夏祭りへ行こう タツミ側
もうすぐ7月も終わり、8月に入る所だ。
俺とヒジリは例の……誰だっけ? み……三浦さん? すまん、みしか覚えてない。
その人と会ってからはお互いの家を交互に行き来しようと言う事になった。多分会いたくないのだろうな、今日は俺の家で勉強会だ。
まぁ俺と2人で居て、あらぬ噂が流れても困るだろうしな。そこは教えてもらっている身だ、相手の希望を尊重しよう。
ちなみにヒジリの家へは、既に4人でお邪魔した事が有ったので向こうのご両親からは友達で認識されており、勉強が進まなくて別行動になったと言ったら妙に納得されたのが謎だ。
そして俺はかつて無い程のペースで夏休みの宿題が片付いている。と言うか7月中に終わるなんて事は初の経験だった。
当然だがこの結果はヒジリの協力が有ってだ。俺1人ならば終わるどころか手を付けてすらいない可能性がある。
それに答えを写すとかではなく、要点を教えられながら自力で解いたと言うのも大きい。前ほど勉強への苦手意識が減って来た気がする。
「もうすぐ終わるね。そしたら今度は休み明けテストの対策勉強をしようか?」
「ヤッパリまだまだ続くんだな?」
「ここで辞めたら2学期末に困るよ? 夏休みは追いつくチャンスなんだから頑張ろう?」
うん、何でこの子はこんなにも献身的なのだろうか? ここまで世話をされると少し申し訳なくなって来る。
「しかし、ヒジリの予定は無いのか? ほとんど俺に付き合って勉強してる気がするんだが?」
「ん? ホラ、私って体が弱いから夏場は基本的に室内に篭っているから他にやる事も無いし。」
ちょっと自虐的な表情を浮かべているが、逆にそれがいた堪れなくなってきた。
こんなに良い子が体の調子が悪いと言う事で青春を謳歌出来ないのが何か不公平に感じてしまった。
「だったら、頑張ったご褒美という事でどこか一日遊びに行かないか? もちろんヒジリの体に負担がかからない所で。」
「え、ええっと、わ、私は構わないけど……どこに行くつもりなの?」
何か物凄く顔を赤くして固まっているが……しまった、この言い方じゃデートに誘っている様に感じてしまうじゃないか!
流石に気まずい! というか構わないって言ったがそれはどう言う意味でだ!? あれ? 何この甘酸っぱい状況? 意図した流れでは無いんだが!? 誰か助けてくれ!
「え、ええっと、体調の問題もあるから、遊園地とかは辞めておいた方がいいよな?」
「そ、そうだね……秋とかならまだしも、夏場の遊園地はちょっと耐えられる気がしないかな。」
ヒジリが申し訳なさそうに言うが、むしろこれは俺が普段のお礼をしたくて誘っているのだからそんな表情をしなくても良いのに。
「あ、それなら涼しくなる時間帯と言う事で花火を見に行かないか? 夏祭りを楽しみながら。」
「あ、それなら大丈夫かな。ナギちゃんとも行った事があるから体調的にも無理はない筈かな。」
未だに両手を合わせてモジモジしながら頷いてくれたが……何とかしてデートとじゃなくてヒジリのご褒美と言うかお礼だという事を伝えないと!
「よし、なら普段のお礼も兼ねて金銭面は俺に任せてくれ。と言うか断られるとヒジリのご褒美にならないからな?」
「え? 私のご褒美? タツミ君が頑張った事へのご褒美じゃないの?」
「いや、俺よりも頑張ったのはヒジリだろ? 色々と教えてくれながら自分の勉強も頑張っているだから当然だろ?」
「え? そ、そんな事ないよ。別にご褒美なんて……普段からもらっている様なものだし……」
ん? 何か最後の方は声が小さくて聞き取れなかったが……この子も俺と一緒で自己評価が低いのだろうか?
ヒジリがやっている事は充分に凄い事だと思う。なんの見返りを求める事も無く、ただ友達の為と言うだけで夏休みを費やしてくれているのだ。
俺が同じ事を出来るかと言われたら自信は無い。だから自分が出来ない事を当然の様に行えるヒジリには敬意すら覚えた。
だから少しでもその行為に報いたいと思った。努力した人が報われないなんて嫌だから。
「大多数の人は努力が報われないのだろう。全てを手に入れるのは本当に一握りの人だけだ。」
俺が急に神妙な面持ちで言い始めたのが意外だったのか、驚いた顔をしている。
「俺もその中の1人だ。だからこそ、小さな事でもその人の努力が報われてほしいと思う。だからヒジリはもっと堂々としていれば良いと思うんだ。」
「え、ええっと……そ、そんな大層な事はしてないと思うんだけど、タツミ君がそう言うならお言葉に甘えるね。」
照れながらもやっと頷いてくれると、それと同時に部屋の扉が勢いよく開いた。
「よーし! 話は聞かせてもらった! ならば兄としてその費用を補助しようじゃないか!
「お、お兄さん!?」
「兄さん!?」
俺もヒジリもかなりの間が空いてから大声を出してしまった。手にはお茶と菓子を乗せたお盆を持っていることから来た理由は分かるが、いつから聞いてた!
「せっかくヒジリちゃんへのお礼を兼ねてのお誘いなんだろ? 資金が足りないとかつまらん事が無い様にしないと失礼だからな! 兄としてのお礼も兼ねているので遠慮無く受け取ってくれ!」
そう言うと兄さんはテーブルにお盆を置くと颯爽と自分の部屋へと戻って行く。
「お、お兄さんって……あんな感じなの?」
「いや、いつもよりテンションが高いな……と言うかあの野郎、何か勘違いしてる気がしなくもないんだが?」
「か、勘違い?」
「多分、俺とヒジリのデートと勘違いしてる気がする……なんかスマン。」
「で、デート!?」
そう言った瞬間にヒジリが真っ赤になっている。
「スマン……兄さんにも何度も言っているんだが、別に付き合っている訳じゃないと言っているのだが。」
「あ、あはは、そ、そうだよね。普通だと勘違いしちゃうかも知れないよね……」
今度は急にテンションがダダ下がりの表情だ……流石に後であの兄貴はとっちめておこう。
「よ〜し、兄からの援助だ! 遠慮無く持って行け! 後、タツミはそれで少しはマシな服を買え! だらしない服装だとヒジリちゃんが恥をかくからな!」
「やかましい! さっさと出ていけ!」
颯爽と戻ってきた兄を蹴り飛ばして部屋から強制退場させた。流石にこれ以上は色々と危険な気がした。
「スマン、勉強を再開しようか……」
「そ、そうだね。」
俺達は勉強会を再開した。
ちなみに兄さんが渡した金額は3万も有った……これは本気で服も含めて買い直して来いと言う事なのだろうな……
本当にこの兄の行動は俺には真似できないや……ヤッパリアンタは尊敬する兄だよ……




