表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/74

第4話:姉妹の再会

 街から来た人間たちの戸籍を奪う手段について、俺は思い悩んでいた。彼らを殺さないといけないのか、あるいは何かしらの方法で行方不明にしなければならない。手を汚さないといけないのか……?


 物陰から様子をうかがっていたが、ふとした拍子に俺たちは気づかれてしまった。


 「おい、お前たち。隠れて見ているのはわかっているぞ」


 街から来た男の一人が、俺たちに近づいてくる。


 「お前らも、この街の住人か?」


 俺はすぐに返答できなかった。男の傍らには、鎖につながれた数人の人間がいた。彼らは無気力にうつむき、もはや抵抗する力すら残っていないように見える。


 エルが震えながら視線をやると、男は鼻で笑いながら答えた。


 「俺たちは元々、街で化粧品会社を経営していた。新商品を開発し、大きな利益を上げていたが……商品から人体被害が発覚して会社は倒産。負債を抱え、全てを失い、ここに流れ着いたのさ」


 そう言うと、男は足元に転がっていた石を蹴り飛ばす。


 「だがな、俺たちがこうなったのは、無能な実験体のせいだ。一年前、新商品や薬の実験台にしていた女が、まともに機能しなかったせいで、俺たちは破滅した。あいつらがもっと役に立っていたら、俺たちはこんなごみ溜めに来ずに済んだんだよ!」


 男の言葉を聞き、エルがピクリと肩を震わせた。


 「……それって……」


 「当然、そいつには報いを受けてもらったさ。会社が倒産する原因になった実験体は、とっくにいたぶって殺してやった」


 その言葉に、エルの顔色が一気に青ざめる。


 「エル?」


 俺が心配して呼びかけると、彼女は震える声で言った。


 「……私、前にこの街にいた時、お姉ちゃんみたいな人がいたの……本当の姉じゃないけど……ずっと私の面倒を見てくれていた……優しくて、強い人だったの……」


 エルは鎖につながれた人々を見つめながら、さらに続ける。


 「でも、一年前のある日突然いなくなったの……友達も、一緒に……。ずっと探してた……」


 その時、鎖につながれた人々の中に、エルが驚愕の表情を浮かべる。


 「……嘘……?」


 彼女が震える指で指した先には、顔が腫れあがり、ボロボロになった少女がいた。エルと同じくらいの年頃の少女。


 「エル……?」


 かすれた声が聞こえる。少女は潰れた喉でかすかに呟き、静かに涙を流していた。


 「……そんな……お姉ちゃんは……?」


 エルはその場に崩れ落ち、肩を震わせる。



 「なんだ?おまえあの疫病神の知り合いか?あいつのせいで、俺たちはここに流れ着いたんだ!」


 「とっくにいたぶって殺された……!」


 エルの表情が一瞬で凍りつく。


 「……いや……いやだ……」


 彼女は苦しそうに息を荒げ、過呼吸を起こしてしまった。


 「エル!」


 俺は慌ててエルの肩を抱くが、彼女は震えながら小さくうずくまる。


 その光景を見て、俺の中で何かが決定的に変わった。


 手を汚すべきかどうか、迷う時間はもうなかった。


 俺は静かに、しかし確実に、決意を固めた——。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