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少年の心

 その後、俺達は可能な限りソウタさんに稽古に付き合ってもらいながら新人戦までに一皮むける為に努力をくり返した。


 他の部員達も触発されたのか、一般稽古が終わってからもレギュラーや補欠のメンツは俺とレンの稽古を邪魔しない様に稽古を続け、1年生やそれ以外の部員は補助に徹してくれた。


「1年! スポドリ追加で! 水分補給したらインターバル無しですぐに行くぞ!」


「「「ハイ!」」」


「鳴海と工藤の分も頼むぞ、後アイシングの準備忘れるなよ!」


「「「ハイ!」」」


 部長がコチラを見ながらも指示出しをしてくれている。勝手な事をしているのに有難い事だと感謝しかない。



 そんな風景を見ていると、目の前のレンがいつもの様にぶっ倒れて場外へと連行されて行った。


「かなり反応が良くなって来たな、動きも腰抜けから卒業と言ったところか。そろそろ今の段階での仕上げに入るか。さて、タツミ君の番だな、来い!」


 ソウタさんはレンに合格点を出したのだろうか? 今の段階での仕上げと言う事は、何かを教えるけどまだまだ先が有ると言う事なのだろう。


「お願いします!」


 俺とソウタさんの稽古は相手の呼吸のスキを狙っての一撃必殺の打ち込みの繰り返しだった。レンと対照的に撃つごとに相手の動きをよく見て牽制をしながらの一撃と言うところだが……体の動きはレンに比べて少ないが脳への疲労がとてつもなかった。


「ホレホレ、しっかりと集中しろ! 全体を見て相手の乱れた瞬間に1点に爆発する様に集中して打ち込む! 上段の構えならもっと素早く、的確に来い!」


「ハイ!」


 気合の入れた返事と共に全身に気を張り詰める。少しでも緩めば、そのスキをソウタさんは見逃さずに一瞬のうちに打ち込んで来るのだ。


 そして集中力の限界を迎える頃に、ソウタさんがそこを越える為に他には聞こえない様なヤジを飛ばして来る。


「まだ甘い! そんなだらしない所をヒジリちゃんに見られても良いのか?」 


「何でそこでヒジリなんですか?」


「え? タツミ君あの子に惚れてるんだろ? 自覚無いのか? ってスキあり!」


 気が揺るいだ瞬間ソウタさんが胴を打ち抜いて行った。


「タツミ君も、鳴海君の事を言えないな。それとも更に一歩踏み出せない理由でも有るのか? それが剣道にも出てるんじゃないか!」


「何でもかんでも剣道に結び付けないで下さい!」


 言葉の合間を縫ってお互いに打ち出すが、やはり半呼吸程ソウタさんの方が速い!


「ヒジリじゃ無いですけど、情けない姿を見せたくない人は居ますね……勝手な思い込みかも知れませんけどね!」


「ほう! だったらその感情を乗せた一撃を打って来い! お前達に足りないのは,、集中力と体が限界を超えた先の感覚だ! 限界の先は感情で乗り越えるもんだ!」


 言葉と同時にお互いの面に竹刀が吸い込まれ合う。それまでの駆け引きの微妙な動きを理解している部員もいれば、何が起きているか理解出来てない部員もいるのが、振り返る際に見える表情で理解出来た。


 そしてソウタさんを見据えると前よりも何となくだが相手の動きや駆け引きが見え始めている気がした。


 脳は疲労で理解するのを面倒臭がり始めているのが分かる。それでもソウタさんは手を止めずに脳へと負荷をかける攻防を強いて来る。


(情けない所を見せられない、殻を破った姿を見てもらうんだ! レンだけカッコ良くなったんじゃ情けないからな!)


