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残念女子のストーカー活動

 梅雨も終わってセミが元気よく叫んでいる夏が来た。夏の直射日光は体力を削られるので好きでは無いけど、季節の風景や夏特有の窓から校舎に吹き込む風は今だけの特別な生命力に溢れている様な感じが有って好きだった。



 窓から入り込むそよ風を感じていると昼休みのチャイムが鳴るのが聞こえる。さて、今日も日課の校内散歩に行きますか。


 私はお弁当を取り出す前に、お手洗いに行くフリをして校内のある場所へと向かいます。


 それは最早日課だが、誰もその行動の真意には気が付いていません。


「今日は何か面白い話が聞こえて来るかしら?」


 私は独り言を呟きながらとある教室の前の水飲み場まで行くとハンドタオルを絞って顔に当てたりしながら、涼むフリをして周りの会話に耳を澄ませます。




「なー、タツミは夏休みはどっか遊びに行く予定無いのか?」


「いや、どうせ兄さんの稽古に付き合わされるだけだ、何か夏らしいイベントが欲しいよなぁ。」


「イベントと言ったら、俺達彼女居ない同盟で行く夏祭り位か?」


「いい加減、彼女欲しいよなぁ~。」



 3~4人グループの声が聞こえてきました。多分タツミ君のグループでしょう。


 彼らが集まるのはいつも教室の廊下側なのでこうしていると会話が聞こえて来るのだ。


「夏祭りかぁ……、いきなり誘うのは変だよねぇ……。」


 二人で夏祭りデートとか憧れるが、そもそも私は彼との面識がまだありません。私が一方的に彼の情報を集めているだけです。


 ぇ? ストーカー? 違います。何も迷惑はかけてませんし、ただ、たまたまここで聞こえて来る情報を集めているだけですので、違うと言っておきましょう。


 会話も聞こえなくなり、しばらくするとタツミ君達は体育館の方へ行くのが見えました。日課が終わったので私もお昼にしますか。



 彼を知ってから一カ月程経ちました。


 私が勝手に興味を持って調べているのですが、どうやら彼女とか特定の仲の良い女子は居ない様です。


 そもそも女子と話すのは彼は若干嫌がっている様にも見える。何か有るのですかね?


 後は彼にはかなり年上のお兄さんが居て、彼の剣道はどうやらお兄さん仕込みの様で、日曜日も関係ない様です。場所が判ったら是非とも見に行きたいものですね。


 解ったのはこんなモノですが、取り合えず地道に情報を集めつつ、知り合うキッカケ作りを模索してる最中です。


 委員会や部活、クラスやら生徒会等の何かのチャンスが有ればとは思いますが、そのイベントは全て来年まで持ち越しなので今のうちに彼の入りそうな委員会とか、そう言う情報が有れば入手しておくのに越したことは有りません。


 そんなこんなで一学期の終業式を迎えるのはあっという間でした。そしてその日、私は彼の衝撃的な瞬間を見る事になる。


 朝、学校に着いた私は荷物を置いて校内をいつもの様に散歩して彼の教室の付近で聞き耳を立てていると彼のグループの会話が聞こえて来た。


「おい、タツミ! これって!」

「ラブレターじゃねぇの?」

「いや、静かにしろって、机に入っていたからってそうとは限らないだろう?」

「じゃあ、中身見て見ろよ。」



 ……何? ラブレターですと……? 彼らの声が小さくなって聞こえなくなってしまった。


 教室の壁に寄って聞き耳を立てるか悩みますがそれでは完全に不審者です! 人通りも有るので流石にそれは恥ずかしい。


 自分の心の中で葛藤しながらも誘惑に負け、人が通りが少なくなった瞬間を狙って教室の壁に寄って聞き耳を立ててみました。


「式が終わって、放課後に屋上かよ。ベタな展開だが面白いな。」


「お前ら他人事だと思って……、どうせこん……。」


 そこだけ聞こえたが人が来るのが見えたので慌てて廊下を歩いて素知らぬフリをして自分の教室へと戻る。


「放課後屋上ね……、先回りしておきましょう。」


 自分で言ってて思うんだけど、私は何をしに行くのかしら? 

 教室に戻って、自分の席に座りながら悶々と考える。恐らくどう考えても告白だろうが、その場にいて私が何をすると言うのだろう?


 もし彼が付き合うと言ったら、私はどうするのか?


 そもそも彼と話した事も無いのに、このモヤモヤした感情は何なのだろう?


「話した事も無いのに、恋なんて変だよね?」


 無意識に一人で教室の自分の机に突っ伏して、誰にも聞こえない様な小声で呟いたのだった。




 終業式とHRが終わり、皆が帰路につき始めると同時に私は屋上へと向かったのでした。もちろん、お散歩ですが何か?


 そして屋上のドアをコッソリと開けて誰も居ない事を確認すると、私はドアの反対側の物陰へと移動する。


 見つかった場合は日陰で涼んでいたという言い訳も考えて。



 10分程待つとドアが開く音がした。こっち側に来ません様にと心の中で念じながら様子を伺っていると、少ししてから再度ドアが開く音がした。


「お待たせ、待った? えっと、隣のクラスの三上さんだっけ?」


 タツミ君の声がした。と言う事は先に来ていたのが呼び出した女の子の方か。


 足音も一つだったし、取り巻きが居る様子も無い。冷やかしと言う訳では無さそうだ。


「あ、あの工藤君。 じ、実はお願いが有って……。」


 続くセリフはシンプルな告白なのか、何か可愛らしい言い回しをするのでしょうか? 私も緊張しながら次の言葉を待っていると、タツミ君がその沈黙を破る。


「お願いって……、もしかして三上さんって、俺の兄さん知ってる?」


 タツミ君の若干ウンザリしたような声が聞こえて来る。


「え、うん。知ってるわよ。地元じゃ有名だし。」


 ん? 謎な空気になって来たわよ? 何でここでお兄さんの話が出て来たのかしら?


「俺さ、兄さんへの窓口じゃ無いから。直接本人に言って貰って良いかな? 俺への直接の用事なら最初の手紙で十分伝えられる筈だしね。」


「え? えっと何を……?」


「じゃあ、俺はこれで。」


 そう言うと扉が閉まる音がしましたが……えっと、何でしょう? この子は告白前にフラれたと言う事かしら? 


 コソッと物陰から覗いてみると三上さんと思われる、おさげ髪の活発そうな女の子は茫然として立ち尽くしています。


 うん、そこそこ可愛いと思う。清楚系だけど活発さがにじみ出ている感じと言うやつですね。コレは中々の高得点の様な気がしますが……。


 これを速攻フるとはタツミ君は中々の面食いなのか? それともさっき言っていたお兄さんが関係している?


「まだ、何も言って無いのに……、お兄さんってどういう事? 告白って雰囲気が大事だと思ったから手紙で呼び出したのに……。」


 うん、三上さんとやら、私も解らないけど貴方には何か同情してしまったわ。これはお兄さん絡みで何か有るわね。調べないと私も二の舞になってしまう。情報提供を感謝します!


 さて、まずは彼のお兄さんを調べる所から始めてみましょうか。


 あ、ストーカーでは有りませんからね? あくまで情報収集なだけですよ?


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