熱いうちに打て
「と言う事で、この集まりはあの二人を如何にしてくっ付けるかを企む集会になります。」
タツミ君の微妙に変な敬語での私達の集まりの主目的の説明をユキちゃんにしています。ユキちゃんもウンウンと頷きながら聞いていました。
「まぁ、あの二人に関しては1年生の時からクラスではそこそこ有名だったしね。と言うか付き合って無いと言う話を聞いた時の方が驚いたわ。」
ユキちゃんは昨日の打ち合わせた通りに1年生の時から色んな意味で二人は有名だったから知っていると話してくれました。
1週間だけとは言えレン君とナギちゃんのあの夫婦漫才を見ていれば普通にそういう感想になって不思議は有りませんからね。
実際にある程度二人に近い人の中では公認カップルの様に扱われているので、本人達が否定しても外堀を自分達で埋めているんですけどね。
「既に周りでもそういう認識だったか、流石に今回の件は俺の目でも間違っていなかった様で安心したよ。もし間違ってたら変な事にヒジリを巻き込んだことになるからな。」
ユキちゃんの返事を聞いてタツミ君がホッと胸をなでおろしていますけど、私も本人から聞いて知ってるって言ったのに! いや、もしかしたらの可能性を考えているのか、ユキちゃんへの建前として言ってるのかどちらかでしょうか?
「ところで、今までにどんな作戦をやって来たのかしら? 今後の参考の為に聞いても良い?」
ユキちゃんが今までの私とタツミ君の活動を確認してきましたが、私だとボロが出る危険性が有るのでタツミ君主体で説明をしてもらいました。
「ん~、最初のファミレス集合は今後の為としても動きやすくする意味では正しいと思うわ。」
最初こそ頷いて聞いてくれていましたが、勉強会の話の下りに差し掛かると物凄く微妙な表情を浮かべ始めました。そしてお互いのご家族に気に入られている話になった時には頭を抱えだしました。
「意味わかんない! 何でそこまで家族とも打ち解けてるのに付き合ってすらいないの!?」
うん、そこはね……私達も謎なんだ……。
「え? 何? お互いの家に行き来している、レン君がナギに勉強を毎週教えていて、お礼にナギは手料理を振舞ってお互いの兄弟との関係も良好? ナギはナギでレン君と同じ大学行きたいから勉強を頑張ると言って教えてもらってる?」
テーブルに手を叩きつけてユキちゃんが顔を上げると、私達に確認する様に聞いて来たので私達は静かに頷きました。
「付き合うも何も、さっさと結婚しろ!」
あ~思ってても言わなかった事を言っちゃいましたね……普通はその段階レベルの行動だよね? 私も思ってたけど今のメンツでは言うに言えませんでした。
「えっと……俺が想像してたよりも上のレベルのお付き合いだったか?」
「お互いの家族公認で同じ大学行きたいから勉強教えてって言ってる時点で告白と同じよ! それに曖昧な返事を返しているレン君も大概だけどね!」
ユキちゃんの気迫に私とタツミ君は圧倒されつつも、夏祭り迄の話の続きをします。段々とユキちゃんの表情が呆れを通り越して『うわぁ……』と言った表情になりました。
「思ったより深刻ね……」
「深刻なのか?」
「コレは有れね、本当にキッカケが無いと自然に別れるパターンの典型例ね。付き合いが長すぎて家族にしか思えなくて恋愛対象から外れるってやつね。」
「え? そう言う物なの?」
ユキちゃんの深刻そうな表情と裏腹に、私とタツミ君は理解が追い付きませんでした。だってあのお互いに愛の重い……いや訂正しましょう。嫉妬力? 束縛力? ダメです良い言葉が出て来ません。まぁそんな二人がそうなるのでしょうか?
