高校デビュ―戦
早速やってきましたインハイ地区予選です。
流石に1年生での出番は無いとの事で、先輩たちの稽古に付き合っている位でした。そしてタツミ君は中学の時から稽古に付き合っていたのを考慮されてか補欠に登録されていました。
後は試合の結果と調子を見て補欠の1,2年生を先輩と変えるかもとの事なので頑張って欲しいものです。
「しかし今年も汗臭い時期がやって来たわね。楽しみだわ。」
隣りで一緒に補助員をやっているナギちゃんの目が異様に輝いているのが分かる。ニオイフェチの本領発揮を発揮しているのだろう。
「ナギちゃん、他の人に聞かれると白い目で見られるから一応黙っておきましょうね。」
「わ、分かってるわよ。しかし今回は出番が有ると良いわね。」
ナギちゃんが少し慌てながらうちの学校のチームの方を見る。レン君は今回は補欠にも選ばれなかったので完全にマネージャー代わりの行動をしていた。
「しかし、残念ね。レン君の出番は新人戦以降に持ち越しだね。」
「ふん、あいつは推薦蹴って、合同練習に参加してないんだから当然でしょ。」
ナギちゃんは当然の様に言っているが、どこかご機嫌ナナメの言い方だ。本当は見たかったのかな? レン君をどう思っているか聞いた事も有るが、適当にはぐらかされてしまった。別に隠さなくても良いのに。
「本当は見たかったんじゃないの?」
「ヒジリちゃん。それ以上言うと補助員の中でタツミ君を狙っている事をそれとなく話すわよ。」
「スイマセン。調子に乗りました。」
「分かればよろしい。」
そう言って私達は補助員の仕事を真面目にこなす事にした。
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「さて、ついに高校生デビューだな。目立って来いよ。」
レンが俺をリラックスさせようとしているのか、いつもと変わらない軽口をかけて来た。
総当り戦の上位2チームになって決勝リーグに進めば県大会には出れるのだが、県大会出場が確定したので補欠2名の1年生と2年生の各1名を入れ替えて試合に出すことになったのだ。
場慣れさせる為に毎年やっているとの事だったが……これはかなり緊張する。だって2年生差し置いて出るんだぜ?
「何だよそれ、どこぞの目立ちたい人じゃないんだから全然意味が違うだろ?」
「お前は目立たないと、大学も推薦で行くつもりなら余計にな。」
「うわ~、真面目な正論ありがとう。」
それは余計にプレッシャーを掛けているだけだぞと言いたい。まぁ、結果を出さないと兄さんの七光り状態になるのだけは勘弁だ。
「ははは、お前の兄貴ほどの活躍を望んでは無いさ。アレは誰が見ても常識外の人だよ。もっと気楽に場慣れ程度に考えて楽しんで来い。」
レンのせいで緊張していると部長が俺の背中を叩きながら緊張をほぐしに来た。
「鳴海、お前も新人戦からは出る可能性が有るんだから茶化していると、後で自分に帰って来るぞ。剣道は相手への敬意だろ?」
「あ、ハイ……。すみませんでした。」
部長がレンに説教を始めてショボンとしている様子が見える。少しスッキリした所で改めて会場を見渡す。中学の時とは違って会場が大きいのと、少し違った雰囲気を肌で感じて深呼吸をする。
この始まる前の絶妙な緊張感が勝ち負けを抜きにしてとても好きな一瞬だ。皆の熱気と言うか感情が渦巻いているこの独特な雰囲気はいつも変わらない。
「しかし、どこに行っても兄さんの影は付いて来るな。諦めてはいるが無意識に比べられてるのが分かるから余計に面倒だな。」
部長は兄さん程は期待してないと言うが、いくら別格だの常識では計れない天才と枕詞が付いても、やっぱりまとわり付いて来るのが鬱陶しく感じる。
