠しつつ、1号に早口で叫ぶように指示を出す。

『・・・機体が転倒中、3号機の「ショートソード」が1号機の喉元や頭部に突き付けられた場合、「とどめ」を打たれたと判断され、「操機戦管理」は手合いを止めてしまう・・・。 事実上の負けだ!』

自身の体勢を直立に安定させつつ、ふと、そんな手合いの決着がマリナの脳裏を過る。 今までそうして手合いが終了したのを何度か見てきたし、マリナ自身も、転倒中の相手機体喉元に「ショートソード」を突きつけ、手合いを終了させたことがあった。

『負けたくない!』

マリナは心の中でそう叫びつつ、操縦席内画面に目線を移し、

「3号機!? ・・・3号機は!?」

と、必死になって操縦席内画面を右へ左へと見渡しながら叫んでしまう。 だが、3号機はマリナの考えと真逆の動きをしていた。 操縦席内画面に映った3号機は、転倒中の1号機から距離を取るように1歩、2歩、と後ろ歩きでゆっくり後退していたのだった。 しかも数歩ほど後退したところで、「ショートソード」と「スモールシールド」を機体脇に下ろし、待機したような姿勢となってしまった。 そんな光景を見たマリナは、

『・・・「とどめ」を・・・打ちに・・・こなかった・・・。 なぜ・・・。』

と、戸惑いながらも、

「・・・1号、立てるかい?」

と、1号に弱々しく尋ねる。

「はい。」

1号は冷静な口調で短く答えた。 続けて、

「3号機の『スモールシールド』と接触した、胸部装甲右側が少し歪みました。 その後、仰向けで勢いよく転倒したため、背面装甲表面の広範囲でかなりの傷が発生。 ですが、機体本体の損傷は無いため、動作に問題はありません。 右手『ロングソード』は手放してしまっています。 『ラージシールド』は左前腕で無事です。 ご主人の身体も無事なのを確認しましたので、機体を立ち上がらせ次第、機体との同期を取り直します。」

1号は3号機が距離を取ったためか、詳しい損傷状況をマリナに報告する。 その後、何も握っていない右手を使ってゆっくりと、器用に転倒状態から起き上がる1号機。 手放してしまった、すぐそばに落ちている「ロングソード」を拾い上げた後、1号は冷静な口調で、

「再同期します。」

と、操縦席で直立姿勢を取っているマリナに告げる。 すると、身軽だったマリナの操機主用服に重い物を纏ったような負荷圧が戻り、「面」視界内も操機目線に戻ると、マリナは機体との同期が戻ったのを感じた。 両肩、両脇から胸部付近を強く押さえつけていたセーフティベルトも、身体から僅かに離れた通常位置に戻っていく。 そして操機1号機も、操縦席のマリナと同じ、直立姿勢となる。 一拍置くと、

「同期、完了。」

と、手短に報告する1号。

「・・・うん・・・。」

一方、マリナは一呼吸空け、うすぼんやりと1号の報告に応じた後、右手の「ロングソード」を胸前にゆっくりと掲げる。

この、『武具を胸前に掲げる動作』は、転倒などから起き上がった後、機体の動作に問題が無く、手合いが再開できそうな場合に、『手合い相手に、手合い再開を望む意思を伝える動作』として、シロやマリナ達、人間の操機主内で取り決めた合図だった。

手合い再開の意思を表した後、1号機は手合い開始時同様、「ロングソード」をゆっくりと腰下に下ろし、「ラージシールド」を3号機に向け、右足を半歩引いた姿勢を取る。


「まあ・・・、あれくらいで降参するマリナじゃないよな・・・。」

「ロングソード」を胸前に掲げ、手合い再開の意思を表す1号機を見たシロは、操縦席で納得したように呟く。 続けて、

「3号! 1号機が転倒した時の損傷状況、わかるか?」

シロの見た目では、1号機の機体本体基部の損傷はなさそうに見えた。 が、3号の操機補視点で、1号機の損傷を見るように指示を出す。 すると、

「1号機の起き上がり方を見る限り、機体本体の各箇所、動作に影響する損傷は無いわね。 その後の手合い再開所作から武具を構えた動きを見ても、操機主も無事なようね。」

と、3号が冷静に報告してくれた。

「まあ・・・、マリナが怪我をしていれば、その時点で『操機戦管理』が手合いを止めてるだろうしな・・・。」

と、シロは安堵したように答える。 そして気持ちを切り替え、

「さて・・・。 それじゃあ、手合い再開としますか!」

シロは力強く告げると、直立していた待機姿勢から「スモールシールド」を胸前に掲げ、1号機に向け、手合い再開の意思を表す操作をする。 その後、1号機と同じく手合い開始時のように、「ショートソード」を腰下に下げ、剣先と「スモールシールド」を1号機に向ける3号機。

お互いに手合い再開の意思を表した両機だったが、共に武具を構えたまま、再び暫しの睨み合いとなってしまう。

その睨み合いから先に動いたのは1号機だった。 1号機は3号機に向けていた「ラージシールド」を突然左脇に下ろした後、1歩、2歩と、ゆっくり3号機に近寄ってきた。 ゆっくり歩いてきたためか、「ラージシールド」を左脇に下ろして近づいてきたためか、

『・・・無防備に・・・近寄って・・・。』

と、シロはあっけにとられ、迂闊にも1号機の接近を簡単にゆるしてしまう。 片や、武具の間合いに入った1号機は、またも「ロングソード」を真上に大きく振り上げ、3号機に向かって振り下ろそうとする。 その光景を見たシロは、はっと気付き、

「まずい!」

『・・・狙われているのは、頭頂部!』

そう判断して機体を操作し、咄嗟に「スモールシールド」を頭頂部付近に掲げ、1号機の剣戟を受け止めようとする。 金属同士がぶつかる軽い音が響き、どうにか1号機の剣戟を「スモールシールド」で受け止めた3号機。 だが、1号機の大振り剣戟は、見た目より軽い剣戟だったのが、服の負荷圧を通してシロの左腕全体に伝わる。

そこから1号機の動きは速かった。 3号機の「スモールシールド」に当たった「ロングソード」を素早く引き戻し、今度は頭頂部に掲げて盾内側の一部が見えてしまっている3号機「スモールシールド」内面に突きを繰り出す。 そして突きをした体勢のまま、「スモールシールド」内面を引っ掛けるように、「ロングソード」を軽く振り上げた。

「なっ・・・。」

振り上げられた勢いで、丸見えになってしまう3号機の左前腕と「スモールシールド」の盾連結部。 シロは1号機の素早い動きに翻弄されるようになった挙句、機体の左前腕を急に捻られたためか、左肘損傷の影響か、3号機との左腕肘の同期が外れ、負荷圧が無くなってしまう。

一方の1号機は、丸見えになった3号機の「スモールシールド」盾連結部に、引き戻した「ロングソード」を突き立て、そのまま外側に素早く薙ぎ払う。 すると何かが引き裂かれたような音が鳴り響き、3号機の「スモールシールド」は、1号機の薙ぎ払いによって盾連結部から引き剥がされ、十数メートル脇の闘技場地面に落下し、重苦しい音を立てて転がっていってしまった。

「・・・このっ!」

片や、1号機の素早い動きに面食らっていたシロだったが、慌てて1号機に反撃の「ショートソード」突き攻撃を繰り出す。 狙いは無防備な1号機胴部左側。 だが、「スモールシールド」を失ってしまったのと、その影響を受けて不安定な体勢からの攻撃だったためか、1号機胴部を狙った突き攻撃は、装甲面を抉った程度にしかならなかった。

『まずい! このままだと、更に追撃を受けることになる!』

咄嗟に危機を感じ取ったシロ。 突きを放った「ショートソード」を素早く戻し、機体頭部付近を守るように「ショートソード」を真横に掲げ、後方に退く。 幸い、胴部を突かれた1号機も後方に数歩ほど後退したため、3号機は追撃を受けることなく仕切り直せることとなった。

「くっ・・・。 『スモールシールド』を飛ばされた! 3号、左腕の損傷は!?」

機体を1号機のいる方向に向けた後、頭部付近に掲げた「ショートソード」を胸前に下ろしつつ、シロは焦った口調で3号に確認指示を出す。

「左前腕の盾連結部が破壊されたわ。 『スモールシールド』は使用不可。 だけど、左腕全体は、最初に受けた肘関節相当部の損傷以外、動作に問題はないわ。」

3号からの冷静な報告を受け、慎重に考えるシロ。

『・・・機体動作に問題は無し・・・。 だが、盾が無い状況・・・。 相手は1号機・・・。 手合い続行か・・・。 降参か・・・。』

「はぁ・・・はぁ・・・。 ・・・手合い、続行するぞ! 3号!」

荒い操作をしたためか、乱れてしまった呼吸を整え、暫し考えた後、決断して力強く告げると、

「了解。」

3号からも特段の反論は無く、冷静な口調で了承してくれた。 それとも、シロ自身の判断を尊重してくれたのであろうか。

「・・・ふぅ・・・。」

シロは「面」下で厳しい表情をしつつも深呼吸をすると、左腕の服負荷圧は元に戻った。 そこから落ち着いて現在の状況を確認し始める。

『「ラージシールド」をこちらに向けて立つ1号機・・・。 損傷した左前腕の盾連結部・・・。 床には、落とされてしまった「スモールシールド」・・・。』

と、目線のみで追いかけた後、

「・・・さて、『ショートソード』と左腕が残っているなら・・・。」

そう呟くと、胸前付近に構えていた「ショートソード」をゆっくり腰前まで下ろし、中段正面に構えた後、柄に左手を添える。 ただ、「ショートソード」の柄は長くはないため、両手を重ねるように握ることとなってしまう3号機。

『マリナの出方を待つか・・・。 いや・・・攻めないと!』

「スモールシールド」がない以上、攻めるしか手がないように思えてしまうシロ。 ただ、どう攻めるか、攻め方を思い描けずにいた。 その時、

『・・・そうだ! 「ショートソード」で受け流して、すぐさま反撃すれば・・・。』

と、格納庫内で考えていたことを思い出し、すぐさま実行しようと、

「うぉー!」

シロが操縦席で叫んだ後、3号機は「ショートソード」を中段正面に構えたまま、重々しい音を立てて1号機目がけて走り寄って行く。 そして、「ロングソード」に向かって1撃、2撃と切り付けようとする。 が、甲高い音が響き渡り、3号機の剣戟は、1号機が翳した「ラージシールド」によって、全て簡単に防がれてしまう。

「・・・くっ・・・。」

シロは悔しそうに呟き、一段と強い3撃目を「ラージシールド」に浴びせた後、機体を大きく後退させる操作をする。 結局、シロの剣戟は1号機の「ラージシールド」表面を傷つけただけで、近い間合いも維持できず、「ショートソード」に左手を添えた直後の体勢に戻ってしまう。

『やっぱり、無理か・・・。 何の訓練もしていないのに、当然か・・・。 まして、相手はマリナだぞ・・・。 それに、受け流すなら、相手の攻撃に合わせないと・・・。』

と、焦って判断したことが失敗だったと思い知らされてしまうシロ。 結果、

『・・・駄目だ・・・。 間合いを詰めないと勝てないのに、詰める手立てがない・・・。』

などと考え込んでしまったため、シロの操る3号機は固まったように動かなくなってしまった。 同様に、1号機も3号機に「ラージシールド」を向けたまま、動かなくなってしまう。

そして、三たびの睨み合いから先に動いたのは、またも1号機だった。 1号機は「ラージシールド」の構えを真横に変え、右手に持つ「ロングソード」を引き、3号機の視界から盾で剣を隠すように構える。 そしてその体勢のまま、不意に突進攻撃を開始した。 重々しい足音を立てながら、3号機に急接近する1号機。

『ただの突進か? なら!』

一方、1号機の突進攻撃に対し、ぶつかる寸前で左に避ける操作をしたシロ。 更に、突進を避けた3号機には、1号機の右半身が丸見えとなっている。

『・・・いける!』

そう思ったシロは、両手で構えていた「ショートソード」で素早い突きを放つ。 狙いは、1号機の頭部右側面。 だが、1号機はその攻撃を見透かしていたように、上半身と左前腕を捻り、3号機の突き攻撃を「ラージシールド」で難無く受け止めた。

「くっ!」

甲高い音が闘技場内に響く中、操縦席で悔しそうに叫ぶシロ。

片や、1号機は左足を大胆に使った急制動をし、3号機正面に素早く向き直る。 闘技場地面と1号機の足裏が擦れる音が響く中、少々姿勢を低くし、すぐさま「ロングソード」の突き攻撃を放つ1号機。 狙いは、両手が上がってしまい、無防備になった3号機胴部。

『防御!』

シロは何とか1号機の突き攻撃を防御しようと、「ショートソード」を胴附近に下げるも間に合わず、1号機からの「ロングソード」による突き攻撃を左胴部に受けてしまう。 その突き攻撃は3号機の胴装甲を重く鈍い音とともに貫き、機体本体の基部にまで達してしまった。 挙句、3号機は突き攻撃を受けた勢いを止めることが出来ず、背中から仰向けに転倒してしまい、轟音が闘技場内に響き渡る。

