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合宿の後での歓談

――――――――――――合宿最終日――――――――――



「さて、今日で最終日だ! 気合入れて総仕上げの稽古だ! 午前は総当り戦をして最終仕上げだ。その後は少し遅めの昼食になるが、バーベキューをしてそのまま午後は打ち上げになる。気合を入れて行けよ!」


 練習場に八雲さんの声が響き渡る。相変わらずの声量だ。俺も含め他の部員は正座をしてその言葉を聞く。そして稽古開始の合図の声と共に全員がクモの子を散らす様に立ち上がって各自がウォーミングアップを始める。


「さて、タツミ君も今日は総仕上げの稽古だから基本的に対人の総当り戦になる。体力的にキツイかも知れないが倒れない程度に頑張ってくれ。」


 八雲さんはわざわざ俺の所に来て声を掛けてくれる。何だかんだでこの人が一番俺の体調やメンタルを気にかけてくれていた。


「ありがとうございます。色々とご迷惑を掛けましたが、最終日位は何とか食いついて行きます。」


 そう言って笑顔で返すと、八雲さんは笑顔で俺の頭をわし掴みにして撫でながら言ってきた。


「その意気だ。今回の合宿稽古は苦労しただろうが、それを乗り越えたと言う自信がタツミ君をまた一歩成長させる自信に繋がる筈だ。頑張れよ。」


 何と言うか、八雲さんに接していると兄さんとは別の意味でのお兄さんを持った気分になる不思議な人だった。部長に選ばれているのも、この面倒見が良い温和な性格故なのだろうと思う。少なくとも、うちの兄さんには無い優しさだろう。 


「何だよ~部長、人の弟を取らないでくれます? それはどっちかと言うと俺が言うセリフじゃないですかね?」


 兄さんが不満げな顔をしながら八雲さんに声を掛けて来た。


「いや、絶対に兄さんはこんな事言わないだろ? むしろ煽って来るのが兄さんだと思ったが?」


「何を言っているんだ。俺はタツミの成長を信じているから別にそんな言葉を掛ける必要は無いと思ってるだけだぞ?」


 相変わらずどういう意味で信じているのか謎な返事が返って来る。


「龍一、お前が信じているのは良いが、それは言葉にしないと伝わらないのだからな? ちゃんと言葉にしないとダメだぞ?」


「解ってますよ、だからこの前の中総体前には言葉と行動でアドバイスしてあげたんですから! ちゃんと部長の教えどうりに。」


「もしかして、中学に上がってからやたら稽古に付き合わされてるのって、そう言う意味なのか?」


 兄さんと八雲さんの会話を聞いて中学になってから、稽古に誘われる原因はまさかこれのせいかと疑う。


「ん? そうなのか? 俺は龍一が辰巳君が才能が有る筈なのに全然伸びなくてどうしたものか、とボヤいているのを聞いてアドバイスしただけだが。」


 八雲さんのセリフを聞いて兄さんの方をジト目で見ると、相変わらずの平然とした顔で言ってきた。


「一応、ホラ。自分才能が有るとか思うと人って努力しなくなるとか言うから今までは敢えて言わない様にしてたんだよ。だけど最近行き詰っている様だったから色々と声を掛けてたんだよ。」


「兄さんに才能が有るって言われても説得力が全く無いんだが?」


「ふん、才能溢れるこれ俺が言うんだぞ。もっと信用しろ。」


 うわ~、この人自分で才能溢れるとか言っちゃってるよ。普通ならただのイタい人なのだが、兄さんだけはそれを言っても誰も反論できないのがムカつくのだ!


「龍一、お前はもう少し謙虚と言う言葉を覚えた方が良いと思うぞ。」


「謙虚と言う行動にどれ位の意味があるのか次第ですね。この場合はあまり意味が無いかと。」


 八雲さんがも物凄く呆れた声でタメ息交じりに言うが、兄さんはどこ吹く風の調子だ。八雲さんもよくこんな人を含めて皆をまとめているなと感心してしまう。


「それに部長のリーダーシップとかも才能の領域だと思いますよ。俺には部長の真似は絶対に出来ませんからね。」


「ハイハイ、天才様に認められて光栄だよ。さて、稽古を始めるぞ。」


 そう言って八雲さんは稽古の準備に向かった。俺も自分の防具を付けて準備に入る。八雲さんの言った通りこれを乗り越えて自分に自信を少しでも持てる様に頑張らないとと思った。



