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男たちの密談

コレは少し時間を少し遡った、新人戦の数日前のお話。


ーーーーーーーーーーー工藤家ーーーーーーーーーーーーー


 日曜日の昼下がり、珍しく家のチャイムが鳴ると俺は久しぶりの客人を招き入れた。


「タツミの家に来るなんて久しぶりだな。小学校以来じゃないか?」


「そうだな、今じゃゲームの趣味も違うから中々お互いの家で遊ぶと言う事もないな。それに今じゃオンラインで遊べるしな。レンはどちらかと言うとそっちが主体だろ?」


 俺は珍しく全員が出払って誰も居ない家のリビングにレンを通すと冷蔵庫から麦茶を出す。


「普通はここはコーラを出すところじゃないのか? 流石に高校生になって麦茶はどうかと思うぞ。」


 レンは速攻で文句を言ってきたが、うちの冷蔵庫にジュース系は無い!


「うちは家族全員が甘党のくせに飲み物だけはお茶か無糖のコーヒーかカフェオレしか飲まない変わった家族なのだよ! 残念ながら君の希望には添えないな!」


「甘党のくせに何で飲み物だけノンシュガー何だよ! 普通は飲み物も甘口で行くだろうが! ソレだとしてもノンシュガーのコーラも有るだろうが!」


「チッチッチ、甘いな。基本ジュースは好まないのだよ。食い物で甘いものを摂っている分、飲み物を摂生して健康に備えているのだ!」


「何だよソレ……バランスを取っているつもりか?」


 レンが呆れた表情をしてゲンナリしているが、どう言わようが現実は変わらない。欲しいなら買って来れば良かったのに。


「まぁ飲み物の件は置いておいて、要件はわざわざ呼ぶと言う事はケガでもしたか?」


「ああ、察しが良くて助かるよ。」


 急に真面目な顔で椅子に座ると俺達は本題を話す事にしたのだ。レンは相変わらず察しが良いな。


「部活に来なければそう思うだろ。で、肘か? 手首か? ソレとも別の所か?」


「右肘だ。テニス肘だそうだ、多分一年以上は普通に竹刀を振れないらしい。」


「おま!? それって2年の新人戦までは出れないって事か?」


 レンがテーブルに両手を勢い良くついて立ち上がると俺に詰め寄ってきた。


「落ち着け! 一年というのはあくまで希望的観測だそうだ、兄さんの見立てでは高校在学中に完治するのは無理だと見ているらしい。」


「はぁ!? お前どうすんだよ! お前のアタマで大学進学は厳しいだろうが! ソレどころか進学すら怪しくないか!?」


 ちょっと待て、心配する内容が進学の方が先なのか? いや、まぁあながち間違いでは無いから反論しずらいのだが。


「心配はごもっともだが、誰が剣道部を辞めると言った?」


「竹刀握れないのにどうやって……いや、男子マネなんて需要が無いからな?」


 そう言って俺の肩を手を乗せて首を横に振っていやがる。コイツ絶対に分かってやってるよな!?


「誰がマネージャーをやると言った! 今更辞めれるわけが無いだろうが!」


「それはバレンタインの子に会う為か? それともお前自身の為か?」


 不意に返されたレンの言葉に言葉を詰まらせてしまった。多分どっちも大事なのだが、心の中で閉めている割合は後者の方が大きい気がする。


「どっちもだ。」


 しばらく沈黙した俺は苦しい言い訳をする様に言葉を紡ぐのが精一杯だった。 


「ふ〜ん、随分と間が空いたな。ほとんど後者じゃねぇか。お前とリアクション見ればすぐに分かるわ! 何年の腐れ縁だと思ってるんだ。」


 レンは呆れた顔をして再び椅子に腰をかけると麦茶を一気に飲み干した。誰も居ないリビングに空のコップが置かれる音が静かに響く。


「……そうだな。多分、あの時までの俺なら辞める前提で動いていたと思う。」


「そこまで心持ちが変わる程の出来事だったのか? もしかしてイタズラとか思わなかったのか?」


 レンのツッコミに一抹の不安を覚えてしまうが、それを二年連続でやるなら相当な暇人だと思うんだが?


「そうだったら俺は人間不信になって家に引き篭もる。自宅警備員に就職してやる。」


「絶対に龍一さんが許さない思うけどな。まぁお前の心境を変える程の出来事だったんだな。」


 レンは俺をからかうとと同時に懐かしそうな光景を見るような目でこちらを見ていた。


「2人でどうやって辞めるか相談していた頃が懐かしな。理想に届かない現実に続ける意味を見出せなかった頃のな。」


 俺達はスポ少で出会って、入った理由も一緒だった。地元のスポ少に一緒に稽古に来ていた当時の兄さんの姿に憧れてレンも剣道を始めたのだ。


「あの時は2人でどっちが先に追い付くかって言い争いながら競い合ってたな。」


 信じる事しか出来ない子供の頃の熱量を懐かしみながら俺も麦茶を飲み干したコップを置くと静かに響く。


「いつ位だったかな? 俺もタツミも現実を知り始めたのは。憧れとそうなれるかは別物だったと気がついたのは。」


 レンは天井を仰ぐように顔を上に上げてため息をつく。


「小3くらいで出た初めての大会辺りじゃ無いか? 俺とレンで決勝で勝負だなとか言ってたのに2人揃って初戦敗退してたな。」


 俺は大口叩いていた当時の自分達がおかしくなって少し笑い出してしまった。


「笑うけど、先に勝ち星を取ったのは俺が先だったからな? タツミの方が戦い方を覚えるのは下手だったよな?」


 レンは笑い声に反応して俺の方を睨みつけながら文句をつけてきたので俺も思わず反論する。


「確かに俺の方は中学に上がるまで負け続けでしたよ! でもな中学からの公式戦は俺の方が圧倒的に勝率が高いからな! 俺は大器晩成型なんだよ!」


「ちょっと位最近調子が良かったからって図に乗るなよ! そんなんだから怪我をしたんだろうが!」


 いつもの言い合いが始まってしまい本題からかなり逸れてしまったが、話が戻ってきた。


「まぁ、今日はそのケガの事での話なんだが、部活の方には顔を出せない。兄さんの方での型のトレーニングをしている所だ。」


「型? 何をするつもりだ?」


 レンの疑問に俺は左腕を上に挙げて合図をした。


「お前まさか……。」


「そうだ、上段の構えに変更する。そのためのトレーニングを兄さんと兄さんの大学でしている。一応トラブル防止の為に先生と俺達だけの秘密にして欲しんだ。」


「なぜ秘密に? 別に先生は知っているんだろ? ああ、他の先輩達に変な嫉妬を買わない為か。」


「そうだ、1人だけ兄さんのツテで大学で稽古してると知ったら先輩達は面白く無いだろう?」


 俺の言葉にレンは納得したのか頷く。


「分かった。これは俺とお前だけの秘密だな。」


(さ〜て、困ったなこれはナギや火神にも言えないな……。男同士の約束を違えるわけにもいかない。)








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