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彼の好み

 二日目以降は私が期待していた以上の事は何も起きずに日々が過ぎていきました。


 そして本日はアルバイト6日目です。皆そろそろ疲れが見え始めているのが食堂から伝わってきます。食事量が圧倒的に減る人、逆に増えていく人と二極化してますね。


「うどんの47番の方ー!。」


「あ、俺です。ありがとうございます。」


 油断してたらタツミ君でした! 危うくトレーを落としそうになりましたが、何とか持ち直して渡しますが、ヤッパリ慣れる気がしません。


 しかしタツミ君はここ数日麺類しか食べてない様に見えます。食欲が無くなって来たのでしょうか? このままでは夏バテしてしまいますね。


「皆、かなり疲労が溜まっている様ですね。」


「ああ、大体そろそろピークね。ここから逆にナチュラル・ハイになって来る面子が出て来るわよ。」


 叔母さんが長年の経験からだろうか。皆の様子を観察して今が疲労のピークと言って来た。


「そろそろ、明日から栄養バランスを本格的に考えて出さないといけないわね。さっぱりしていて、それでいて栄養がしっかりと取れるヤツを。」


 何でしょうか? 叔母さんの目が若干怖い目になっているのは気のせいだろうか? 何を一体作る気なのでしょう?


「さて、皆が麺類ばっかり頼むから食器が少ないわね。早く洗い物が終わったら午後の稽古を少し覗いてきたらどう? 折角だからお目当ての彼を見てきたら良いわよ。」


 そう言って叔母さんは愉快そうな顔をしてからかって来ました。全く……、全力で見て来ます!


「お姉さんー、かけうどんと天そば追加お願いしますー。」


「あ、は……い……?」


 注文が入って振り返ると初日に見た、タツミ君のお兄さんが居ました。間近で見ると確かにかなりのイケメンですが……、何と言うか皆が惚れ惚れすると言うのは解るのですが、何と言うか妙な違和感を覚えたのでした。


「相変わらず龍一君は麺類好きねー。夏バテしないの?」


「しないですよー、しっかり他も食べてますから。ただ麵好きだから食べずにはいられないって奴ですよ。」


 そう言って叔母さんと軽口を交わしている。コミュニケーションも上手の様だし、ある意味完璧超人と言われるのも解る気がするけど、タツミ君と兄弟なのに何と言うか受ける印象が違い過ぎたのでした。


「聖ちゃんも、龍一君を見て言葉が詰まってたけど一目惚れしちゃった?」


 叔母さんがからかって来ますが、むしろ私の感情は全く逆でした。何と言うか上手く説明できない物を感じたのです。


「いえ、私の本命は一人だけですから。浮気なんてしませんよ?」


 そう冗談っぽく叔母さんに返すのが精一杯だった。多分、外見は似ているんだけど中身が似ていないから? 何と言うか100%の自信に満ち溢れている様子? 陽気オーラMAXと言うか……陰キャの私には眩し過ぎる存在に感じたのでした。


「ん? お姉さんの娘さん?」


「違うわよ、姪っ子よ。中々の美少女でしょ? 彼女候補に如何かしら?」


「あはは、考えておきますよ。むしろ弟の方がお似合いかな? 年齢的にもね。」


 そう言って叔母さんが冗談めかして言うが、大人の言い回しで返して来る。会話の躱し方が上手だなと感心する。


 あ、でも後半の部分は是非ともお願いしたいですが……自分で頑張ります……頑張るもん……。


 注文の品が出来上がり、お兄さんは受け取るとタツミ君のいる席に歩いて行きました。何か話している様ですが、タツミ君は食べ終わると同時にテーブルに突っ伏してしまいました。


 うん、あの場でそのまま紹介されていたら後々面倒そうなので助かりました。









「聖ちゃん、屋上の洗濯物の取り込みをお願いして良いかしら? 私達はシーツを付けて来るから。」 


「あ、はい解りました。すぐに行きますね。」


 午後は仕込み班と洗濯物回収とベッドメイキング班に分かれるので、今日は洗濯物回収班に私はなった様だ。


「さてさて、慌てずに汚さない様にやらないと。」


 そう言って回収カゴを両手で抱えて屋上へと向かう。屋上と言いても2階が屋上なので階段の昇り降りもきつい程ではない。


 叔母さんから少量ずつで良いから無理なくゆっくりとで良いとの事だった。ゆっくりやっていたら休憩時間が無くなってしまうが、どういう事なのだろう?


