2人の試合 タツミ視点
さぁ、1年ぶりの公式戦が始まった。
先日行われた部内の総当たり戦では、何とか上位に食い込めた。
2年の上位は俺とレンの2人だったので、前半はレンで後半は俺が新人戦以降の事も考えて出る事になったのだ。
「工藤、片手上段の構えは肘に負担が掛かる。違和感が有ったり、疲労を感じたらすぐに言えよ? お前には来年も有るんだからな?」
そう言って部長が肩に手を乗せてきた。
「分かってますよ。こっちも悪くしたら剣道が出来なくなりますからね。」
俺は軽く笑いながら答えたが……本当に一昔前の俺だったら絶対に言わないセリフだな。
本当に不思議なものだ、ちょっとしたキッカケで人はこうも変わるものなのだろうか?
神様の気まぐれと言うのは不思議なものだな。始めたキッカケも、辞めたくなるキッカケも、続けたくなったキッカケも……全てが偶然なのか必然なのか。
もしくわ運に命を任せると言う意味ではこれこそ運命という奴なのだろうか?
そんな物思いにふけっていると、レンの試合が始まる所だった。
相変わらずの相手を罠に追い詰める様ないやらしい動きをしている……構えが堅いと言えば良いのだろうか? 下手に打ち込むと竹刀が逸らせないのでそのまま突きを喰らってしまうのだ。
動かない軸を払う等しか手段は無いのだが、それらに対しても相手の呼吸をよく観察しているのか、瞬時に反応して払い等のモーションの段階ですぐに後の先を取って先に一撃を決めるのだ。
ん? コイツ恋愛もこのタイプか? 相手をジワジワと追い込んで行って美味しい所で一気にせめて告白するとか? いや……そうだったら既にもう告白しているタイミングだよな?
そう思って安定した試合をしているレンから視線をヒジリと六波羅さんを探す為に周囲を確認し始めると、補助員をしながら試合場を見ている六波羅さんの姿が見えた。その隣にヒジリの姿が見えたのは言うまでも無かった。
うんうん、レンも良い所を見せられているじゃないかと思っていると、二人が髪に付けているヘアアクセサリーが目に映った。
自分が贈った物を使ってもらっている所を見ると少し照れ臭い気もする。別に彼女や好きな人に贈った訳では無いが、なんか嬉しい気持ちになるのは不思議なものだった。
六波羅さんもレンからのプレゼントをしっかりと使っている所を見ると、恥ずかしい思いまでして協力した甲斐が有った物だと少し報われた気がした。
「どうした? 緊張しているのか?」
試合が終わったレンが荷物置き場に戻って来て、荷物番をしていた俺に声をかけて来た。
「い~や別に、むしろ楽しみだ。本当に試合を楽しみに思えるなんて何年ぶりだろうな。」
「へぇ……お前が試合を楽しみにしているなんて、随分と心境が変わったもんだ。いや、人が変わったと言うべきなのか?」
レンはニヤニヤしながらこちらを見て来るが……お前も六波羅さんが試合会場に居ると知ったらやる気も起こすんじゃ無いのか? と言いたくなる。
「まぁ、新しいオモチャを手に入れた様なもんだからな。早くこのスタイルで通用するのか試してみたいんだよ。部活内だとみんなケガを考慮して手加減しちゃうだろ?」
「いや……レギュラー決定戦をやるのに、ケガが治っていると言っている奴に手加減するバカは居ないだろうが。」
レンは俺の言い分に呆れながら答えて来るが、知り合いに対してだと無意識に気を使うのではないかと俺は思っている。だからこそ、大会の試合なら本当に通用するのかハッキリすると思っていた。
「まぁ、お前も後2試合で俺と交代なんだから、しっかりと良い所見せてこい。」
そう言って俺は補助員をやっている六波羅さんの方を指差した。レンは指の先に居る人物を見てかなり驚いた表情を浮かべていた。
「え? 何で?」
「ホワイトデーにお返しした子って、あのお団子頭の子だろ? お前が買ったシュシュ付けてるし。」
「お、お前?! 気付いてたのか?」
慌てる様にレンが聞いて来たので、俺はドヤ顔で答えてやった。
「ああ、あんな特徴的な子気付かない訳無いだろうが? 朝から補助員でいたぜ? もしかしてお前が呼んだのか?」
「え? そ、そんな訳無いだろう! いつもあいつが勝手に来てるんだよ!」
まぁ実際は俺が呼んだのだが、ここでからかうのも面白いので意地悪をしてやった。しかし思ったより動揺しているな。
ん? まて、今いつもと言ったよな? どう言う事だ? 別に俺が誘わなくても毎回見に来ていたと言う事なのか? おぃ……だとしたら今回のお膳立てって無意味だったのか?
