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レンの悪い癖

「ふ~む、なるほどな。何となくだが分かった。」


 ソウタさんが顔を上げて困った様な表情をしています。


「今ので何か解りましたか?」


 タツミ君が不思議そうな表情で聞くと、


「タツミ君、少し聞くが君はレン君とは長い付き合いなんだろ? いつからだ?」


「小学1年生の時からの付き合いです。スポ少で知り合ってそのままずっと腐れ縁みたいな感じです。」


「レン君の剣道スタイルはいつからこんな感じだったか覚えているか?」


「いつから? 確か今のスタイルにしてから勝てる様になったから……確か小学6年辺りからですね。」


 そこまで確認すると、再びソウタさんは目を閉じて考え込みだしました。私達はその様子を黙って見守っていましたが、いい加減しびれを切らしたユキちゃんがせっつき始めました。


「ねぇ、一人で考え過ぎてないで考えた事を口に出さない? もしかしたらそこから今度はタツミ君やヒジリちゃんが気付く事も有ると思うんだけど?」


「ん? ああ、すまない。俺の悪い癖だな。そうだな、俺の考えを少しづつ話していくぞ。そこで気が付いた事が有れば言って欲しい。」


 ソウタさんがユキちゃんの声で我に返った表情になると、私達に確認する様に話し始めました。



「まず、レンのスタイルが異常なまでの待ちのカウンター型だ。ここまで自分から手を出さないのは珍しいレベルだ。ここまで来るとカウンターを狙っていると言うよりも自分から攻める気が無いとしか思えない。むしろ追い詰められて仕方なく攻撃していると言うのが正しいか?」


「確かに……相手がどんなに露骨にスキを見せて誘っても微動だにしませんが……それが長所だとばかり思っていましたが。」


「そうね、いつも冷静にギリギリまで相手を追い詰めてって感じを受けてたけど、視点を変えるとそう見えなくも無いですよね……」


 私とタツミ君が意外な視点からの診断に頷いていると、ユキちゃんだけがハッとした顔をしました。


「つまり剣道と一緒で、恋愛でもナギがいくら露骨に誘っても喰いつかない理由と同じって事?」


「事は単純に繋がる訳でも無いんだが、何となく似た感じを受けるな。コイツは切羽詰まってどうしようもない状態に追い詰めないと自ら動かないと見受けたが、どうだ?」


 ソウタさんがそう言ってタツミ君に聞くと、タツミ君もかなり考えこみ始めました。


「確かに、昔は攻める剣道が苦手でどうしても相手より半呼吸遅れるから勝負にならなかったのは覚えています、そして……あ、あの時か。」


 何かを思い出した表情でタツミ君は勢いよく顔を上げました。


「アイツのカウンター型のクセが付いた時を思い出しました。」


「何かキッカケが有ったのか?」


 タツミ君は頷くと話を続けます。


「6年生の時に中学校の人達が稽古に混ざりに来たんですよ、確か交流会だったか何だったかでしたが。その時にレンは中3の部長らしき人にかなり厳しく稽古を受けたんですよ。理由はさっきの通りですが。」


 つまり、怖がって踏み込みが遅い事をかなり強く指導されたって事ですね。中学3年生と小学6年生では体格が違い過ぎます。ある意味ではトラウマになるレベルでは無いでしょうか。


「その時に追い詰められ過ぎて、咄嗟に反撃したのがキッカケだったような気がします。反射での反撃ですから悪い部分の踏み込みの遅さは関係有りませんから。ただ、相手の人はそこまで理解していたかは分かりません。」


「追い詰められて、咄嗟の反撃ならば自分の欠点が隠せると理解したから、という事か。」


「それって良くない事なの? 別に戦術の一つと思えば普通じゃ無いの?」

 