 そうして屋上へたどり着き、端の方からシーツを回収してカゴに入れていくと剣道の練習場がハッキリと見えるのが判った。ああ、こういう事かと私は意味を理解した。


「取りあえず、早く何枚か持って行って、そしたら少し眺めるとしますかね。」


 そう言って私がシーツを取り込んでいると、真下辺りから聞き慣れた声が聞こえて来た。




「タツミ君、どうだい? 流石に中学生にはこの内容はキツイかい?」


「あ、八雲部長。さ、さすがに同じメニューは結構しんどいです。」


 んん? 丁度真下は丁度日陰になっています。もしかしてタツミ君は休憩してたのかな? そう思って下を覗き込むと二人の姿が見えた。一緒に居る人は部長と言われていた様だ。


「いやいや、ここまでついて来れるだけでも相当凄いよ。自信を持ちな。後、部長呼びはしなくて良いよ、八雲で構わない。」


「では、八雲さん。本気で俺が混ざって大丈夫でした? 俺なんかが相手だと、相手の人が稽古にならないんじゃ?」


 自信無さそうに言っているのが聞こえて来る。確かに中学生と大学生じゃ体格も体力も段違いだろう。でも何と言うかもっと別の意味での自虐の様な声に聞こえるのは気のせいだろうか?


「何を言っているんだ? 君の剣筋は良い物を持っている。例え俺達でも油断は出来ない程だ。君はもっと自分に自信を持ちなって。」


 眼鏡をかけたの優しそうな人がタツミ君を励ましていた。見た目は穏やかそうな人だが、部長と呼ばれていたからにはそれ相応の実力者なのだろう。


「いや、しかし兄さんに比べると実績も実力も劣り過ぎてますから、もっと強くなりたいんですが足踏み状態で……。」


「ふむ、どうもタツミ君は自己評価が低いな、もっと自信を持てよ。そうでないと彼女の一人も出来ないぞ?」


「いや、確かに彼女は欲しいですけど、自信とか関係あります?」


「当り前だろ、自分に自信が無くてオドオドしている男を誰が好きになる? もっと頼りがいが有って自信に満ち溢れている方がモテるんだよ!」


 いや、その理論は良く解りませんが……、自信が有っても独りよがりな人も居るから一概にそうだと言えないと思います……。


「ん~、でも別に剣道以外でそんなに卑屈なつもりは無いんですが……。」


「い~や、君は龍一にコンプレックスを抱え過ぎている。『自分は自分だ』ともっと自信を持て。龍一になるんじゃなくてタツミ君らしさを磨くんだ。」


 ん~、何かカッコいいセリフを言ってますね。後々に使えるかも知れないので覚えておきましょう。


「あはは、頑張って見ます。」


 タツミ君は愛想笑いで誤魔化しているが、部長さんの言う通り私はタツミ君のあの剣筋に惚れ込んだと言っても過言ではないが、そんなに卑屈になる程の実力がお兄さんに有るのか興味が少し沸いた。


「ちなみに、龍一はモテるくせに彼女居ないと言ってるが本当なのか?」


「ああ、本当です。好みを聞いても『直感がこの人だと言ってないから。』としか言わないので本当に謎です。」


「直感って……相変わらずの天才肌の奴の考えは解らんな。ちなみにタツミ君はどんな子が好みなんだい?」


 おおっと、それはナイスな質問です! それは私も是非とも知っておきたい!


「ん~、そうですね。月並みですが綺麗な髪のロングヘアーで、一緒に居て落ち着く子が良いですかね。」


「ほほう、髪が長いは解るが、落ち着く子と来たか。一緒に居て楽しいとかでは無くて?」


「ですです、楽しいも良いのですが、長い時間過ごすなら一緒に居て自然体で居られて落ち着く子の方が良いかなって。」


 ほほう、綺麗な髪のロングヘアーで一緒に居て落ち着く子……、髪以外抽象的過ぎます! もうちょっと具体的に!




「あれ、シーツまだ取り込んでないの? 早く行かないと向こうも待ちくたびれてるわよ?」



 他のバイトの子が来て声を掛けられて私は慌てて取り込んでいたカゴを抱えて今行きますと返事をして階段の方へと向かう。


 出来ればもう少し聞きたかったが、それはお預けにして仕事に戻ろう。運が良ければまだチャンスは有る筈だ。


「髪……伸ばそうかな……。」


 前髪を弄りながら呟く。まずは彼の好みに近づこうと最初の一歩を踏み出すことにしました。


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