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二人の全力

「遅かったわね。どこまで行ってたのよ? 探しに行こうかと思ったわよ。」


「ゴメン、ゴメン。ちょっと欲しい物が無くて探し回っちゃったの。でもいい物を見つけれたわ。」


 ユキちゃんが何か嬉しそうにしながらジュースを渡してくれました。買い物の時に何か良い事でも有ったのでしょうか?


「そう言えば、ソウタさんと龍一さんが居たわよ。審判で呼ばれたって。」


「え? ソウタさんも気になっていると言う事かな? でも何で龍一さんまで?」


「実は昔からコッソリと審判に紛れて覗いてたりして?」


 ユキちゃんからの情報を私が不思議がっていると、ナギちゃんは驚かす様な表情をしながら言って来ましたが……冗談抜きで有り得そうで怖いです。  


 真面目に有り得ると考え込んでしまった私に、ナギちゃんも同じ結論に至ったのか少し頭を抱え始めました。


「言っておいて何だけど……本当に有り得そうで怖いわよね。ゴメン。」


「アンタ達の龍一さんへの認識ってどうなってるのよ……まぁソウタさんも変人の域だったから同レベルなんでしょうけど。」


 そんな私達を見ていたユキちゃんは明るく笑いながらお弁当を食べ始めました。そして私達は午前中の試合の考察をしながら楽しくお昼を過ごしました。



――――――――――――――――――――――



 午後になり団体戦の決勝トーナメントですが、タツミ君とレン君の鬼がかった強さで安定して優勝を決めて優勝を勝ち取ったのでした。


 優勝は数年ぶりの快挙だそうで、顧問の先生もコーチも大はしゃぎしていました。


 残念なのは県主催の新人戦なので全国大会が無い事でしょうか。全国大会のある選抜予選は1月ですからまだまだ先になりますね。


 そして個人戦が始まります。この時点で試合場は1面しか使用しなくなるので、私達は補助員から解放されてタツミ君達の近くの観客席に移動しました。


 2人は団体戦の勢いそのままに順調に勝ち続けて決勝戦まで駒を進めたのでした。


 私達は決勝が始まる前の少しの間に2人を激励に行きました。そこには防具を着けてても分かる程に高揚しているのを感じました。


「2人とも頑張ってね!」

「最後までカッコ良く決めるんだわよ?」

「何が凄いかよく解らないけど頑張って!」


 各自で声を掛けましたが……ユキちゃん。もう少し剣道を勉強しようね?


「当たり前だ。ガキの頃の約束をやっと果たせるんだからな。」


「タツミ……よく覚えてたな。アレから一度も口に出した事が無いのに。」


 タツミ君の一言にレン君も何かを懐かしむ様な雰囲気を出しています。


「どんな約束をしたの? 何となく予想はつくけど。」


 ナギちゃんが自分も知りたいと言わんばかりにレン君に詰め寄ります。


「夢を語っていた子供の初めての大会での約束さ。決勝戦で優勝を俺達2人で競うんだってな。」


「まぁ、実現するのに何年もかかったけどな。でも約束を果たせるのは何か嬉しいな。」

 

 おもむろに2人は小手を着けたままの手で拳を合わせて気合を入れています。


「陳腐なセリフだが勝つのは俺だからな。」

「レンだけには負けれない、ライバルだからな。」


 言葉を交わして2人は各自の位置へと移動していきます。



「今回はお互い応援先が違うから複雑だわね。」


「そうだね、でもどっちが勝っても恨みっこ無しだよ?」


 私とナギちゃんはそう言うと各自の応援する側へと移動しました。気がつくとユキちゃんは私達の中間の位置で立っていました。


「ユキちゃん? タツミ君を応援しないの?」


「その役目は私じゃ無いからね。しっかりと応援してくるのよ。」


 ユキちゃんは不思議と満足したような表情で返事をして来ましたが……今の発言はどう言う意味なのでしょうか?


