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渡すタイミングは?

――――――――工藤家――――――――



「龍一、ポスト確認して来い。」


 珍しく朝一から親父が兄さんの部屋へ行って命令している。


「えー、何で?」


「毎年この日はお前の荷物で一杯だからだ。近所迷惑だから早く回収して来い。」


「俺が出ると余計に近所迷惑じゃん。タツミに行かせてくれよ。」


 アーアー、毎年面倒なこの日が来ましたよ! 2月14日のバレンタイン! 今日は折角の日曜日で学校も無く平和に過ごせると思ったら家のポストもかよ! 頭おかしいんじゃねぇの?


「辰巳、手間だが回収して来てくれ。カラスが寄って来ても困る。」


「カラスが湧くレベルなのかよ! だったらもうカラスにくれてやれよ!?」


 俺はリビングでゲームをしながら抗議する。待ち伏せ組も居るだろうから絶対にそんな危険なエリアに行きたくない! むしろカラス頑張れ!


「だから近所迷惑になるから早く回収して来い。」


「親父が行けよ……。」


「流石にあの待ち伏せしている人達から、見た瞬間に『違う!』って言われながら舌打ちされたらメンタルが持たないからもう無理。」


 ああ、親父も被害者なのね……、むしろその元凶をどっかに一人暮らしさせろよ。何で大学生にもなって実家暮らしなんだよ?


 親父が気の毒になって、仕方なく玄関を出て門口のポストに視線をやると、そこにはチョコが溢れているのが見えた。玄関の音を聞いて数人がこちらを覗き込んでいるのが確認できた。


「今年も多いな……、そして待ち伏せ組の殺気が尋常じゃねぇ……。」


 俺は持って来た大きめのエコバックにチョコを回収してポストの中を空にすると、待ち伏せ組が声を掛けて来る。


「君って、弟君だよね? お兄さんは居る? 居たら呼んで来てもらえないかな?」


 あー、やっぱり来たか。最早面倒過ぎるし、相手にしていたらキリが無いので適当な嘘をつく。


「兄さんは毎年この付近の日は何処かに泊まりに行きますよ。家が毎年この状況なので。数日は帰ってきません。」


「そうなんだ……、じゃあ、これを渡して貰えるかな?」


「ハイハイ、預かるだけは預かります。」


 俺は無愛想にそう言ってその人たちの分も全てエコバッグに回収して家の中に持って行く。他に待ち構えている人が居ないか様子を見るが……いない様だ。


 ……でも何か視線を感じる。気のせいか?


 家の中に入ってリビングのテーブルにチョコを広げる。そして兄さんを呼び出し、今日の外出禁止の命令をした後、このチョコの山の処理をどうするか家族で相談が始まった。


 --------------------------------------------------------- 



 ふむ、予想どうりにお兄さん目当てのチョコが尋常じゃない量でしたね。下手にポストに入れていたらメッセージカードも読まれずに捨てられる可能性が有りました。


 そして、空になったポストにまたチョコが入れられている……これは夕方以降に出直さないと無理そうですね。


「あのお兄さんって何者なのかしら……、どれだけ人気者なの? 先程の渡して攻撃も凄いし、これはタツミ君が疑心暗鬼になる筈だわ。」


 私は呆れながら夕方、少し暗くなる頃に出直す事にした。



 そして夕方になるころには全部回収されており、待ち伏せしている人の姿も見えなくなっていました。


「やっと、入れられるわね。メッセージカードも置いて、後はピンポンダッシュで逃げるだけね。」


 流石にこの文言が有ればタツミ君も自分のモノだと気が付く筈だろう。単純な文言だがこれだけの為にかなり夜更かしをしてしまった……。手渡しも考えたいけど……この惨状では逆効果なのが目に見えてます。


 --------------------------------------------------------- 


 ピンポーン


「タツミ宜しく。」


「またかよ! 一体何時まで続くんだよこれ!」


 兄さんに言われて再び俺は玄関へと向かう。すると誰も居なかった。念のためポストを開けると、ご丁寧にメッセージカード付のチョコが入っているであろう箱が置いてあった。


「はぁ~、またかよ。」


 そう言って箱を手に取るとカードには大きく解りやすいように文字が書いていた。


「タツミ君へ」


 その文字を見て、俺は何かドッキリなのかと思って周りを見回す。しかし誰も居る気配がない。


「あれ? これって俺宛なのか? 本当に?」


 俺は一人で混乱したが、落ち着いて家に戻って自分の部屋へと向かう。


「ん? どうした。また龍一のじゃなかったのか? 何か顔がニヤケているぞ?」


 親父が声を掛けて来た。俺の顔は余程ニヤケていたのだろう。だって初めて俺宛へのバレンタインだったのだから。


「ああ、珍しく俺宛だった。ちょっと部屋に戻る。」


 そう言って部屋に入る。親父と兄さんが何か言っているが気にしないで放置した。


 そして机に箱を置いて椅子に座って箱を開ける。ビックリ箱で無い事だけを本気で祈ったのは言うまでも無い。


「これは、手作りか。」


 中身はトリュフの様なチョコが数個入っていた。手作り感が満載で、これ以上無い程に嬉しかったのは言うまでも無い。そして中にもメッセージカードが入っていた。


「あなたの剣道を応援しています。頑張ってください。」


 それを見てふと、中総体後の先生の言葉を思い出した。


「そう言えば、俺の剣道見て感動していた観客が居たと先生が言ってたな……もしかしてその人か?」


 ふとした疑問が浮かんだが、多分それ以外考えられない様な気がする。だって名前も書いて無い上に、剣道のワードを使って来る人はごく少数だろう。それにうちの剣道部は女子部が無いからその線も無い。


「今度先生に聞いて見るかな? しかし、俺の剣道を応援しているって……物好きな子も居るもんだな。」


 俺は苦笑いしながらも、ちょっとだけ嬉しかった。あんなに嫌になっている剣道のおかげで人生初のチョコを貰えたのだから、何と言う皮肉だろうと思ってしまった。




 翌日、顧問の先生に中総体の時の件を聞いて見たが、帰ってきた返事は


「個人情報なので教えれません。自分で探しなさい。」


 教えてくれたってイイジャン! そう思っていると、先生はヒントだけくれた。


「一応、年齢だけはお前と同い年だよ。」


 うん、半端なヒントありがとう。つまり、うちの中学か、よその中学かも謎のままなのかよ。範囲が広すぎるわ!


 そして、俺はこのチョコの送り主を探そうと決心したのだった。



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