「うわっ!」

3号機の操縦席は胴部を貫かれた衝撃と転倒の反動で、振動吸収機構によって吸収しきれなかった少々の揺れに襲われた。 同時に、シロが着ている操機主用服の負荷圧は無くなり、「面」視界内も操機目線ではなく、操縦席内を映す通常視界に戻ってしまう。 機体とシロとの同期は完全に外れてしまったようだ。 だが、操縦席床は地面との水平を維持し、セーフティベルトによって支えられたシロは、転倒することもなく怪我も負っていない。

「シロ! 無事!?」

と、3号の切羽詰まった声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

「はぁ・・・はぁ・・・。 ・・・ああ・・・。 どうにか・・・。」

乱れた息を整えつつ、シロはとりあえずの回答をする。

「こちらからだと、シロの体は、セーフティベルトによって押さえつけられた肩部と両脇下から胸部の圧迫以外、異常無しに見えるわ。 けど、本当に大丈夫?」

と、3号が再度、心配そうに早口で聞いてきたので、シロは改めて自身の身体に集中してみる。 確かに、セーフティベルトで押さえつけられている両肩や両脇から胸部にかけての圧迫を感じるが、怪我をしたわけではなさそうだ。 意識もはっきりしている。

『・・・怪我は・・・無い・・・な。』

「はぁ・・・はぁ・・・。 ・・・こっちは・・・、大丈夫だ・・・。 3号、機体・・・立てるか・・・?」

自身の身体の無事を確認したシロは、息を整えつつ3号に問いかけた。 が、その時、

「それまで。」

と、「操機戦管理」管理者の声が頭部覆い内スピーカーから聞こえ、手合いの終了を告げた。 「操機戦管理」は、区切りが着いたと判断したのであろう。

『・・・やれやれ・・・。 相変わらず、勝敗の判定とかはしないんだな・・・。』

シロは「操機戦管理」管理者の声を聞き、呆れながらも不思議に思った。 そして1号機を目視しようと、操縦席内画面をきょろきょろと見渡す。 すると、画面に映し出されていた1号機は、左半身の構えのようになり、3号機の足元付近で見下ろしていた。 だが、すぐに後ろ姿となり、闘技場の出入り口に向かって歩き始めてしまう。

「・・・はぁ・・・。 ・・・負けのようだな・・・。 3号・・・、機体、どんな状態だ・・・?立てるのか・・・?」

機体との同期が外れてしまい、シロは自身の機体がどんな状態になっているかわからない。 落ち込んだ口調で3号に確認すると、

「胴部左側装甲を『ロングソード』で貫かれたわ。 さらにその攻撃が機体基部まで達し、機体本体の胴部左側が大きく損傷した状態ね。 だけど、立つのは問題無いし、歩行も、ゆっくりなら大丈夫。」

と、3号は冷静に答えてくれる。

『・・・頑丈なのか、そうじゃないのか、よくわからないな・・・。』

3号の回答を聞いたシロは、ふと、そんなことを考えてしまう。 ここ最近感じる、操機に対する感想だ。

「・・・それじゃあ、『スモールシールド』を回収して、格納庫に帰るか・・・。」

と、ひと落ち着きしたシロは、覇気のない口調で3号に指示を出す。

「了解。 あとはこちらで操作するわ。」

緊張が途切れた影響だろうか、手合い後の疲労感に襲われているシロにとって、3号の申し出はありがたかった。

「・・・はぁ・・・。 すまないな・・・。 助かるよ・・・。 怪我したわけじゃないが、くたくたで動けん・・・。」

シロは大きく息を吐いた後、3号に感謝の言葉を告げ、力が抜けたようにセーフティベルトに寄りかかってしまう。 受け止めたセーフティベルトも、通常の動作ではなく、シロの身体をしっかりと受け止め、操縦席床にゆっくりと座らせた。 一方、3号はシロの操機主用服に付いている生体データ監視機能を使い、シロの身体を改めて確認する。 心拍数と呼吸が少々速いだけで、その他の生体データ数値に異常が無いのを確認すると、

「シロ。 『面』と頭部覆いを外してゆっくりしなさいな。 操縦席内と服内の温度を少し下げ、酸素濃度は少しだけ上げるわね。」

と、3号はシロを気遣うように対応してくれる。

「ああ・・・、ありがとよ・・・。」

「面」と頭部覆いを弱々しく外し、セーフティベルトに寄りかかったまま、操縦席の床に足を投げ出してしまうシロ。 すると操縦席床は、3号が気を利かせてくれたかのように、ふかふかな感触に切り替わっていく。 シロは、操縦席内と熱気を帯びた操機主用服内が冷風によって涼しくなるのを感じつつ、

『・・・マリナ・・・、やっぱり・・・強かったな・・・。』

などと考えていた。


闘技場から格納庫への通路上。 格納庫に戻る途中の1号機操縦席。 マリナの胸中は複雑だった。

『・・・勝った・・・のか・・・?』

マリナは自身で機体を操作しつつ、数分前に終わった手合い内容を思い出していた。 マリナにとって、今までの手合いの中で、『勝利した実感が全くない手合い』だったためだ。

「ご主人よ。 一旦、両腕の同期を切りますので、『面』を外してはいかがですか。」

マリナに気を使っているかのような1号の声が、頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。 が、

「・・・うん・・・。」

と、考えに耽っているマリナは、上の空で返事をしてしまう。

結局、マリナは「面」も頭部覆いも外さず、機体を操作し続けたまま、1号機格納庫へのエレベーター地上出入り口近くまで到達してしまう。 すると、

「ご主人よ! ここから整備台までの移動は、私が操作します!」

今度は1号から強めの口調で話しかけられ、はっとするマリナ。 自身の操作する機体が、格納庫に向かうエレベーター前にいることに気付き、急いで歩行を停止させ、

「・・・え・・・? っと・・・、ああ、よろしく・・・ね・・・。」

と、周囲をきょろきょろと見渡した後、たどたどしく覇気の無い返事で応じる。 そして服の負荷圧が無くなり、機体操作が1号に切り替わるのを感じつつ、

『・・・納得がいかない・・・。 3号機・・・。 私が転倒した時、なぜ、「とどめ」を打ちに来なかった・・・。』

などと、ゆっくり「面」と頭部覆いを外しつつ考え込んでしまう。 暫し後、

「・・・シロに直接会って、確かめるか!」

と、唐突に声を上げる。 なぜ、自分を転倒させたときに勝負をつけなかったか、気になって仕方がないマリナだった。


「次の手合いは2号機とね。 予定は5日後よ。」

3号機格納庫内。 機体を整備台に格納し、本来の小さな「人」の姿に戻った3号。 操縦席から出てきたシロに、冷水の入った容器を手渡そうと、歩み寄りながら優しい口調で話しかけてきた。

「・・・わかった。 俺も、『操機戦管理』からの通知を確認しておくよ。」

一方、操縦席から外に出て、3号から話しかけられたシロは、力の抜けた口調でそう言いつつ周囲を見渡す。 すると、「面」が固定された種類の「人」整備士たちがわらわらと機体に群がり、損傷箇所の確認、修理に取り掛かり始めている。 暫し、そんな状況を見ていたシロは、3号が掲げている冷水の入った容器が目に入り、

「おお、ありがとよ。」

と、冷水の入った容器を受け取り、軽い口調で答えた。 片や、しばらく「面」を付けた顔でシロを見上げていた3号は、

「今日はもう休め。 いいから休め。 とにかく休め。」

と、唐突に、冷静な口調でシロに話しかける。 一方、

『・・・3号、おかしな話し方をしているな・・・。』

と思ったシロ。 が、気付かなかったふりをして、

「ふう・・・。 ・・・そうだな。 先に、部屋で休ませてもらうよ・・・。」

一息吐き、3号に微笑みながら落ち着いた口調で答えた。 そして冷水の入った容器の封を開け、勢い良く数口飲み込んだ後、整備台から下りようと、整備台備え付けのエレベーターに向かう。 が、「人」整備士達の動きを見ていると、ふと、機体修理のことが気になり、

「・・・なあ、3号! 機体、今回はどこを修理することになるんだ!?」

操縦席外側付近に居残った3号に向かって振り向き、少し距離が開いてしまったシロは、大きな声で問いかけた。 すると、

「左腕は、装甲を含めて全部交換ね。 関節と盾の連結部を損傷したし。 胴部は、『ロングソード』で貫かれた機体基部の筋肉相当部位を交換することになるわね。 後、胴と背中の装甲も交換になるわ。 交換だけなら1日もかからないで完了するわね。 その後、機体全体に異常がないか確認するとして、丸3日あれば新品同様よ。」

3号は身振り手振りを交えつつ、シロの着ている操機主用服の肩スピーカーを通じ、落ち着いた口調で答えてくれる。

「・・・わかった! ありがとよ!」

一方、説明を聞き終えたシロは3号に向かって右手を高く掲げ、大きな声で礼を告げた。

その後は整備台備え付けのエレベーターで格納庫床面に下りて行き、格納庫を後にして、区画内にある自室に向かう。

『さて・・・と、結構きつかったな・・・。 だが・・・、休むといっても、まずは風呂に入りたいな・・・。』

シロが着ている操機主用服内は、空調機能のおかげで、手合い中に掻いた汗はすっかり乾いていた。 が、手合い中の汗の量を考えると、風呂に入り、さっぱりしたい気分だった。


風呂を終え、新しい服を着て気分が落ち着いてきたシロ。 夕食を食べに食事部屋にやって来た。 食事部屋出入り口の扉が自動で開き、広い室内に入ると、

「お帰りなさい。 シロ。」

扉から少し離れた正面、「面」と頭部覆いを付けたアムが明るい声で出迎えてくれる。

「ただいま、アム。」

と、アムに微笑みながら落ち着いた返事をすると、シロはいつも食事を取る席に向かった。 シロが席に着くと、アムはシロの座った椅子と対になっているテーブル上に、よく冷えたお茶の入った器を置き、

「夕食にしますか? それとも、しばらく寛ぎますか?」

と、優しい口調で問いかけてきたので、

「ああ。 しばらく、休ませてくれ・・・。」

と、シロはアムを見ながら力の抜けた声で答える。

「では。」

優しい口調で答えたアムは、お茶を持ってきたトレイを抱え、食事部屋の奥にある調理場の方に歩いていった。

「・・・さてと。 世界情勢は・・・。」 

シロはそう呟きつつ、座っている席の右側窓を見る。 すると、瞬時に窓一面に色々な文字、映像情報があふれ出す。

『・・・と、その前に・・・。 次回の手合いを確認しておくか・・・。』

窓にあふれかえる情報の中、「操機戦管理」からの通知がひときわ大きく表示されているのを見つけたシロ。 通知の内容を表示させる操作をすると、

「『操機3号機の操機主へ。 次の手合いは5日後、相手は操機2号機。 時刻は追って連絡します。』か・・・。」

と、表示された通知の文章を読み上げるように一人呟き、

『・・・飾り気の無い、無駄の無い通知だな・・・。』

と、皮肉気味に思った。 通知を確認した後のシロは、窓に溢れかえるその他の情報をぼんやりと眺めていた。

暫し後、アムが持って来てくれたお茶を飲もうと、左手でお茶の入った器を握ろうとする。 が、

『・・・左手・・・。 そういえば、機体左腕の修理・・・。』

と、自機の修理が気になり、

「・・・格納庫・・・整備台は?」

と、映像情報があふれている窓に向かい、ぽつりと問いかける。 すると、3号機格納庫内の映像が窓内中央部に大きく映し出される。 どうやら格納庫内の整備台では、横になっている3号機の左腕全体を取り外す作業をしているようだ。

『・・・3号は、俺が見ているのを感知しているはずだが・・・。』

数分ほどだろうか、機体からの左腕取り外し作業を見ていたシロ。 だが、3号からは何の反応もなかった。 なので、窓に向かい、

「格納庫映像、閉じて。」

と、力なく話しかけ、格納庫映像を見るのを止めてしまった。 格納庫の映像が閉じられると、再度、「操機戦管理」からの通知が窓に大きく映し出される。 その通知内容を再び見たシロは、

「・・・次の手合い相手は・・・、2号機・・・レイか・・・。」

『口調は穏やかだが、操機主に選ばれただけあって、防御主体から厳しい攻め手に切り替わる手合いをする、操機2号機の操機主・・・。』

と、1巡目、2巡目手合い時の印象を思い出した。 その後、

『・・・まあ、マリナよりは・・・手合いしやすい・・・かな・・・。』

などと、手合いでの動きについて、マリナと比較するような事を思い巡らせていた。

いかばかりかの時間が経っただろうか、

「・・・アム。 食事をお願い。」

長い時間考え事をしていたシロは、空腹を感じたため、窓を通じてアムに話しかけた。 すると、

「は~い。 少々お待ちください。」

と、アムの明るい声が窓から聞こえてくる。 程なくして、アムが食事部屋の奥にある調理場から現れ、食事運搬用六脚「人」と共に、シロの前に食事を運んできた。

「今日の夕食は、魚料理がメインです。 果物は、食後にお持ちしますね。」

そう告げ、多数の皿を手際よく配膳した後、アムは各料理に右手をかざしながら細かな説明を追加でしてくれる。 一方、そんな説明をうすぼんやりと聞いていたシロ。 必要栄養素が考慮された食事であるし、質、量、ともに不満は無い。 もっとも、献立に対して不満を言うと、アムの機嫌を損ない、厄介なことになるのをシロは重々承知していた。

