第32話:家探し②
「さて、話の続きをしようか!」
ザークは串焼きを食べ終えると、口元を拭いながらこちらに向き直った。
「さっきは一つ目の方法、『金を積んで買う』って話だったけど……まあ、それができたら誰も苦労しないよね」
「まあな」
「んで、二つ目! これはね、『マナを一括で払えるほどの持ち主を見つけること』」
「……どういうことだ?」
俺が聞き返すと、ザークはニヤリと笑った。
「要するに、マナを大量に持ってるやつが代わりに家を買ってくれるって話さ。そうすれば、いちいち小分けにする手間もなく、すぐに住む家が手に入るってわけ」
「なるほど……」
俺が考え込んでいると、エルが急に顔を上げた。
「それなら……もしかしたら、私ができるかも!」
エルは自分の手の甲をじっと見つめている。そこには、昨夜フィクスによって埋め込まれたマナの結晶があった。
「私のマナ、すごく光ってたし……ユウマの家くらいなら、買えるかもしれない……」
「……」
俺は少し考え込んだ。
たしかに、エルのマナは桁違いだった。あの光の強さを見れば、フィクスが『大金持ち』と言ったのも納得だ。
だが——
「ダメだ」
「え?」
「エルに全部頼りっぱなしってのは、さすがに情けなさすぎる。そもそも、フィクスも言ってただろ。やたらと目立つと変なやつに狙われるって」
「う……」
エルは唇を噛んだ。
「おっと、そこなんだよ!」
ザークがすかさず口を挟む。
「いいか? 一括で家を買えるほどのマナを持ってるやつは、それだけで目をつけられる。特に、『黒く光るマナを持ってる奴ら』にはな」
そう言って、ザークは自分の右手を俺たちに向かって突き出した。
次の瞬間——彼の手の甲が、ほんのわずかに黒く光った。
「おい、お前……」
「ま、俺の場合はフィクスのマナだけどね!」
ザークはあくまで軽い調子でそう言いながら、手を振った。
「でも、街で犯罪やってる連中の中には、最初からマナが黒いやつもいる。そういう連中が、一括で家を買えるようなマナの持ち主を見つけたら、どうなると思う?」
「……狙われる、か」
「そういうこと! 金持ちが強盗に狙われるのと一緒だよ。だから、エルちゃんみたいにやたらと光るマナを持ってる人間が、一気にドーンと家を買うのは超危険ってわけ!」
エルは不安そうに自分の手を握りしめた。
「じゃあ……どうすれば?」
「ふっふっふ、それが三つ目の方法さ!」
「三つ目の方法はね、『家の持ち主と交渉して、マナを定期的に支払う』」
ザークは得意げに胸を張った。
「マナが一括で払えなくても、前の持ち主と交渉してマナがたまるまで定期的に支払うようにすれば、短期間で住めるようになることもある!」
「……いわば、先払いの分割払いみたいなものか?」
「おっ、そうそう! 話が早いね!」
俺はなるほど、と頷いた。
確かに、一気に大金を払うのは危険だが、少しずつなら目立たずに済むかもしれない。
——ただ、問題は一つある。
「なあザーク。今の俺たちの住居って、そもそも正式な家じゃないんだよな?」
「うん、まあそうだね」
「それで交渉しようとしたら、余計に怪しまれるんじゃないか?」
「……あっ」
ザークの顔が一瞬固まった。
「おい」
「えーっと、それは……ほら! 元々の持ち主が行方不明とか、死亡扱いになってるなら大丈夫だと思う!」
「お前、今適当に言っただろ」
「い、いやいや、ちゃんと理屈はあるって!」
ザークは慌てて手を振る。
「だからさ! 一括で払うのは危険だけど、怪しまれないような額で交渉すれば問題なく買えるってこと!」
「……ふむ」
俺は考え込んだ。
一括払いはリスクが高いが、ある程度なら分割払いでなんとかなるかもしれない。
それなら、まずはどんな家が売りに出ているのか確認するべきだな……。
「で、俺の話は終わり!」
ザークは満足げに腕を組む。
「いや〜、俺って親切だなぁ!」
「どの口が言うか……」
とはいえ、今回の情報はかなり役に立った。
「よし、ザーク。情報料はさっきの串焼きでいいか?」
「いいよいいよ! 次奢るときはフィクスと同じ酒でよろしくね!」
ザークはケラケラと笑った。
——こうして、俺たちはザークと別れ、街へと戻った。
「ユウマ、あれ……!」
エルが指差した先には、掲示板があった。
そこには、売りに出されている家の情報がずらりと並んでいる。
「……なるほど、これなら手っ取り早いな」
俺たちは掲示板をじっくりと確認し、自分の手持ちのマナでギリギリ買えそうな家を探した。
「これ、どうかな?」
エルが指差したのは、そこそこの広さの家だった。
今のアパートほど狭くはないが、大豪邸というわけでもない。ちょうどいいサイズ感だった。
「……うん。これなら、俺が大部分を賄えばなんとかなるかも」
マナの総額を見る限り、エルの力を借りなくてもギリギリ支払えそうな範囲だ。
「この家の持ち主に会いに行ってみよう」
エルはコクリと頷いた。
こうして俺たちは、新しい住処を手に入れるために家の持ち主のもとへと向かった——。