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第75話:旅は道連れ⑧

 宿に戻った俺たちは、それぞれの部屋へと散っていった。


 エルと宿の入り口で合流すると、彼女は俺の顔を見上げてすぐに安心したように表情を緩める。


「ユウマ、無事?」


「ん、大丈夫だよ。ちょっと動き回ったけど、怪我もないし問題なし」


 できるだけ心配をかけないように、俺は軽く笑って見せた。エルはじっと俺を見つめた後、小さく頷いた。


「……なら、よかった」


 少しほっとした表情を浮かべたエルを見て、俺も安心する。部屋に戻り、ひと息つこうとしたそのときだった。


「よう、ユウマ! 夜はこれからだぜ!」


 唐突に部屋の入口が開き、そこにはテンション高めのドラドとシグルドが立っていた。


「……いや、どうしたんだよお前ら」


「どうしたもこうしたもねえよ。せっかく旅行に来たんだ、観光外の醍醐味を満喫しねえと損ってもんだろ?」


 ドラドはニヤリと笑いながら、俺の肩をぐっと掴む。


「酒、食事、女、そして酒だ。夜の街を堪能させてやる」


「いや、ちょっと待て」


 俺が止めようとするよりも早く、シグルドが横から口を挟んだ。


「酒が飲めるって時点でオレはもうついて行くって決めたからな」


 どうやらシグルドは、夜の遊びの詳細などどうでもよく、酒さえあれば満足らしい。


「いや、お前はどっちでもいいけど、俺は――」


 断ろうとした瞬間、背後から感じる刺すような視線。


「……女?」


 エルの小さな声が聞こえた。


 そっと振り返ると、エルは少し眉を寄せたまま、俺の袖を掴んでいた。


「あ、いや、その、そういうつもりじゃなくてだな……」


「ユウマ、行くの?」


 じっと見つめられ、俺は冷や汗をかく。


 すると、入れ違うようにノンが部屋へと入ってきた。


「エル、今日は一緒にお茶でも飲もうか」


「……うん」


 エルはノンの言葉に頷くものの、明らかに納得していない表情で、俺のことをじっと睨んでいた。


 俺は心の中で深くため息をつく。


(……めんどくさいことにならなきゃいいけど)


 そんなことを考えながら、俺はドラドに肩を抱かれ、夜の歓楽街へと連れ出された。


 夜の歓楽街は煌びやかなネオンが輝き、通りには活気のある人々が行き交っていた。


「どうだ、いい雰囲気だろ?」


 ドラドは肩を組む勢いで俺を連れて歩き、やがて一軒の店の前で足を止めた。


 ドアの向こうからは、華やかな音楽と女性たちの笑い声が聞こえてくる。


「キャバクラみたいなもんか?」


「まあ、そんなとこだな。ここは俺の店の一つだから、安心して楽しめ」


 そう言うと、ドラドは店のドアを開けた。


 店内は広く、豪華な内装に美しい女性たちが優雅に振る舞っている。シグルドはすでに酒を片手に、楽しそうに女性たちと会話を交わしていた。


「お前ら、よくこんなとこに通ってるのか?」


「たまにな。仕事の息抜きってやつさ」


 俺は適当に席に座り、ドラドも隣に座った。


 女性たちが酒を注いでくれる中、ドラドは俺に向き直り、声のトーンを落とした。


「で、お前のマナについて詳しく聞かせろよ」


 その一言に、俺は思わず肩を強張らせる。


「な、なんで急に?」


「お前の戦い方を見てて、なんか違和感があったんだよ。普通のマナの使い方じゃない。……あれは何だ?」


 鋭い視線を向けるドラドに、俺は少し戸惑う。


 こんな場所で話していいものなのか。周囲には他の客や従業員もいる。


「……ここで話すのはまずいんじゃないか?」


「心配すんな。ここは俺の店だ。よそ者の耳に入ることはねえよ」


 ドラドはそう言って軽く笑い、俺の肩を叩いた。


 ここまで来たら隠すのも難しい。俺は意を決して口を開いた。


「……俺のマナは、電気を帯びてる。正直、詳しい理屈は分からないけど、マナを使うと必ず電流が発生するんだ」


「電気?」


 ドラドは目を細め、顎に手を当てながら考え込んだ。


「つまり、お前のマナは他の奴らと根本的に違うってことか」


「そういうことになるな」


 俺の言葉に、ドラドはしばらく黙り込んだ。


 やがて、彼は低く息を吐き、俺を真っ直ぐ見据えた。


「……結論から言うと、マナの使用は極力控えたほうがいい」


「……なんでだ?」


「お前のマナの正体が分からない以上、どこで誰の目に留まるか分からねえ。希少なものは狙われる。それがこの世界の常だ」


 ドラドは酒を口に含み、グラスを揺らしながら続けた。


「お前はまだ、自分の価値が分かってねえんだよ。知らねえほうがいいこともある。だから、忠告したってわけだ」


 俺は言葉を失った。


 ドラドの言っていることは理解できる。俺の持つ『電気を帯びたマナ』は、この世界では異質なものだ。それがどんな影響をもたらすのか、俺自身も分かっていない。


「……忠告、感謝しとく」


「素直でよろしい」


 ドラドは満足そうに笑い、再びグラスを傾けた。


 そして、話題は自然と酒や娯楽へと移り、俺たちはしばらく賑やかな時間を過ごした。


 だが、俺の胸の奥には、言い知れぬ不安が残り続けていた。

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