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梅雨空の下

 インハイ予選が終わり、週明けの私は登校しながら先日のメッセージの内容を少し後悔していた。


 梅雨時期特有の湿気と雨を弾く傘の小気味良い音を聞きながら駅へと向かっています。


 何か一言位は何かメッセージを送った方が良いかと思ってご飯のお礼を送ったけど……後半の方のメッセージは色々と過去の身バレの可能性が高かったかも知れません。


 完璧に失敗しました! 取り敢えず詳細を突っ込まれた時の対策を一生懸命考える週末になってしまいました。


 と言うか……最寄り駅が一緒という事は、嫌でも時間帯が合えば一緒に登校になりますよね?


 そしてレン君とナギちゃんには目の前で知り合いになって居るので一緒に行動しても不思議では無いのですよね……いや、流石にいきなり一緒に登校していたら不自然ですよね?


 それにタツミ君も男友達と一緒に登校していれば声をかけて来る訳が有りません。流石にからかわれるのも嫌ですよね? 私だったら色々な意味で耐えられません!


 でも……タツミ君はレン君とたまに一緒に登校する以外は1人で登校しているのを知っているので、今後どうなるのか全く不明なのです。


 さぁ、もうすぐ駅に着きますね。緊張します。


 しかし雨の匂いは好きですが、この伸びた髪をまとめるのに苦労します。傘を畳みながら髪の毛先のハネ具合を確認しながら改札に向かうと不意に声を掛けられました。


「ヒジリ、おはよう。髪ハネしててもそれはそれで似合っているぞ。」


「え? あ、あああ、お、おはよう。」


 多分とんでも無く困惑した顔をしているのが自分でも分かりますが……振り返って見たタツミ君も少し顔を背けながら言っています。


 照れている表情も可愛いのですが……照れる位ならこんな公共の場で言わなければ良いのにと思ってしまします。


「た、タツミ君は誰かと一緒に登校とかしないの?」


 知ってて言いますが、一応聞かないとその状況を知っていたという事になりますからね。大事な演技です。


「基本は1人だな、たまにレンを見かけたら一緒に行くんだが……最近アイツは六波羅……いや、ナギと一緒にいる時が多いからさ。」


「あー、そんなに目撃してたら……それは流石にサッサとくっ付けと言いたくなるよね。」


 タツミ君の呆れた表情で遠い目をしています。そんな表情になる位にあの2人の投稿中の夫婦漫才を見てきたと言う事なのですね。


「全くもってそういう事だな。しかし昨日ので俺達も知り合いになったと言う事になっているから、こうやって堂々と相談出来るな。」


 うーん、堂々と友達をくっ付けようとしている相談を電車でするのもどうかと思いますよ?


 むしろ、私はこうやって一緒に登校するとかの方が緊張します! 何で急に怒涛の展開になるのですか!?


 つい先日まで知り合ってすらいなかったのに、急に声を掛けられて知り合いになり、髪留めのプレゼントは貰うやこうやって一緒に登校するとか……夢ですか!? この夢は何時醒めるんですか? 夢オチなら早く現実に戻してください!


「ヒジリ? お〜い? 大丈夫か?」


 タツミ君の声で現実に引き戻されると、顔の前にタツミ君の手の平が左右に振られていました。


「あ、ご、ごめんなさい。ささ、最近の展開が早すぎて……こ、混乱して言いたというか……」


 その言葉聞いてタツミ君が何とも複雑そうな表情をしていましす。


「あ、まぁそうなるよな。スマン、急に声かけて知り合いになって、こうやって話してるんだから……確かに急展開といえば急展開だよな。」


 頬をかきながら困っていますね……そう言えばタツミ君は女友達が居ないですから、距離感の詰め方が分かっていないのでしょうね。


「い、いや、たた、単に私も友達が少なくて……人見知りなのも相まって、なな、何と言うか……うまく説明出来なくてごめんなさい……」


 照れ臭くて下を向きながらボソボソと言ってしまいましたが……本当にこの状況は心臓に悪いです!


「あ、そう言えば人見知りだったな……こうもグイグイ行くと怖いよな、スマン。」


 本当に困った様な声がしたので慌てて顔を上げると、本当に困った表情をしてました。流石にこのままでは良く無いのは私でも分かります。


「あ、そそ、そんなに謝らないで。わわ、私の性格の問題だから気にしないで下さい。むしろ直す意味でも……協力してくれると助かります。」


 タツミ君が今度は一瞬だけ驚いた表情をすると、すぐに笑顔になりました。


「了解、だけど前にも言ったけど女の子の友達はいないから、嫌な時は嫌と言ってくれよ? 遠慮とかガマンだけはして欲しく無いからな。」


 そう言うと改札の方へと向かいました。私もその後ろをついて行くと、タツミ君は少しだけ速度を緩めて隣に並ぶのを待つ様な歩き方に変えたのが分かりました。


「一緒の登校は許可をもらえた様かな?」

 

「べ、別に断る理由も無いからね。」


 そして私達は不器用な会話をしながらも一緒に登校する事になったのでした。


 そしてとめどない会話の中の途中で、タツミ君がボソっと言った一言が印象的でした。


「昨日はスマホで変な事を聞いてごめんな。」


「え? 何か変なこと聞いてた?」


 電車に揺られながら私はスマホを取り出してメッセージを確認しましたが……どこら辺の事でしょうか?


「いや、流石いそこは流してくれ……と言うか確認するなよ!?」


「え? だって気になるんだもん……」


 タツミ君が本気でやめてくれと言う表情をしていたので流石にスマホをしまいましたが、本当は分かってます。


 お兄さんの件のところでしょう。そもそもお兄さんとタツミ君ではスタイルが違いすぎますし、何よりも私は努力して磨き上げているのが理解できるタツミ君の剣道が好きなのです。


 私も不器用で努力しなければいけない人間だと分かっています。だからこそ、天才に憧れる様な気持ちもわかります。


 でも変わる努力をし続けなくては変われない。そんな自分でなければならないと気付かせてくれた。


 そんなタツミ君の剣道の姿は何よりも惹かれるものがありました。さらにタツミ君の過去の話をレン君から聞いてその思いはより強くなりました。


 だからこそ、私は素直で飾りのない言葉で伝えたかったのです。


「昨日の試合、カッコ良かったね。」


「な、きゅ、急に何を言うんだよ……俺の剣道なんて……」


「タツミ君がどう思っているかは知らないけど、私はそう思ったんだよ? その気持ちは否定して欲しくないかな?」


 レン君に聞いていた通りに、自分を卑下するような事を言いかけたので、ずっと言いたかった言葉を掛けました。


 そう、この気持ちの否定だけは誰も出来ません。だって私の思いは私にしか否定出来ないのですから。


「ズルい言い方だな。でも、ありがとう。」


 そう言って顔を横に向けて頬をかいています。照れている姿は何度見ても可愛いものですね。つい、声を殺して笑ってしまいました。


「わ、笑うなよ……」


 照れた顔を楽しみながら、2人での初めての登校はゆったりとした時間で過ぎてゆくのでした。



 あ、夢オチでは無いですからね! ちゃんとした現実ですから! 頬をつねって確認済みですから間違いありません!



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