挑発
休憩がてらドーナツでも食べようと言って、3人でフードコートに来ました。
「さて、そこそこ混んでるから注文している間に誰かが席を確保する必要が有るわね。ナギ、お願いできる? 私とヒジリちゃんでまとめて買って行くから?」
「良いわよ。セットパックをシェアする? そうすれば計算も簡単じゃない?」
ナギちゃんが出してくれた案に私もユキちゃんも頷きました。
「そうだね、色々楽しむのにも向いているね。ナギちゃんは飲み物は何にする?」
「私はメロンソーダでお願いするわ。」
「了解。では行って来るね。」
ユキちゃんと私でおやつ時の混んでるお店へと歩いて行きます。そしてそれを合図に私の携帯が鳴り出しました。
相手は龍一さんです。
「もしもし、見えてました?」
「ああ、見えていた。ソウタさんは予定通り行動に移る。二人は程良く待機しててくれ。俺はこれからタツミに合図を送る。向こうも丁度良く誘導出来た様だ。」
「了解しました。宜しくお願いします。」
電話を切るとユキちゃんがタツミ君側はどうかと言う顔で見ています。
「ソウタさん今から予定通りに行動するって。タツミ君も上手い具合にレン君をこのショッピングモールに誘導できたみたい。」
「そう、良かったわ。ところでタツミ君はどうやってレン君を連れ出したのかしら?」
「確か新人戦も近いから部の消耗品の買い出しと自分のサポーターやらテーピングを選びたいから相談に乗って欲しい、お礼にフードコートで何か奢るからと言ったらしいよ。」
「それって1年生かマネージャーの仕事じゃ無いの?」
ユキちゃんが不思議そうな顔をしていますが、そこは龍一さんが現コーチにお願いしてタツミ君に今回はやらせる様にレン君の前で言ってくれとお願いしたそうです。
「それはね、本当に規格外のお兄さんの影響力で実現したんだ。よく考えたと思いましたけど、龍一さんって使える権力を出し惜しみなく使うのよね。」
「一体どんな権力よ! この前の話し合いでも思ったけど元剣道部OBと言うだけの筈なのに影響力強くないかしら?」
「まぁ、伝説のOBと言う事かな……」
私も引きつった笑いしか出て来ません。今回の計画の要所は龍一さんのOBとしてのコネが必要不可欠なので使わせてもらっている側とすれば心苦しくも有るのですが。
「あ、ソウタさんが動き出したわ。ヒジリちゃん店の方を見て気付かなくても変じゃない様にするのよ。」
ユキちゃんが先に気付いて私に促してくれました。私達はメニューを見るフリをしながら次の合図を待つことにしたのでした。
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「なぁ、タツミ。流石にお前が一番備品を使っているからって何で買い出しをさせられるんだ? 普通は一年かマネージャーの仕事だろ?」
レンが不満そうに文句を言いながら隣を歩いている。
流石に3年生が引退して部内では最高学年になって居るのに買い出しを俺が命じられた事に不満を持っている様だ。しかし、俺が肘の関係で誰よりも使用しているのを見ているからコーチの前では言わなかったらしい。
「そう言うなよ。間違いなく肘の関係で俺が一番消費しているからな……むしろ部費を出してくれるだけでも有難いさ。それにマネージャーは解るが1年の仕事と言うのはこのご時世アウトじゃないか?」
「コンプライアンスって奴か……まぁ年功序列でガチガチの考えも良くないよな。確かにそうだな、気を付けないといけないな。1年の部分は撤回しておく。」
レンはすぐに言葉を訂正した、コイツの自分の非をすぐに認めれる所は大したものだと感心させられる。俺だと感情が先走ってしまいそうだからな。
そんな話をしていると兄さんのからの着信が入ってすぐに切れたので、合図を理解してレンをフードコートへと誘導する事にした。
「買い出しも終わったし、そろそろ何か軽く食べに行くか? 奢る約束もしてたしな。」
俺は買い物をまとめて会計に向かいながらレンに語りかける。
「大体OKか? だったら行こうか、ちょうど小腹も空き始めたころだしな。」
レンの返事を確認してから俺は会計を済ませて荷物を抱えたまま移動を開始した。無事に作戦通りに事が進んでいれば良いのだが。
そして俺達がフードコートに入って何を食べるか周りを見渡していると、ソウタさん声が聞こえて来た。どうやらコンタクトは上手く取れた様だが……会話の内容がうっすらと聞こえて来るが酷いな。
「だから、ちょっとだけ買い物に付き合ってくれないか? もちろん君が気に入った物が有ればプレゼントして上げった良いし。」
「お兄さん、そう言うのは相手を見てから言った方が良いわよ。それに私は貴方に興味は無いし、友達を待っているので結構だわよ。」
「だったらお友達も一緒でも良いからさ。」
「余計に却下だわよ。」
「じゃあ連絡先だけでも交換しないか? もし、少しでも君が興味を持てるような事を話せたら買い物付き合ってくれないか?」
うん……何の下手なナンパなのだろうか?