『・・・まあ、アムの作る料理に不満は無いのだが・・・。』

「ありがとう。 美味しそうだな。」

と、出された料理の説明を聞き終えたシロは、アムを笑顔で見上げて答えた後、

「いただきます。」

そう告げ、ゆっくりと食べ始めた。

「ごゆっくり。」

片や、機嫌の良さそうな声で答えるアム。 食事運搬用六脚「人」と共に食事部屋の奥にある調理場へと戻っていく。

一方、アムを見送っていたシロは、アムの「面」下の素顔が笑顔になっている幻を思い浮かべた後、

「・・・うん! 美味しい。」

立ち去るアムを横目に、ひとり呟いていた。


翌日。 シロは、朝早くから3号の呼び出し通知を受けていた。 おそらく、昨日の『対1号機の手合い反省会』だろう。 呼び出しを受けた場所は、「訓練室」だった。 朝食を食べ終えた後、休憩もそこそこに、シロは訓練室へと向かう。


「訓練室」。 広い室内には、体を鍛えるための運動器具、手合い訓練用の「模造武具」が置いてある場所と、その模造武具を使って模擬手合いや、素振りなどができる広間がある。 そして、操機主が実機の操機を使わなくても『操機の操作訓練』が出来るように、実機の操縦席とほぼ同一の作りとなっている、『訓練用操縦席』がある。 各操機主用に個別に用意されており、操機補が管理している部屋でもある。


「模造武具」。 見る角度によって、武具の本体が実物のような色彩から半透明になる素材で出来ている、操機主用武具訓練のために作られた武器類。 固さ自体は全体的に柔らかく、訓練中に怪我をしないように考慮されている。 見た目に反して重量は軽く、操機主が操機に搭乗し、武具を持った時との違和感が出ないようになっている。


『それにしても、3号・・・。 いつの間に、『反省会』なんて覚えたのだろう・・・。 まあ、「良かった点は更に良くなるようにし、悪かった点は、今後発生しないようにするための対策を練る」っていう考え方は、理にかなっているけど・・・。』

訓練室へ向かう通路上、シロはふと、3号がいつの間にか始めた、『手合い後に行う反省会』について考えながら歩いていた。

『・・・最初は、手合いが終わった後、格納庫内の立ち話程度で話していて・・・。 それがいつの間にか、手合いの翌日に結構な時間を割いてやるようになって・・・。』

などと思い出していると、シロは訓練室出入り口の扉近くまで来ていた足を一旦止める。

『・・・でも。 昨日の手合いの影響か・・・? 体の疲れが取れていないように感じるし・・・。 3号に対し、なるべく反論しないようにして、早めに切り上げて休むようにしよう・・・と・・・。』

などと、怠けようとする考えが浮かんでしまう。 暫しそんなことを考えた後、意を決し、扉が自動で開く範囲に入って行く。 すると部屋の中央では、「面」と頭部覆いを付けた3号が、シロを待ちかねるように立っていた。

「おはよう・・・、3号・・・。」

シロが3号に近寄りつつ、覇気の無い挨拶をすると、

「おはよう、シロ! それじゃあ、昨日の手合いについての反省会をやりましょう! いいわね!」

と、ゆっくり近寄ってくるシロに対し、覇気のある口調で話かける3号。 一方、シロは3号の仕切っているような言動に苦笑いしつつ、

『・・・やっぱりか・・・。』

「・・・はい、はい・・・。」

と、やる気がないような返事で応じる。 そして足取り重く、訓練室奥の訓練用操縦席へ向かった。 訓練用操縦席は実機の操縦席と違い、出入り口が左側面からになっている。

シロは訓練用操縦席に入り、背中から白い「面」を右手でゆっくりと取り出し、左手のみで頭部覆いを器用に装着する。 その後に「面」も装着し終えると、右肩をとんとんと叩くいつもの感覚がある。 シロはその叩かれた感覚に応じ、両腕を肩の高さまで上げる。 すると、セーフティベルトがシロの両肩、および両脇の下から胸部付近にかけて、体に接触しないようにシロを包み込んだ。

「それじゃあ、セーフティベルトも装着したし、座っていいか?」

と、頭部覆い内のマイクを使って尋ねるシロに対し、

「ええ。」

と、頭部覆い内スピーカーからは、3号の言葉短く答える声が聞こえてくる。 その声を聞いたシロはゆっくりと訓練用操縦席床に腰を下ろす。 同時に、床はふかふかな状態に変化した。

一方、3号はいつもの手合い反省会同様、訓練用操縦席には入らず、実機の操機補と同じように、知能情報を訓練用操縦席に移して操縦席全般の操作をするようだ。

「では、昨日の手合い反省会を始めるわよ! まず、初手の突進攻撃! 相手の武具の大きさが前回手合いと違っていたのもあるけれど、初手の突進攻撃は止めた方がよくない?」

頭部覆い内スピーカーから3号の力強い声が聞こえてくると、シロの「面」視界内には、昨日の対1号機手合い開始時の映像が映し出され、ゆっくりと再生を始める。 その映像は、1号機と3号機が真横から同時に映るように、綺麗に調整されている。

「昨日の手合い前に話した通りだ・・・。 お互いの武具間合いを考え、広い間合いだと、1号機の方が有利と判断した。 距離を詰めなければ、3号機は一方的に攻撃されてしまう。」

再生されている映像を見つつ、とりあえずはしっかりと反論をするシロ。 するとシロの「面」視界内映像には、『武具間合いを有効に使い、一方的に3号機を攻撃する1号機』を再現した、『仮に動いた場合』の映像が再生され始める。 こうした、『仮に動いた場合』の映像は、全て3号が作り出してくれている。

「なるほどね。 だけど、1号機が攻撃してくる武具を捌きつつ、間合いを詰めることもできたのでは?」

暫し後、シロの意見に対し、今度は3号が反論するように話しかけてくる。 すると、シロの「面」視界内には、3号機が「ショートソード」と「スモールシールド」を器用に使い、1号機の攻撃を受け止めたり、躱したりして、徐々に間合いを詰める、『仮に動いた場合』の映像が複数表示され、再生され始める。

「・・・なるほどな・・・。」

シロは結構な時間、「面」視界内の各映像を見入ってしまう。 一つ一つの映像を詳しく見比べ、素直に納得してしまっていると、

「まあ、次戦からの参考にしてみて。」

と、シロが「面」視界内映像をほぼ見比べ終えたころ、3号は落ち着いた口調で話しかけてきた。 続けて、

「それでは、次。 順番が狂うけれど、『スモールシールド』連結部分を攻撃され、盾を外されてしまった時の対応。 安易に相手の接近を許すとは、油断していたの?」

今度は3号が呆れた口調で告げると、シロの「面」視界内には、1号機が無防備に歩いて近寄ってきた場面の映像が再生され始める。 シロは暫し映像を見続け、自身の操る3号機が「スモールシールド」の内側を晒してしまう場面に差し掛かると、

「その・・・。 1号機が・・・『ラージシールド』を掲げないで接近してきたから、つい・・・。」

と、今回はしっかりとした反論ではなく、言い訳をするように言葉に詰まりながら答える。 片や、

「1号機の『ラージシールド』側に素早い剣戟を出すとか、牽制する対応は出来たのでは?」

と、シロの話を聞いた3号が落ち着いた口調でそう言うと、シロの「面」視界内には、『歩き近づいてくる1号機に対し、3号機が「ショートソード」で牽制のように素早い剣戟を出す』といった映像が、またも複数現れる。 すると、どの映像の1号機も、脇に下ろしていた「ラージシールド」を構え直し、3号機への接近を停止した。

再び、かなりの時間、「面」視界内の各映像に見入っていたシロに対し、

「まあ、この映像は、あくまで『予測』よ。 1号機のことだから、3号機からの牽制も考慮して『ラージシールド』を下ろしていた可能性もあるわ。 その後の動きは、選択肢が多すぎて、全部は提示できないわね。」

と、3号が話を続ける。 すると、シロの「面」視界内には、さらに複数の『その後の1号機行動予測映像』が映し出される。

「・・・なるほどな・・・。」

またも、表示された映像に見入ってしまうシロ。 一つ一つの映像をじっくりと見比べた後、3号からの提案に対し、納得したように呟いた。 しばらくすると、

「この後、『無理やり1号機に詰め寄った攻撃』については、少々短絡的だったわね。 『スモールシールド』を失った直後とはいえ、そこまで無理して攻撃に転じる必要も無かったと思うわ。」

と、3号が話を再開すると、シロの「面」視界内映像は、3号機が無理矢理1号機に詰め寄り、「ロングソード」側に剣戟を複数回繰り出すも、軽々と「ラージシールド」で防がれる場面に切り替わった。

「ああ・・・。 この時は、俺も、『スモールシールド』を失った直後で・・・、つい、焦って・・・。 今後は、気をつけるよ・・・。」

と、暫し「面」視界内映像を見ていたシロは、またも言い訳のように言葉に詰まりながら説明した。

「それで、シロ。 1号機を転倒させた後の話だけど。」

今度は、3号の口調がいつになく真面目な口調に切り替わる。 続けて、

「転倒している機体の特定部位に剣先を突きつければ『とどめ』となり、その時点で手合い終了なのは知っているわよね? シロ、なぜ、1号機を転倒させた時、『とどめ』を打たなかったの?」

と、3号が不思議そうに問い掛けてくる。 同時に、シロの「面」視界内映像は、3号機の突進攻撃が1号機胸部に命中し、転倒させた場面に切り替わった。

「『とどめ』については、知っているさ! だが・・・、う~ん・・・。 なぜ、『とどめ』を打たなかった・・・か・・・と、言われると、なんでだろうな・・・。」

と、シロは軽い指組みをし、とぎれとぎれの話し方でお茶を濁す。 すると、

「意味がわからないんですけど?」

と、人工知能である3号は、あやふやな回答を嫌うように呆れた口調で聞き返す。

「・・・そうだな・・・。 強いて言えば、『盛り上がりに欠ける』・・・ってやつかな・・・。」

暫しの沈黙後、シロは『とどめ』を打たなかった思いの一部を3号に打ち明ける。 すると、

「盛り上がり?」

と、3号はまたも不思議そうに聞き直してくる。 しばらく後、

「例えば・・・手合い開始早々、相手機体を転倒させました。 『とどめ』を打ちました。 勝ちました。 はい、手合い終了。 これって、仮に・・・手合いを閲覧している人間がいたら、どう思うんだろう・・・って考えてね・・・。」

と、シロは指組みを外し、力なく話す。 暫し後、

「どう思う?」

と、3号は復唱のように話した後、黙り込んでしまう。 そして暫し待つも、黙り込んだまま反応の無い3号。

「・・・お~い? 3号!?」

いかばかりかの時間が経っただろうか。 シロは「面」を装着していながらも、心配したような口調で訓練用操縦席天井付近を見上げ、3号に呼びかける。

「あ、いや。 ちょっと待って。 『盛り上がりに欠ける』や、『どう思う』というのが、私の理解の及ぶ範囲を超えているわ。 そのことを含めて色々調べて整理するから、時間をもらえないかしら? えっと、シロのセーフティベルトは外しておくわね。」

呼びかけられた3号は珍しく焦ったような口調で告げると、シロに覆いかぶさっていたセーフティベルトは体から外れ、訓練用操縦席天井付近に退いていく。 一方、自身の体を外れ、天井付近に退いていくセーフティベルトを暫し眺めていたシロ。 セーフティベルトが天井付近で動かなくなるのを見届けると、立ち上がり、訓練用操縦席出入り口からゆっくり出ていく。 そして白い「面」と頭部覆いを外しつつ、訓練用操縦席から出たシロが見たのは、訓練室中央で棒立ちの3号だった。

『・・・色々な情報と通信、検索等をして、3号自身が納得できる答えを探しているのだろうか・・・。』

棒立ちの3号を見たシロはそう思いつつも、

「お~い、3号。 いつも思っていたけど、そこで立っていると、アムが来た時に驚くから、椅子に座ったらどうだ。」

と、冗談まじりだが優しい口調で告げると、右手親指で訓練室内奥にある休憩用の長椅子を指さす。

「了解。」

片や、3号は言葉短く答えると、ゆっくりと休憩椅子に向かい腰掛けた。

「午後からも、反省会の続き、やるのか?」

と、シロも3号の右隣りの椅子に腰掛け、背の低い3号を見下ろしつつ話しかける。

「いえ。 手合い反省会は終了にしましょう。 午後は自由時間で。」

と、今度は覇気の無い口調で話す3号。 一方、そんな覇気の無い3号の声を初めて聞いたシロは、

『う~ん・・・。 人工知能を・・・混乱させてしまった・・・のか・・・?』

などと考え、棒立ちになっていた3号の姿を思い出していた。

その後、シロは訓練室内を漠然と見渡す。 そしてふと、模造武具置き場に置いてある武具類に目が止まった。

『少し休みたかったけど・・・、操機戦が「勝ち負けでは無い」とはいえ、負けっぱなしってのも、良くないよな・・・。 昼食を取った後、午後からは模造武具でも振ってみるか。 体力もつけないとならないし、午後はずっと訓練室かな・・・。』

