詩人
春の風が吹き過ぎ去り、暖かで水の匂いを纏う南の風が、男の座る縁側へと吹き抜ける午刻。
片膝を手で持ち上げ、如何にも世界に没入している詩人な風情で、こちら側を覗いている。覗くにしても、
もう少し笑みを持ってほしいと私たちは思う。
塀を隔てた向こうには、商人が往来を止めず焦燥を駆り立てる。詩人はお構いなしだ。
何度も首を唸らせる。手を揺すりながら、何度も頬を触った。顎にも手をやったが髭はなく、ただ空振りをするばかりであった。
飼っている覚えのない猫がやってくるのもしばしば、電線に止まる鳥に規則性はなく、朝に見た盗人も昼頃には治安維持に捕まっている。
雨は止むことなく、永続的に降り続いている。
庭先の葉に座るアマガエルに雫が溢れた。
詩人は閃いたと言わんばかりに床を蹴った。
早くも詩人は書き留めようと、紙とペンを鷲掴みにして持ってきた。書き起こすとそこには、無数のアマガエルが顔を覗かせていた。
詩人は不満気だった。
また詩人は私たちを覗いて固まってしまった。