卒業式と言えば第2ボタン
今日はついに中学校の卒業式を迎えました。公立高校の合格発表は明日なので、自信のある人ない人で様々な表情で卒業式に臨んでいます。
結局、この中学の三年間で友達と言えばナギちゃんとレン君しか出来なかったなぁ。そもそも1年生の時は休みがちだったので、最初のグループ形成の時に学校に居なかったのと、気遣われ過ぎでぼっちになったのが原因ですが。
結局の所、学校ではレン君とは話さないようにしているので、学校内ではぼっちを継続してます。いや、別に慣れているので平気ですよ? 卒業式に一人でたたずんでいるからって同情は……しないで下さい……。
高校ではグループ形成する時には何とか頑張ろう、人見知りも治さないといけませんからね。
そしてナギちゃんが無事に受かっている事を祈ります。一緒に自己採点した時はギリギリのボーダーラインと言ってましたから。
そんな事を考えているうちに式も終わり、各自見送られながら校門の外で最後の談笑を交わしているとレン君とタツミ君とその他数名で話しているのが見えました。
---------------------------------------------------------
「お前第2ボタンとか予約されてる?」
「そんな訳ないだろ? お前こそどうなんだよ?」
「と言うか今更第2ボタンってやってる奴いるのか?」
そう、今の時代でも第2ボタンとかまだそんな風習続いているのかと思うが、うちの学校は学ランなので意外と続いているのだ。
「まぁ、俺の第2ボタンは無事に焼却炉行きか、燃えないゴミだな。」
「まぁ、この面子は全員そうだろうな。」
皆が、貰い手の無い第2ボタンをおもむろに弄っている。そりゃ貰い手が無かったらリサイクルかゴミ行きだろう。兄弟が居たとしても既に使い古した学ランを使うのは意外と少ないだろう。
「ん~、タツミ。どうせ捨てるならクレ。サイン付きで。」
レンがいきなり妙な事を言い出した。ちょっと待て! 俺にその気は無いぞ!? お前は2次元専門じゃなかったのか!?
「お前……ついに2次元専門からそっちにジョブチェンジしたのか?」
回りの友達が言うが、俺もそれに黙って頷く。いきなり男に第2ボタンをクレとか言われたらその気の無い俺は少し考えてしまうだろうが!
「アホか、将来お前は剣道で大物になるんだろ? そしたら将来、その第2ボタンに価値が付くかもしれないだろ? そしたら鑑定番組にでも持って行ってテレビに出てやるのさ。」
レンが想定外の欲望を言い出した。そもそも俺がどれだけ有名になると言うのだ?
それに剣道はオリンピック種目には絶対ならない。有名になるのが難しすぎるだろう。
「それって取らぬ狸の皮算用過ぎないか? だったら自分で有名になって出せよ。」
俺が呆れて言うと、レンはそうか? と言った様な顔をしている。絶対そんな価値で無いから安心しろ。
「まぁ、流石にタツミがテレビに出る様な人間になる気はしないよな。」
周りの友達もヤジって来るが俺もそう思う。そんな過大評価は要りません。負け知らずの兄さんですら大会に優勝した時に夕方の地元のニュースでちょっと映像が出る程度なんだから有名になる要素が無いと思う。
「解った、俺のもやる。だから寄越せ。お互いに有名になると言う誓い代わりだ。」
不服そうなレンが自分の第2ボタンを取ってマジックペンで裏側に名前を書きだした。何だよ誓いって。お前そんな青春キャラだっけ?