シロは1号機との手合い後、疲れ果てて操機の操縦席床に座り込んでしまったのを思い出していた。 暫し後、ひと落ち着きしたシロは、

「・・・3号、ありがとな。」

と、3号に向かって礼を告げた後、休憩椅子から立ち上がって訓練室出入り口へ向かう。

「ああ。」

片や、休憩椅子に座ったままの3号からは、再び覇気のない口調の声しか聞こえてこない。気のせいか、両肩もがっくりと落ちているように見える。 そんな3号の姿を見たシロは、

『まるで、「困り果てた人間の子供」だな・・・。 「面」の下は、どんな表情をしているのだろうか・・・。』

と、3号の「面」下の整った素顔が、『困惑した表情』になっているのを考えると、シロは思わず笑みがこぼれてしまう。 そして含み笑いを浮かべながら、訓練室内をゆっくり静かに歩き、出入り口から出て行った。


昼食を食べ終え、食事部屋で休憩をしていたシロ。 昨日の手合い終了直後に感じた、体力不足を克服しようと、

『・・・さて・・・。 落ち着いたし、訓練室で体を動かしますか・・・。』

などと考え、だらけた姿勢から少し身を正し、

「・・・3号、訓練室なんだが・・・」

と、襟のマイクを使い、話しかけている途中だった。 突然、

「矛盾!」

と、3号の叫び声が肩スピーカーから聞こえてきたため、シロは話を遮られてしまう。

「・・・どうした? いきなり?」

と、戸惑いつつも聞き返すシロに対し、

「シロが午前中に言っていた、『どう思う』についての話! 人間が良く選択するやつでしょ!」

と、元気よく答える3号。 どうやら3号は3号なりに、午前中の、『手合いを見ている人間がいたらどう思うんだろう』と言った件を調べたようだ。

「まあ・・・、その解釈で、間違ってないと思うよ・・・。 ははは・・・。」

と、シロはお茶を濁すように答える。 しかし内心は、『違うような・・・』、『違う』と言いたかった。 だが、説明を始めると話が長引きそうだと感じたため、今は否定も肯定もせずにやりすごすことにする。 一拍置いて、

「で、なにか用事なの?」

と、3号が改めて連絡を取った用件を聞いてきた。 なので、はっと思い出したシロは、

「・・・そうだった! え~っと・・・訓練用操縦席って、前に、走りの鍛錬用にも使えるって言っていたよな?」

と、記憶をたどるように3号に尋ねると、

「おお! シロも、とうとう操機手合いに真面目に取り組む気になったのね。 よしよし。」

からかわれているのだろうか。 3号は真面目な口調で答えてはいるが、シロの問いかけには回答をしていない。 なので、今度は少々不機嫌な口調で、

「・・・で、どうやったら走り用に変更できるんですかね?」

と、3号に聞き返す。

「今、訓練用操縦席内を変更しているわ。 訓練室にくれば、すぐに走れるわよ。 まずは1000メートル位から走ってみたらどう? 手合いが長時間になった場合、体力や持久力といった要素も必要になるはずだからね。」

と、明るい口調で助言をしてくれる3号。

「まあ、1000メートル位なら、なんとか・・・走れる・・・かな・・・。」

『1000メートル』と聞き、シロは不機嫌な気分から、走り切れるか不安な気分になってしまう。 すると、

「いきなり目標を高く設定しても達成困難だろうから、徐々に目標を上げたほうがいいわよ。 何なら、走りじゃなくて、歩くだけでも十分鍛錬になるわ。」

と、3号は優しい口調で答えてくれる。 一方、いつものことながら3号に納得させられてしまったように、

「・・・わかった。 ありがとよ。」

と、シロも優しい口調で礼を告げた後、3号との通話通信を終わらせ、訓練室へ向かった。


『・・・う~ん・・・。 体力に自信はないし、1000メートル走り切れないかもしれないし・・・。 一人でのんびりと訓練できたらいいんだが・・・。』

食事部屋を出たシロは、3号機区画内の通路をゆっくりと歩き、訓練室近くまでやって来た。 だが、一旦、訓練室扉が自動で開く範囲外で立ち止まって考える。 しばらく後、意を決して訓練室扉が自動で開く範囲に入って行くと、

「・・・まあ、あんな話をしていれば、訓練室にいるとは思ったけどね・・・。」

訓練室出入り口の扉が自動で開き、まず、シロの目に入ったのは、「面」と頭部覆いを付けて訓練室中央に立つ3号の姿だった。

「そう言わないで。 操機主を補助するのが、操機補の務めよ。」

と、3号はシロに近寄りながら、こじつけ気味に話しかけてくる。

「・・・本当は、暇なんだろ?」

近づいてきた3号に対し、シロは呆れたような口調と表情で言い放つ。 すると、

「失礼ね! 私たち『人』に、暇という概念は無いわよ!」

シロに呆れ口調で言われた3号は、さすがに怒ったようだ。 体脇で両手を拳にし、荒い口調で抗議している。

「ああ、悪かった。 謝るよ。 すまん、すまん。」

片や、3号がここまで怒るとは思わず、両手を肩の高さまで上げて謝罪するシロ。 さらに3号の「面」下、怒った表情の素顔の幻まで見えてしまう。 なので、話をそらそうと、

「・・・それで、早速だが、訓練用操縦席、走れるようにはなっているのか?」

と、部屋奥の訓練用操縦席へ向かいながら3号に問いかける。

「ええ、準備は万全よ。 『走る』用にセーフティベルトは邪魔にならない位置へ移動させてあるわ。 操縦席の床は、大概の地面なら再現できるわよ。 最初だと、舗装路か、硬めの土が走りやすいと思うわ。 画面に映る景色は、公園のような場所の周回路でいいわね。 訓練用操縦席内の室温と湿度は低め、酸素濃度は少々高めに設定してあるわ。 後、アムに、走り終わったころに冷えた栄養飲料を持ってきてもらうように頼んでおいたわ。」

一転、優しい口調に切り替わった3号は、シロに気を使ってくれたかの如く、至れり尽くせりの条件と状況を提示してくれる。

「・・・それは・・・どうも・・・。」

一方、訓練用操縦席出入り口近くに到着しそうだったシロ。 後方から話しかけてくる3号の優しい声を聞き、少々困惑したような表情になりつつも、

『ここまでお膳立てしてもらっては、頑張らないと・・・。』

などと、決意を固めていた。 が、後ろを付いてきていた3号は、突然、シロの前に早足で回り込み、

「シロ。 走る前は、まず準備運動ね。」

優しい口調でそう言うと、準備運動の手本を見せ始めるのだった。


アムは、3号から頼まれていた『シロ用の栄養飲料』を訓練室に運ぼうと、調理場で準備を進めていた。 だが、3号機区画出入り口付近の視覚装置が来客の反応を示す。 「人」視界で確認してみると、1号機の操機主マリナが、3号機区画出入り口の通路に近づいているのが分かる。 その光景を確認したアムは、冷えた栄養飲料数本と、冷水の入った容器も数本、手早く保冷箱に入れ、箱を閉じる。 その後、保冷箱は調理場に置いたまま、マリナへの来客対応をするために調理場を出て行った。

「こんにちは、マリナ。 シロに御用ですか?」

黒い「面」と頭部覆いを装着し、3号機区画出入り口へ先に到着していたアム。 1分ほど遅れて3号機区画出入り口へ到着したマリナに向かい、優しい口調で尋ねた。

「こんにちは。 御用というか・・・。 うん、用事だね。 いきなり来てしまって申し訳ないね。」

と、たどたどしい返答になってしまうマリナ。 続けて、

「その・・・シロに会いたいんだけど・・・。 何をしているかな・・・?」

と、照れ隠しのような苦笑いをしつつアムに尋ねる。

「シロは訓練中ですね。 少々お待ちください。」

と、返答した後、アムは無言になり動かなくなった。 シロに来客があったことを知らせているのだろう。 しばらくすると、

「お待たせしました。 私もこれから訓練室に行きますので、案内します。 ご一緒にどうぞ。」

アムはそう言うと、マリナを3号機区画内に誘うように、左手を通路奥にかざした。

「ありがとう。 え~っと・・・。」

『・・・シロの専属「人」、何ていう名前だったっけ・・・。 何回か合っているのに、思い出せないや・・・。』

一方、対応してくれているシロの専属「人」に礼を告げたマリナ。 が、何回か合っているシロの専属「人」の名前を思い出せず、困惑してしまう。 すると、

「アムと申します。」

アムはマリナが困惑しているのを理解したかのように、自身の右手を胸にかざし、優しい口調で名を告げて答えてくれる。 片や、

「・・・そうそう、アム! ありがとう、アム。」

マリナは、またも照れ隠しのような苦笑いをしつつ、もう一度アムに礼を告げた。 だが、

『・・・ん・・・? シロが訓練・・・? まさか・・・。』

通路の奥に歩き出すと、ふと冷静になり、アムの言ったことに対して疑念が湧いた。 マリナはシロに対し、『横着者』という印象が強かったからだ。

その後は、黙々と3号機区画内通路を歩いていたマリナとアム。 途中、アムは食事部屋に立ち寄って栄養飲料の入った保冷箱を持ちだす。 その後、アムの案内が戻って程なく、マリナとアムは訓練室に到着する。

『・・・本当に訓練室だ!』

マリナは驚きを隠せなかった。 ごく稀にする会話の中では、シロが訓練の話をしているのを聞いたことが無かったし、マリナからシロに訓練の話を尋ねても、真面目に取り組んでいるような回答が返ってきたことが無かったからだ。

「シロ。 マリナをお連れしました。 それと、飲み物をお持ちしました。」

アムは訓練室内に入り、一旦立ち止まって室内に向かって話しかける。

一方、シロは1000メートルを走り終え、訓練用操縦席を出たばかりだった。 疲労と息苦しさのため、訓練室の床に仰向けで寝転がっている最中、訓練室出入り口付近から、アムの優しい声が聞こえてくる。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・。 ・・・マリナ・・・って・・・。 どうした・・・、何の用事だ・・・。」

呼吸が乱れ、汗だくなシロ。 アムからは、マリナが来ている連絡を受けてはいたが、あまり見られたくない姿なので少々困惑していた。

「なんだ? 何の訓練をしていたんだ?」

片や、マリナはそんなシロの状態を気にもせず、ゆっくりと近づきながら、冷ややかな口調でシロに話しかける。

「・・・はぁ・・・はぁ・・・。 ああ、少し走り込み・・・をね・・・。 体力だか、持久力だかをつけようと思って・・・。」

シロは仰向けに寝転がっていた体勢から、少々息苦しそうに上半身を起こした後、ゆっくりと立ち上がってマリナに答える。 だが、まだ呼吸は荒い。 そこにアムが近づき、

「シロ、栄養飲料です。 マリナもいかがですか。」

優しい口調で告げると、良く冷えた栄養飲料の容器を保冷箱から取り出し、シロとマリナに差し出す。

「おお、ありがとう。」

一方、差し出された栄養飲料の容器を受け取ったシロは、礼を告げて容器の封を開くと、一気に飲み干してしまった。

「ぷっは~・・・。 ・・・で、ご用件は・・・?」

シロは空になった栄養飲料の容器をアムに手渡すと、再度マリナに向き直り尋ねた。 片や、マリナはアムの差し出していた栄養飲料に対し、

「あ・・・、私は、いいや・・・。」

と、胸前で両手を振り、受け取りを断る仕草を見せた後、

「・・・で、用件は・・・。 その・・・どうしてるかなって・・・思って・・・? でも、訓練中なら、いいんだ・・・。」

と、シロから視線をそらし、歯切れの悪い回答をするマリナ。 そして、

「・・・お邪魔したね・・・。 では・・・。」

と、申し訳なさそうに小声で告げ、マリナはシロに振り返ることなく、小走りで訓練室から出て行ってしまった。

「・・・ふう・・・。 なんだったんだ・・・? 一体・・・?」

シロは訓練室を出ていったマリナに困惑しつつ、息を整えながら呟いていた。


一方、

『なんか・・・、聞きづらい状況だったな・・・。』

と、3号機区画から自身の1号機区画に戻る途中、マリナはゆっくりと歩きながら考えていた。 1号機区画通路から6号機区画通路まで共用されている各区画連絡通路を歩き、すでに自身の区画出入り口目前であったが、

『昨日の手合いで、「私が転倒中に、なぜ、『とどめ』を打たなかった」のか、無理にでも聞いたほうが良かったか・・・。 今日以降だと、余計に聞きづらくなるよな・・・。』

