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新人戦当日 その②

 さて、ついにタツミ君の試合が始まります。


「始め!」


 審判の声と同時に立ち上がると、上段の構えを取って相手との間合いを計っています。


「いつもと変わらないわね?」


 ナギちゃんが小声で呟きますが、私には纏っている雰囲気が違う事が理解出来ました。


 タツミ君は微妙な手の動きで相手を牽制すると、相手がピクリと反応するのが見えます。何度かそれをくり返し続けています。


 相手の高校もシードでは無いにしても強い学校です。相手の力量も高いのが分かりますが……前だともっとこう、すぐに攻めっ気を押さえられずに打ち込んでいた気がします。


「辛抱強くなっているよ……それに良く相手を見ている。」


 私の言葉にナギちゃんとユキちゃんは少し驚いた表情を見せると同時に試合は動きました。


 微妙な呼吸のズレと言うのでしょうか? タツミ君の牽制に対して半呼吸ズレてしまった相手の反応が遅くなった瞬間、竹刀が面を捉えたのでした。


「面有り!」


 審判の声が響くと同時に、それ場で静寂に包まれていた試合場から拍手が起きました。理解出来る人は今何が起きたのかを正確に把握していた様です。


「え? どう言う事? 今までと違うのは解るわよ? でもどう違うか解らないわ。」


「ゴメン、動画でしか見てない私は余計にお手上げよ……説明が欲しいわ。」


「取りあえず試合終わった合間に伝えるね?」


 そんな話をしているうちに二本目が始まりました。



 今度も同じくタツミ君は上段の構えのまま不動明王の様にどっしりと構えています。相手の選手も先程の様になるのを避ける為か積極的に間合いを詰めて攻めようとしていますが、タツミ君の牽制にすぐに一歩引いてしまいます。


「まるで前のレン君の様な攻め方だね。」


 私の言葉にナギちゃんが納得すると同時に、相手の選手は耐えきれなくなったのか攻めますが、待ち構えていたタツミ君の後の先の攻撃に返り討ちにされました。





「まるで、お互いの長所を交換した様な光景だったわね。」


「そうだね、自分たちの長所を残しつつもお互いの良い所を取り込んだ感じに見えたね。」


 私とナギちゃんが感心と驚きの表情で頷き合っていると、一人だけ理解出来なくて困っているユキちゃんが聞いてきました。


「私は動画でしか見て無いから良く解らないけど、そんなに凄い事が起きてたの?」


「そうだわね、戦い方を根本から変えるに近い変化と言えば伝わるかしら?」


 私も無言で頷くと、ユキちゃんはちょっと複雑そうな表情になっていますが……少し内容がマニアック過ぎたのでしょうか?


 その後もユキちゃんに二人で今の動きがどういう行動で1本になったとかを小声で説明しながら補助員の仕事をこなしていきました。




 そして問題無くその後の試合も進み、団体戦はブロック1位で通過で午後の決勝トーナメントに進みました。そのまま午前中は個人戦のベスト8まで消化して午後を迎えます。


 タツミ君もレン君も無事にベスト8まで残ったので、午後の試合が楽しみです。





「さて、私はお昼のお弁当を貰って来るわね。二人は場所を確保して連絡してもらえる?」


 休憩の合図と共に、ナギちゃんがまとめて受け取って来てくれると言ったので頷いて立ち上がりました。


「あ、だったら私は何か飲み物を買って来るわ。二人ともお任せで良いかしら? 色々教えてもらったお礼も兼ねて奢るわ。」


「そう? ありがとう。ではお願いしたわね。」


 そう言うとナギちゃんは大会本部席の方へ行き、ユキちゃんは入り口の自販機の方へと移動していきました。微妙に流れに乗れなかった私はどこか適当なロビーの椅子を探しに場所取りに移動を開始しました。



