迷走の果てに
子供の頃から描いていた夢が現実になった。一緒に頑張って来た幼馴染と決勝の舞台で勝負を付けると言う二人で描いた夢だ。贅沢を言うならここが全国大会の会場じゃ無い事位だろうか?
しかしどんな小さな大会でも優勝出来るのは一人だけだ。優勝を経験できる人間なんてごく一部だろう。その貴重な経験を掛けて俺はここに立っている。
その決勝戦も延長戦までもつれ込んだのだが、こちらが圧倒的に不利になっているのに気が付いている。
レンの動きが更に磨きが掛かって来ているのと同時に、段々と的確に技を見切られ始めている自覚が有る。後ろでナギが何か言って応援していたがそれも関係有るのだろうか? いや、多分有るんだろう。
俺も今はヒジリの一言で何と言うか何でも出来る気がしてきている。
確認していないから確証は無いが、ずっと自分を応援してくれていた人が見ててくれている。心の中で少しだけ疑念を抱いてた誰かのイタズラとかでは無かったのだ。
何とも言えない何かが心を満たしていくのが分かる、心が充実しているとはこう言う事なのだろうか?
さぁ、カッコ悪い所は見せられない! どこかでいつもここまで来れば良いや、コレだけやったんだから良いだろうと言う自分を諦めていた自分に勝つんだ!
「勝負!」
審判の声が響くと同時にレンが動き出すのが見える、前と違ってフェイントも何も無い純粋にスキあらば仕留めようと言う執念みたいな物を感じる一撃が向かって来る。
俺も負けじと打ち返すがそれに反応しながら剣筋を変えて来る反応の速さがヤバい! 何とか体を動かして有効打にならない様にするので手一杯だ。
本当に化ける様に一気に強くなった……このままだと負けてしまう。だからこそソウタさんに言われた様に集中して相手をよく見るんだ!
やっと知り合えた……ヒジリに諦めない俺を見せるんだ!
そして別にもある感情が芽生えている事に気が付いた。それは今までに経験したことが無い感情だと気付いた。
「本当に強くなったな……。」
牽制し合いながらレンに声を掛けると、防具越しだが笑っているのが見えた。きっと俺も同じだろう。
「タツミもな、だからこそ思うよ。」
レンも同じ気持ちなのだろう。俺達の剣道は順風満帆じゃ無かった、負けをくり返して自分に絶望して、もどかしさを常に抱えた。理想の自分になれる様にと。
でも今、俺達は理解したんだと思う。理想の自分にはなれない。だからこそ自分らしく頑張って成長すれば良いのだと。
それを見て応援してくれる人が居れば頑張れる。心が満たされて行く。そうすれば自分が好きになれる、時間は掛かったが俺達はそれを理解した。だからこそ今こう思える!
「「最高に楽しいなぁぁぁぁ!」」
再び攻防が始まるがやはりレンの方が優位だ。攻めながらあのカウンター速度で反応して来るのは正直反則だと思う。だからこそ、俺も全力を出さないといけない。
俺は決心して使っていない右腕を竹刀の添えた。それを見てレンも少なからず驚いた様だった。
正直どうなるか分からない。だが、今使える全てを出し切らないといけない事だけは理解出来た。恐らく一発勝負だ、痛みがぶり返せば試合にならないからな。
レンも察したのか再び牽制しながらも張りつめた空気が試合会場を覆った。
段々と何かが研ぎ澄まされて行くのが理解出来た、静かな空間に居るのは俺とレンだけ。呼吸から筋肉の動き、それに応じた竹刀の動きがゆっくりと見えた。
一瞬のスキが見えた! そう思って動き出すが自分の体もゆっくりに動いている感覚がする。
そしてレンの竹刀が俺に反応してゆっくり動いている、俺はそれに合わせて竹刀を繊細にそして少しだけ動かして得意技になった「切り落とし」を両手に力を込めて狙う。
そして渾身の気合でレンの竹刀を払いながらゆっくりと俺の竹刀はレンの面に吸い込まれて行った。
「面有り!」
良く解らない感覚が途切れると同時に会場から拍手が沸き起こって我に返った。目の前のレンはやられたと言った表情でこちらを見ていた。
最後の礼ををして俺達が試合場から出ると部員達がお互いに駆け寄って来て揉みくちゃにされたのは言うまでもない。本当はヒジリにすぐに礼を言いたかったが少しお預けだな。
反対側を見るとレンも同じ感になっていた。本当はすぐにナギの所に行きたかっただろうに。
そしてつつがなく閉会式も終わり、ハイテンションになったコーチと顧問の先生が祝勝会をやるぞと騒ぐと、俺達はそのままファミレスに連行されることになったのだが……俺もレンもすぐに行きたい所が有るのですが!?
こりゃ、今日は会えそうにないか? 若干ありがた迷惑なお祝いが始まる事になった。
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「コレで良かったのか?」
「ええ、そうでもしないとヒジリちゃんは言う機会が無いでしょうからね。」
会場の様子を少し離れたところでユキとソウタ、龍一が眺めていた。
「しかしユキは切り替えが早いのか? まさか速攻で龍一を捕まえてヒジリちゃんをけしかけてくれと言うなんて思わなかったぞ。」
ソウタは驚いた様子でユキに語りかけた。
「だって、あの時の龍一さんとタツミ君の会話を聞いたら正体を知っていると理解出来ちゃったんだもの。だったら第三者が背中を教えてあげないとね。」
自慢気に答えるユキに龍一も驚いた表情を隠せない。
「どこで気付いたんだ? 別にそれらしい事を言った記憶は無いんだが?」
「そうね、弟思いのお兄さんが身近の女性はどうなんだ? って言う気がしないのよね。答えを知ってるからこそ勧めていると後で気が付いたわ。」
「ちなみに俺が弟思いって所の情報はどこから?」
「そんなのヒジリちゃんからに決まっているじゃない。友達になって短いけど色んな事を本音で話したからこそ、色々と教えてくれたのよ。」
自慢気に答えるユキに二人は色んな意味での感嘆の声で納得していた。
「しかし、付き合いが短い友達の為にそこまで出来るとは……本当に大した女性だよ。感心するね、俺だったらリア充爆発しろ! って言って知らんぷりしそうだけどな。」
「それはソウタさんだけだと思いますよ? 何で素直に祝福してあげられないんですか?」
ソウタの恨めしそうな表情を見て龍一がため息をつきながら肩を押さえた。しかしユキだけはそんな光景を見ながら意地悪そうな表情でソウタの顔を覗き込んだ。
「そんな事言って、何だかんだで嬉しいんでしょ? 本当に素直じゃ無いんだから。」
「は!? 誰が嬉しいって? 何だよその勘違いは! モテない同盟のメンツが減って俺はむしろ悲しいんだよ!」
慌てながら否定するソウタを見て二人は顔を見合わせて笑い出した。ソウタもその様子を見て気まずそうな表情をしてるのが更に事実を肯定していた。
「本当に……もう少し素直になれば絶対にモテるのに。でも暫くの間はそのままでいてちょうだい。」
ユキが聞こえない様にボソッと呟く。二人が聞き返そうとしているのを察して話題を切り替えた。
「友達を幸せにして、私はそれ以上に幸せだって言える様になるんだから! だから二人とも、最後まで付き合ってもらいますからね! あの状態じゃ二組とも告白までの決定的な流れになって無いんだから!」
「そうだな、アレは告白では無いな。」
「うむ、ここまでやったなら結末を見ないとな。」
二人は頷くとユキと共に最後の一押しを考えて、自分たちが最高の観客席でそれを鑑賞する作戦を練り始めたのだった。




