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颯太の指摘

「おい、鳴海だったな。」


「ハイ、や、八雲さん。」


 稽古が終わって防具を片付けていると、ソウタさんはレンの元へと歩いて来た。レンは敵対心を剥き出しにしている状態なのに、ソウタさんは気にする様子も無く挑発する様に話しかけて来た。


「顧問から話しは聞いたが、何で推薦を蹴ったにもかかわらず剣道部に入った?」


「別に、剣道が出来なくなった時に困るから勉強が出来るに越した事は無いじゃ無いですか。」


「保険って事か?」


「そうですが、何か問題でも?」


 不機嫌を隠そうともしないレンの態度も珍しいと思ったが、それに全然動じないソウタさんの胆力も凄いなと感心してしまう。


「ウソだな。」


「な!?」


 ソウタさんの言葉にレンは痛い所を見られたと言った顔になった。


「お前の行動も剣道も理屈も全部が嘘っぱちだな。薄っぺらい言い訳だ。」


「あ、アンタに! 会ったばかりのアンタに何が解る!」


 レンは今にも掴みかかりそうな勢いでソウタさんに喰って掛かる。周りが止めようとすると、ソウタさんは手を広げてそれを止めた。そして散って帰れとばかりにジェスチャーでその場から人を遠ざけた。


「あんな無防備な俺に自分から一撃も出せない時点で解るさ。それに昨日の件を見ても明らかだ。腰抜けどころか逃げ出しているチキン野郎じゃないか。いや、美味しく食べれるだけチキンの方が優秀だな。」


 逃げ出している。


 その一言でレンの動きがピタリと止まってしまった。


「何も言わないって事は正解か? お前の行動は自分を如何に正当化する為だけの物だろう? 推薦を蹴って勉強したのも、剣道で立ち行かなくなった時の為の言い訳だ。俺は勉強を頑張っているから剣道には本気じゃないと言う為の言い訳。俺は勉強の方が大事なんだと言う為のな!」


 レンが小刻みに震え始めているが、ソウタさんはそのまま言葉を続ける。


「それだったら、まだ工藤のただ真っ直ぐ突っ込んでくる方が余程まともで好感を持てるし、伸びるだろう。お前は言い訳や逃げ道を作ってる時点で成長の限界だよ、剣道も人としてもな。」


「何だと?」


「昨日の子もそうなんだろう? 相手の子は俺が見てても分かる位にお前に好感を向けていた。だがお前はどうだ? ハッキリとした言葉も行動もしていないんだろう? いや、コレだと誤解が生じるな。思わせぶりな言葉と行動しかしていないんだろう?」


 何かを言い返したそうなレンだが、結局は事実なのだろうか。何も言い返せずにいた。


「結局の所、お前は自分が傷付く可能性が有る事から逃げているだけだ。だから『相手が行動したから仕方なく対応した。』そういうスタンスを崩したく無いのだろう? 剣道でも恋愛でも人生でもな!」


「あ……アンタには関係無いだろう! 別にそれの何が悪いだ!」


 何とか声を振り絞って出していたが……否定しないんだなと思うと、ソウタさんの見立てには驚きを隠せない。幼馴染の俺でさえ、そんな考えをしていたなんて思ってもいなかったからだ。


「いつまで逃げ続けるんだ? 絶対に越えなければいけない壁が現れたらお前はどうするんだ? その時考えるとで言うつもりか? 逃げ癖が付いている奴が出来るのか?」


「に、逃げて何が悪い……。」


「悪くは無いさ。」


 レンはその一言に驚いた表情を見せた、だが続く言葉で再び打ちのめされる事になった。


「何の責任も持たずに、誰とも関わらずに生きて行くならな。だが、俺がこの二日で見た限りお前は2つの責任がある。」


 ソウタさんは指を立てながら説明を始めた。周りにはもう俺以外誰も居なくなっていた。コーチが気を利かせて他の部員をさっさと帰してくれた様だ。


「一つ目は、昨日のあの子に対しての行動だな。傍目から見ても仲良いんだろう? それなのにお前はハッキリとした行動も言葉も無い。それはあの子の本来の青春の時間を奪っている自覚は有るか? 手前勝手に振り回しているだけって自覚は有るのか?」


