名前を憶えて
そして土曜日の午後、私とユキちゃんはショッピングモールのフードコートでお昼を一緒に食べながらタツミ君を待っていました。
「ねぇ、ナギって別の中学だったんでしょ? どうやって知り合ったの?」
「中3の中総体で先生に補助員をお願いされた時に、ナギちゃんも補助員で来てて知り合ったんだ。」
「え? まさかの補助員繋がりなの? 人生何が起きるか分からないものね。じゃあ、もしかして鳴海君との知り合い方は?」
「えっと……私とナギちゃんが一緒にお昼を食べていた時にナンパして来たと言った方が正しいのかな?」
「え!? あの鳴海君がナンパ? 確かあの当時2次元専門だとか言ってオタク系で有名だったのに?」
レン君……あなた中学校で何をしたらそんな意味で有名になったの? いや、ユキちゃんだから知っているだけなのでしょうか?
「ゴメン、半分冗談だよ。私とナギちゃんの話を偶然に盗み聞きしてて、タツミ君にバレンタインチョコを渡した人が私と知ったから興味を持って話しかけて来たって言ってたかな?」
「何でそこが曖昧なのよ? まぁ私も今週はナギと鳴海君を見てたけど……本当にバカップルの様な感じだったわね。逆にナンパされたと言われた方がしっくりすると言える気もするわ。」
「だよね? だから私がそう言いたくなる気持ちも分かるでしょ?」
「当時の情報から察するに偶然なのでしょうけど……何と言うか、人の出会いって不思議よね。」
ユキちゃんが腕を組みながら頷いています。確かに人との出会いなんて偶然の産物なのでしょうが、こう考えると本当に不思議ですよね。
「で、当時の私がタツミ君に好意を持っている事を知ったレン君が面白半分で協力すると言って、今の3人組が出来上がったの。この話はタツミ君には内緒だからね?」
念の為にユキちゃんにも今の私の立ち位置の詳細を教えます。そうでないと下手に口を滑らせて色々とややこしい事になりかねないからです。
「つまり、ナギと鳴海君はヒジリちゃんの協力をすると言っている。タツミ君はナギと鳴海君をくっ付けようとしてヒジリちゃんにコンタクトを取ったと……2重スパイの様な物ね!」
「ま、まぁそんな感じかな? なので立ち位置が複雑なの。だからタツミ君と知り合わせる交換条件として私の立ち位置でのフォローをお願いできれば助かるの。」
私は手を合わせて軽く頭を下げました。
「ちょっと、止めなさいよ。頭下げなくても良いし、お願いもしなくても大丈夫。友達の為ならそれ位協力するから。それとも私はヒジリちゃんの友達じゃ無いのかしら?」
顔を上げると素敵な笑顔が見えました。この表情と声はウソを言っている様には見えません。何と言うか人としてユキちゃんの大きさを感じるには充分な行動の様に見えました。
「本当に私が友達で良いの? 恋敵だし、ほ、ホラ。私って陰キャだし……。」
こう言う所が私の良くないクセなのは分かっているのですが、どうしても気になって口に出してしまいました。
「あのね、流石に私も生理的に無理な相手とは付き合わないし、友達付き合いもしないわ。この前二人と一緒に過ごして、本音で楽しかったから二人と友達になりたいと思ったの。そこはウソをつかない。」
真剣な眼差しでコチラを見据えるユキちゃんが眩しく見えます。
「それに正直に言うと、もしヒジリちゃんが嫌な人だったら恋敵にもならないと思って別の方法で知り合おうとしてたの。でもヒジリちゃんは良い子で、素敵な子だって分かったから仲良くもしたいし後腐れが無い恋の勝負をしたいと思ったの。」
「ユキちゃん……何かそこまで言われると、ライバルを増やしたく無いとか思ってた自分が恥ずかしくなるよ……。」
私はユキちゃんの真っ直ぐさに目を合わせられずに俯いてしまします。
「それは当たり前の感情よ、私もヒジリちゃんの立場なら断ろうとすると思うわ。まぁちょっと私の押しが強すぎたのも有るから偉そうには言えないけど……」
そう言うとユキちゃんも照れ臭そうに指をモジモジさせながら俯いてしまいました。
「ま、まぁその……私ってこういうキャラだから、何と言うか……周りの友達もその場に会わせる人しか居なかったと言うか……ナギの様にバッサリ言ってくれる人も居なかったし、ヒジリちゃんみたいに周りの空気を落ち着かせてくれる雰囲気を持った子も居なかったから……ああ! もう! 何て言えば良いのかしら!」
上手く言葉に出来なくて悶々としながらユキちゃんはおさげ髪を弄り回し始めました。
「ふふ、私もユキちゃんの様にまっすぐな友達は初めてだから嬉しいよ。大丈夫、言葉に出来て無くても気持ちは伝わった気がするよ。」
「ヒジリちゃん! ヤッパリ私の目に間違いは無かったわ!」
ユキちゃんは私の両手を取って嬉しそうにしてますが……うん、周りの視線が痛いからここでは止めようね? 絶対これって周りは勘違いするパターンだよね?
