男側の心境
本日は2月14日、男子にとっては己のステータスの一つとも言えるモテ度を理解する日になる。
そして俺は憂鬱な気分で朝食を終えた俺は玄関のポストに向かう。
「相変わらず……朝から暇な人達が多いな。」
俺の視界に入って来たのはポストから溢れている兄さん宛のチョコの山だ。学生なら解るよ? 学校で騒がれているうちは理解できます!
でもね、うちの兄さん大学院生だぞ!? 流石にそんないい年齢になった奴がまだこんな状況なのが理解出来ない! そもそもチョコをポストに入れた奴らはどこの奴らなんだ!?
高校時代からの追っかけの人とかか! いい加減現実見て別の人捜せよと言いたい! 大学の人だったら校内で渡して玉砕して来い!
俺はダンボールにチョコを回収してリビングへと持って行く。しかし流石に院生になったからか、例年よりは量が少ない事に気が付いた。
「毎年、毎年……告白する度胸も無い奴らがチョコだけ渡して! さっさと玉砕して諦めやがれ! 迷惑なんだよ!」
そう言ってテーブルの上に叩きつける様に置くと両親が冷たい視線を送って来た。
「タツミ……もう少し女心を理解しないとモテないわよ?」
「むしろお前も玉砕する様な恋の一つでもしたらどうなんだ?」
この両親は! もう少しこのコンプレックスに悩んでいる息子に優しく出来ないのか!
「おはよう、ん? 流石に院生にもなると例年よりは減ってくれた様だな。」
当事者である兄さんが二階から降りて来てテーブルの上のチョコに気が付いた。
「そうだな、例年比の60%って所か。来年には落ち着くんじゃないか? と言うか龍一もそろそろ彼女の一人位作らないのか?」
「俺が惚れる位のいい女が居ればな? 好きでも無い奴とは付き合えないよ。」
父さんが呆れた表情で兄さんに問いかけるが、当の本人は全く無関心の様だ。相変わらずの返答が返って来る。
「今年はタツミ宛のチョコは無いのか? ごく稀に来てるんじゃないのか?」
兄さんがチョコを見ながらガサゴソと中を探っている。と言うかよく人のを覚えているな? だったらそのチョコを送って来た人の名前を憶えて全部お断りの挨拶に行きやがれ!
「例年だと夕方だよ。まぁ今日は学校が有るから解らんが。」
そう言いかけると玄関のチャイムが鳴る音がした。
「ん? こんな朝から誰だ?」
「龍一、流石にお前が行け。手渡しならちゃんと断りなさい。もう良い歳なんだからお前も行動しなさい。」
父さんがそう言うと兄さんは面倒臭そうな表情で玄関へと歩いて行く。
「良いのか? 下手に兄さんが出ると玄関が面倒な事にならないか?」
「追っかけ集団もそろそろ大人になってくる頃だ、いい加減落ち着くだろう。そもそも龍一に彼女でも居れば問題無いんだがな。」
そう言って薄くなって来た頭頂部をかいていた。まぁ……毛髪は遺伝するからな……薄くなる前に結婚出来る様な相手を探すのも大事だなと心の中で思ってしまった。
「タツミ、お怒りの所すまないが、お前宛だ。もちろん玉砕しに来いと言うんだろ?」
戻って来た兄さんが俺に綺麗にラッピングされメッセージカード付の箱を俺に渡して来た。
「え!? ちょっと、兄さん。コレを持って来た人は?」
「玄関開けた時点で誰も居なかったぞ。で、こういう場合はどう言うんだっけ?」
兄さんは意地悪な顔をして俺に詰め寄って来る。
「うっさい! 一応俺は探しているんだよ!」
俺はチョコの入った箱をカバンに入れて逃げる様に家を出た。今年も夕方に来るのかと思って今年こそは見張ってでも会おうとしたのだが……まさか朝に来るとは、手強い相手だ。
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「おはよう、憂鬱な日の始まりだな、タツミ。」
いつもの通学路を歩いていると、いつもの調子で後ろからレンが声をかけて来た。こいつの場合は2次元に逃避しているから特にダメージを受けないだろうが。
「で、今年は貰えるのかね? 試合に出て無いから忘れられてたりしてな?」
「既に朝一で来てたよ、ホレ。」
そう言うと、慌ててカバンに詰め込んだ箱をレンに見せる。
「お前……持って来たのかよ? と言うか朝イチって? 龍一さんのと混ざらなかったのか?」
「前年比60%位まで減ったからな。流石に23にもなって追っかけの数が変わらなかったら頭のネジがおかしいとしか思わないぞ?」
俺が呆れた表情で返すが、レンも未だに有るのかと呆れている様子だった。
「相変わらず色んな意味で規格外の兄貴だな……しかし、もらえた割には憂鬱そうな表情だがどうした? 何か問題でも起きたのか?」
「いや、今年こそは待ち伏せでもして確実に会おうと決めてたんだが……まさかの朝イチに来るとは思って無くてな。年に一度のチャンスを潰してしまったと……。」
俺がそう言って肩をガックリと落としていると、レンはニヤニヤしていた。
「いやはや、お前が恋煩いとはな。会った事も無い人に随分と執着しているな。これでお前の好みのタイプじゃ無かったら大変だな。」
「世の中そんな綺麗事だらけじゃ無いのは解ってるけどさ……気になる物は気になるし、もしそうだとしてもあんまり振り回され過ぎても良くないと思うんだ。だから早く会ってこの気持ちに決着を付けたい気もするんだ。」
俺は文章とも言えないメッセージを見てこの人がどんな気持ちで書いてくれたのかが気になって仕方なかった。
「ところで……レン。お前の方はどうなんだ?」
「ん? 俺か? 俺も朝イチで受け取っている?」
やけに自信満々に言ってくるな……何? コイツ彼女でも出来たのか? いや、出来たのなら絶対に俺に自慢して来る筈だ。そうでないと言う事は……彼女は居ないが、それに近い関係の人が出来たと言う事なのか?
俺が思考を回しながら学校に着くと、教室に入りレンはカバンの中に手を伸ばすと綺麗にラッピングされた箱を取り出して自慢気に俺に見せつけて来た。
「自慢気にしているが……付き合い始めた彼女でも居るのか? 俺に黙っているならば水臭いとしか言えないぞ?」
「彼女では無いし、もしそうだったらお前に真っ先に自慢してマウントを取るに決まっているだろうが。」
レンはニヤニヤしながら言ってるが……何だろう。2次元専門で熱く語っている時よりも、今の表情の方が遥かにムカつくんだがこの場合はどうしたら良いのだろうか?
そして二人で箱を開けると、レンの箱にもメッセージカードが入っていた。
『義理だけどありがたく食べなさい!』
俺が盛大に吹き出したのは言うまでも無いだろう。まさかレンの姉さんからかと思ったが、チョコの内容がどう見ても義理チョコじゃ無いんだが?
「アイツ……渡す時も義理とか言って、さらに箱の中にまで念押しかよ。」
レンがポカンと口を開けたまま固まっているが……そのデコレーションされまくったハート型のチョコはどう見ても本命だろうが!
義理とか書いているけど照れ隠し以外の何者にも見えないっつーの! 流石に気付けよこの2次元専門野郎が!
レンは義理という言葉にダメージを受けている様だが、お前は照れ隠しという言葉を辞書で引いてこいと言いたい! まぁ教えてやる義理はないんだがな!




