六波羅 凪
さて、今度の中総体はどうするか?
今回の問題はここだ。バレンタインのチョコであのメッセージを送ったのだから、試合を見に来ている部外者は真っ先に疑われるだろう。
新人戦の時は特に顔がバレる心配が無かったので堂々と補助員をやってましたが……そこ! 見れてないでしょって言わないで下さい!
「今回も現地集合にしてもらって……、その後どうしよう……。絶対に探される可能性有るわよね。」
あ~メッセージをしくじった! あれは見方を変えれば、地雷臭がする女からのチョコじゃ無いか! どう見てもストーカーを疑うレベルじゃないの!
私が前よりも伸びた髪をクシャクシャしながら悩んでいると先生が声を掛けて来たのだ。
「聖、何してるんだ? 頭かゆいのか?」
「あ、せ、せせ、先生! いや、だ、大丈夫です! ちょ、ちょっと考え事をしていて……。」
顔を上げると、そこには剣道部の桐生先生が居たのだ。
「そうならいいんだが、今回も補助員をお願いしたんい……」
「むしろさせて貰います。誰にも譲りません。」
「お……おう。やる気に満ち溢れて良い事だ……。」
先生が食い気味に返事をすると少したじろいでいます。補助員は前回ので慣れて来たので今回こそは見学する余裕も有る筈ですからね!
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「これが記録紙で、入った技ごとに記入していってね。どっちに入ったかは背中に付いてる帯の色を見れば解るから。」
「ははは、は、ハイ。わわわ、解りました。技の頭文字をカタカナで書いて行くんですね。」
「そうそう、面ならメ、小手ならコ、胴ならド。物分かりが早くて助かるわ。」
他校のマネージャーさんが補助員の仕事を再確認するかの様に色々と丁寧に教えてくれました。私の人見知りは絶賛発動してどもりが酷いです!
そうなのです。私は顧問の先生からの依頼で本日は補助員をする事になったのです! これなら怪しまれずに試合を見ることが出来ます!
「今日は記録紙の記入だけをお願いするから、これだけを覚えれば大丈夫よ。解らない事が有ったら隣でタイムキーパーしてるから、すぐに聞いてね。」
「わ、わわ、解りました! が、頑張ります!」
流石に前回の補助員で一通りの作業は覚えたが、なにせ半年ぶりです。念の為に知らないフリをするのも大事な処世術ですね。
さて、今回の試合会場は全部で6面有る。運が良ければ真正面で見ることが出来るが、これは運次第ですね。自分の運を信じよう。
ちなみにタツミ君は既に会場でウォーミングアップをしていた。ただ、気になるのは、ふとした時に周りを見回して視線を探している様だった。
「ヤッパリ、あんな事書いてたら普通に探すわよね……完璧に不審者の行動だもん。」
私は目を合わせないように警戒しながら視線を送る……ってやっぱりコレってただの不審者じゃないの! あー! やり方失敗したわ! 穴が有ったら入りたいです!
取りあえず、今回の大会は目の前に来た時以外は自重しましょう。挙動不審で最初の好感度がマイナスのスタートは勘弁です。
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「なぁ、どうだそれらしき人は居たか?」
レンが話しかけてきた。俺は首を横に振って答える。
「流石にこの人数の中を探すのは無理が有るな、逆にあんなアプローチして来る位だから、話しかけて来ても良いように思えるんだがな。」
「逆に人見知りとかで、ああいう行動しかとれないパターンも有るぞ?」
「そう言うものか? いや、有り得るな。兄さんの取り巻きにもそう言う人が一定数居たのを覚えてる。」
それを聞いたレンは哀れむ様に俺を見て来た。
「タツミ、それを自分じゃなくて兄経由の経験と言う時点で、かなり悲しい発言だと気が付いているか?」
「言うな! 解っているけど事実は変わらん。取りあえず願うのは可愛い子だったら嬉しいです。」
「お前な……そこで外見重視の発言するのはどうかと思うぞ?」
「妄想するだけなら自由だろうが。それに夢は有った方が良く無いか?」
俺がそう言うとレンは呆れた顔で肩が下がる位の大きな溜息をついた。
「だったら、近くに居るお前に好意を持ってる奴で、見た目が好きな奴と付き合えよ。何で普段は鈍感なくせに……」
レンが小声で呟いたが、その言葉は会場の気合の入った練習の声でかき消された。
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さてさて、大会も順調に進んでおります。
団体戦では、うちの学校は無事に県大会出場を決めました! パチパチパチ~
タツミ君と鳴海君と言う二人がポイントゲッターになって勝ち星を重ねた様です。
スコアボードで確認しただけですが、鳴海君は確か新人戦の時も勝ち星をかなり獲得していた記憶が有ります。彼もさらに強くなったようです。他の部員さんはそこそこかな? 勝ったり負けたりです。
ちなみに私の担当したコートでの試合は1回だけでした。まぁ1回でも目の前で見れたからOKです。相変わらずの剣道で惚れ惚れしながら見させて頂きました!