―――――――――――――――――――――――


「何か……タツミ君の事好きと言っておきながら、ヒジリちゃんに比べて全然理解出来てないのね。」


「ん? 何だ? 複雑な人間関係図になっているのか?」


 ユキは呟きながらロビーを移動していると不意に後ろから声をかけられて振り向く。そこにはピシッとした服を着たソウタの姿が有った。


「え? あ? そ、ソウタさん!? 今の聞いてたの!? と言うか何で居るの!?」


 ユキは顔を真っ赤にしながら慌てふためいているが、当のソウタは対照的に楽しそうにしている。


「ん? もちろん審判で呼ばれて来てたんだが。ユキは腕章を付けていると言う事は補助員か? という事は今日は全員勢揃いだな。」


「全員?」


「ああ、今日は龍一も審判で呼ばれて来ている。と言うか連れて来た。」


 そう言うとソウタは少し離れたところを指差すと、そこには龍一とタツミの姿が見えたのだった。


「連れて来たって……相変わらず人を巻き込むのが上手よね。」


「それは俺にとっては誉め言葉だな。それに教え込んだ二人の結果も見ておかないとな。少なくても自分が関わった範囲では責任を果たすのが俺の流儀だからな。」


 呆れた顔でユキは突っ込むが、その様子をソウタはむしろ楽しそうに見ながら答える。


「流儀ねぇ……って二人がこっちに来たわね。」



 


「で、どうなんだ? カッコいい所を例の子に見せられたのか?」


「来てるかどうか判らないさ。ただ、いつも手紙には見ている様な事が書いてあるから今日も来ているとは思うけど。」


「年に一度、バレンタインにしかコンタクトの無い相手に惚れてるとは……タツミも変わり者だな。いっそ身近なヒジリちゃんじゃダメなのか? あの子いい子だろうが?」


「正直言うとヒジリも気になっている。でも、これは俺のやる気を変えてくれた人へのケジメみたいな物なんだよ。何と言うか……ちゃんとしないと色んな意味で自分に対しても不誠実な気がするんだ。」


「理屈じゃ無いって事か。まぁその気持ちは大事にしな。」





 ユキは最初の方の話声が聞こえた時点で咄嗟に物陰に隠れていた。ソウタも何故か手を引っ張られて驚いた表情をしていたが、兄弟の話を聞いて困った表情になっている。


「そっか……タツミ君の気持ちは決まっているのね。」


 ユキは俯きながらボソリと言葉を出した。近くに居るソウタに聞いて貰いたかったのかは判らない。


「あ~、でもバレンタインの子とか言って無かったか? まだ確定じゃ無いんじゃ?」


 必死にソウタもフォローしようとするが、流石に今さっきタツミに好意が有ると言うのを聞いての直後でのこの状況は何の罰ゲームだと言った表情をしている。


「残念だけど、それもヒジリちゃんなのよね。この前聞いたから知ってるの。」


「え? そうなのか?」


「色々と頑張ってみたけど……完敗ね。何がダメだったのかしら……」


 ユキは俯いたままだ。ソウタにとってはこの状況を何とかしてくれる助っ人を求めたいが、周りの視線がむしろソウタが泣かせている様な図に見えて来ている事に気が付いて焦り出した。


「と、取りあえず、ここだと何だから少し外に行こうか!」


 そう言ってこの危険な状況からユキの腕を掴んで移動を開始した。ユキもすぐに状況に気が付いたのか慌てて付いて行くのだった。


「あ、ご、ゴメンナサイ。あ、あの手を離してももう大丈夫だから。ちゃんと付いて行くわ。」


「俺こそスマン。急に腕を掴んで申し訳なかった。嫌だったよな。」


 ユキが謝ると同時にソウタは慌てて手を離して謝罪するが、その様子を見てユキは普段の言動と今のソウタの言動が違い過ぎてつい笑いだしたのだった。


「アハハ、ソウタさんって軟派っぽい行動しているのに、こういう時は真面目なのね。」


「流石に俺の年齢で高校生とそういう風に見られたらお互いに困るだろうが! それにあの状態じゃ俺が完全に悪者だろうが!」


 からかい半分で言われた自覚があるソウタは、顔を赤くしながらも文句を付ける。


「そ、そうだったわ。ゴメンナサイ、つい可笑しくて。迷惑かけたのは私の方なのにね。」


 少しだけ和まされたユキが目尻にある涙を拭いてソウタに謝罪する。そして人が少ない所まで移動したのだった。


「それじゃ、完全な失恋ついでに相談しても良いかしら?」


 改めてユキはソウタの顔見て相談を持ち掛けたのだった。


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