マリナは再度、3号機区画に戻るかどうかで葛藤し、立ち止まって考え込んでしまう。

『・・・いや。 なぜ、「とどめ」を打たなかったかを聞いて答えてもらったところで、また新たな疑問が出るだけのような気がするし・・・。』

いかばかりかの時間が経っただろうか。 悩みに悩んだ末、マリナは3号機区画に戻るのを止めた。 そして何かが吹っ切れたように、小走りで自身の1号機区画出入り口を通過し、訓練室へ向かう。

『シロですら訓練をしている以上、悩んでいる場合じゃないな! あたしも少し体を動かすか!』


「・・・それじゃあ、落ち着いたし・・・、せっかく訓練室に来たんだから、武具の訓練もするか・・・。」

一休憩して乱れていた呼吸も整ったシロ。 腰掛けていた休憩椅子から立ち上がり、模造武具置き場に向かうと、壁や棚に綺麗に収納されている色々な模造武具に近づき、手を伸ばす。

「いつもの『ショートソード』はいいとして・・・。 ここにある、斧みたいなのとか、槍みたいなのとか・・・。 いつかは、実機の操機用にも支給されるのかな・・・?」

シロは斧形状や槍形状の模造武具を手に取り、まじまじと眺めて一人呟くと、

「『操機戦管理』からは、私たちにすら何の知らせも届いていないわ。 まあ、ここに置いてあるんだから、後々に使えるようになるんじゃないの。 ほら、これなんて、昨日、1号機が使っていた『ラージシールド』と同一形状じゃない。」

シロの後を追いかけるように、模造武具置き場近くまで来ていた3号。 シロの呟きに答えるように、壁に収納されている模造武具類から「ラージシールド」を取り出し、見せびらかすように両手で持ち上げて見せた。

「おお。 言われてみれば、1号機の使っていた『ラージシールド』に似ているな。」

シロはそれぞれの手に持っていた模造武具類をそっと床に置くと、3号に近寄り、掲げ上げている「ラージシールド」を両手で受け取る。 そして受け取った「ラージシールド」を左前腕に装着し、暫し眺めた後、

「・・・そうすると、俺に合う武具も・・・この中にあるかな?」

にこやかにそう言うと、シロは左前腕に装着していた「ラージシールド」を床に置き、模造武具置き場にある他の武具類を物色し始めた。

「どうしたの? いつも使っている『ショートソード』が使いづらいの?」

一方、そんなシロの姿を後ろから見ていた3号は、不思議そうな口調でシロに問い掛ける。

「う~ん・・・。 使いづらいって訳じゃないが・・・。 他の武具を試していないから、なんとも・・・。」

と、模造武具の物色に集中してしまっているシロは、3号への回答をはぐらかすように話した。 3号は暫し、模造武具置き場を物色しているシロを無言で眺めていたが、

「どっちにしろ、操機3号機の武具は、いまのところ『ショートソード』と『スモールシールド』しかないんだし、『ショートソード』や『スモールシールド』の訓練をしたらどう?」

と、シロにぽつりと話しかける。 片や、3号の話を聞いたシロは、3号のもっともな意見によって、ふと、現状に気づかされる。 そして模造武具を物色していた手を止め、がっかりしたような顔を3号に向けつつ、

「・・・そうだよな・・・。 それじゃあ、『ショートソード』の振り方でも研究しますか・・・。」

そう告げた後、シロは物色中だった模造武具を大雑把に元の位置に戻す。 そしていつもの模造武具「ショートソード」を手に取ると、少々気落ちした姿で訓練室広間中央に向かい、とぼとぼと歩いて行った。

シロは広間中央に立つと、一旦「ショートソード」を訓練室床にそっと置き、両手を使って頭部覆いと「面」を装着する。 装着した「面」からは、目の網膜に直接投射された映像により、裸眼で見ているのと何ら変わらない視界が確保される。 「面」の動作、装着状態に問題がないことを確認すると、訓練室床に置いていた「ショートソード」を右手で拾い上げた。 すると、シロはふと、何かに気づき、右手に持っている「ショートソード」を顔近くまで持ち上げ、

「ん?」

と、不思議そうに呟く。 そして左手のみで「面」と頭部覆いを器用に外すと、掲げた「ショートソード」を見つめたまま動かなくなってしまった。

「どうしたの?」

一方、模造武具置き場で各模造武具を整頓、片付け終えた3号は、固まったようになってしまったシロを案じたかのように、近づきながら心配そうに問い掛けてくる。

「いや・・・。 ちょっと、操機操縦席内での事を思い出してね。 実機の操縦席だと、手合い中、武具とかは握っていないだろ。 俺、あの状態にすごく違和感があるんだ・・・。 もちろん、この操機主用服の手袋が、『ショートソード』の柄を握っている感覚を再現してくれているんだけど・・・、なにかが違う感じでね・・・。」

と、固まったようになっていたシロは、3号に数歩歩み寄って答えた。

「違う感じ?」

片や、シロの言っていることを理解しようとしているのだろうか、3号がさらに聞き返すと、

「今、模造武具の『ショートソード』を持って『面』を着けただろ。 『ショートソード』を持っている感覚に違和感が無いんだ。 まあ、実物を持っているんだから、当然と言えば当然なんだが・・・。」

と、シロは右手に持った「ショートソード」を眺めつつ3号に説明する。 続けて、

「・・・なあ、これ、実機の操縦席内に持ち込んじゃ駄目なんだよな・・・?」

シロは右手に持っている模造武具「ショートソード」を、左手で「面」を持ちつつ指差し、3号に恐る恐る尋ねる。 すると、

「ええ、そうね。 実機の操縦席内に模造武具を持ち込んだ場合、仮に、操機主が武具を手放してしまった後に操機が転倒などすると、操縦席内で落とした武具がどこに飛んで行くかわからないわ。 危ないでしょ。 そのため操機の操縦席内には、模造武具の持ち込みや、その他荷物の持ち込みは許可されていないのよ。」

と、3号は、『模造武具を操縦席内に持ち込むのが許可されていない』理由を残念そうに説明してくれる。

「・・・そうか・・・。」

片や、武具所持の違和感が無くなるいい考えを否定され、肩を落として残念そうに返事をするシロ。 暫し「ショートソード」を呆然と眺めていた。 が、ふと、何かを思いつき、

「・・・そうだ! これ、柄だけなら許可されないかな?」

と、シロは「ショートソード」の柄部分を左手で指し、3号に問いかける。

「柄だけって、どうやって柄だけにするの? 自分で加工でもするの? 加工なんてできないでしょ。」

シロの言っていることの一部が理解できなかったかのように、3号は不思議そうに聞き直してくる。

「・・・そうか・・・。 加工は出来ないから・・・。 ・・・う~ん・・・。 そうだ!」

と、しばらく考えていたシロだったが、またも何か思いついたように、

「整備士に言えば、加工して作ってくれないかな?」

と、3号に向かい、にこやかに尋ねる。 すると、

「まあ、作ってはくれるでしょうけど。」

と、自身が正確に答えられる範疇を超えたためか、さすがに自信なく答える3号。 一方、

「それじゃあ、整備に聞いてみる!」

シロはそう言った後、一旦、3号に背を向ける。 その後、襟のマイクを使い、

「整備の誰か、いるかい?」

と、嬉々として操機の整備士を呼び出した。

「操機整備です。 シロさん、どうかしましたか?」

間を置かず、中年男性のような声が操機主用服の肩スピーカーから聞こえてきた。 操機整備士の「人」が応答してくれたようだ。

「ちょっとお願いがあるんだ。 訓練室にある模造武具の『ショートソード』なんだけど、これの柄部分だけ作ってもらうことは可能かな?」

シロは右手に握っている模造武具の「ショートソード」を眺めつつ、操機整備士に質問すると、

「模造武具『ショートソード』の柄だけですか? 作れますよ。 素材は何にします? 模造武具と同一素材なら、すぐに作成できます。 他の素材だと、少し時間がかかりますね。」

と、シロに取っては、思いのほかいい回答が返ってきた。

「それじゃあ、模造武具と同じ素材でお願い。」

と、シロはにこにこと微笑みながら答える。

「わかりました。 それなら、3時間位で出来上がります。 完成品は、どこに持っていきましょう?」

と、整備士が聞いてきたので、

『・・・食事部屋なら、アムが常にいるはずだし・・・。』

と、考えたシロは、

「え~と・・・、食事部屋に届けてもらえるかな。」

と、シロは再び機嫌よく答える。

「わかりました。 完成しましたら、食事部屋に届けておきます。」

と、整備士も快く承諾してくれた。

「よろしくね。」

と、シロは上機嫌で通信を切った。 そして間をおかず、

「さて、次は・・・『操機戦管理』・・・っと。」

操機整備士と通話通信を切るとすぐ、今度は「操機戦管理」に連絡を入れる。

「これはこれは、シロ。 何かありましたか?」

「操機戦管理」の「人」であろうか、今度は感情のこもっていない中年男性の声が操機主用服の肩スピーカーから聞こえてきた。

「聞きたいことがあるのですが、操機の操縦席内には、模造武具の持ち込みが禁止されているのですか?」

と、シロは実情を知らないふりをして、わざとらしく質問をする。

「はい。 実機の操機操縦席内への品物の持ち込みは、操機主の安全を配慮し、模造武具を含めて禁止としています。」

と、「操機戦管理」の「人」が無感情に答える。

「あの、提案があって、模造武具の柄部分だけを持ち込む許可は出してもらえないでしょうか。 手袋の負荷圧による武具を握っている再現だけだと、武具を握っている感覚がわかりづらくて、改善したいのです。」

シロは無意味に身振り手振りを交えつつ、「操機戦管理」に自身の状況を説明し、なんとか許可を求めようとする。 しばらくの沈黙後、

「検討しますので、時間をいただけますか?」

と、「操機戦管理」の「人」は無感情に答えた。

「よろしくお願いします。」

と、シロはまたも上機嫌で通信を切った。 すると、

「珍しく積極的ね。」

いつの間にか、訓練室広間中央に立っているシロのすぐそばまで歩み寄って来ていた3号。 そして、冷やかすようにシロに話しかけると、

「まあね。」

シロは3号に冷やかされながらも、操機に対する思いが少しずつ変わってきているのを感じ始めていた。 が、

「シロ。 左前腕の『スモールシールド』は、操縦席内に持ち込まなくてもいいの? それとも、左腕の違和感は無いの?」

と、3号はシロを見上げ、冷静に問いかけてくる。

「・・・え? 左腕・・・?」

3号に問いかけられたシロは、ふと、左腕を胸前に持ち上げながら眺め、「スモールシールド」の装着にも若干の違和感があったことを思い出す。 すぐさま襟のマイクを使い、

「・・・整備~・・・。」


その日の夕方。 シロは今日の訓練疲れを癒すため、食事部屋でくつろいでいた。 夕食までは、まだ時間がある。

そんな中、ふと、「面」を付けたアムが食事部屋の奥にある調理場から出てきて、部屋の出入り口に向かう。 来客のようだ。 暫く後、

「シロ。 操機整備の方が、『シロから依頼された品物』を持ってきたそうなので、預かりました。」

と、アムはシロの座っている場所に近づきながら、優しい口調で話しかけてきた。 そして、両手で持っていた2個の品物をシロの前に差し出す。 差し出された品物の内、一つは短い棒状の品物。 もう一つは籠手のような品物だった。

「ああ、ありがとう。 俺が整備士に依頼した品物だ。」

そう言いながら、シロはアムが差し出している2個の品物をそれぞれ片手で受け取る。 品物を渡し終えたアムが調理場に戻って行くのを見届けた後、シロは2つの品物を眺める。 右手で受け取った短い棒状の品物は、飾りも何もない、模造武具「ショートソード」の柄であった。 訓練室にある模造武具「ショートソード」の柄部分だけを切り出したようになっている。 柄のような品物を一通り見た後、目の前にあるテーブルの上に一旦置く。 その後、左手で受け取った籠手のような品物を右手に持ち替え、左前腕に装着してみると、

『・・・まあ、こんなものか・・・。』

籠手の外側に拳大の盾のような物が付いている品物は、盾の位置が感覚的に判別しやすそうに思えた。

しばらくの間、出来上がった品物を簡易的に試していたシロだったが、

『これ・・・、思い描いていた通りに機能する品物なのだろうか・・・。』

などと自問していると、本格的に使ってみたくなる気持ちが次第に強くなってしまう。 ついには、

「アム! 夕食、ちょっと待ってね! 訓練室に行ってくる!」

シロは座っていた椅子から唐突に立ち上がり、大きな声で調理場の方に向かって告げる。 そして左前腕に籠手のような品物を着けたまま、テーブル上に置いてあった柄のような品物を右手で掴み、嬉々として食事部屋の出入り口に小走りで向かって行く。

「は~い。」

調理場から健気に返事をしてくれるアムの声が聞こえてきた時、シロの姿は早々に食事部屋から消え去っていた。


3号機区画内を速足で進み、訓練室に入るシロ。 珍しく、訓練室内に3号の姿は見えなかった。 シロは誰もいない訓練室の広間中央に進み、器用に左手のみで頭部覆いと「面」を装着する。 そして、右手で握っていた柄のような品物をゆっくりと顔の高さまで持ち上げてみる。 が、

