第4話:姉妹の再会
街から来た人間たちの戸籍を奪う手段について、俺は思い悩んでいた。彼らを殺さないといけないのか、あるいは何かしらの方法で行方不明にしなければならない。手を汚さないといけないのか……?
物陰から様子をうかがっていたが、ふとした拍子に俺たちは気づかれてしまった。
「おい、お前たち。隠れて見ているのはわかっているぞ」
街から来た男の一人が、俺たちに近づいてくる。
「お前らも、この街の住人か?」
俺はすぐに返答できなかった。男の傍らには、鎖につながれた数人の人間がいた。彼らは無気力にうつむき、もはや抵抗する力すら残っていないように見える。
エルが震えながら視線をやると、男は鼻で笑いながら答えた。
「俺たちは元々、街で化粧品会社を経営していた。新商品を開発し、大きな利益を上げていたが……商品から人体被害が発覚して会社は倒産。負債を抱え、全てを失い、ここに流れ着いたのさ」
そう言うと、男は足元に転がっていた石を蹴り飛ばす。
「だがな、俺たちがこうなったのは、無能な実験体のせいだ。一年前、新商品や薬の実験台にしていた女が、まともに機能しなかったせいで、俺たちは破滅した。あいつらがもっと役に立っていたら、俺たちはこんなごみ溜めに来ずに済んだんだよ!」
男の言葉を聞き、エルがピクリと肩を震わせた。
「……それって……」
「当然、そいつには報いを受けてもらったさ。会社が倒産する原因になった実験体は、とっくにいたぶって殺してやった」
その言葉に、エルの顔色が一気に青ざめる。
「エル?」
俺が心配して呼びかけると、彼女は震える声で言った。
「……私、前にこの街にいた時、お姉ちゃんみたいな人がいたの……本当の姉じゃないけど……ずっと私の面倒を見てくれていた……優しくて、強い人だったの……」
エルは鎖につながれた人々を見つめながら、さらに続ける。
「でも、一年前のある日突然いなくなったの……友達も、一緒に……。ずっと探してた……」
その時、鎖につながれた人々の中に、エルが驚愕の表情を浮かべる。
「……嘘……?」
彼女が震える指で指した先には、顔が腫れあがり、ボロボロになった少女がいた。エルと同じくらいの年頃の少女。
「エル……?」
かすれた声が聞こえる。少女は潰れた喉でかすかに呟き、静かに涙を流していた。
「……そんな……お姉ちゃんは……?」
エルはその場に崩れ落ち、肩を震わせる。
「なんだ?おまえあの疫病神の知り合いか?あいつのせいで、俺たちはここに流れ着いたんだ!」
「とっくにいたぶって殺された……!」
エルの表情が一瞬で凍りつく。
「……いや……いやだ……」
彼女は苦しそうに息を荒げ、過呼吸を起こしてしまった。
「エル!」
俺は慌ててエルの肩を抱くが、彼女は震えながら小さくうずくまる。
その光景を見て、俺の中で何かが決定的に変わった。
手を汚すべきかどうか、迷う時間はもうなかった。
俺は静かに、しかし確実に、決意を固めた——。