 私が言葉の意味が分からないまま試合は始まるのでした。




「始め!」


「「メエェェェェン!!!」」


 開始と同時に攻め込んだレン君にタツミ君の竹刀がほぼ同時にお互いの面に吸い込まれると、タツミ君に旗が2本、レン君には1本上がりました。


 しかしこの場合は主審以外の二人が逆を上げてない限り覆る事は有りません。主審はタツミ君に上げていたのでタツミ君の一本になりました。


「始め!」


「メエェェェン!!!」

「ドォォォォォ!!!」


 二本目が始まると同時に再び互いが面へと打ち込みを掛けました。しかし今度は面に行くと思われたレン君の竹刀は綺麗に軌道を変えてタツミ君の開いた胴へと吸い込まれて行きました。


「胴有り!」


 審判の旗が一斉に上がりレン君が一本を取りました。タツミ君の竹刀は当たる直前でレン君は首を横に倒して寸前で避けていたのでした。


「完璧な捨て身での一撃……今までのレン君では見た事無い。」


「そうだな、攻めて攻めてのギリギリの攻防での抜き胴って所か。中々大したもんじゃないか。一本目も紙一重だったし、タツミの方が追い詰められているかもな。」


 私のつぶやきに返事が来て驚くと、横にはいつの間にか龍一さんが立っていたのでした。何か声を掛けようと思いましたがすぐに3本目が始まりました。


「勝負!」

(※3本目の場合のみ審判の掛け声が変わります)


 再び合図と同時に二人は動き出します。しかし先程までとは違うのはお互いが有効打にならない様に動きつつ相手への攻撃を打ち出し続けている所です。


 タツミ君は返し技を打たれそうになると半歩リズムをずらしてスキを狙いますが、レン君も初動は釣られても素早く返し技を狙って行きます。それにギリギリ反応するからお互いに有効打を決めきれずにいます。


「中々の攻防だ、これは全国大会レベルでも充分行けるな。二人とも何かが吹っ切れたな。」


 龍一さんの言葉に少しだけ横を見ると、とても優しい目で二人の試合を眺めていました。少しだけ目が潤んでいる様にも見えましたが……試合に集中しましょう!



「止め!」



 中々最後の一本が決まらずに3分の時間が過ぎました。本部からのアナウンスが入り、5分の休憩をはさんで3分の延長戦に入る事になりました。


 二人は一度面を外して水分補給をしています。


「ヒジリちゃん、行くぞ。」


「え? 龍一さん?」


 龍一さんはそう言って私の腕を掴んでタツミ君の方へと進んで行きました。


「タツミには君の声援が必要だ。バレンタインじゃ無くて今、ここで応援するんだ。」


「え? えええぇぇぇ!? 何で知ってるんですか!」


 いきなりの爆弾投下に私の思考回路は混乱の極みに達してしまいました。何を言ったら正解なのか全く解りません。


「すまないが2階の部屋からコッソリと見たんだよ。流石に2回目以降は待ち伏せすれば見れると思ってね。だから全て知っててお願いする。タツミに一番必要なのはヒジリちゃんの応援だ。」


 混乱している私を無視してタツミ君の目の前まで着きました。


「タツミ! お前に必要な物を連れて来たぞ!」


 そう言ってそのまま私をタツミ君の前に押し出すと、龍一さんはタツミ君に声を掛けてすぐに後ろに戻って行きました。


「ヒジリ?」


「あ、ああ、あの……」


 どうしよう!? 普通に応援すれば良いの? それとも龍一さんが言った様に……


「ずっと……」


「ん? ずっと?」


 タツミ君が不思議そうな顔をしています。


 今言うのはとても勇気がいります。でも今、タツミ君が勝つ為にこの一言が必要だと言うなら私は覚悟を決めます!


「中学2年からずっと見て来た、タツミ君の真っ直ぐな剣道を! ケガをしても諦めなかった! 強くなってこの場に立っている事にも感動してる! ずっと努力して来たタツミ君の結果を私に見せて! そして…………今までの自分に勝って来て!」


 私の言葉を聞いてタツミ君はポカンとした顔をしています。そして少しして何かが繋がった様な表情になりました。そして今は時間が無く、多く語れない事も理解していたからでしょう。たった一言だけ返事をくれました。


「ああ! 見せてやる! レンじゃない! 今までの自分の勝つ所をな!」


 そう言うとタツミ君はレン君を見据えて面を付けると、延長戦の始まる合図の笛が試合場に鳴り響きわたったのでした。



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