「えっと……随分と仲が良さそうだな……?」
聞き慣れた声に振り向くと、少し引いた表情のタツミ君が居ました……何でこのタイミングなんですか! お約束ですか!
「え、あ、く、工藤君!?」
ユキちゃんはタツミ君に気が付いて慌てて手を引っ込めましたが……もう遅いと思います。
「タツミ君、どう思ったか素直に言ってもらって良いかな?」
流石に勘違いされるのは嫌なので少し圧を込めて聞き返します。ここで私がそういう認定されるのは困りますからね。
「い、いや、ナギ以外に仲が良い友達が居たんだなと思って……。」
グフッ……別の意味でのダメージを受けてしまいました……
そうだよね! 私が学校以外でナギちゃんとレン君以外と一緒に居る所をタツミ君は見て無いですよね! それが事実だから何も言えませんけど! でももう少し言葉のチョイスをお願いします! ユキちゃんとの後だから余計にダメージが酷いんです!
「そ、そうだよね……わ、私に友達が多いって、ふ、ふふ、不思議だよね……。」
ダメージが大き過ぎて魂の抜けた表情になっている自信があります。タツミ君とユキちゃんが慌ててフォローを入れてくれていますが、耳に入って来ませんよ。
「く、工藤君! 何て酷い事を! ヒジリちゃん気にしているのに!」
「え、あ、ああ、あの。す、スマン! ヒジリ、そういうつもりで言ったんじゃ無いんだ! おい、こっちの世界に戻って来い!」
「ヒジリちゃん! 大丈夫! 友達なんて量じゃ無くて質が大事なのよ! 上辺の付き合いの友達10人よりも親友と呼べる人が1人でも居ればそっちの方が勝ちなんだからね!」
「そ、そうだぞ、ヒジリ。お前には親友と呼べるような友達が居るから大丈夫だろう!?」
一生懸命な声だけは理解できたので、いい加減現実に戻りましょう。
「だ、大丈夫……ゴメン、私の悪いクセが出たね。」
私が落ち着いたのを見てタツミ君も席に着きます。そして改めてユキちゃんを紹介しようとした時でした。
「えっと、初めまして。俺は工藤 辰巳です。宜しく。」
やっぱりユキちゃんは顔も名前も覚えられていませんでした……ユキちゃんの表情が強張っているけど、今は関係性0からスタートすると思って気持ちを切り替えようよ!
むしろ今までフラれていたとか言うマイナスイメージも無くなる筈だから! とまでは言えないよね……
「わ、私は三上 悠輝よ。ユキって呼んでね。」
「分かった、宜しくなユキ。俺も名前で呼んでくれ。これからは協力する仲間だからな。」
やっと名前を憶えられたであろうユキちゃんはホッと胸をなでおろすのが見えました。