 ---------------------------------------------------------


 気合の入った声が練習場から響いてきました。


「いよいよ、最終日ね。彼とは何か進展が有った?」


 叔母さんが興味津々な顔でこちらに聞いて来ます。


「そうですね、進展自体は特に無いですけど、色々と知る事が出来たので充実した期間でしたよ。」


「アンタ、本当に奥手ね。まぁ満足したなら良いんだけど。」


 私の返事に叔母さんが呆れた表情をしていますが。私としてはこの10日間で彼の好みも一応(?)確認できたし、お兄さんへのコンプレッスクも確認できた。それに自宅の場所も判明したので十分な戦果だと思う。


 え? 最後の項目は気にしたら負けです。別に悪い事をするつもりは無いのでご安心して下さい。


「さて、今日は最終日だからバーベキューの準備をするわよ。今回は私達も参加OKだからどんどん串に材料を刺して準備しましょう。」


「「「了解です!」」」


 周りのバイトの子達もバーベキューに参加OKと聞いてやる気に満ち溢れている。まぁ確かに夏と言ったらコレですよね。


 さて、最終日は流石に帰りが一緒になる事は無いだろうから、私は情報収集して運が良ければ会話が出来ればなぁ……。


 そんな妄想にふけりながら準備を進めて行く。中々収穫の多い夏休みだった。特に写真を撮れた事は一番の収穫だっただろう。ついついスマホのホーム画面にしてあるその写真を見てニヤケてしまう。


 ん? 隠し撮りじゃありませんよ? だって肩を貸してあげたんだから当然の権利ですよね? 何か問題でも?


 そしてバーベキューの時間が訪れたのでした。




 ---------------------------------------------------------


「では、この10日間のハードな合宿を乗り越えた事と、サポートしてくれた方々への感謝を込めて!」


「「「「「カンパーイ!」」」」」


 八雲部長の掛け声と同時に乾杯の大合唱が響きわたる。そして各々好きな材料が刺さった串を持って焼き始めたのだった。そして20歳以上の部員はビールを既に構えている。八雲部長は真っ先に飲んでいたのが見えた。


「龍一! お前もたまには飲め! 意外といけるのは知っているんだぞ?」


「いや、部長。出来上がるの早くないっスか?」


「い~や、俺はいつもこんな感じだ。むしろお前は少し酔ってみろ。たまには本音を言ってみ見ろよこのムッツリが!」


 う~ん……、八雲部長が思いっきりお兄さんに絡んでますね。対照的にタツミ君は別に気にしない様子で黙々とお肉を食べてますね。でも部長さんがそれを見て絡みに行きました……、絡み酒と言うやつですか……。


「そうそう、タツミ君! 君は中々どころか大したもんだよ! 中学生なのにこの練習について来るんだから! コーチも大変喜んでいたよ!」


「いや、ついて行くのが精一杯で凄い事は無い様な……。」


「もっと自信を持て! 何で君はそんなに自己評価が低いんだ? 龍一はアレは異常なレベルだから比べると心が擦り切れるぞ。」


「いや、比べるつもりは……。」


 タツミ君の表情が暗くなってますね。やっぱりお兄さんに対してのコンプレックスは大きいのでしょうか?


「あ~、もしかしてアイツの告白の窓口にされているのに不満か?」


 ん? 告白の窓口? そう言えばこの前の屋上での一件もそんな事を言っていた様な気がします。私はお肉を口に運びながら聞き耳を立て続けました。


「そりゃ、クリスマスもバレンタインでもプレゼントやチョコを渡されたと思ったら、全部『お兄さんに渡して』って言われ続けると殺意が湧きます。」


「解る! 解るぞ! 俺も大学内で何度も同じ目にあったから良く解る!」


 八雲部長がタツミ君に抱きついて同情しています、どっちもあのお兄さんの自覚のない被害に合ったと言う事ですか。


「まさか、八雲さんもだったんですか?」


「そうさ! ちょっと仲の良い先輩と言うだけで面識の無い子から何度言われた事か!」


 そう言うと二人はガッチリと握手を交わしていた。これは何と言う男の友情なのでしょうか?


 まぁ総合すると、タツミ君はお兄さん関係で『告白と思ったら全部違った』と言うのを経験し過ぎて恋愛と言うか告白全般に疑心暗鬼なのですね。よく解りました。今回のバイトの一番の情報はコレでしょう。


「さてさて、この面倒な男を口下手な私がどうやって口説き落とせばいいのかしら?」


 ボヤいてみるがこれは結局の話、惚れた弱みなのだから頑張るしか無いと思って何かしらの計画を考える事にしたのだった。






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