「もう少し俺も行動を気を付けないといけないか……」
レンが恥ずかしそうに小言をつぶやいているが……お前と六波羅さんの行動はどう見てもバカップルだから手遅れだと思うぞ?
さぁ、ついに1年ぶりの公式戦だ。
俺は試合線の手前に立つと、大きく息を吸ってからゆっくりと吐き出す。程よい緊張感を味わいながら相手へと視線を移す。
合図と共に礼をして開始線の前まで三歩で進んで蹲踞の姿勢で構えると、すぐに審判から『始め!』の声が掛かり立ち上がって左腕で大きく上段の構えをとる。
相手は少し驚いた様にしているが、すぐに平静さを取り戻して攻め方を考えている様だ。しかし俺は撃ち抜く場所をしっかりと決めて相手の初動を待ち構える。
撃ち抜くのは相手の面のみ、そして撃ち抜くのはその先に有る物を撃ち抜く様に竹刀を振り下ろすのだ、もっと遠くへと竹刀が届く様に。
そんな事を考えて相手の少し奥へと視線と意識を集中させる。そうする事でより相手の動きが見えるんだと兄さんは言っていたが……俺もその方がよく見えるものだと初めて知った。
そして相手の動こうとして力がこもるのを感じると、俺は一気に踏み込んで相手の面へと竹刀を振り下ろす。
相手は上段に構えている小手を狙って来たのだが竹刀の軌道を感じられる。俺は上段から振り下ろしながら相手の竹刀を切り落とすように面へと撃ち込んだ。
撃ち抜けてから即座にふり返って構え直して残心を取ると、審判の旗が上がるのが見えた。想像以上に綺麗に決まった。そして審判3人の旗が一斉に上がった瞬間のこの爽快感を久しぶりに味わった。
「面有り!」
審判の声が響くと同時に再び開始線へと移動し直した。その際にふと、隣の試合会場で補助員をしているヒジリがこちらを見ているのが見えた。
レンに言っておいて何だが、俺もカッコ悪い所は見せられないな。この後合流した時に俺だけ情けなかったと言われるのは御免だからな。
家族や部内の仲間以外の知り合いに試合を見られると言うのは少し緊張する物だなと思いつつも、何故か頑張ろうと思えるのは不思議なものだ。
そして二本目が始まった。
結果としてレンは1勝1敗1分、俺は2勝1敗と言う結果で終わった。決勝トーナメントまでは行けたのだが、準決勝で負けてインハイ出場はお預けとなった。
部長達3年生は「次の玉竜旗が最後だ!」と気合を入れていた。この大会だけは3年生込で純粋な実力だけで決めるので1年と2年は下手すると出番が無い、正真正銘の最後の大会なのだ。
正直そこまで情熱を注げる先輩達が羨ましかった。俺はそこまでかと言われると答えに困るだろう。でも少なくてもカッコ悪い試合は出来ないとは思っている。
バレンタインの子は今日も見てくれていただろうか? 少なくとも応援してくれている人の前では恥ずかしくない自分でありたいと思う位には情熱を注げている気はした。
そう考えると惰性で続けていた男が随分と変わった物だと自分に対しての笑いが込み上げて来た。
さぁ、とりあえず今は次の作戦に集中しよう。しかしこれはこれで緊張するな……ヒジリの方は大丈夫だろうか? レンの様子だと前から六波羅さんは補助員やっている様だから今回の作戦は半分失敗している様なものだからな……後でヒジリに何か埋め合わせをする様にしないといけないな……
そんな思い気分になって俺はレンに声をかけに行くことにしたのだった。