いや、俺はナンパした事無いから良く解らないが……それでも酷い内容な気がするのは気のせいだろうか? 反対側にうっすらと見えるヒジリとユキが困惑しているのが背中越しでも判る位だ。
おっと、いけない。俺の目的はこの現場にレンを連れて来てけしかける事だった!
「な、なぁ……レン。アレって……」
「ちょっと行って来る。」
俺が口を出す前に悪目立ちしたソウタさんの元へと早歩きで進んで行った。
「だから、いい加減しつこいわよ?」
「だってさ、好みの相手を見つけたら一生懸命口説かないのは失礼に当たらないかい?」
「それは人次第でしょ? そう言うのが嫌だって人も居るわよ。」
ソウタさんとナギの話が続いている所にナギの正面からレンが勢い良く近づいて行った。ナギも気が付いて驚いた表情をしている。
「ナギ、そちらの方は?」
「ええ、何か先程からしつこくナンパされて困っている相手だわよ。」
レンが声をかけるとソウタさんはレンの方を振り返る。
「おや? 彼氏さんが居たのかい? だったら言ってくれよ~流石に彼氏持ちの子をナンパする程まで野暮じゃ無いんだからさ~。」
「そう言う事で失礼します。」
レンがその場からナギを連れ出そうとした時だった。
「でもさ~、だったら最初に言うよな? という事はそいつは別に彼氏じゃ無いって事で良いのかな? それにお友達を待っているでしょ? さっきの話だと女の子同士の友達だよね?」
「な、そ、それは……」
ナギが言葉を詰まらせている。自信を持って言えないのだろうな。レンも似た様な表情をしている。
「何だよ、事実なのか。ウソは良くないな。特に男の方、颯爽と登場したけどこの子に気が有るのか? そうでなければ別に邪魔する必要は無いよな?」
「べ、別にお前に関係な……」
「彼氏さんじゃ無いなら兄妹か? だったら納得するが、横から口出しするならその子にそれなりの言動を取っているのか? 本当に大切に思ってるなら言葉と行動に表せるだろ?」
「言葉……」
今度はナギの方が急に不安そうな表情をし始めたのが見えた。確かに好意は見せていてもハッキリとした言葉では絶対言わないレンの行動は、冷静に考えたら不安にさせる内容なのだろう。
「何も言い返さないって事は、別に恋人でも何でもないんだろうが好意は有るってか? 小学生でももう少しまともな言葉を言うと思うぜ?」
ソウタさんは立ち上がり、レンの顔を覗き込む様にする。
「俯いたまま何も言えねぇ腰抜けか。白けちまった。お嬢ちゃん、また会う機会が有ればな。そこの腰抜けが何も行動しないようならまた会えるだろうしね。」
そう言ってソウタさんはその場を去って行く、何も言い返せなくて俯いて居るレンと、困惑と少し寂しそうな表情をしたナギがその場に残された。




