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誰よりも知りたい人

「と言う事で、私の話は大体理解出来たかしら?」


「ああ、全くもって意味不明と言う事が理解出来た。」


「何でそうなるのよ!」


 喫茶店で長々とユキの話を聞かされて、あくびをしているソウタにユキの怒号が飛び交っている。朝早くのモーニングを頼んでいる人達からは静かなひと時を邪魔するなと言わんばかりの視線が飛んでいた。


「まずは声を下げろ、周りに迷惑だろうが。」


「あ、そ、それはゴメンナサイ。」


 そう言ってユキは周りを見渡して視線の先の人達へ会釈をして誤魔化すとソウタの方を向き直す。


「そもそもだな、俺はユキの失恋話を聞きに来てやった筈なんだが? 何で話がこうなった?」


「だから〜普通は失恋した女の子には優しくするものでしょ? だから提案してるんじゃないの。」


 ユキは楽しそうに語りかけているが、ソウタは既に帰りたそうな様子を見せている。ソウタにとっては突拍子も無い話になったのが容易に想像できた。


「ユキの性格は今の流れで把握できたが……お前っていつもそうなのか? 恋に恋しているって見えるぞ?」


「多分、この前までの私はそうだったと思うわ。自分の生き方を変えてくれた人が運命の相手と信じて疑わなかった少女の考えね。」


 いつの間にか真面目な表情でユキが語りかけていた。


「で、その思い込みから覚めたのは良いが何でその後の行動がそうなるんだ? その理論いくと同じ事の繰り返しじゃ無いのか?」


「い〜え、違うわ。今度はちゃんと相手のことを知ろうと思えたんだもの。前の私は勝手に自分のイメージを押し付けていただけだったもの。」


「参考までにどんなイメージだったんだ?」


 微妙な表情を崩さないソウタが聞く。


「そうね、鈍感だけど芯が強くていつでもカッコ良くて、信念に生きる男! って感じのイメージだったかしら?」


 その話を聞いてコーヒーを飲みかけていたソウタは盛大に吹き出してしまった。


「ちょっと! 汚いでしょ! 何で吹き出すのよ!」


「お前が変なこと言うからだろ! タツミのどこをどう見たらそう言う人物に見えるんだ!?」


「変だとは何よ! 今ならちゃんと分かってるわよ! いかに私が子供だったのか!」


 ソウタの吹き出したコーヒーを2人で片付けながらも口論は続いている。周りの視線は先程よりも明らかに冷たくなっていた。


「それは結構。だったらしばらく大人しくして周りをよく見て生活することを勧めるな。もう少し常識を身につけやがれ。」


「もうちゃんと目は覚めているから! まともな考えをした結果言ってるんじゃない!」




「あの〜、他のお客様の迷惑なんで……ケンカ続けるなら外でお願いできますか?」



「「すみません。」」



 マスターに静かに怒られた2人は会計を済ませて外へと移動するのだった。





「で、どうなのよ? 返事は? もちろんイエスよね?」


 近くの公園を目指しながらソウタが先を進むのをユキが追いかけながら問いただしている。


「答えはノーだ!」

「何でよ! 理由は!」


 声を被せるようにユキが不満を述べる。


「俺はロリコンじゃ無いから却下だ! 俺は25歳だぞ? 何で16歳に手を出さなきゃならんのだ!」


「もうすぐ17歳です〜! 別に後数年したら普通になるじゃないの! 少し前倒しになるだけじゃないの!」


「今の時点で色々アウトだ! そもそも8つも下なんて対象外だ! 守備範囲外なんだよ!」


「食わず嫌いなこと言わないで! むしろ現役女子高生と付き合えるなんてご褒美でしょうが!」


「ご褒美どころか法律的にもアウトだ! 俺を犯罪者にする気か!」


 やり取りを続けている2人は近くの公園のベンチに座って話を続けた。


「そもそも何で俺に惚れたになる? 別に説教をしただけだろうが? そもそもレンとナギの件が終わったら俺は無関係だろうが?」


「何を言っているの? もう私達無関係じゃ無いでしょうが? 一度繋いだ繋がりは簡単に切れないものよ?」


