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第56話:村八分⑩



フィクスから届いた念話は、俺に二つの選択肢を提示した。


《直接話すか? それとも念話で済ませるか?》


それを聞いた瞬間、俺は少し考えた。


直接話すとなると、エルの耳にも入ってしまう。


俺は、この話をエルに聞かせるつもりはなかった。


だから、すぐに念話で答えた。


《念話で頼む》


《了解》


フィクスが軽く返した後、話が始まった。



《あの村について、少し調べてみた》


《……調べた?》


《ああ、昔からあの村には"悪魔狩り"っていう習慣があったらしい》


その言葉に、エルに気づかれないようトイレに駆け込んだ俺は眉をひそめる。


フィクスは淡々と語る。


《昔、村に黒いマナを持つ人間が流れ着いて、村人を襲ったらしい。そいつは村人たちに捕まり、抵抗の末に殺された》


《……それで?》


《村人たちは、そいつの死体を処理するために粉砕機にかけた》


俺の背筋が冷たくなる。


あの粉砕機の恐怖が、脳裏に蘇った。


《そのとき、偶然家畜の骨を砕いた肥料と混ざったらしい》


《……偶然?》


《そうだ》


フィクスは冷静に続ける。


《で、その後、村人たちは気づいた。人間の骨を混ぜた肥料の方が、作物の育ちがいいってな》


俺は無意識に歯を食いしばる。


《それから村人たちは、黒いマナを持つ人間を見つけると"悪魔"と称して捕まえ、山羊の頭の覆面を被せ、生きたまま粉砕機にかけるようになった》


村人たちは、信仰のようにその習慣を守ってきたのか。


俺は拳を握りしめながら、フィクスに問いかける。


《マナを持つ人間が襲われたら、普通は警察が動くだろ? なんで今まで通報がなかったんだ?》


《黒いマナを持つ人間はな、もともとマナの量が少ないせいで生活に困窮する奴が多い》


フィクスの声が、少し低くなる。


《だから犯罪に走るやつも多いんだ。そういうやつらが襲われたところで、警察は"キリがない"からな。わざわざ通報するような仕組みにはなってない》


《……つまり、放置されていたってことか》


《そんなところだ》


俺は深く息を吐いた。


それなら、俺が村で見た地獄も、これまで誰にも知られずに続いていたのかもしれない。


《で、結局、あの村はどうなった?》


《何もする必要はなかった。ただ、警察に通報しただけだ》


フィクスの答えは、あまりにもあっさりしていた。


しかし、俺はフィクスがどこまで警察に手を回しているのか疑わざるを得なかった。


それでも、一旦は納得するしかなかった。






だが、その頃――。


村では、悲鳴が響き渡っていた。


武装した兵士たちが、村の各地に展開し、次々と村人を制圧していく。


村人たちは混乱しながら逃げ惑うが、警察と武装部隊に包囲され、もはや逃げ場はなかった。


その中心に立っていたのは――ヴィクトールだった。


彼は、あくまでも穏やかな口調で、しかし冷徹に命令を下していた。


「マナを持つ者は、研究所へ。戸籍を持たない者は、奴隷として」


警察たちは、次々と村人たちを分類していく。


「やめろ! 俺たちはただ――!」


そして、その混乱の中――


「た、助けて……!!」


震える声が聞こえた。


そこにいたのは、俺たちを泊めてくれたあの老婆だった。


老婆は混乱する村人たちの間で膝をつき、何度も「私は違う」と訴えていた。


「私は……ずっと村八分にされていた! だから私を巻き込まないでくれ!」


しかし、ヴィクトールは静かに首を振る。


「ルールはルールだよ、お婆さん」


老婆の顔が絶望に染まる。



ヴィクトールが優しく微笑む。


「この国は、"例外"を許さない」


老婆の顔が恐怖に歪む。


彼女は必死に抵抗しようとしたが、武装した兵士たちに捕らえられ、奴隷送りの列へと加えられた。


老婆は泣きながら、何度も叫んでいた。


「やめてくれ……! 私は違う! 違うんだ!」


その声が、村に響き渡る。


だが、それを聞く者はいなかった。


村は、ゆっくりと終焉へと向かっていた。



「国の秩序を乱すこの村は、存在してはいけない」


ヴィクトールは反論する村人を見下ろしながら、穏やかに言い放つ。


「君たちの言葉で言うなら――"村八分"だ」


その言葉を最後に、村は沈黙に包まれた。



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