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新人戦当日 その①

『無事に今回も補助員取れたか?』


『大丈夫だよ。補助員なんていつも人手不足だから。今回はユキちゃんも一緒に行くからね?』


『ユキも? バトミントンは日程が別なのか?』


『うん、なのでカッコいい所見せてね?』


『あんまりプレッシャー与えるなよ。一生懸命頑張るから見ててくれ。』


『ちゃんと見てるからね。おやすみ。』


『ああ、おやすみ。』




 タツミ君との連絡を終えて部屋の電気を消して眠ろうとしますが、何やら今回は特別な気がして中々眠りに付けません。


 レン君も何やら新人戦の後でナギちゃんを待たせている様ですし、タツミ君も練習は見に来ないで当日を楽しみにしててくれと言うのですから期待してしまいます。


 あの日以来、ナギちゃんも落ち着いた様子で勉強をしていました。


「信じて私は勉強するだけだわよ。」


 そう言ったナギちゃんの表情がとても晴れた表情に見えたのも印象深かったです。私もあんな表情が出来る日が来るのでしょうか? そんな事を考えながら眠りについたのでした。



――――――――――――――――――――


「で? ユキはどれ位に剣道のルールを知っているのかしら?」


「場外2回で1本と、審判が二人以上旗を上げたら1本でいいのよね?」


「うん、まぁ……確かに合ってるね。」


 私の返事にユキちゃんは胸を張って威張っていますが……まぁ補助員なら詳しく知らなくても出来ますから大丈夫ですよね……多分。


「不安だから、必ず私かヒジリちゃんに確認しながらやるのよ?」


「分かってるって、安心しなさい。適当にやる程バカじゃないわ。」


 そんなやり取りをしている間に補助員の割り振りが決まって、各試合場へと移動しました。今回は偶然にもタツミ君達が試合するブロックの補助員です!


「珍しいわね。初めてじゃない?」


「そうだね。コレでじっくりと見れるね。」


 私とナギちゃんが嬉しそうにしていると、ユキちゃんが怪訝そうな顔をしていました。


「どうしたの? 何か有ったの?」


「いえ、リアルラックが0と言われる私が居ながらタツミ君達の試合が目の前で見れるって……何か別の悪い事が起きるんじゃないかしら……」


「不吉な事を言ってるんじゃないわよ! 運なんて浮き沈みが合って当然でだわよ。一々気にしないの!」


 ナギちゃんが怒りながら注意していますが、ユキちゃんは不思議そうな表情のままです。普段からどれだけ運が悪いのか気になります。



「補助員の方集合してください~」



 呼び出しが掛かって二人のケンカが収まると、私達は補助員の定位置に着きます。既に一試合目のチームがコートの前で準備しています。その中にはタツミ君とレン君も居ました。


「頑張ってね。」

「ファイト!」


「おう、任せておけ。」


 私とユキちゃんはタツミ君に激励をすると、とても自信に満ちた顔で返事をして来たので驚いてしまいました。上手く言えませんが一皮剥けたと言ったら良いのでしょうか? 雰囲気が少し変わった気がします。


「しっかり見てるわよ? カッコいい所見せてよね。」


「ああ、ナギにも解る様に変化を……俺の決意を見せてやるよ!」


 隣りではナギちゃんとレン君がグータッチをして気合を入れています。周りの部員の人達が冷やかそうとしていますが、ナギちゃんの鋭い視線を浴びると黙ってしまいました。


 そして全会場に試合開始の合図が掛かるのでした。



――――――――――――――――――――――――――――


「で、今回は3人だから仲良くスコア記入と計測とタイムキーパーだわね。スコア記入と計測は私とヒジリちゃんで交互にやるから、ユキはタイムキーパーをお願いするわね。笛が鳴ったら旗を持って立ってるだけだから難しくない筈だわよ。」


「まぁ最初だから構わないけど……二人は自分のお目当ての試合の時はいつもそうやってたの?」


 ユキちゃんが手馴れている私とナギちゃんの行動を見て呆れた表情をしています。


「そうだわよ、二人の試合を見るのが目的であって、補助員はその為手段だわよ。当然じゃない。」


「むしろ……観客席なんて人が少ないから、隠れて見る為に補助員に紛れ込んで居たと言う方が正しいけどね。」


 私達の発言にユキちゃんは難しそうな表情をしていますが、ユキちゃん的には普通に観客席で見る方を選ぶんだろうなと思います。ここは性格の違いですね。


 試合の合間に小声で雑談を済ませていると、先にレン君の試合が始まりました。


「さて、どう変わったのかしら?」


 ナギちゃんの目がいつもよりも輝いて見える気がします。この前、アレだけの事をレンが言っていたのですから私も興味津々です。




「始め!」

「メェェェェン!!!」


 審判の開始の合図と同時に、レン君が真っ先に相手の面へと綺麗な一撃を決めました。


 相手のある程度はこちらの事を調べて来ていたのでしょう、レン君が自分から攻めて来るのは想定外だったのか呆然として一本を取られました。


「「え?」」


 そして私とナギちゃんも違和感が凄すぎて驚いた表情が隠せませんでした。ユキちゃんはまだ見慣れていないのか違和感が分からずにこちらを不思議そうに聞いてきました。


「何でレン君が一本取ったのに、二人ともそんな表情なのかしら?」


「い、いや、余りにも今までとのスタイルが違い過ぎるわよ……。」

「そ、そうだね……初手から攻めるの初めて見たかも。」


「そう言えば動画では自分から手を出して無いからって、ソウタさんが問題視してたものね。改善したって事なら良いんじゃないの?」


「いや、戦い方が根本から変えるって相当な事だわよ? ま、まぁ続きを見るわよ。」


 すぐに2本目が始まります。


 開始の合図と共に再びレン君が攻めますが、相手も今度は警戒して受け流します。そして間合いを取り直して竹刀を小刻みに動かして牽制が始まります。


「ここからね、どう変わったのが見えるのは。」


 ナギちゃんが無意識につぶやくと同時に、レン君の竹刀が上に上がると、相手は抜き小手を打とうと体が動くのが見えました。それに更にレン君が反応して手を引いて当たらない様に動こうとすると、相手もそれを察して面に切り替えようとします。


 それを感知した様にレン君も動きを変えて再び面を相手に打ち込むと、レン君の竹刀が相手の竹刀を撫で下ろして綺麗に面へと吸い込まれて行きました。


「面有り! それまで!」


 審判の言葉に周りから拍手が起こりますが、私とナギちゃんは目の前の信じられない光景を唖然として見ていました。


「今のは……フェイントを絡めた『切り落とし』だったわよね?」


「うん、返し技として使ってたよね。でも今までと全然違う。相手を待たずに自分から仕掛けてる事もだし……」


「自らの攻めっ気で相手を動かして返し技で仕留てるわね。似てるけど全然変わったわね……ゴメン少し鳥肌が立っちゃったわよ。」


 そう語るナギちゃんの顔は感動を覚えた表情をしています。レン君が自分の殻を破って成長したのを感じたのでしょう。


 私も同じですが、何故こうも人が変わっていく姿とは尊く感じるのでしょうか。そしてそれを見た人に自分も変わらなきゃと思わせる様な前向きに生きる何かを与えてくれるのでしょうか。


 さぁ、次はタツミ君の試合です。タツミ君も殻を破る為に一緒に頑張ったと言っていましたから楽しみです!

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