「よし、分かった! じゃあ俺はこれで帰る。ユキにいい出会いがある様に祈ってるよ!」


 立ち上がって逃げようとするソウタをユキはすぐに掴んで逃さな様にする。


「何で逃げるのよ! まずはお互いを知ってから返事をしたらどうかしら!?」


「もう変わり者って分かってるから結構です! 俺は合コンに行くんだ! 放せ!」


「この男!? 目の前で女の子が告白しているのに合コンに行くって言ったわよね!? 正気なの!?」


 逃げようとするソウタをユキは引っ張りながら引き止める。まるで寸劇のような光景だった。


「ね、ねぇ。妥協案を探しましょうよ! このままだとお互い平行線よ? それに私は諦めの悪い女ってわかってるでしょう?」


「妥協案も何も有るか! お前が諦めれば全て丸く収まるんだよ!」


「無理ね! 私の興味はソウタさんに有るもの! 正確に言うなら知りたいと思ったのよ。 好きとかそう言うものじゃなくて純粋に知りたいのよ。」


「知ってどうするんだ?」


 振り返りながらジト目でソウタがユキを睨む。


「お互いに知って、相性が良ければ付き合えばいいでしょ? ダメならそれまでだし。何か間違った事言ってるかしら?」


「勘違いされる可能性がある時点で俺にはリスクしか無い。それでもやれと?」


「損はさせないわ。こんな良い女を知ったら合コン何て行けなくなるんだから!」


 沈黙が続くが、諦めない強い意志を持ったユキの目を見てソウタはため息を深くついた。


「知るだけだからな? ユキが高校を卒業するまでは俺にそう言うつもりは無い事は先に明言しておくぞ。それに合わないと思ったらその場で終了だ。」


 むしろ素の自分を見て諦めてもらった方が早いと観念した様にソウタが難しい表情をしながら言うと、対照的にユキは満面の笑みで頷いた。


「モチロンよ! 今の選択をして良かったって思わせてあげるんだから!」


「何でそんなに自分に自信が有るんだよ……。」


「だって、ソウタさんの良い所がこの前ので良く解ったんだもの! こんないい男が合コン行ってモテないとか謎だわ。要するに今までの女性たちは見る眼が無かったって事よ! 語って良いならあの時の事を熱く語れるわ。つまり、今の時点でソウタさんを一番理解している女性は私って事なんだから!」


 ユキはキョトンとした顔をした後、すぐに熱弁を振るい始めた。逆にソウタは褒められている筈なのにドン引きの表情になって行く。


「な、なぁ。俺のキャラ分かってるか? カマチョで寂しがりでウザい事に定評が有る八雲とは俺の事だぞ? そもそもモテないのは俺の行動が原因だからだろ? 別に他の人の見る眼が無いとはおかしいと思うんだが?」


「何言ってるのよ! それが良いって人だっているんだからね? 結局は相性の問題よ!」


 コレは勝てないと諦めたような仕草をするがわずかに口元が緩んでいたのは気のせいでは無いだろう。


「俺はサボってた分の仕事が有る。特に土曜日は仕事で取材に行く事が多い。荷物持ちが必要なんだが、バイトするか? 給料はメシ代と足代を出す位しか出来ないが。」


 その返事を聞いたユキは大きく頷いて抱きつこうとするが、ソウタの長い手でおでこを掴まれて止められたのだった。


「そう言うのは無しだ。約束守れないならこの話は無しだ。」


「う~、分かったわよ……必ず落としてやるんだから。」


 不服そうなユキから手を離すとソウタはゆっくりと振り返って歩き出した。


「さぁ、早速行くぞ。昼にはアポが入ってるんだ。ついて来い。」


「は、はい!」


 追いかける様に小走りで付いて来る様子を見ながらソウタは初めての感覚に少し戸惑っている様子だった。


(追いかけてばかりだったけど、追いかけられる感覚も悪くないな。この感情がどうなるか、俺自身も少し楽しみだな。)


 二人はまだこれから上へと昇って行く昼前のほんのりと暖かい日差しの方へと歩いて行くのだった。

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