「いいか、俺はタツミならもっと上に行けると思う。それに俺も負けるつもりは無い。お互いにもっと上に行くんだろ? 有名になってコイツを欲しがる奴に見せびらかすのも面白そうじゃ無いか?」
そう言うとレンは俺にマジックペンを差し出して来た。
「お前な……、たまに変な所で面白い事言うな。お前が後で好きな子が出来て渡したいから返せって言っても返さないかも知れないぞ? 高く売りつけてやる。」
これって絶対に価値が付かないと思うが、高校の剣道でも勝つ事への約束の証として記念にするのも有りかと思って俺はペンを受け取ってボタンを取り外す。
「よし、それじゃあ高校でも頑張ろうぜ。勉強も。」
ボタンを交換すると余計な一言が飛んで来た。ベンキョウ? ナニソレ? アーアー、キコエマセン。
「お前ら進学校なんだから勉強も頑張れよ。俺らは工業とか商業高校だから、進学しても専門学校だからな。そこまで必死に勉強せずに部活に青春をかけるつもりだ。」
周りの友達もここぞとばかりにヤジって来やがった。高校は赤点だと留年だから最低限は真面目にやらないとなぁ……、ヤバい時はレンに頼み込んで教えてもらおう。
「じゃあ、みんな元気でな。たまには連絡して会おうぜ。」
「ああ、またな。」
各自いつもの帰り際の様な言葉を交わして別れを告げた。そして俺とレンだけになった。
「明日の合格発表は見に行くんだろ?」
「行かねぇよ? どうせ受かってるって解ってるし。」
レンの奴、自信が凄いな……。まぁ確実と解っているなら見に行かないか。自分の番号を見つけた時の表情を拝んでやろうと思ったのに。
「行かないのかよ……、からかってやろうと思ったのに。」
「次合う時は入学式だな。どうせお前は春休みも兄貴と稽古なんだろ?」
嫌な現実を突きつけられた。そうなのだ。兄さんは大学を卒業するから関係無くなると思ったら、大学院に行きやがった! そして剣道部の臨時コーチをするとの事に! いい加減働けよ! そして一人暮らしをしやがれ!
「嫌な現実を突きつけるなよ……。青春とは一体何なのだろうな……。」
レンはそれを見て俺の肩に手を乗せると、満面の笑顔で親指を立てて来た。
「頑張れ。俺はその間に青春しておくから。」
「うるせぇ! お前の青春は2次元だろうが!」
ムカつきながらも、言い返した後にコイツも虚しい気がするな。と思ったのだった。
「残念、他校の女の子と会う約束してます~。」
「はぁ!? お前いつの間に?」
レンの勝ち誇った顔がムカついたが、それよりも誰と会うんだよ? しかも他校の女の子って。そう思っていると、一人の他校の制服を着たお団子頭の女の子が歩いて来たのが見えた。
「あ、居た居た。レン、早く行くよ。待ち合わせに遅れるよ?」
その子はこちらに近寄って来ると、レンの服の袖を掴んで引っ張る。
「分かった、分かった。と言う事で。タツミ。頑張れ。」
そう言うとレンはその子の方を向いて歩き出す。女の子の方は俺の名前を聞いて、何かに気が付いたような顔をしてこちらを向いて軽くお辞儀をしながら話しかけて来た。
「あ、あなたがタツミ君ね。レンから話は聞いてます。今日はレンをお借りしますね。」
そう言うと二人は去って行った。
何だろう……、とても負けた気がした。と言うか、レンの奴さっきの子に第2ボタンを渡さなくて良かったのか?
---------------------------------------------------------
「で、首尾はどうよ?」
「ふ、上手く言いくるめてタツミの第2ボタンは手に入れたぜ。サイン付きだ。」
「おぉ、やるじゃない。ヒジリちゃんがどんな表情するか楽しみね。」
「まぁ、第2ボタンの交換で上手く言い包めた俺を称賛してくれ。」
「調子に乗らないの。まぁその辺の話はヒジリちゃんを交えて聞かせてもらおうかしら。内容次第ではパフェ位は奢ってあげるわ。私からの依頼だったしね。」
「よし、期待しておく。さぁ行くか。」
ナギとレンは悪巧みの顔をしながらヒジリとの待ち合わせの場所へと歩いて行ったのだった。
その後、第2ボタンを貰ったヒジリがしばらく妄想の世界から帰ってこなかったのは言うまでもない。二人はそのリアクションを見て大いに楽しんだ様だった。
あ、後ナギは無事に補欠合格してましたとさ。




