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高校生活の始まり 辰巳側

「あ、居たなレン。おはよう。何組だった?」


 俺の高校生活一日目、新しい出会いと輝かしい青春に期待しながら蕾だらけで咲く様子の無い桜に囲まれた校門をくぐるとレンが視界に収まったので声をかけた。


 レンは相変わらずの鋭い目つきで悪態をつく様に返事をして来た。


「まだ見てねぇよ。一緒に行くぞ。」


「相変わらず朝の機嫌が悪いな。そんなんだと最初から怖がられてモテなくなるぞ? そして一緒に行動している俺まで被害に合うからヤメロ。中学3年の悪夢を再現するなよ?」


 俺がからかうとレンは何か思う様な表情をした後、大きなため息をついて歩き出した。


「おい、待て! 何だよその溜め息は!? 気になるだろうが!」


「いや、お前は鈍感だなぁ……と思ってな。」


「え? それってどう言う……」


 俺が聞き返す前にレンは組み分けが張り出されている掲示板の方へと進んで自分の名前を探していた。俺もすぐにレンの横へと行き自分の名前を探す事にした。


「えっと、有った。一組か。レンも同じか。」


 自分とレンの名前を見つけて振り向くと微妙そうな顔をしたレンが立っていた。


「何でそんなに微妙そうな顔をしているんだよ?」


「タツミ、気が付かないか? 一組のメンツって野球部が多くないか?」


 そう言われて周りを見渡すと一組だと言っている人達の大半が坊主頭の事に気が付いた。


「もしかして一組って……スポーツ系のメンツが集まった組か?」


 俺が恐る恐るレンの方を無理返りながら確認すると、黙って頷いているのが見えた。そして改めて掲示板を見ると女子が異常に少ない事に気が付いた。


「多分、スポーツ系に偏らせた事で暑苦しいクラス編成なのは間違いないな。」


 レンが終わった……と言った顔をしている。俺もその事実を認識して膝から崩れ落ちた。


「お、俺達の青春ハイスクールライフの始まりが男だらけのクラスでのスタート……だと……?」


「タツミ、お前はまだ忘れている事が有る。」


 レンの含みのある言葉に俺は顔を上げると更なる事実を告げられた。


「お前は部活動推薦だよな? と言う事は君の部活は何だ?」


「け、剣道部です……。」


「そして君の後ろに見える先輩方らしき人達は何かな?」


 レンは静かに俺の後ろを指差すと、俺はゆっくりと首を後方へと回す。そこには道着姿の暑苦しい男の先輩方の集団が視界に入った。


「尚、この学校に女子剣道部は無いのは知っているよな?」


「そ、それは確かに無いのは知っていたが……」


「そうだ、つまりお前は教室でも部活でも暑苦しい男共に囲まれた青春ライフを送らなければならないのだよ! この意味が解るかねタツミ君!」


 俺は衝撃の余りに言葉を失った……何だと? 高校生活初日から何て絶望的な布陣で出迎えてくれるんだこのスクールライフは!


「おお、来たな工藤。スポーツ組は大体1組に集まっているからな。さぁ早速歓迎だ! 道場の方に来い! ん? おお、鳴海か。お前も剣道部に来るんだろ?」


 元同じ中学の一つ上の先輩が俺の肩を掴んで連行しようとすると、レンにも気が付いた様で手招きを始めた。


 よし! お前もこっちの世界に来い!


「ん? あ、俺は一般で入ったので折角だから色んな部活を見て回ろうと思っています。そちらにも伺うとは思うのでその際には宜しくお願いします。」


 そう言って深々をお辞儀をして違うクラスの掲示板の方へと歩いて行きやがった……逃げられた!


「おう、そうなのか、てっきり一組だから推薦かと思ったぞ。なら無理強いは出来ないな。出来れば来てくれることを願ってる。」


 そう言って先輩もレンに手を振って見送っていた。いや! どうせアイツも剣道部に来る筈なんだから一緒に連行してください!


