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夏祭り当日 ヒジリ側

 今現在、私は浴衣を着て駅で待ち合わせをしています。


 本当に急展開です。ここ数カ月でまさか一緒に夏祭りに行くなんて考えた事も有りませんでした。人の関係とはこんなにも急展開で物事が進むものなのでしょうか?


 ちなみにナギちゃんとレン君にもこの件は連絡しましたが、だったら二人で行ってらっしゃいと言う事で二人は別行動を取ると言ってました。


 いや、多分あの二人は二人で別でデートしてそうな気がします。絶対に夏祭りのイベントを放置する気が無いと思います。


 まぁ、それはそれでタツミ君が接近して来た目的に沿っているので、私達の行動も無駄では無いのでしょうが……実はそれ目的で誘ってきた訳じゃ無いよね?


 この疑念だけが頭から離れずに私を不安にさせています。急に誘ってくれたのは嬉しくてたまらないのですが、一度気付いてしまうと中々頭から離れません。



「あ、ヒジリ! 待たせてしまったか。スマン。」


 悶々と考えているとタツミ君がやって来ました。気になるんだけど……何かチャンスが有ればそれとなく聞いておきたいな。


「大丈夫だよ、今来た所。服買ったんだね、似合ってるよ。」


「あ、ありがと。何と言うか……変じゃ無ければいいんだが。部活ばっかりでお洒落に気を使った事が無くてな……。そ、そのヒジリの浴衣姿も、か、可愛いな。」


 か、可愛い?! まさかいきなりそんな言葉を言われるとは思って無くて固まってしまいます! 似合ってるよ程度は想像していたのですが、想定よりも上の言葉を言われました!


「ああ、あ、ありがとう……。」


 そう返すのが精一杯でした。視線を上げるとタツミ君も言った手前、恥ずかしそうに視線をずらして照れてます。そう言った表情も可愛いのですが……いきなり最初からこれでは心臓に悪いですね。


「あ、そろそろ改札に向かわないと……行きましょう。」

「あ、ああ、そうだな。行くか。」


 微妙な距離感のまま私達は電車に乗って夏祭り会場へと移動を開始しました。


 電車の中では同じ目的の人が多いのか沢山の浴衣姿の人達が居ます。その光景を見てタツミ君がボソリとつぶやきました。


「人生でこんな日が来るとは……。」


「ん? どう言う事?」


「え? あ、こ、言葉に出てたか!? す、スマン。別に悪い意味じゃないんだ。」


 無意識に言った言葉に私が反応したが予想外だったのか、慌てた表情になっています。


「いや、何と言うか……今までこういう事に縁が無くてだな……と、友達とは言え女の子とこうして祭りに行くなんて現実味が無いと言うか何と言うか……。」


 友達、そうですね。今はまだ友達ですが、いずれは彼女として一緒に行きたいですね。


「わ、私も……男の友達と一緒に行くのは初めてだから……ちょっと緊張してるんだ。今までナギちゃん以外と一緒に行った事無いから。」


「そうなのか? ナギと一緒ならレンも付いて来てなかったのか?」


「タツミ君、毎年レン君と夏祭り行って無かった? ナギちゃんも誘ってたようだけど、必ずタツミ君との先約が有るからと言って断られたと言ってたよ?」


「あ~、確かに毎年独り身仲間と言って誘ってたからな……もしかして俺ってレンとナギの関係を進めるの邪魔してたのか!?」


 急に何かに気付いた様に『しまった』と言う表情になりました。


「でも、その時は二人の関係に気が付いていたの?」


「いや、ハッキリと認識し始めたのは今年のバレンタインデー辺りかな? ホワイトデー辺りで人が特定できたと言った感じだな。」


「だったら大丈夫だよ。それに今日はレン君とナギちゃんを邪魔する人も居ないでしょ?」


 そう言って笑顔を向けて気にしない様に伝えると、相変わらず照れた表情で視線を逸らして来ました。


「あ、ありがとう。相変わらずヒジリは優しいな。」


 ん? 私が優しい? そんな特別な事を言ったつもりは無いんだけどな……タツミ君は随分と自虐的な笑いを浮かべる事が多い気がします。だからこそ些細な事でも優しいと思ってしまうのでしょうか?


 私も何となく似ているから解るかも知れません。ナギちゃんに良く言われてますからね、もしかしたら似た者同士なのかもしれません。


「別に普通だと思うんだけどな……むしろタツミ君の方が優しいと思うよ? わざわざ勉強のお礼にって誘ってくれているんだか。」


「え? それこそ普通じゃないか? 無償でやってもらっている方が申し訳なくなって来るから、むしろ自分の気が楽になる為さ。結局は自分の都合で誘った様なものだ。」


 う~ん、誘ってくれたのもあくまで自分の為と言いますか……まぁ何となく気持ちは分かりますし、下手に誤魔化されるよりは全然良いのですが、そうなると余計に気になって来ました。


「ねぇ、実はもしかしてレン君とナギちゃんを二人で行かせる為に私を誘った……とか?」


 聞きづらいのですが、つい聞いてしまいました?! いや、かなり小声で言ったので聞こえていないかも知れませんが、心の声が溢れる様に出て来るのを止められませんでした。


「え? 二人の為に? あ~、さっきの話の流れでそう考えたのか?」


 聞こえていた様です。私は気まずいまま少しだけ頷くと、タツミ君がしっかりとこっちを見て来たのが分かりました。


「それは無い。と言うかそこまで俺は器用じゃ無いからな。ヒジリを誘ったのは本当に日頃の感謝を込めてと、何と言うか……」


「な、何かな?」


「ひ、ヒジリが嫌で無ければだが、楽しみたいと思っている。別にヒジリを利用しようとかそういう意味じゃ無くて、どうせなら二度と無いこの時間に思い出を作ろうぜ?」


 真面目な眼差しが伝わってきます。何と言うかここだけ切り取ったら告白の様な気がしますが、多分これはそういう意味じゃ無くて友達と言う意味合いが強いのは解っています。


 それでも今、この時だけの時間を楽しもうと言ってくれているのでしょう。私がほぼ友達が居ないと言っていたのも含めての意味でしょうけど、今はその言葉に甘える事にします。


「ぜ、全然嫌じゃない……む、むしろありがとう。それじゃ楽しまないとね。」


「ああ、おれも久しぶりに勉強から解放されているからな。思いっきり羽を伸ばすぜ。」


 そう言って笑い合うと電車が止まって扉が開きました。


「さあ、まずは屋台巡りからだ! 疲れたり調子が悪くなったらすぐに言うんだぞ?」


「分かってる。って人が多いね……。」


 そう言って私はタツミ君の服の裾を軽くつかむと離れない様に、人の流れに沿って会場へと向かって行くのでした。

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