もうすぐで期末試験
俺は今猛烈に追い込まれていた。
あと二週間もすれば期末試験が待っている……いくらこの運動部の集まりの1組でも、赤点を取ったら補講、下手すれば留年がかかっている。
「タツミ、もうすぐ期末試験だが、今回は赤点は回避できそうなのか?」
部活帰りの帰路でレンの奴が嫌味ったらしく言って来るが、俺は何ともできない現状に助けを求める様に返事をした。
「レン、お願いだから勉強教えてくれ! 流石に毎回補講は嫌なんだよ! 今回は夏休みまで潰れてしまう!」
「別に潰れたって何の予定も無いだろうが? 誰かと夏祭りとか、プールとか行く予定があるのか?」
うん、行く相手も居ませんよ。でもね、そう言う問題じゃ無いんだ!
夏休みと言えばフリーダムの象徴ではないか! 何でそんな貴重な時間に補講で学校に何度も来なければいけないのだ! それだけは何としても阻止しなければならない!
「頼む、この通りだから赤点回避の手伝いをしてくれ!」
俺は両手を合わせて頭を下げるが、レンは華麗にスルーしながら足早に去って行く。
「おい! ちょっとは悩んでくれよ! 別にお前も予定が無いんだろ!? それとも何か? ナギとデートで忙しいからダメだってか?」
無言で進むレンに大きめの声で問いかけると、ゆっくりと機械が軋むような動きで振り返ってきた。
「ああぁぁぁん? デートだと? 付き合っても無いわ! それ以前にナギの奴の赤点回避だけで手一杯なんだよ! これ以上問題児の面倒を見れるか!」
物凄くドスの効いた声で怒られた……問題児ですみません。と言うかナギの学力って俺と同レベルなのか?
いや、それよりもそんなにマジギレしないで欲しい。
俺がそんな感じで困っていると、レンの奴は何かを思いついた様な表情になると、ニヤニヤしながら提案してきた。
「おい、タツミ。そんなに勉強を教えてもらいたいなら、俺ほどでは無いが適任者がいる。」
何だろう? この流れはあんまり良く無い気がする。でも背に腹は変えられないので一応聞いてみよう。
「だ、誰だよ?」
「明日の昼休みに自習室に来い。後は明日のお楽しみだ。」
クックックといった笑いを浮かべながらレンは振り返って駅へと向かっていく。俺は一抹の不安を抱えながらも黙ってついて行くしかなかった。
ーーーーーーーー翌日ーーーーーーー
「えっと、何で全員集合になっているんだ?」
俺が昼休み自習室に行くと、そこにはレンとナギ、ヒジリが待っていた。
「どうもこうも……みんなで仲良く勉強会に決まってるわよ? それ以外何かあるのかしら?」
ナギが疲れた目でこちらを睨んでいる。目の前に広げられたノートと参考書にはビッシリと赤ペンで色々書き込まれているのが見えたが、その文字は明らかにレンのものだった。
「お前……要点だけでも相当多くないか? ナギは全部理解出来ているのか?」
顔色の悪いナギの様子を見てレンに聞いてみるが、ドSの表情を浮かべてニヤニヤしている。
「ふん、目標を高く設定しているならこれ位やってもらわないとな。今すぐには無理でも後々効果が出て来るんだ。」
「う〜こう言う時は立場が逆転する……悔しい……」
ナギは文句を言いながらもペンを進めている。と言うかこの前会った時のような攻撃的な口調は一切無いほど素直に従っているのに驚いた。
「な、なぁヒジリ。この前と随分立場変わってないか?」
「え、ええっと……勉強に関してだけは、ナギちゃんが頼んだ手前で従うしかない様なのよね。」
少し困った表情で説明してくれたが……何? 俺よりも成績が悪いの? 本当に大丈夫?