 そしてかつてない程の活気と熱気が部内を覆ったまま、ついに新人戦前日を迎えた。



―――――――――――――――――――――――――――


「さて、明日は本番だから今日は軽めに復習して終わりだ。明日に備えてしっかり休む事。絶対に今日は居残りするなよ?」


 稽古の開始でソウタさんが全部員へと通達した。


「よし、それじゃあ仕上げが必要な鳴海だけこっちに来い。それ以外は軽めのトレーニングで体に負荷を掛けるなよ?」


 全員が合図と共に移動を開始して所定の位置に着くと、ソウタさんはレンと向かい合ってウォーミングアップを始めた。そして終わると同時に俺を呼び出した。


「タツミ君、ちょっと時間を計ってくれ。2分で、良いか。そこでいったん止めてくれ。タツミ君もオーバーワーク気味だから今日はじっくりと見学しな。」


「わ、分かりました。」

 

 意味深な表情で語りかけて来たと言う事は……単にタイムキーパーの仕事じゃ無くて、動きをよく見ろと言う事なんだと察して準備をする。


「鳴海、今日は攻めて来ても良いがカウンターも使え。」


「え?」


「意図的に攻めっ気を身に付ける為にカウンターを考えずに打ち込んできてただろ? 攻めながらもカウンターを狙ってみろ。」


 攻めながらカウンターを狙う? どう言う事のなのだろうか? でも今の言葉でレンも何かは感じた様なのでじっくりと見させてもらおう。



 二人が防具を付けて稽古が始まる。



 最初はいつも通りの展開だったが、段々とレンの動きが変わって来るのが見えた。


 昨日までは常に打つ続ける感じのの稽古だったが、今回は間合いを随時取り直している。そして相変わらずソウタさんの竹刀の方が素早く撃ち込まれているが、段々とその軌道が逸らされている事に気が付いた。


 摺り上げ技や抜き技等の、今まで使わなかった返し技を使い始めている。そして攻めながら相手の動きに合わせての返し技を使い始めたのだった。


「そうだ! 今までのただ相手が動いた後の『後の先』を取るだけの剣道からやっと進歩したな!」


「まだまだだ! まだコーチから一本も取れてない!」


 1本目が終わり二人が言葉を交わしている。そして2本目が始まるとさらに動きに変化が見えた。


 俺とソウタさんがやっている様な微妙な動きによる駆け引きが始まった。そしてそれがとても高度な駆け引きをしている事に気付いたのだ。他の部員も一部のレギュラーだけは何が起きているのが理解して竹刀を止めて見入ってしまっている。


 そしてほんの数秒の駆け引きが終わり二人が動き出す。まさに電光石火と言った動きでソウタさんの竹刀が逸らされる、初めて綺麗にレンの竹刀が面に吸い込まれて行った。


「見事だな。今の動きをいつでも出来る様にしろ。」


「手を抜きましたよね? 分かりますよ。でも……ありがとうございました。」


 レンは深々と礼をする。


 俺と動きを止めていた部員達が拍手を送ると照れ臭そうな表情でレンは俯いていた。


 明らかにと思える程、ここ数日のレンは雰囲気が変わった。成長しているのが実感しているのだろうか? それとも全力で打ち込んでいるからなのか、とてもいい意味で活発になった気がする。周りが頑張らなければと思わせるほどの変わり様だ。


 ああ、少年の頃のひた向きさを思い出す。いつから俺達は後ろ向きになったのだろうか? この気持ちを維持出来ていたなら、もっと変わっていたのだろうか?


 いや、レンもナギと出会って、俺やヒジリ、ユキやソウタさんと出会ったから今ここに居る。何か一つでも欠けていたら、この気持ちでいられなかっただろう。考えるだけナンセンスと言う物だ。


「さて、タツミ君は今の鳴海と俺の試合を見て全部見えてたなら合格だ。この後二人でどう言う攻防と駆け引きが有ったか答え合わせをしな。それがタツミ君に足りなかったモノだ。」


 そう言うと、ソウタさんはクールダウンを指示して早目に部活を終わらせた。


 いよいよ明日は新人戦だ。レンはその後のイベントも有るだろうからしっかりと頑張れよと、心の中で応援しながら帰路についたのだった。

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