『う~ん・・・。 そうだよな・・・。』

当然、「面」越しの映像には、柄のような品物を握っている自身の右手が見て取れる。 これは、シロの思い描いていた状況とはかけ離れていたため、

「3号、いるか?」

と、頭部覆い内のマイクを使い、3号を呼び出した。 すると、3号からの応答はないまま、シロの「面」視界内映像が変化する。 右手で掲げている柄のみだった品物に、模造武具の「ショートソード」刀身や、鍔が付与されたように映像が変化した。 同時に操機主用服にも、操機搭乗時のような負荷圧がかかるのを感じる。 視点を左下に移すと、左前腕にも、まるで模造武具の「スモールシールド」を装着しているような映像が見て取れる。

「これでしょ。」

ようやく、3号の呆れたような声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。 どうやら3号は訓練室内にいないものの、訓練室内に無数にある視覚装置を使い、どこからかシロを見ているようだ。 シロから具体的な指示が無くても、シロのやって欲しい行動を理解し、先手を打ってくれた3号。

「おお! ありがとよ!」

嬉々として3号に礼を告げたシロは、「面」越しに見える「ショートソード」を上下左右に振ったり、「スモールシールド」を振り回してみたりと、色々な試し振りをしてみた。

だが、武具を振り続けて暫く後、シロはまだ、少しの違和が残っているのを感じる。 右手や左前腕も、今までと同じに操機主用服の手袋や左前腕部分が、模造武具の「ショートソード」や「スモールシールド」の所持感を再現してしまっている。 そのため、実際の模造柄所持や、模造籠手を装着している感覚がほぼ無いのだった。

「う~ん・・・。 3号、右手の手袋と、服の左前腕の武具再現・・・負荷圧を切れるかな・・・。」

シロは試し振りをしていた手を止め、少し沈んだ口調で3号に話しかけると、

「了解。」

3号から小気味よい返事がくるのと同時に、右手全体と左前腕の服負荷圧が切れた。 すると、今まで感じていた右手、左前腕の違和感が嘘のように消えさる。

「おお! これならわかりやすい!」

シロはこの状態をずいぶんと気に入ったようだ。 子供がはしゃぐように、「ショートソード」と「スモールシールド」を振り回していた。 だが、

「喜ぶのは、『操機戦管理』が、その品物の『実機操縦席内持ち込み許可』を、してくれてからね。」

しばらく後、3号から冷や水のような厳しい言葉をかけられ、

「・・・あっ! そう・・・だった・・・。」

有頂天だったシロは、「操機戦管理」から、『操機操縦席内への品物持ち込みについて』の返答が無いのを思い出し、がっかりした口調で答える。 まだ、「操機戦管理」が、この品物の操縦席内持ち込みを許可してくれたわけではない。 よくよく確かめると、模造柄、模造籠手、ともに模造武具と同一素材のため、柔らかいとはいえ、部分的にはそれなりの強度もある。

『左前腕は手合い中でも取れないだろうが、問題は右手の柄か・・・。 万が一、実機の手合い中に手放してしまったら、操縦席内で転がってしまい、危ないか・・・。』

などと考えたシロは、

「この・・・模造柄が危ないのは、右手から離れてしまった後に踏んだ時ぐらいか?」

シロは自分の頭の中で、『模造柄を手放してしまった時の危険な状況』があまり思いつかず、自然と問いかけるように呟いてしまっていた。 すると、

「前例が無いから何とも言えないけど、踏んでしまう以外にも、『落とした柄を拾おうとしている間に、相手から攻撃される』とか、考えられるんじゃないかしら。」

と、シロの呟きに対し、たとえ話を出して冷静に答えてくれる3号。

「う~ん・・・。 落とさないように模造柄に紐を着け、反対側の紐を右手首にでも括りつけておくか・・・。」

シロは左手でゆっくりと「面」を外し、右手で握っている模造柄を見ながら一人呟くと、

「まあ、これ以上は、『操機戦管理』の許可が出てからにしたほうがいいわよ。 許可が出なかった場合、時間の無駄だったことになるから。」

再び3号から厳しい言葉が告げられ、がっかりと気落ちするシロだった。


翌朝。 シロの枕元付近にある通信装置に、「操機戦管理」からシロへの文字通知が届いていた。 内容は、『簡易武具の操機操縦席内持ち込みについて、3号機のみ、暫定許可する。』といったものだった。 簡易武具とは、どうやら模造柄と、模造籠手のことを指しているようだ。

だが、よくよく考えると、シロは自分勝手に事を進めてしまったが、

『他の操機主たちは、このことを知った時、どう思うだろうか・・・。 俺が、「抜け駆けした」ように思われてしまうのだろうか・・・。』

と、冷静に考え、心配になってきた。 5号機、6号機の操機主は「人」なので知らせるまでもない。 が、せめて、人間が操作する1号機、2号機、4号機の各操機主には、許可の件を知らせておこうと思い、『実機の操機操縦席内に、模造武具の一部を持ち込む許可を得た』経緯を、文字通知にして送る事にした。

だが、1号機の操機主マリナ、2号機の操機主レイ、4号機の操機主ゴウとも、反応は冷ややかだった。 レイとゴウは簡易な肯定的返事を返してくれたが、マリナに至っては返事すらなかった。 どうやら、操縦席内での武具所持に違和感があったのは、シロだけだったようだ。

その日の午前中、訓練室で模造武具を使った訓練をしていたシロだったが、ふと、武具を振るう手を止め、「面」と頭部覆いを外すと、

「・・・なあ、3号・・・。 俺、細かいことを気にしすぎるのかな・・・?」

訓練室内の休憩椅子に座り、シロの模造武具訓練を眺めている3号に対し、落ち込んだ口調と表情で質問をしてみた。

「どうしたの、唐突に。」

一方、問いかけられた3号は、休憩椅子から降り、訓練の手を止めたシロに近づきつつ、心配そうな口調で答える。

「・・・この・・・、操機主用の服で再現されている、『武具を握っている感覚』もそうなんだけど・・・、何か違和感があると・・・、どうも気になるっていうか・・・。」

右手で握っている模造武具「ショートソード」をぼんやりと眺めつつ、シロは3号に向かって気まずそうに話しかける。

「いいんじゃないかしら。 それが人間の『個性』だか、『こだわり』でしょ。 私はそれを、『駄目』とは判断しないけど。」

と、シロからある程度の距離で立ち止まった3号は、優しい口調で答えてくれる。

「・・・そうか・・・。 こだわり・・・か・・・。」

と、3号の話を聞いたシロは、照れくさそうに微笑みながら呟いた。


昼近くなったため、午前中の訓練を切り上げたシロ。 昼食後、14時頃からは2号機対4号機の手合いを訓練用操縦席内で見ることにした。 シロはセーフティベルトを背もたれ替わりにして寄りかかり、ふかふかに調整された訓練用操縦席床に座り込んでいる。 手合い開始のかなり前に訓練用操縦席に入ったため、エレベーター地上出入り口から出て闘技場に向かう2号機、4号機の中継を長々と見ることになってしまった。 シロは、闘技場へ移動中の2号機、4号機を注意深く見たものの、両機とも武具は「ショートソード」と「スモールシールド」であり、装甲形状にも変更は見られなかった。

薄曇りの空の下、両機は闘技場内の手合い開始位置に着き、15時には手合い開始となる。

結果は、4号機の降参で手合い終了となった。 序盤、2号機はいつも通り、防御重視の姿勢を取り、剣戟を多く繰り出す4号機が押し気味に手合いを進める。 だが、中盤以降、2号機の剣戟が4号機の機体装甲を捉えだす。 そして、ついには2号機の大振り突き攻撃が、4号機の右肩を捉える。 4号機右肩装甲への「ショートソード」の刺さり具合は深くなさそうだった。 しかし、その損傷が原因なのか、右肩に異常が発生したのか、結局、4号機は「操機戦管理」が手合いを止めるより早く、降参をしてしまった。

シロはその日の夕方ごろ、4号機の操機主であるゴウが落ち着いたころを見計らって通話通信を入れた。 ゴウがあまりにも簡単に降参してしまった事に心配したからだ。

「どうした? ゴウ。 降参なんかして。」

ゴウに通話通信が繋がると、襟のマイクを使って心配そうに尋ねるシロ。 すると、

「いや~・・・。 なんか、集中できないっていうか・・・調子が出なくてな・・・。 右肩の損傷も、思ったより酷かったし・・・。 だが、お前と手合いするまでには調子を戻しておくから、心配しないでくれ! ははは!」

と、ゴウはいつもの明るい口調で話をしている。 話を聞いている限り、怪我をしたとか、体調が悪いという雰囲気ではないようだ。

『これで、ゴウは手合い7敗目か・・・。 とはいえ、俺も6敗・・・。』

などと、考え込んでしまうシロ。 更に、よくよく考えてみると、女性が操機主の1号機、2号機の勝率は高く、男性が操機主の3号機、4号機は勝率が低い。

『「勝ち負けではない」とはいえ、この勝率格差・・・。 各機体に有利不利があるとは思えないし・・・。 何か・・・他の要因があるのだろうか・・・?』

と、真剣に考えるシロ。 3号にも、勝率の話をしたが、

「偶然でしょ。」

と、冷たく一蹴されてしまった。

『偶然か・・・。 確かに、「何らかの、確たる根拠がある」わけじゃないからな・・・。』

と、勝率の格差について、3号に納得させられてしまうシロだった。

翌日は手合い無しの日。 その次の日は、5号機対6号機の手合い日だった。 シロは珍しく午前11時に行われる手合いを、3号と訓練用操縦席で見ることにした。 その日の3号は操機補状態ではなく、黒い「面」と頭部覆いを付け、「人」の姿で訓練用操縦席内のシロの左隣に座り込んでいた。 3号が「人」の姿のまま、訓練用操縦席内でシロと手合いを観ることは、時折あることだった。 今回の手合いも、シロは両機がエレベーター地上出入り口から出てきて、闘技場に移動していく時点から中継を見ていた。 5号機、6号機の両機とも、武具は「ショートソード」と「スモールシールド」、装甲形状の変化や変更も見受けられない。

午前11時。 天気のいい晴れ間の下、いつもの進行通りに手合いは始まった。 が、両機の動きは、明らかにぎこちない。 5号機、6号機とも、「ショートソード」と「スモールシールド」を機体正面に掲げた完全防御姿勢を長々としていたかと思えば、操機1体以上ずれた位置に剣戟を繰り出す、いきなり後退するなど、明らかに動きがかみ合っていない。 いつもながら、

『5号機対6号機の手合い・・・。 毎回、動きが変なんだよな・・・。 わざと・・・ぎこちなくしているのだろうか・・・?』

と、疑問を持ってしまうシロ。 だが、そんな光景を見ていると、シロは自分たちが初めて操機に乗って手合いした時のことを思い出してしまう。 ぎくしゃくした機体の動きや、転倒しそうになるのをどうにか耐えていたのを思い出すと、

『・・・そうだよな・・・。 俺たちも、最初に実機の操機に乗った時は・・・これ以上に酷かったしな・・・。 ・・・それにしても、「人」操機主は、俺たち以上に操機の扱いになれているはずなのに、この動きって・・・。』

などと感じたシロは、一緒に手合いを見ていた3号に向かい、おもむろに、

「なあ・・・、3号。 5号機の「人」操機主は17号で・・・、6号機の「人」操機主は18号・・・だっけ?」

と、遠慮気味に問いかける。

「ええ。 その通りよ。」

片や、シロを見上げ、軽い口調で答える3号。

「俺たちがここに来る前・・・。 その・・・3号も含め、『人』だけの操機試験運用って、やっていた・・・んだよな・・・。」

と、シロは聞きづらそうに、遠回しな言い方で3号に問いかけるように話す。 すると、

「ええ、やっていたわ。 それで、何が聞きたいの?」

と、冷静に聞き直してくる3号。 一方、シロは遠回しに質問しようとしていることが見透かされてしまったようなので、素直に、

「『人』同士が手合いする操機って、なんだか・・・人間を手合い相手としている時より、更にぎこちなく動いているように見えるんだ・・・。 本当に、試験運用・・・「人」同士で実機を使った手合いって、やっていたんだよな?」

と、左隣りに座っている3号を見つめながら問いかけた。

「ああ。 だが、これが今の『人』の限界。 まだ、人間に追いつけていない証だ。」

と、再び冷静に答える3号。

「えっ? 人間に・・・追いつけていない証・・・って・・・。」

片や、シロは3号の思いがけない回答に困惑してしまった。 その後に聞こうとしていたことも頭の中から全て消し飛ばされてしまい、呆然と3号を見つめてしまう。 声色や口調も、いつもの3号と違うように聞こえたシロは、