「さぁ、工藤。お前はさっさと行くぞ。朝練と洒落込むぞ、他の推薦組の奴らも来てるからな!」


「入学式初日から朝練ってどう言う事ですか!」

 

「それがスポーツ特待の運命と言うものだ!」


 まさかの初日から朝練だと? 確かに遠方からの推薦入部者は中学3年生の時に合同稽古に呼ばれる事も無かったようだし、初顔合わせの奴がいるかも知れない。


 でも今やるか!? 何この人達、コレが脳筋の考え方なのか!? ……あ、スミマセン。自分も勉強できない方なので脳筋に分類されるな……え? 俺こうなるの?


 先輩に連行されながら何組まで有るのか掲示板を横目で見ていくと7組まで有るのかと理解した所で、遠目にレンが女子と話しているのが目に入って来た。


 あの野郎……2次元専門と言ってたくせにちゃっかり可愛らしい女子達と仲良く話しやがって。


 ん? と言うか女子は後姿しか見えないが……あの独特なお団子頭って、確か中学の卒業式の時に見た様な……? 隣りに居る子は……見覚えが無いな? まぁ後ろ姿だけで解るなんて特徴的な髪型の子位だろうしな。


 しかし……何だ? と言う事はレンはあのお団子頭の子と何か有るのだろうか? でも彼女が出来たとは聞かないしな……でも卒業式後に待ち合わせする位だろ? 普通の友達って訳じゃないよな?


 そんな事を考えていると道場へと到着した。




―――――――――――――――――――――――――――





 中には先輩方と推薦組の一年生らしい数名が既に待っていた。


「「お願いします!」」


 一緒に来た先輩と共に礼をしながら道場に入る。さぁ、気持ちを切り替えよう。


「久しぶりだな工藤。何だ? 2月の最後の出張稽古の時よりは少しはいい面構えになった様だな。」


 同じ中学だった3年生の先輩が肩を叩いて笑いながら言って来た。


「そうですね、ちょっと頑張らなきゃと思う事が有りましてね。」


 そう答えると先輩は少し驚いた様な顔をしてから、すぐに大笑いしながら俺の肩を激しく何度も叩いて来た。


「そうかそうか! 中学の時のお前はいつ辞めるんだろうか? と思ったもんだが、何か心境が変わるキッカケが有ったなら良い事だ! さぁ今日は入学式だからな、簡単な自己紹介と素振りをして終わりにする! 準備しろ!」


 そう言って更衣室へと俺を促した。


 そう、本当は高校まで続けるか悩んでいたんだ。でも去年のバレンタインのメッセージで少しだけ気持ちが揺らいだ……誰かも解らないが確実に応援してくれている人が居た。兄が出来るなら俺も当然と言う先入観が全く無く、自分の努力だけを見て肯定してくれた気がしたのだ。


 そう思ったら少しだけ頑張ろうと思えたんだ。いや、辞めない理由にしてしまったと言う方が正しいのだろうか? 未だに後ろ向きな気持ちで剣道と向かい合っている自覚は有る。


 そして今年のバレンタインも去年と同じ物が届いて、やっと踏ん切りがついた。


 『高校でも剣道頑張ってください。』


 そのメッセージで見てくれているんだと思えば、恥ずかしい行動は出来ないと思えたんだ。折角ならその人に会いたい。俺個人をしっかりと見て肯定してくれたその相手に。


「会う為には剣道を真面目に続けるのが一番なんだよな。だったらやるしか無いだろう。」


 俺は言葉にして気合を入れると両手で自分の顔を叩いて気合を入れた。


 自分を肯定してくれた様な気がした。それだけでやる気を出す俺も簡単な男なのだろうか? でも深く考えても現実は変わらない。なら今出来る事は真剣に目の前の事に取り組む事だけだった。


「工藤! 早くしろ! 全員揃ってるぞ!」


「ハイ! 今行きます!」


 俺は着替えてこれからの高校生活の目標を心に刻んで道場へと駆けて行った。 






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