「ちなみに、先に言うがナギの成績はお前よりはマシだ。コイツは苦手科目が壊滅的にダメなだけで、得意科目は問題無い。お前はオールラウンダーでダメだからな。」
「オールラウンダーでダメとか言うな! 表現がキツいから! いや、事実だけど……」
反論しつつも言葉が尻すぼみになって行くのが自覚できた。得意科目って何ですか? 全部嫌いだよ?
「タ、タツミ君の勉強は私の方で教えるから、まずはこの前の小テストの答案とか見せてもらえるかな?」
ヒジリが優しい笑顔で手を差し出してきてくれたが……見せるのもはばかられる内容デス。
「あ、あの……こ、コレです。」
そう言ってクリアファイルから今日返されたばかりの小テストの答案をヒジリに渡す。
「ちょっと、失礼するね……ん? んんん!?」
笑顔から段々と難しそうな表情へと切り替わっていった。イメージ的に揃えられた髪からアホ毛が飛び出す様な表情になっている。
「ち、ちなみに……どの教科だったら苦手意識が少ないとかあるかな?」
「スミマセン、勉強自体が嫌いなので無いです。」
「と言う事は……全般的に基礎からやらないと行けない様に見えるんだけど……一年生の時はどうしてたの?」
もうね、ヒジリが見た事無い表情になっている。困惑と言うか絶望的と言うか……何と言うか……本当にごめんなさい。
「一年の時は部活の内申点で誤魔化せたんだが……2年になったら余計に手が付けられなくなった。」
もうヒジリの方を直視出来ない。俺は少し横に目を背けながら答えた。
そしてナギよ、勝ち誇った顔すんな。お前も半分俺と同類だろうが!
「そうね……まずは現文からやりましょうか。読解力を付ければ他の教科のケアレスミスも減る気がするから。」
いつの間にかヒジリは勉強プランを考えついた様だった。何と言うか……この時ばかりは女神の様に見えたのは言うまでも無い。
「今日って部活がお休みの日よね? 放課後に参考書と問題集買いに行きましょう。時間が無いから期末対策は数をこなしましょう。内容は一緒に見ながら今のレベルに合ったものを探しましょう。」
「う……参考書と問題集か……」
ヒジリが俺の為に言ってくれているのは分かるんだが……その二つの単語への抵抗感が凄い。
「タツミ君、誰の為の勉強かな?」
ヒジリが珍しく強目の口調で顔を近づけてきた……少し怖いです。
「じ、自分の為です……よろしくお願いします。」
「宜しいです。しばらくは昼と空いている放課後は自習室でやりましょう。勉強方法もその都度教えて行くからね?」
うん、何というか先生の様な表情になっている。いつもの控え目な口調じゃなくて完璧に主導権を握られている感じだ。
「ちなみに、ナギはサボり癖があるから一緒にここでやるからな? 逃げるんじゃないぞ?」
区切りがついた所でレンがナギに釘を刺していたが……逃げる時もあるんだな……
「うううぅぅぅ、分かってるわよ! もうどうにでもしなさい!」
必死にレンが出した問題を解いているナギを見て、明日からの自分の姿が想像出来て嫌な気分になるが……相手がヒジリなだけマシだろう。
と言うか……何でナギはこんなに一所懸命難しい問題やっているのだろうか?
(ナギちゃんはレン君と同じ大学に行きたいから勉強を頑張っているんだって。)
俺が不思議がっていると、ヒジリがコッソリと耳打ちで教えてくれた。
うん、マジで何でお前ら付き合って無いの? リア充の言動と行動じゃねぇか!
「タ、タツミ君、では放課後にショッピングモールに行くよ? あそこなら種類揃ってるからね。」
ヒジリが少し照れながら言ってきた。ん? もしかしたら、はたから見れば俺達もデートの様に見えるよな?
それに気が付いた時、レンとナギがニヤニヤしながらこっちを見ていたのを俺は見逃さなかった。
やべぇ……何か色んな意味で放課後が何だか怖くなって来たとは言えなかった。