『今のは3号の・・・「人」の回答なのだろうか・・・。 それとも、何か、別の・・・。』

一瞬、いつもの3号ではない、別の『意思』のようなものを感じた。


手合い無しの翌日。 「操機戦管理」から、3号機への追加武具や装甲変更等の話は無いまま、2号機対3号機の手合い日となってしまった。 手合いの開始時刻は15時。 既に14時を過ぎ、3号機は格納庫内で準備万全である。 1号機との手合いで損傷して交換した左腕と胴部も、午前中に稼働確認を行い、問題が無いのを確認できていた。

「まあ・・・。 今回は、これのお試しってことで・・・。」

そう言い、操機操縦席前で、操縦席内への持ち込みが許可された、模造柄と模造籠手を右手で弄ぶシロ。 3号機は上半身を起こし、操縦席を露わにした状態でシロが乗り込むのを待っている。

結局、シロは整備士に作ってもらった模造柄に紐を追加し、自らの右手首と結び付け、不意の事態でも床に落とすことなく、すぐ右手に戻せるように工夫したのだった。 その一方で、3号は操縦席内に余計な品物を持ち込むことに、今でも否定的なようだ。 3号から直接言われたわけではないが、シロには、3号が『操縦席内に余計な品物を持ち込むこと』を、あからさまに嫌がっているように感じ取れる言動が何度かあった。

「それ、今日の手合いで使うの?」

と、既に機体へ知能情報を移した3号が、肩のスピーカーを通じてシロに問いかけてくる。

『・・・訓練用操縦席内で使おうとした時も、同じようなことを聞いてきたよな・・・。 しかも、落ち込んでいるような口調・・・。』

シロはここ数日、訓練用操縦席を使用した仮想機訓練で、模造柄と模造籠手を持ち込んで訓練をしていた。 その時も訓練用操縦席に入る前、3号から同じようなことを聞かれた記憶があった。

「ああ! 3号はあまり気に入ってないようだが、今日は実機の手合いで使ってみたいんだ!」

と、シロは自信ありげに答える。 実際、訓練用操縦席内で使っていても何の問題も出なかったので、今日の実機手合いで使用する決断となった。

「了解。 それじゃあ、ちょっと早いけど、格納庫から出ましょ。」

気のせいだろうか。 シロには返事をした3号の口調が、またも、落ち込んでいるかのように感じ取れた。 だが、シロは気にしないようにして、

「ああ。 いつもので頼むよ。」

と、操縦席に入り込みつつ3号に指示を出す。 シロが操縦席中央に着くと、操縦席の出入り口扉が音も無く閉まり、セーフティベルトがシロの体に装着される。 その後、3号はいつも通りに手際良く機体を操り、格納庫から地上に向かわせる。

「・・・2号機は・・・、まだ、地上に出てきていない・・・か・・・。」

3号機を乗せたエレベーターが地上出入り口に到着した後、シロは操縦席内画面で周囲を見渡してみる。 日差しが隠れている曇り空の下、どうやら2号機はまだ地上に出てきていないようだ。

「・・・ちょっと早いしな・・・。 3号、手合い開始位置までの移動もよろしく頼むよ。」

と、周囲を見渡し終えたシロは、3号に向かって指示を出す。 続けて、

「それと、2号機が地上に出てきたら教えてもらえるか? それまでは、これの感触を試していたい。」

そう言うと、3号の声が聞こえてくる操縦席天井付近に、模造柄を見せつけるように掲げる。

「了解。」

と、冷静に応答する3号。 一方、シロには、操縦席天井付近から聞こえてくる3号の声が、相変わらず落ち込んでいるように聞こえた。


「シロ。 2号機が出てきたわよ。」

3号機が闘技場の手合い開始位置に到着してから15分くらい経った頃、ようやく2号機が地上に出てきた。 片や、操縦席で模造柄を使い、「ショートソード」の剣戟訓練をしていたシロ。 3号から突然の報告を受け、

「おう。」

と、軽い口調で返事をすると、操縦席内画面で2号機のエレベーター地上出入り口付近を注視する。

「ああ・・・。 やっぱり・・・ね・・・。」

と、今度はシロが気落ちした口調で一人呟く。 画面に小さく表示されている2号機を見ると、右手に握られている武具が、「ショートソード」ではないのが見て取れる。 左前腕の「スモールシールド」があるべき部分にも、大きさは1号機が持っていた「ラージシールド」よりは小さいが、自分たち3号機の持っている形状とは明らかに違う盾が装着されている。 数秒置いて、

「2号機の映像、正面画面に移動させるわよ。」

と、3号がシロにも見やすいように操縦席内画面を操作し、正面画面に『闘技場に近づいてくる2号機』の映像を移動させた。

「2号機の右手武具、・・・棍棒・・・か?」

シロには、操縦席内正面画面に大写しになった2号機右手武具が、いまいちよくわからなかった。 なので、改めて3号に問いかけると、

「『メイス』ね。」

と、3号が言葉短く答えてくれる。 一方、3号の回答を聞いたシロは、しばらく画面に映る2号機の右手武具を眺めていた。 が、

「・・・で、3号。 2号機に新しい武具が支給されたのは、知っていたのか?」

と、機嫌を損ねたように、少々厳しい口調で操縦席天井付近に向かって問いただす。 すると、

「いえ。 勘違いしているかもしれないけど、操機補は、人間より他号機の機体情報取得が制限されているの。 他号機の新しい武具支給を知ることなんて、各機の格納庫に張り付いて監視でもしていないと無理ね。 もっとも、私たち操機補じゃ、他号機の格納庫に行くのも、「操機戦管理」によって制限されているけど。」

と、3号は極々冷静に答えた。 その回答に対し、シロは、

『3号・・・。 ああ言っている・・・が・・・。 けど、・・・「人」が嘘をつくとも思えないし・・・な・・・。』

と、心の一部に疑いの念を残しながらも、

「・・・そうか。 すまないな。 信じるよ、3号。 前にも言っていた通り、『武具で有利不利は無い』だろうしな。」

と、シロは3号に謝罪するように、優しい口調で答えた。 そして、

「ところで『メイス』って、こっちの『ショートソード』より武具の全長が短そうだな。 3号、『メイス』の全長を確認できるか?」

と、2号機の右手武具が気になって仕方のないシロ。 機嫌が直ったような口調で3号に指示を出すと、

「『メイス』と『ショートソード』。 武具の全長を比べると、『ショートソード』の方が僅かに長いわね。」

3号は、2号機の右手武具の長さを計測してくれたようだ。 操縦席内正面画面に、「ショートソード」と「メイス」の全長比較結果を表示してくれた。 映像からは、「ショートソード」は剣先分、「メイス」より長いのが見て取れる。

「・・・僅差だな・・・。 ・・・他にわかる情報は?」

シロ自身、訓練室に置いてあった模造武具の「メイス」を使った記憶どころか、触った記憶すら無い。 追加の情報を求め、3号に聞くと、

「『メイス』とは、武具先端側の重さを有効に使う武具なの。 武具の重量が重いため、打撃を受けた場所の損傷が酷くなるかもしれないわね。」

と、3号は淡々と冷静に答える。

「ん? ・・・3号、『武具の重量が重い』って、どういう意味だ?」

片や、3号の話していることが理解できずにいるシロ。 更に詳細な説明を求め、操縦席天井付近に向かって聞き直した。

「操機は基本的に軽量化と強度目的のため、鎧部分のほとんどが複合炭素銀鋼という素材で出来ているわ。 武具もほぼ同じ素材。 だけど『メイス』の場合、重量が軽いと、武具としての意味が薄れるわ。 なので、『メイス』先端部には、重りのような重量物が入っている。 2号機の『メイス』による攻撃は、盾で受けるより、極力避けた方がいいわね。」

と、「メイス」の説明と、手合いの助言を冷静にしてくれる3号。 一方、

『・・・先端部に重り・・・。 しかも、なるべく回避しろって・・・。 厄介だな・・・。』

などと3号の話を聞いたシロは、暫し考えた後、

「・・・わかった。 ありがとよ。」

と、操縦席天井付近に向かい、気さくに礼を告げる。 その後、操縦席内正面画面に視線を移し、

「・・・ところで3号。 まだ、2号機に通話通信できるか?」

シロは手合い開始までまだ時間があるのを確認し、ふと、2号機の操機主レイと話をしてみたくなった。 そして、3号に2号機への通話通信を繋げるように指示を出してみる。

「了解。」

3号からは反論も無く、冷静に応じてくれる。 暫し後、

「シロ。 2号機に、通話通信を繋げたわよ。」

と、手早く対応してくれる3号。 2号機側も通話通信を拒否しなかったようだ。 シロは一呼吸置いた後、

「こんにちは。 レイ。」

操縦席内正面画面に映る2号機をレイに見立て、明るい口調の挨拶で話しかける。 すると、

「ごきげんよう。 シロ。」

間をおかず、シロの操機主用服の肩スピーカーからは、若い女性の明るい声が聞こえてくる。 操機2号機の操機主、レイの声だ。

「随分と物騒な物を持っていますね? 右手に。」

いつになくゆっくりと、そして紳士的な口調でレイに話しかけるシロ。

「ええ。 私、刃物って苦手で・・・。 それで、数日前、これが『操機戦管理』から支給されましたので、早速使わせていただこうかと。」

操縦席内正面画面に映る2号機は、闘技場にゆっくりと歩き近づいて来ている。 その歩く速度を落とさず、右手に持つ「メイス」を3号機に向けて軽く掲げる。 それに合わせるように、レイは穏やかに答えた。

『刃物が苦手だから、鈍器って・・・。』

一方、シロは内心、複雑な気分だった。 さらに2号機の左前腕にも注視した後、

「盾も新しい支給品で?」

と、シロが続けてレイに聞くと、

「ええ。 こちらの『ミディアムシールド』の方が格好いいというか、私好みの形状だったので。」

2号機は「メイス」に引き続き、「ミディアムシールド」も3号機に見えるように掲げてくれた。 手先側が長い、六角形のような形状をした盾だ。 3号機が装備している円形の「スモールシールド」より、盾としての防御面積は広そうに見える。

「3号機には、新しい武具の支給がないのですか?」

2号機は掲げた「メイス」と「ミディアムシールド」を機体両脇に下げると、今度はレイが明るい口調でシロに問いかけてくる。

「ははは・・・。 新しい武具の支給、無いんですよね・・・。 なので、今日も『ショートソード』と『スモールシールド』ですよ。」

と、シロは笑いつつも落胆した口調で答えた。 続けて、

「話が長くなってしまいましたが、今日はお手柔らかに。」

シロが改めて、ゆっくりと紳士的に挨拶を告げると、

「ええ。 よろしくお願いしますわ。」

と、レイも明るい口調で挨拶を返してくれた後、通話通信は切れた。 3号が止めてくれたようだ。

「・・・さて・・・、どうしたものか・・・。」

通信が切れた後、呟きながら途方に暮れるシロ。

『レイと話でもすれば、今日の作戦を立てる糸口がつかめるかなと思ったんだが・・・。 何も思いつかない・・・。』

などと考えつつ、左前腕の模造籠手の位置を再確認し、右手で模造柄を握りしめた。 そうこうしていると、重苦しい歩行音を響かせ、2号機が手合い開始位置に到着してしまう。 手合い開始予定時間までは、5分を切った。

「・・・3号・・・。 前回の3号機対2号機の手合いだが・・・。 2号機、手合い開始直後は、守りに徹していたよな?」

シロはふと、前回の対2号機戦を思い出しながら3号に確認すると、

「その通りよ。 まあ、後半攻め込まれて、こちらが負けたけど。 と、操縦席内の温度と湿度を少し下げるわよ。」

3号はシロの質問に答えつつ、手合い開始に備えて準備を始めたようだ。

『2号機・・・。 直近の対4号機手合いも、序盤は防御重視だった・・・。 今回も、防御重視でくるだろうし・・・。 ・・・こっちも、序盤は守りを固めてみるか・・・。』

シロは手合いの流れを頭の中で組み立てると、左手のみで器用に頭部覆いと「面」を装着し始めた。


「では、本日の手合いを始めましょう。 対戦は、2号機対3号機。 なお、不測の事態に備え、6号機に待機をしてもらっています。」

手合い開始の時刻が間近になったようだ。 「操機戦管理」管理者の声が、シロの頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。 間をおかず、

「では、構えて。」

「操機戦管理」管理者の『構えて』の声を聞くと、いつも通りにお辞儀をしてから、「ショートソード」と「スモールシールド」を機体正面に掲げ、防御重視の姿勢を取ったシロの操る3号機。 一方、「ミディアムシールド」のみを機体正面に掲げ、「メイス」は機体右脇にだらりと下げた姿勢を取る2号機。 両機の構えが整った暫し後、

「始め!」

15時。 手合いの開始が告げられた。

開始早々、2号機はシロが予想していたのと真逆の行動を取る。 「ミディアムシールド」を正面に掲げた姿勢を維持したまま、3号機に一歩、一歩とすり足気味でゆっくり近寄ってきた。 そして、予想に反した2号機の接近に動揺してしまうシロ。

