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部活復帰

「さて! 今日から工藤が部活に復帰する。みんなも何となく気づいていたとは思うがケガによるリハビリ等での休部状態だった。みんなに心配かけたく無いと言う事で先生からの指示だったので深く追求しない様に!」


 道場に部長の声が響くと同時に気合の入った声が響き渡った。


「ご心配を掛けました。一部の動作はまだできませんが、試合形式の物は出来る様にして来ました! よろしくお願いします。」


 俺は腹の底から声を出して深く礼をする。


「よし! 稽古を始めるぞ!」


 部長の声と同時に全員が行動を開始した。




「もう大丈夫なのか? と言うか新学期から復帰とか聞いてないんだが?」


 レンがこちらに来て確認する様に言う。話をしてなかったので不服そうな表情だ。


「ああ、兄さんから許可が出たのが昨日だったんでな、お前に言う暇も無かった。一応普通の素振りだけは禁止されてる。右肘を可能な限りは使うなってさ。」


 俺は手を合わせて謝ると、レンも仕方ない奴だなと言った表情で呆れていた。


「まぁいいさ、早速上段の構えでどこまでやれるか見せてもらうぜ。」





 基本的な素振りや切り返しのウォーミングアップも左のみでゆっくりと行う。それを見ていた部員達も右肘が使えない事をすぐに察してくれた様だった。


 そして新学期特有の試合形式の稽古が始まる。


「工藤、その状態でも手を抜かないぞ。流石にレギュラー候補を決める試合だからな。」


「ああ、全力で来てくれ。そうでないと意味が無い。」


 対戦相手が気を使って声をかけて来たが、俺も全力で来てもらわないと意味が無い。みんなを納得させるだけの試合が出来なければ『あの人』には満足してもらえないだろうからな。



 防具を付けて試合線の前に立つ。


 誰も言葉を発しない静かな緊張感が漂う瞬間だ。


 審判の合図で線を越えて試合場へと一歩踏み込み礼をして顔を上げる。


 半年ぶりに帰って来たんだと実感する。


 どうやって辞めるかと言う事だけ考えていた時期も有った。


 なんで続けているのだろう? 将来的に見て、続けてもそうでなくても人生に大きな影響を与えない筈だ。誰も辞めたからと言って、俺に文句を付ける権利は無い。 


 暑苦しくて、外れた所に撃たれると痛くて、汗臭い青春を地で行くような剣道を辞めた所で俺の自由の筈だ。


 でも戻って来てしまった。誰かのたった一言の手紙で戻って来てしまった。


 いや、それは言い訳だったのかも知れない。


 結局、俺は辞めれない理由を探していたのだろう。


 今更辞めたら勿体無いとか、推薦を取る為に続けなければいけないとか。


 自分の為にやっていると言うのが格好悪い感じがしていただけ。だから第3者からのメッセージを理由にすれば少しは格好が付く、そう考えを変えていたのでは無いだろうか?


 何となく自分が道化に見えて笑えて来た。


(何だ、結局俺は剣道を辞める度胸が無いだけなのだ。本当に笑えて来るな。)


 俺は自分が笑っている事に気付いた。そして久方ぶりの試合に心が躍動している自分が居る事にも驚いた。


(嫌いなのにワクワクしている自分が居るな、新しい玩具を試したいだけなのだろう? だったら存分に楽しもうじゃないか!)



「始め!」



 審判の声と共に蹲踞(そんきょ)の姿勢から立ち上がると左手一本の上段の構えで相手を牽制する。相手も予想はしていたのだろう、さほど驚きもせずに間合いを計っていた。


 しかし、上段の構えの間合いは踏み込みと腕一本だけと言うリーチの長さが有る。普通の構えとは間合いが違うのだ。


 俺は気合を入れて相手の間合いの外から一気に踏み込んで面を目掛けて竹刀を振り下ろす。相手は間合いに驚いた様だったが、すぐに反応して打ち返そうとこちらの面に打ち込んで来た。


「「メェェェェン!!!」」


 お互いの竹刀が交差する。俺の竹刀は相手の竹刀の横腹をなぞりながら軌道をずらして、俺の竹刀だけが相手の面へと吸い込まれて行く。


 竹刀の乾いた音と踏み込んだ激しい足音が爆発する様に道場に響き渡ると一瞬の静寂が訪れた。


「面有り!」


 審判の声が響くと見ていた部員達から拍手が聞こえて来た。久しぶりの試合の高揚感を覚えつつも再び開始線へと戻る。


「二本目!」


 相手は今度は俺が構えに移るまでのスキを狙って合図と同時に胴を狙って打って来た。


 が、そんなのを想定済みだ。俺に教え込んだのは変人レベルのあの兄さんだ。俺は素早く竹刀を手首で返してそれを防ぐ。


 そして俺を通り抜けた相手が振り向き様にすぐに手首を返し直して上段から面を打ち込むと試合は終わったのだった。





「お前……上段の構えと切り落としの合わせ技かよ。完全に初見殺しだな。」


 レンが呆れた表情をしているが、それは誉め言葉と受け取っておこう。


「元々手首は強かったらしいから、それを生かしてって事らしい。まぁ左肘にも負担を掛けるから稽古の量は注意しろとは言われているけどな。」


「流石は出来た兄が居ると便利だな。」


 少し嫌味を込めて言って来たのだろうが、今は素直に兄さんに感謝しておこう。半年で実戦レベルになるまで指導してくれたのだから。


「ああ、こう言う時だけは便利な兄だよ。」


 俺が笑いながら言った事に、レンは珍しい物を見た様な表情をして驚いていた。


「タツミが素直に龍一さんに感謝しているだと……? こりゃ明日は雪でも降るか?」


「おい! ちょっと待て。それはどういう意味だ!」


「そのまんまの意味だ。本当にお前は変わったよ、少し前までなら絶対に言わない様な事ばかり口にしてるからな。人と成長したか、もしくは変わったのか。」


 何だろう、レンのニヤケ面が非常にムカつく。どういう意味だコラ? 俺は普通に人に礼も言うし感謝も出来る人間だが?


「よし、じゃあ次はレンと稽古しようか。脳天カチ割ってやる。」


「お前、力任せに振り下ろす気じゃ無いだろうな? 力任せだと俺には勝てないぞ。」


「よーし、じゃあ試そうぜ。勝った方に帰りに何か奢るで良いな?」


 そう言うと俺達は試合の準備をして並ぶ。いつものやり取りだが、この関係が小学校から続いていると思うと少し不思議な感覚になる。


 こうやってレンと剣道を続けられるのも後1年程だろう。大学は恐らく別々になる。ならば、この腐れ縁の親友とトコトン最後まで足掻いてやろう。


 そう考えていると、そんな風に思えるようになった自分が少し可笑しくなった。


 ヤッパリ嫌いなんだが辞めれない……色んな意味で。


 そんな自分の複雑な感情を何と言い現わしたらいいのか悩みながらも、俺はレンとの試合を楽しむ事にしたのだった。



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