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花火が始まって タツミ側

 レンとナギを追いかける様に俺とヒジリは手を繋ぎながら花火会場へと進んだのだが……


 なぜ俺は手を差し出した!? そして条件反射のように手を繋いでいたんだがこの後の俺はどうしたら良いのだ!?


 お面でお互いにまだ顔を隠しているが恐らく俺の顔は真っ赤だろうな。耳まで熱いのが分かる。


 どうしたら良いのか分からないまま会場に到着すると俺達は土手に持ってきたシートを広げて無言のまま座るが。


 手を離すタイミングが分からなかったが、シートを広げる際に手を離したが……ちょっと名残惜しそうな目が見えた気がしたのは気のせいだろうか?


「照れ臭かったね。気を使ってくれてありがとう。」


「あ、いや。何か目の前であんな迷子を見たらな……」


 少しして落ち着いたのが自覚できてからお面を外すとヒジリも外してシートに座った。


「そ、そのすまんな嫌じゃなかったか?」


「え、べ、別にそ、そんな事な、無かったよ。」


 また微妙な沈黙が続いてしまう。何この空気! 本当に俺はどうしてあんな行動を!?


 そんな甘酸っぱい空気が流れる中、花火大会のアナウンスが流れて花火が打ち上がり始めた。


「綺麗だね〜。」


 ヒジリが楽しそうに見上げている。


「そうだな、今まで見てきた中で1番特別な気がするよ。」


 俺の声は花火の音に隠れる位の声だった。不意に心の声が漏れたのだ。


 別に付き合っている訳でも無い、明確に異性への好意を覚えた記憶が無い。いや、過去には有ったと思った事も有る恋心らしきものはどちらかと言うと恋に恋していた感覚なのだろう。


 今は隣にいる女性から目が離せなくなっていた。


 綺麗な長い黒髪が夜の花火に照らされてより艶っぽく見える。色白な肌と端正な横顔がまさに幻想的で魅入ってしまう。


 この人付き合いが苦手だけど、一生懸命で頑張り屋で、人のための努力を惜しまない、そして優しくてその人をしっかりと見てくれている。


 そんなヒジリの姿はとても素敵だなと思えた。自分のそんな人になりたいと思えるような尊敬の念と同時に何とも言えない感情が心の中に有るのを自覚した。


「ん? ど、どうかした? な、なんか顔についてた?」


 花火の合間の静寂さの中で俺の視線に気が付いたヒジリが慌てている。ちょっと見過ぎてしまった事を反省しつつも、この場の雰囲気に流されて思った事を少しだけ口にする事にした。


「いや、また来年もこうやって来れたら良いなと思っただけだ。」


「え、あ、そそ、そ、そうだね。こうやって友達と来るのって楽しいものね。」


「そうだな。と言うかヒジリと一緒だと楽しいから尚更かな?」


「え? ええっと、そうなの?」


「ああ、何と言うか一緒にいると心がこう頑張ると言うか、しっかりしなきゃと言うか……何と言うか前向きな気持ちになれるからなか? 普段のヒジリの行動を見てるとそう思えて来るんだ。」


「私ってそんなに大層な事しているつもりは無いんだけど……? むしろタツミ君の一生懸命に剣道している姿の方が凄いと思うんだけど……」


 本当にこの子はその点は勘違いしているなぁ……一生懸命に見えるけど違うんだよ。見栄と体裁がほとんどだ。


「いやいや、何と言うか……俺の剣道は辞めるキッカケが無くてただ続けているだけだよ。そんな偉そうに言える事じゃ無いさ。」


「辞めたいの? 大学も剣道で推薦を狙っているのかと思ったんだけど。」


「いや、ヒジリに勉強を教えてもらいながら思ったんだが、大学は自分の学力で頑張ろうかなと。いつまでも剣道や兄さんに頼ってちゃダメだからな。」


 そこまで言うとヒジリはとても不思議そうな顔をしていた。俺は何か変な事を言ったのだろうか?


「タツミ君の剣道を見てるとね、物凄くまっすぐに努力してきた人のイメージを受けるんだ。だから何かそういう風に思っていたとか聞くと何か意外だったと言うか何と言うか……」


「そんな風に見えたか? 前にヒジリが言ってた剥き出しの感情をぶつけているって言った事は間違っちゃいない。実際に俺は自分が理想に届かない事に対しての苛立ちを相手にぶつけているんだと思う。」


 そこまで言うとヒジリは更に小首をかしげて考え込んでいる。


「タツミ君のぶつけている感情は苛立ちと言うよりも……もっと何か純粋な感情な気がするよ? 苛立ちとかの後ろ向きな感情なら見ててもっと違う様に感じる気がするもの。」


「そうか? そんな風に感じるのか?」


 いや、俺の感情は俺だけの物だ。きっとヒジリには都合の良いように見えているだけだろう。だって他人には人の感情なんて本当の意味では理解出来ないのだから。


「それに辞めるキッカケならケガの時が有ったんじゃない? それでも続けた理由は?」


「いや、ケガは……何と言うか、ほら、俺って推薦組だから剣道出来なくなると困ると言うか……。」


 後はバレンタインの子に会えるかもと言う淡い期待を込めてたなんて言えない! ん? チョイマテ。今ケガと言ったが何故知ってるんだ?


「あれ? 何でヒジリは俺のケガの事を知ってるんだ?」


「え、ほ、ホラ。ナギちゃんに何回か連れられて行ったって話したでしょ? その時に見てたから……構えが変わっていたからケガでもしたのかなって?」


 そう言えば言っていたな……あれ? という事はいつから見てたんだ? ケガの事はレンから伝わったとしても、構えが変わった事を認識しているなら少なくとも高1のインハイ予選の時には俺と認識して見ていたって事だよな?


「なぁ、ヒジリ。いつから……」


 言いかけたところで花火が再開した。俺の声はかき消されてヒジリに届く事は無かった。


「あ、始まったね。」


 見上げるヒジリを見て、俺も満天の星空の中に咲く花火を見上げた。


 今は良いか……そこら辺の野暮な話はまた別の機会でも有ればだな。この二度と無いかも知れない時間をしっかりと心に焼き付けておこう。

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