「なにっ!」

『近寄ってくる!』

だが、焦りながらも、ふと、いつぞやの手合い反省会を思い出し、

『・・・そうだ! 落ち着いて・・・手合い反省会で3号が言っていた通りに・・・。』

そう考え、「ショートソード」を軽く前方に突き出し、接近を牽制するような攻撃を繰り出す。 だが思惑は外れ、牽制のつもりで放った突き攻撃は、前進を止めなかった2号機の「ミディアムシールド」中央に、甲高い音を立てて命中してしまう。

「あれ・・・? ・・・あたった・・・?」

と、シロは惚けたような口調で呟く。 だが3号機の突き攻撃は、「ミディアムシールド」表面にかすり傷を付けた程度だろうか、2号機の前進を止めるまでには至らない。 それどころか、2号機はさらに一歩踏み込みつつ、右側面から「メイス」の大振りをしてきた。 狙いは、3号機の頭部左側。

『・・・って、まずい!』

シロは、自身の剣戟が2号機の掲げる「ミディアムシールド」に当たったことで気を取られてしまい、3号機の頭部を守るべく「スモールシールド」を掲げるのが僅かに遅れてしまう。 両機の腕が交差する中、2号機が繰り出した大振り「メイス」の一撃は、3号機の頭部左側を直撃すると、剣戟とは違った低く鈍い音が辺りに響き渡る。 更に、3号機は側頭部に攻撃を受けた勢いを止めることが出来ず、右半身から勢いよく地面に叩きつけられてしまい、再び轟音が闘技場内に響き渡った。

一方で、2号機の攻撃が3号機に命中する刹那、3号は2号機からの攻撃が回避不能であり、機体頭部に命中すると判断した時点で、シロと機体の同期を緊急解除。 更に、セーフティベルトでシロを転倒から守ると同時に、操縦席の振動吸収機構を最大に作動させていた。

「うわっ!」

前回の1号機との手合い時、3号機が転倒してしまった時の揺れを上回る揺れが操縦席を襲い、シロは少々ふらつきながら目を閉じてしまう。 だが、いつもは操機主に触れないようになっているセーフティベルトによって、両肩、両脇から胸部付近を強く押さえつけられ、シロは操縦席内で転倒するのを免れた。

片や、闘技場地面に転倒してしまった3号機。 右手の「ショートソード」を手放してしまった挙句、うつ伏せの状態になったところで動きが止まった。

「シロ! 大丈夫!?」

と、心配そうな3号の声が頭部覆い内スピーカーから聞こえてくる。

「ああ・・・どうにか・・・。 ・・・くっ・・・。 2号機は・・・?」

揺れが収まり、地面との水平を維持している3号機操縦席内。 シロは3号の問いかけに力なく応じる。 その後、自身の服に負荷圧が無く、機体との同期が外れているのを承知しながらも、閉じていた目を開き、急いで2号機の行動を操縦席内画面で確認する。 だが意外なことに、2号機は3号機に打撃を当てた後、直立姿勢に移行し、固まったようになってしまっていた。

『・・・「とどめ」を・・・打ちに来なかった・・・のか・・・。』

前回手合いの、1号機に『とどめ』を打たなかった時と真逆の状況になってしまったシロ。 複雑な胸中だったが、

『・・・「とどめ」を打ちにこなかった以上、こちらが手合い再開の意思を表すまで・・・攻撃してこないな・・・。』

などと考えつつ、

「・・・3号、損傷状況は・・・?」

と、3号に対して冷静に機体の損傷状況を確認する。

「頭部防具左側が大きく破損したわ。 更に頭部左基部も損傷したのに加え、左眼に相当する左視覚機器も損傷。 首部は捻挫相当の損傷。 左視覚機器の損傷は、シロの「面」視界内映像に影響が出ないようにしてあるけど、首部損傷の影響で、「面」視界内映像に影響が出るかもしれないわ。 後、右手の『ショートソード』を手放してしまっている状態よ。」

と、3号は緊迫した口調で報告してくれる。 続けて、

「それと、シロ。 セーフティベルトの圧迫で、肩や脇腹がかなりの痛みになっているでしょ。 降参する?」

と、今度はシロを心配するような声で話しかけてくる3号。 一方、3号に言われるまで、セーフティベルトによって圧迫された痛みに気づかなかったシロは、模造柄を手放してしまった右手を使い、自身の右わき腹をさすって確認すると、

「・・・と、大丈夫だ! 肩も脇腹も大した痛みじゃない! 続行で頼むよ!」

と、両肩と脇腹の少々の圧迫感をこらえつつも、3号に大きな声で素早く答えた。

「了解。 機体を起こすわ。」

一拍置いて、3号が冷静に答えると、3号機はうつ伏せ状態から右腕を使ってゆっくりと立ち上がり始める。 その間、シロは操縦席内画面で2号機の動きを注視していたが、近づいてくるどころか、動く気配すらない。 数秒後、3号機は完全に立ち上がり、少し離れた場所に落ちている「ショートソード」を右手で拾い上げると、

「再同期するわよ。」

と、3号が再び冷静に告げてくる。 一呼吸置き、シロは手放してしまった模造柄につながっている紐を手繰り寄せ、模造柄をしっかりと握り直す。 そして、「ショートソード」と「スモールシールド」を手合い開始時のように身構えた後、

「わかった。」

と、冷静に答える。 すると操機主用服に負荷圧が戻り、「面」視界内も操機目線に戻る。 両肩、および両脇の下から胸部付近を圧迫していたセーフティベルトも、服から僅かに離れた通常位置に戻った。 一拍置いて、

「同期したわよ。」

と、3号がまたも冷静な口調で告げる。 片や、シロは3号機が自身の構えている姿勢と同じ姿勢になったのを感じ取ると、一旦、3号機の姿勢を直立姿勢に移行させる操作をする。 そして「スモールシールド」を胸前に掲げ、手合い再開の意思を2号機に伝えた。 その後、またも防御を重視するように、機体前面へ「スモールシールド」と「ショートソード」を掲げ、右足を一歩引いた姿勢を取る。

一方、3号機が手合い再開の意思を表すと、固まったようになっていた2号機は、右手の「メイス」を素早く胸前に掲げて手合い再開に応じる。 更に間髪入れず、2号機はすぐに動き出す。 手合い開始時と同じように、「ミディアムシールド」を機体正面に掲げ、3号機に向かってゆっくり一歩、一歩と、すり足で近づいてくる。 だがシロは、さきほど機体頭部に受けた攻撃の記憶がよみがえってしまい、2号機の接近に対し、牽制の剣戟さえも出すことができずにいた。

「受けるな! 回避して!」

と、3号の怒声が飛ぶ。 が、

『回避・・・、いや、だめだ・・・。 防ぐ手が・・・防御しか・・・ない。』

3号の助言も虚しく、シロの足は少々震えたまま動かず、3号機は「スモールシールド」を機体正面に掲げて固まったようになってしまっていた。

すると、武具の間合いに入った2号機は、「メイス」を真上に振り上げ、3号機が機体正面に掲げている「スモールシールド」を強打する。 さらに右から左に、上下にと、2号機は連続で3号機の「スモールシールド」を殴り続けた。 2号機が3号機の「スモールシールド」を殴るたび、大きな打撃音が闘技場内に響き渡る。 そして、

「くっ・・・。」

シロにも服の負荷圧を通じ、3号機が左腕に受けている強い打撃を感じ取る。

2号機は、何度3号機の「スモールシールド」を殴打しただろうか。 しばらく2号機の連続打撃を「スモールシールド」で受け止めていた3号機だったが、2号機がひときわ高く振りかぶり振り下ろした「メイス」の強打により、3号機の盾を固定している左前腕の盾連結部は耐え切れず、とうとう破壊されてしまう。 今回の手合いでも、「スモールシールド」を叩き落されてしまう3号機。 2号機の連続打撃によって全壊に近いほど変形してしまった「スモールシールド」は、乾いた音を立てて地面に落ちて転がっていく。 片や、「スモールシールド」が外れた時に攻撃の手を止めていた2号機は、「スモールシールド」が闘技場地面に落ちると、3号機に機体正面を向けたまま素早く数歩ほど後退し、またもや直立姿勢となって固まったように動かなくなってしまった。

一方の3号機は、「スモールシールド」を落とされた後も同じ姿勢のまま、こちらも固まったように立ち尽くしている。

「・・・くっ・・・。 盾が・・・。」

2号機の連続打撃を受けている時、目を閉じて打撃を耐えていたシロ。 2号機の連続打撃が止むと、ゆっくり目を開け、損傷状況を確認する。 「面」視界内に映る機体の左前腕と、負荷圧を切っている左前腕以外の左腕服負荷圧から、左前腕の盾連結部が損傷したのはわかった。 が、更に詳しい損傷状況を3号に聞こうと、

「・・・3号・・・、左腕の損傷・・・は?」

と、弱々しく問いかける。 すると、

「盾の連結部が破壊されたわ! 『スモールシールド』は機体から外れてしまって使用不可よ! それと、左前腕の骨相当部と筋肉相当部、左肘関節相当部が大きく損傷したため、左腕全体の出力が6割近く低下! あと数回でも左前腕に打撃を受けたら、左肘から先の部分が動かなくなるわ!」

頭部覆い内スピーカーからは、危機迫る口調で3号からの報告が聞こえてくる。 一方、それを聞いたシロは、予想していたより酷い損傷状況に、

『盾の連結部が損傷しただけだと思っていたのに・・・。 左前腕・・・いや、左腕全体に影響が・・・。』

「これが・・・『メイス』の怖さか・・・。」

と、焦りと恐怖を感じる。 そして再度、目線のみで損傷した機体左前腕を見た後、一呼吸置き、

「・・・ふう・・・。 さて、『スモールシールド』が使えなくなったとなると、またこれか・・・。」

操縦席のシロは悔しそうに呟くと、右手で握っていた模造柄に左手も添え、両手で腰下に構える。 だが、模造柄の長さは拳二つ分に足りないため、今回も両手を重ねたように握ることとなってしまう。 同様に3号機も右手のみで握っていた「ショートソード」柄に左手を添え、両手で「ショートソード」を握り、機体正面腰下に構える。 ただ、左腕損傷の影響だろうか、シロは負荷圧を切っている左前腕以外の左肩から指先までの服負荷圧に、

『・・・左腕・・・動きが遅いように感じるし・・・、動作も・・・うまく伝わっていないようだな・・・。』

などと、かなりの違和を感じてしまう。 そして、正面に立つ2号機を睨むと、

『・・・やりたくないが、2号機の右手を狙うしか・・・逆転の策が無いか・・・。』

そう考え、2号機の右側に回り込むように、一歩、二歩と機体を移動させるシロ。 一方の2号機は微動だにせず、3号機が2号機右側面を取るのを放っているように見える。 暫しの時間をかけ、3号機が2号機の右側面に達すると、

『完全に2号機の右側面を取れた・・・。 だが・・・、どうして2号機は動かない・・・。』

シロはそんなことを考えつつも、「ショートソード」を機体正面腰下から左側面にゆっくり倒すと同時に、右足もゆっくりとすり足で半歩前に踏み出し、少し腰を落として構える。 暫し後、

「ええぃ!」

シロが操縦席でそう叫び踏み込むと、3号機も大きく踏み込んでいき、左側から右側に「ショートソード」を大きく薙ぎ払う。 狙いは、2号機が「メイス」を所持する側の右手甲。 だが、2号機はこの3号機の動きを完全に読んでいたようだ。 3号機が踏み込んでくるのと同時に、2号機は素早く3号機を正面に捉えるように向き直り、3号機の剣筋上に、「ミディアムシールド」の形状を活かした防御をしてきた。 すると、2号機の「ミディアムシールド」表面を、3号機の「ショートソード」がけたたましい音をたてて擦れていく。 そして3号機の大振り剣戟を受けきった2号機は、剣戟を受け流されて無防備になってしまった3号機に対し、大きく引き絞った「メイス」の突き攻撃を繰り出した。 狙いは、3号機顔面。

3号機は再び機体頭部に「メイス」の直撃を受けてしまった。 鈍い音が響いた後、仰向けにゆっくりと転倒し、轟音を立てる3号機。

「・・・あ・・・いた・・・たっ・・・。」

再び操縦席内が僅かに揺れるも、セーフティベルトに強く抑え込まれて支えられたシロ。 そのおかげで、操縦席で転倒するのは免れた。 一方で、またも両肩、両脇から胸部付近を強く圧迫され、少々の痛みを感じる。 一拍置いて、地面との水平が保たれている操縦席内で、服の負荷圧が無く、機体との同期が再度外れてしまっていることに気付き、

「・・・3号・・・?」

と、3号に弱々しく問いかける。 そうすると、

「シロ。 『操機戦管理』に、この手合いの降参を申し入れるわ。 機体の頭部損傷と、首部損傷が大きいため、これ以上の手合い続行はできない。」

と、3号は残念そうに告げてきた。

「・・・そう・・・か・・・。 わかった・・・。」

片や、3号の応答を聞いたシロは、がっくりとうなだれ、力なく答えた。 怪我を負ったとかではなく、2号機に対して手も足も出なかった自身に不甲斐なさを感じ、声に力が入らない。 やがて操縦席床に座り込んでしまうと、そのまま動かなくなってしまった。


エピソード1-2に続きます。

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