表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/74

第8話:手に馴染む力

 悠馬の手の甲からじんじんと痛みが広がっていく。フィクスはその様子を見て満足げに頷いた。


「まあ、そんな顔をするな。すぐに慣れる」


 フィクスはそう言い放つと、手早く消毒薬を取り出し、悠馬の手の傷を洗い流し、店を後にした。




 その後、エルは俺の横に座り、献身的に包帯を巻いていく。細い指先が器用に布を操り、しっかりと固定していくのを悠馬はぼんやりと見つめた。


「ありがとう、エル」


 俺は静かに礼を述べる。しかし、エルは軽く首を振った。


「いいの。……わたしの方が、何倍も助けてもらったから」


 エルは涙目で微笑む。その表情には、まるで亡くなった姉と自分を重ねるような切なさが滲んでいた。俺は言葉を返せなかった。ただ、彼女の手の温もりを感じることで、エルの想いを受け止めるしかなかった。


 そんな中、フィクスが戻ってきた。無造作に扉を開け、足を踏み入れる。


「おお、腕の調子はどうだ?」


 フィクスの軽い調子に、俺は思わず睨みつける。


「誰のせいでこうなったと思ってるんだ?」


 俺は若干苛立ちながらも、痛みが落ち着いてきたこともあり、淡々と答えた。


「……まあ、なんとか無事だ」


「ならいい」


 フィクスはそう言うと、悠馬の包帯を巻いた手を見つめた。


「傷を見せてみろ」


 俺は一瞬警戒するも、大人しく手を差し出した。しかし、次の瞬間、フィクスは懐から小さな黄色の石を取り出し、悠馬の傷口に無理やり押し込んだ。


「ぐあっ!」


 突如襲い掛かる激痛に、悠馬は思わず叫び声を上げる。


「やめて!」


 エルがフィクスに飛びかかろうとするが、彼はそれを片手で軽く制した。エルは歯を食いしばり、必死に悠馬を助けようとするも、その体は震えていた。


 フィクスは意に介さず、さらに小さな黒い石を取り出すと、それを悠馬の手の傷口に押し込む。


「じっとしてろ」


 威圧的な声に、二人は動きを止めた。しばらくすると、悠馬の手の甲から黄色い光がゆっくりと溢れ出す。


「なんだ……これは……」


 俺は息を荒げながら、震える声で問うた。


「そいつは『マナの結晶』だ。さっきの男の死体から取り出したやつさ」


「マナの……結晶?」


 フィクスはまるで俺の反応を楽しむように口元を歪める。


「戸籍とは関係ないが、俺の仕事を手伝ってもらうために、お前にマナを持たせたかった。それだけだ」


「だから、ナイフを突き立てたのか?」


 俺が息を荒げて問い詰めると、フィクスは肩をすくめて呟く。


「あれはただの趣味だ」


 エルは震える手で俺の腕を握りしめている。彼女の瞳には恐怖と混乱が入り混じっていた。


 やがて俺の手の光は静かに収まり、痛みも次第に引いていった。息を整えながら、フィクスを睨みつける。


「……で、これは一体どう使うんだ?」


「簡単だ。手に力を込めて集中しろ」


 フィクスの言葉に半信半疑ながらも、俺は右手に意識を集中させた。すると——


「っ……!!!」


 突如、右腕に激しい電流が走るような痛みが駆け巡った。まるで感電したかのような衝撃に、思わず地面に膝をついてしまった。


 その様子を見たフィクスは、眉をひそめる。


「……妙だな。こんな反応は普通しねぇんだが」


 フィクスは興味深そうに悠馬を観察する。


「お前の体、少し普通と違うのかもしれねぇな」


 エルは俺の背中をさすりながら、心配そうに顔を覗き込んだ。


「大丈夫……?」


 俺は荒い息をつきながら、ゆっくりと頷いた。


「……ああ、たぶん……な」


 しかし、右腕にはまだビリビリとした違和感が残っていた。この世界の“マナ”というものが、俺にとってどんな影響を及ぼすのか、それはまだ未知数だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