表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幼王の玉座

作者: Xsara

第一章:戦場の報せ

霧深い戦場に轟く鉄と血の音が止んだ瞬間、王都エルシオンの玉座に暗い影が落ちた。国王レオニス三世が、敵軍の矢に胸を貫かれ、息絶えたのだ。享年三十一。残されたのは、わずか十一歳の王子アルヴィン、そして先王の弟グレゴール公の野心的な微笑みだった。

王都の大広間では、重い沈黙が支配していた。玉座に小さく座るアルヴィンは、父の死を告げる使者の言葉に青ざめていた。金の冠は彼の頭に重く、まるで彼を押し潰すかのようだった。

「陛下、ご決断を」老宰相ヴァルデリオンが静かに進言した。七十歳を超える彼の目は、鋭くも慈愛に満ちていた。三人の王に仕え、幾多の陰謀を退けてきた彼は、幼王の唯一の支えだった。

「グレゴール公が今朝、軍を率いて王都へ向かっているとの報せです」若き廷臣が震える声で告げた。「彼は…王位を要求するかもしれません」

ヴァルデリオンは目を細めた。「公は王位を欲している。だが、我々が先に動く」


第二章:老獪な策

グレゴール公は王都の城門に到着したとき、すでにヴァルデリオンの策が網を張っていた。公の軍は歓迎の名目で城外に留め置かれ、彼自身は「王との謁見」のため単身で召喚された。

謁見の間、アルヴィンはヴァルデリオンの指導のもと、幼さを感じさせない堂々とした口調で公を迎えた。「叔父上、父王の死は悲しみですが、王国は前に進まねばなりません。どうか我が忠臣として支えてください」

グレゴールは微笑んだが、その目は冷たかった。「もちろん、陛下。だが、若すぎる王には摂政が必要だ。私がその任にふさわしい」

ヴァルデリオンが一歩進み出た。「公爵閣下、摂政はすでに定まっております。私がその任を拝命し、陛下を補佐いたします」

公の顔に一瞬、怒りがよぎったが、廷臣たちの視線とヴァルデリオンの不動の姿勢に押され、引き下がらざるを得なかった。


第三章:幼王の覚悟

夜の王宮、アルヴィンはヴァルデリオンの書斎で膝を抱えていた。「僕には無理だよ、宰相。叔父は僕を殺すかもしれない」

ヴァルデリオンは暖炉の火を眺めながら答えた。「陛下、恐れは力になります。あなたは王家の血を引く者。グレゴール公は強欲ですが、愚かではありません。彼を出し抜く策はすでに始まっています」

ヴァルデリオンの策は、グレゴール公の側近を買収し、彼の動きを逐一監視することだった。さらに、地方の諸侯に密書を送り、幼王への忠誠を確実にしていた。だが、最大の賭けはアルヴィン自身だった。

「陛下、あなたが民の前で王たる姿を見せれば、公の野心は孤立します。明日の戴冠式で、言葉を贈ってください」

アルヴィンは震える手で剣の柄を握った。「僕…やってみる」


第四章:戴冠の光

戴冠式の日、王都の広場は人々で溢れていた。アルヴィンは父の鎧を模した小さな甲冑をまとい、玉座に立った。ヴァルデリオンがそばに控え、グレゴール公は苦々しい顔で列席していた。

「我が民よ!」アルヴィンの声は最初震えていたが、次第に力強さを帯びた。「父王は戦場で倒れましたが、その意志は我が内に生きています。エルシオンは一つとなり、共に未来を築くのです!」

群衆が沸き、拍手が響いた。グレゴール公の顔は青ざめ、廷臣たちの視線は幼王に集まった。ヴァルデリオンは小さく頷いた。「これでよし」


第五章:続く戦い

グレゴール公は王都を去り、地方での勢力結集を図ったが、ヴァルデリオンの策により諸侯の支持は得られず、孤立を深めた。アルヴィンは日々、ヴァルデリオンの指導のもと王としての務めを学び、民の信頼を勝ち取っていった。

しかし、ヴァルデリオンは知っていた。グレゴール公の野心は潰えたが、王国の内外には新たな敵が潜んでいることを。老宰相は杖を握りしめ、幼王の背を見守った。「陛下、この道は険しい。だが、私は最後まで共に歩む」

アルヴィンは振り返り、初めて王らしい笑みを浮かべた。「ありがとう、ヴァルデリオン。僕、負けないよ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