ファーストコンタクト ヒジリ側
心臓の鼓動が落ち着きません。
先程から鼓動の音が随分とうるさく耳に響きます。この扉の向こうにタツミ君が待っている。
それを考えただけでこの扉を開ける勇気が必要になります。でも開けないと言う選択肢も有りません。
ほんの数秒なのですがとても長く感じます。
勇気を振り絞って扉を開けると何かに祈る様に両手を組んでいるタツミ君がいました。
そこからはよく覚えていません。とにかく緊張しまくった記憶だけが有ります。
そしていつの間にかタツミ君がレン君とナギちゃんを見てきた話しをしてくれました。
話しを聞いていると段々と2人の行動に血の気が引いて来ました。
何で卒業式にナギちゃんはタツミ君に声を掛けているのかしら? 別の学校の生徒が迎えに来たら流石に顔も覚えるでしょう!?
そしてレン君も相談する相手がいなかったのでしょうが……何で ホワイトデーのお返しをタツミ君と一緒に買いに行くのですか!?
そんなの2人の顔を覚えさせたら私との接点がすぐに浮き彫りになるじゃ無いですか! おバカと言いたくなります!
協力すると言っていたのに、私が逆に協力者になれと言われているこの状況はどうしろと言うのでしょうか!?
いや、確かにタツミ君と知り合いになれたのは確かです。ですけどこの出会い方って恋愛に発展しない系の典型例ですよね?
さぁ、私は何と反応するのが正解なのでしょうか? 誰か答えを教えて下さい。そろそろタツミ君の話が終わりそうです。シンキングタイムは終了の様です。
「と言う事で、ここまで話して火神さんが話せる範囲で構わないので、話しを聞かせてもらえないだろうか? そしてあの2人がお互いに好意があるならくっ付ける手伝いをして欲しい。」
まずこの時点で断る選択肢は無いでしょう。問題なのは私が二重スパイの様な立ち位置になる事です。
2人は私を恋路の応援をしようとしているけど、私が2人お恋路の応援をする。しかもこちらの意中の相手と協力して行う。
何ですかこの立ち位置は? 良いのか悪いのか全く判りませんし、私はそんな腹芸に向いている性格では有りません!
「え、えええ、えっと。わ、私もあの2人はお互いに良い感じだと思います。」
先程からうわずった声で返事をしていますが、正直これからの行動を考えると、さらに血の気が引いていきのが判ります。
そして何故かタツミ君は私の顔の方をまじまじと見ている事に気がつきました。
「あ、あの……何か顔に付いてます?」
「いや、最初は顔が真っ赤だったから気づかなかったけど……火神さんってビックリするほど色白なんだなぁ……と思って。」
「え?!」
急に何を言って来てるんですか!? と言うかこれは青ざめているだけで、別に色白とかと言うわけでは有りません!
「あ、ご、ゴメン。こうやって女の子と間近で話すのは久しぶり過ぎて……発言が不謹慎でした。ごめんなさい。」
私が固まってしまうと、タツミ君は失言したと思ったのか急に土下座の勢いで謝り出しました。
「あ、あああ、べ、別に怒ってないから大丈夫。そ、その、わ、私もこうやって男子と2人で話すのが久しぶり過ぎて緊張しちゃって……」
半分事実ですが、本当に困ってます! 誰か助けて下さい! いや、いずれこう言う状況になる筈でしたが、ここまでは望んでいません!
「あ、そうなのか……俺が不審過ぎて緊張してるのかなと思ってた焦ってた。」
そう言いながらタツミ君は起き上がると、頭を照れ臭そうにかいています。
ちょっと可愛らしい仕草だなと思うと、つい笑ってしまいました。
「笑うなよ……俺も結構緊張しているんだぜ?」
「ゴメン、何か急に可笑しくなって。」
タツミ君も私を見て照れ笑いしている。話してみたら段々と緊張が解けて来たのが分かります。
「ね、ねぇ、工藤君。て、手伝いするわ。私もあの2人は早くくっ付いちゃえって思っていたの。」
私がそう言うと、タツミ君はホッとした表情を浮かべました。
「ありがとう、色んな意味で告白する並に緊張したんだが……取り敢えず協力を仰げて良かった。俺も恋愛なんて経験無いからどうしたら良いか分からなくて。」
そう言って顔を少し赤くしながら言ってますけど……告白するレベルで緊張したと言うのはどうなのかな?
絶対に告白の方が緊張する気がしますけど?
その前に一つ思い付きました。このままだと私達の関係も進展しない気がするので、意地悪でしょうが一つ提案する事にしました。
「そそ、その代わり何だけど……い、1個だけお願いして良いかな?」
「ん? 良いぜ。協力してくれるんならコチラも誠意を見せないといけないだろうしな。」
快諾してくれたので私は思い切って言う事にした。
「あ、あの、鳴海君とナギちゃんをくっ付けようの仲間なのだから、な、名前で呼び合わない? 苗字だと、たた、他人行儀過ぎると言うか……」
段々と恥ずかしくなって俯いてしまっている自分に気が付きましたが……提案しておいてこれは恥ずかしい!
「え? あ、そうだな……仲間か。何か悪巧みを共有するには良い関係な表現だな! ちょっと楽しくなって来た。」
「え? 悪巧みなの?」
悪巧みという言葉に反応して、つい怪訝な顔をしてしまいました。
「え、あ、ち、違う! 何というかレンの反応を楽しもうとか思ってたらある意味、悪巧みみたいなものかなと思って。いや、本当だからな! 悪い事は考えてません!」
慌てて弁明を始めましたが……こういう表情をするんだなと、新鮮な物を見ていて楽しいです。
後ろからコッソリ見てるのと実際に話すのは天と地ほどの違いがありました。
説明が難しいですが心が緊張すると同時にとてもワクワクして抑えられない感情を感じます。
そんな気持ちを出来るだけ表に出さない様にしながら私は手を差し出しました。
「で、では仲間として宜しくお願いします。タタ、タ、タツミ君。」
噛みまくって呼んだ名前を聞いて今度はタツミ君が笑い出しました。
「名前で噛みすぎだって、コチラこそ宜しくな、ヒ、ヒジ……リ……さん。」
タツミ君だって名前を呼ぶ所で顔を真っ赤にして照れてるじゃ無いですか! 人のこと言えませんね!
でもさん付けは逆に何か照れます! ちゃんもおかしいし、普通に呼び捨てにして貰いましょう。
「さ、流石にさん付けは逆に照れるので……普通に呼び捨てでお願いします。」
「え?! 呼び捨ての方が照れないか?」
「そ、そうかな? で、でも基本は学校では話さないでスマホで連絡を取るでしょ? ナギちゃん達に見られたら作戦を立てづらいでしょ?」
そう言うとタツミ君はそれもそうかと言った顔で納得すると頷いてくれました。
「そうだな、お願いしている以上、ひ、ヒジリの要望には答えさせて頂きます。じゃあ、スマホの連絡先交換するか。」
タツミ君はスマホを出して来ました。私も出そうとしましたが……ちょっと待って下さい! 私の待ち受け画面は3年前のあの時のツーショット写真です! 見せれません!
「あ、あの! ちょ、ちょっと待ってて。今画面開くから……。」
私は慌てて連絡先の交換画面にしてから差し出しました。
「では夜にまた連絡するな。今日はありがとう!」
そう言うとタツミ君は非常口階段から出ていきました。私は扉が閉まってしばらくすると、急に色々恥ずかしくなってしばらくその場から動くなったのは言うまでもありません。