と言う事で、午後の個人戦に向けて現在はお弁当タイムです!
「意外と補助員のお弁当ってしっかりしているのね。」
渡されたお弁当は某チェーン店の幕の内弁当だ。新人戦の時もそうだったが、ここまでちゃんとしたお弁当が出るとは思ってなかった。精々おにぎりを選ぶ程度かと……失礼しました。
「えっと、もし一人なら一緒に食べない? 実は学校から来てるの一人だから、一緒に食べる相手が居ないの。」
不意に声を掛けられて振り向くと、補助員で一緒に座っていた子から話しかけられたのだ。
「え、え、ええ、良いですよ。わわわ、わ、私も一人なので。」
ハイ、声がどもります。もうお約束ですね。初対面の人と話すのはやっぱり苦手です……。
「良かった。私は『六波羅 凪。宜しくね。」
六波羅さんは小柄な可愛い系の女子で、髪はセミロング位だろうか? 後ろでお団子ヘアーにしているので予想だ。そしてちょっとだけ癖毛が入っているのか良い感じで全体のボリュームがあり、ふんわりとした感じを受ける。
目元もおっとりした感じで、何と言うか全体的に見ると癒し系の塊かと思う程です。そして、気になったが……胸が大きい。いいなぁ、自分の残念なサイズの所に視線が無意識に向いてしまいます。やっぱり大きい人を見ると羨ましくなる。
「わわわ、私はか、『火神 聖』。よよよ、よ、よろしくお願いします。ろ、六波羅さん。」
「ふふ、ナギで良いわよ。私も名前で呼ばせて貰うから。と言うそんなに緊張しなくて良いわよ。もしかしてヒジリちゃんって人見知りなのかしら?」
私の緊張が伝わったのかナギさんはクスっと笑いながら答えて来た。
「で、では、ナギさん。ヨロシク。」
「さん付けはちょっと……ヒジリちゃんは何年生? 私は3年なんだけど?」
ナギさんは少し不服そうな表情をしながら顔を近づけて来ますが、この人は私の逆で人懐っこく無いですか?私にもその才能を少し分けて欲しいです。
「わわ、わ、私も3年生でしゅ。」
恥ずかしい! 噛んでしまった! 本当に初対面の人と話すのは苦手です!
私が恥ずかしがっていると、ナギさんはクスクスと笑いながら手を差し出して来ました。
「同い年なら呼び捨てかせめてちゃん付けにしない? 私はこのままヒジリちゃんって呼ばせてもらうわね、宜しくね。」
「あ、ははは、ハイ! よ、宜しくナギ……ちゃん……。」
そう言って手を握り返すと満足そうに微笑んでいますが……何ですか? この子は? 可愛いんですけど!? 天使か何かですか!!
「うん、そうそう。宜しくねヒジリちゃん。」
そうして私は、初めて出来た友達? 友達って言うには早いかな? 一応まだ知り合いと言う事にしましょう!
知り合いになったナギちゃんと一緒にお弁当を食べるスペースを探しに二人で移動する事にしたのでした。