「今はそう見えるかも知れないけど、そうやって実は俺達付き合って無いから問題無いよな? って言うドラマや漫画が山ほど有るじゃない! ちゃんと事実として付き合わせないとお互いの為に良くない気がするわ!」
私とタツミ君は顔を見合わせて「そう言う物なのか?」とアイコンタクトを取るような形になっていると、むしろ不思議そうにしてきました。
「全く、二人とも恋愛が分かって無いわね。恋も鉄も熱いうちに打たないとダメよ。熱いうちにぶつかり合って言葉を交わして形にして行くの! 冷めてから形を作り直すなんて無理なんだからね?」
例えが合っている様な合っていない様な……? 何とも言えない沈黙が続くと、ユキちゃんはそのまま話を続きをしました。
「いい? まぁ私も人の受け売りだけど、恋人の関係性って最初が肝心とかよく聞かない?」
「確かに聞いた事は有るけど。」
「お互いの恋の熱が高いうちに二人の関係性をしっかり形作らないと、いびつな物が出来上がるんだって。」
「いびつな物?」
今度はタツミ君が不思議そうに聞き返します。
「そう、二人の恋心が別々の鉄の塊としてみるの。そしてそれはいずれ家庭を作る際の元になる物なのよ。その鉄が綺麗な形を作れなければ意見は割れるしケンカも増える。あ、別にケンカがダメと言う事じゃ無いわよ。ただ、いずれ壊れてしまう様な物になってしまうと言う事らしいの。」
「随分と難しい話になって来たね……」
私とタツミ君は真面目な表情で話を続きを待ちます。
「だからこそ、恋の言う名の鉄が熱いうちに正しい関係性を二人が作らなきゃ長持ちしないのよ。だって興味が薄い人の欠点やワガママを受け入れられる? 無理だよね? そう言うのが出来るのは愛情が有るうちだけだからね? だからこそ最初が大事なんだって。」
なるほど、確かに恋愛フィルターとは良く聞きますがそれに近いものでしょうか? でも言っている事はもう少し奥が深い気がしますが。
「で、ここの関係性を恋愛フィルターで誤魔化すのが一番ダメなんだって、その時は綺麗な球体になったつもりでも『いびつな球』は動けなくなる。そういう関係性にしちゃいけないって事も言ってわ。自由に動ける球になるのが理想だって。」
「二人ならどこでも行ける様な関係性を作り上げるのが大事って事か?」
「そう言う事ね。だからこそ、今の二人の関係は『いびつな球』と言うよりも『不安定な球』に見えるわ。だとしたら早く綺麗な球になる様にしっかりと二人をくっ付けないといけないと思うわ。」
「何となくだが理解は出来たんだが……ちなみに誰に聞いたんだその言葉?」
一通り話が終わると、タツミ君は不思議そうに聞いています。私も聞きたかったんですが、随分と奥の深い話をしているので、恋愛マスターの友達でも居るのでしょうか?
「それはね……うちのお母さんよ。」
「「は?」」
二人の声が自然とハモってしまいましたが……お母さんですか!
「お母さんの経験談として良く言われたのよ。まぁ『いびつ』なまま冷えたらどうするの? って聞いたら返事が『もう一度熱くするのよ。』って答える様なお母さんだけどね。」
うん、そのメンタル思考は凄いと思いますが、実践できる人は少ないと思います。その母が居てこの娘有りですか……妙に納得してしまいました。
「では、その恋愛強者っぽいお母さんから何かアドバイス貰えそうか?」
「一応聞いてみるけど、あまり期待しないでね?」
「では、今日は顔合わせと言う事で連絡先を交換して、また明日アドバイスを元に作戦を練ってみよう。」
そう言ってタツミ君とユキちゃんは連絡先を交換すると今日は解散になりました。
そして私とタツミ君が駅に着くと荷物を持ったままタツミ君が付いて来てるのに気が付きました。不思議に思い小首をかしげていると、
「何不思議そうな顔しているんだ? 勉強会するんだろ? 一応ユキの目の前で言うと後でクラスでからかわれたりしないか気を使って言わなかっただけだ。」
ちょっとだけ頬を赤くしながら声をかけてくれました。
「あ、ありがと……うん、そうだね。今週も頑張ろうか!」
「ああ、明日は話し合い長くなるかもしれないから、その分も今日しっかりやらないとな。」
ちょっとした気使いを嬉しく思いながら、私達はいつもの勉強会を始めたのでした。