「俺が自分勝手に振り回して時間を奪っている?」


「青春もそうだが、時間は有限だ。お前の半端な行動で他人の時間を浪費している事に気付け、腑抜けが。」


 そしてソウタさんは更に眼を鋭くして、声にも凄味がこもる。


「二つ目はな、コーチから聞いているが工藤と高い所を目指そうと言っているそうだな? その癖にお前はあの行動か? お前の目指す高い所っては何だ?」


「そ、それは……」


 レンは既に顔が青くなり始めている。ここまで心をえぐる様な事を言われ続けたせいだろうか。


「インハイ優勝か? それとも工藤の兄貴を超える事か? 言ってみろよ。」


 そう言えば、兄さんに近づける様に頑張ろうとは言い合って来たが……具体的な事は特に行った事が無いな。コレは俺も耳が痛いかも……


「龍一さんに……少しでも近付く……」


「どう近付くんだ!? 曖昧だな。具体的な事は何も無しか!? 結局は捉え方次第でどうとでも言える目標だな。」


「そ、それは……」


「お前と工藤の目標は同じでも決定的に違う事を言ってやる! それは工藤が今の自分よりも少しでも良くなろうとしているのに対して、お前は言い訳ばかりの行動をしている事だ!」


 レンは相変わらず黙ったままだ。そしてソウタさんは返事を待ったようだが、返って来ないので言葉を続ける。


「届かなくても必死でもがき続ける奴と、届かなかった理由を作ってる奴、それがお前達の違いだ。お前は今の剣道になった時から目標じゃ無くて言い訳の剣道をしているんだよ! つまり親友を、工藤を裏切って時間を奪っているんだよ。それがお前の二つ目の責任だ。」


 そう言ってソウタさんは更衣室へと歩いて行った。




 しばらくの時間が経って、レンはゆっくりと申し訳なさそうな表情で俺の方を向いた。


「すまない、あの人の言った通りだ。俺は逃げ続けていた。出来ない言い訳を作る事に必死だったんだ。お前を裏切っていると言われて自覚したよ、悪かった。」


「レン……何を言っているんだ、一緒に頑張って来たじゃないか!」


 何て言ったら良いのだろうか? 全く分からない! ソウタさんもこの状況を作って帰らないでくれよ! この状況で気に効いた言葉なんて出せるか!


「いいや、俺は自分が傷付きたく無いから勉強を始めた。それは自覚している。自分に才能が無い事も含めて、目標に届かないと解った時から別の事で誤魔化そうとしてたんだ。」


「それは、勉強だってレンの努力の結果だろ! 別に間違った事じゃ無い。」


「ナギの事だってそうだ、俺が傷付くのが怖いから……もし今は良くても将来フラれたらどうしようとか考えると、アイツに好きだって言葉一つ言えなかったんだ。」


「レン……」


 レンは正座の体勢のまま床に手をついて自己嫌悪に陥っている、こうなったら自分で自分の感情を消化するしかない事は俺も分かっているつもりだった。


 でも、俺はこういう時に助けてくれる人が居る事をこの前知った筈だ。でも、その役目は俺じゃ無い事も分かっている。


「済まない……道場を閉めないといけないな。帰ろうか。」


 レンは何とか立ち上がって更衣室へと向かう。


 俺達は無言のまま着替えて道場を閉めて帰ろうとしたその時だった。



「遅いわよ! いつまで待たせんのよ!」


「本当に……体冷えちゃったから何か温かい物奢りなさいよ?」


「ふ、二人とも、わ、私達が勝手に待ってたんだから、それは違う様な……?」


 そこにはナギとユキ、そしてヒジリが待っていた。内心俺はかなりホッとしたのは内緒だった。

  



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