兄さんが居なければと思ってしまうが、居なければ居ないで自分はここまで上達しなかっただろうし、何より竹刀を握る事すら無かった筈だ。
「大会のたびに思うが、届かない太陽に憧れるのは疲れるよなぁ……。」
「お前、それ歌だと墜落しちまう流れだから変なセリフ止めておけ。」
ふとした呟きにレンからのツッコミが入って驚いた。まだ部長から説教を喰らっていると思ったら、そろそろ出番だから呼びに来たのだった。
「まぁ、やるだけやって墜落したら諦めもつくさ。」
そう言ってレンの肩を叩いて試合場の方へと移動した。
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「うちの学校の試合は隣のコートね、余所見してても良いわよ。記入は私の方でフォローするから。」
ナギちゃんがそう言って隣の会場の方を指差す。タツミ君が出て来る事をレン君経由で知ったナギちゃんが気を利かせてくれました。
「ではお言葉に甘えて、何か有ったらすぐに教えてね。」
そう言って私は横目でタツミ君の試合を見る。流石に中学までとは違って相手も年上ばかりなのか、立ち合いからの打ち込みが中々決まらずにいる。
タツミ君が小手へのフェイントを入れる。相手がそれに反応して後の先を取って抜き面を狙うがその動作を瞬時に見てフェイントからの本命の抜き胴へと竹刀の軌道を変える。
この多種多様な駆け引きがほんのコンマ数秒で行われる。素人が見たらただ大振りを狙って打ち込まれただけにしか見えないが、慣れて来ると二人の攻防が手に取る様に見えて来る。凄い時だと1回打つまでに5~6回の駆け引きをしているのが分かる時も有った。
このフェイントや駆け引きの数が増える程、観客で見えている人と、見えてない人の差がハッキリと分かって来るのです。
慣れてない人だと、回数が増えるとただ打つ体制を途中でフラフラと威嚇しているだけにしか見えない。理解できると物凄い攻防が有った事が分かるだけに、見えない人は勿体無いと思ってしまいます。
「流石に、切り落とし以外も上達してますね。本当に見ごたえの有る試合。」
今の私の顔はどんな顔なのだろうか。彼の試合を見る度に思うのだが、この凝縮された一瞬に今までの鍛錬の全てをつぎ込んだ一撃。何と美しい物なのだろうと思ってしまう。
さらに彼の成長を試合の度に見て来ているので、余計にも見入ってしまっています。人が成長していく姿とは何と心が躍る物なのでしょうか。自分もそう在りたいと願う気持ちさえ湧いてくるのが不思議です。
そしてタツミ君のデビュー戦は1本取る事は出来ましたが、残念ながら負けてしました。
「本当にヒジリちゃんって、タツミ君の剣道が好きよねぇ。目がまるで違うわ。」
ナギちゃんが終わったのを察して話しかけて来た。
「えへへ、ありがとう。じっくり見れたよ。本当に見てると自分も頑張らなきゃって思えるから不思議なんだよね。」
「う~ん、私は分かるのは気持ち良い汗臭さ位かなぁ。でも他の人の試合を見ててはそうは思わないの?」
「そう言われれば、何故かタツミ君のだけかしらね。何故かしら?」
ナギちゃんは何故タツミ君の試合だけ限定でそう感じるのか不思議そうな顔をした。私にも解りません!
「それは恋愛フィルターのせいじゃないの?」
「いや、そもそもタツミ君を知ったのは彼の剣道を見てからなのよ。だから順番が逆なのがまた不思議なんだけど。」
ナギちゃんは予想が外れてさらに疑問の顔になりますが、私にも解りません!
「ふ~ん。何かを感じている訳ね。剣筋に生き方でも見えてるのかしら?」
「分からないけど、もしかしたらそうかもね。そうだったら何か嬉しいかな。」
改めて順番が逆な惚れ方ってどうなんだろうと考えてしまいますが、結果として現在惚れてるのだから仕方ないと割り切ることにしたのでした。