 ユキちゃんが不思議そうに男性陣に聞いていますが、多分剣道の本質からは遠い所にある気がします。


「普通のカウンターが得意な人なら良いが、レンの場合は手を出されたから仕方なく反撃しています見たいな雰囲気を感じるんだ。それが良くない。」


 ソウタさんは的確に問題点を洗い出しています。攻める気が全く無いと言う所がどう問題なのかユキちゃんは理解に苦しんでいる様です。


「そもそも受け身だけではダメだ。意思を持って反撃するなら良いが、仕方なく反撃してますってのは良くない。少なくとも武道の精神とは違う感じがするな。」


 そこまで話すとタツミ君がまた何かを思い出したようでした。


「そう言えば、アイツの成績って小学校までは大差無かったんだ。アイツが急に勉強を真面目に取り組み始めたのは、その出来事が有った直後からだった。」


「そう言えば、レン君ってスポーツ推薦来てたのに断って、一般入試で入学して入部してたよね? スポーツ推薦って確か色々とメリット有ったよね?」


 私も不意に入試での勉強会の時の話を思い出しました。どうせ剣道部に入るのだから、何故にそんな面倒な事をしているのでしょう? と疑問には常々思っていました。聞いた時は上手くはぐらかされたので、これ以上は聞かない方が良いかなと思ってもう忘れてましたが。


「え? レン君ってそうなの? スポーツ推薦だと授業料や入学金の一部免除と成績優秀者や真面目に取り組んだ生徒には優先的に推薦枠をくれる筈よ? それすら全部蹴ったって事?」


 ユキちゃんが困惑しています。って推薦枠で入るとそんなメリットが有ったのですね……知りませんでした。


「何だその面倒な奴は? わざわざ一般で受けたクセに推薦を蹴った剣道部に入っている? コレは思ったより根が深そうだな……いや繋がっているか?」


「ソウタさん? 何か解ったんですか?」


「色々と理解は出来て来たが……結構面倒だな。恋愛相談という話だったが、これは最早レンのメンタルケアが必要な内容だと理解出来た。」


 ソウタさんの指摘で完璧に見えていたレン君でしたが、苦手とするモノが浮き彫りになって来たのも驚きですが、それよりもソウタさんの観察眼と言うか洞察眼が凄いと思いました。


「どうせ首を突っ込むならトコトンまで付き合っても良いぞ? ただしやるなら全員一致の上でだ。そうでないと俺にもリスクがある。」


 ソウタさんが私達に確認する様に見渡します。私とタツミ君はそれぞれの相方と付き合いが長いので即答ですが、ユキちゃんはどうでしょうか?


「悩むまでも無いわね、友達の為にそれ位出来ないんなら、そもそもそんなのは友達ですら無いわ。私はナギと友達として付き合っていきたい。だから返事はイエスよ。」


「ユキちゃん。ありがとう。」


 私はついユキちゃんの手を取ってお礼を言うと、ユキちゃんが妙に顔を赤くしながら照れています。


「ヒジリちゃんって……こう何と言うか、素直で可愛いわよね。そう言う所大事にしてね。」


 私が小首をかしげているとソウタさんが咳払いをして、話に戻って来いと合図を送っていました。


「そうしたらだ、作戦を立てるにあたって龍一にも少し手伝ってもらう。」



「「(お)兄さんに?」」



 私とタツミ君が同時に不思議そうな声を上げます。ユキちゃんは一人だけ龍一って誰よ? って言ってますが、すぐに理解した様でした。


「確か……新人戦は3週間後だっけか?」


「そうですね、もうレギュラーは決まっていて、レンも出ます。」


 そして何かを計算しています。暫くして終わったのかテーブルに手を乗せて前のめりになります。


「よし、良く聞け。この作戦は相手のナギって子も含めて少し騙す事になるが、そこは腹を括ってくれ。そしてメインのレンにはかなり酷な事をする。改めて聞くが全員必ず役割を守れるか?」


 私達は全員で頷くと、ソウタさんは龍一さんに電話をかけて呼びつけたのでした。



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