第19話:科学の実験
男たちは、まるでこの状況を楽しむかのように薄ら笑いを浮かべながらこちらへと歩み寄ってきた。見た目は大学生くらいだろうか。だが、その表情には若者特有の無邪気さや未熟さとは違う、純粋な悪意が滲んでいた。
「おっ、お前マナ持ってんのか?」
先頭にいた男が俺の手の甲を指さし、仲間たちと顔を見合わせる。
「へぇ、ならお前もこっち側ってことでいいよな? せっかくだし、一緒に楽しもうぜ」
そう言って、男は顎で貧民街の住民たちを指した。俺の背後でエルが息を呑むのがわかる。
「……楽しむ?」
俺は奥歯を噛み締め、怒りを抑えながら問い返した。
「なんで……同じ人間にそんなことができるんだよ」
男たちは一瞬キョトンとした後、次の瞬間には爆笑し始めた。
「ははっ、人間? いやいや、こいつらマナ持ってねぇじゃん。そもそも俺たちと同じ生き物だと本気で思ってるわけ?」
そう言われ、俺はエルの方を振り返る。彼女は小さく震えていた。まるで自分の存在を否定されたかのように。俺の懸念は的中していた。エルはマナを持たないことを、ずっと気にしていたのだ。
「……お前らのが、同じ生き物とは思えないよ」
俺は低く、はっきりと言い放った。
その瞬間、男たちの表情がさっと変わる。まるで虫を見るかのような、嫌悪感に満ちた顔。
「はぁ……やる気かよ。せっかく仲間にしてやろうと思ったのによ」
そう吐き捨てると、男たちは一斉に懐から鈍く光るナイフやバットを取り出した。
「ちっ、面倒くせぇ。やっちまおうぜ」
男たちは武器を持ち、俺たちへ向かって歩み寄る。
数を確認する。五人。対するこちらはエルを除いた四人──のはずだった。
「……あれ?」
気づくと、俺とエル以外の三人の姿が消えていた。
「は? どこ行った?」
動揺する俺をよそに、男たちは余裕の表情を崩さない。むしろ俺たち二人だけになったことで、より楽しそうにすら見えた。
「どうした? 震えてんのか?」
男の一人が嗤いながらナイフを弄ぶ。
──やばい。
俺は周囲を見渡し、何か武器になりそうなものを探す。
──あった。
地面に転がっていた長めの鉄パイプを拾い、構える。
「おいおい、何すんだよ?」
男たちが楽しげに笑う。
だが、俺はあることに気づいた。
──俺のマナは電気。鉄は電気を通す。
そう考えた瞬間、俺の中である考えが浮かぶ。
──こいつで、いけるかもしれない。
俺は右腕に意識を集中し、マナを流し始めた。鉄パイプがじわじわと帯電していくのを感じる。
「へぇ、何か企んでるみたいだけどよ……そんなもんで俺たちに勝てるとでも?」
男たちはそう言いながらじりじりと距離を詰めてくる。
──試してみるしかない。
俺は思い切り鉄パイプを振りかぶり、前にいた男の武器にぶつけた。
バチンッ!!
派手な音とともに、男がビリッと体を震わせる。
「ぐああっ!?」
男は悲鳴を上げ、武器を落とした。
「なんだ、今の……!? うおっ、やばくね?」
他の男たちが警戒し始める。
俺は確信した。
──やれる。
「エル、後ろに下がってろ」
俺はそう言いながら、鉄パイプをもう一度構える。
「……っ!」
エルは不安そうに俺を見つめたが、俺が真剣な表情をしているのを見て、ゆっくりと頷いた。
「……ふざけんなよ」
痺れた男が歯を食いしばりながら立ち上がる。
「お前みたいな半端野郎が……っ、俺たちに逆らおうなんて思ってんじゃねぇぞ!!」
そう叫び、男たちが一斉に襲い掛かってきた。
──だが。
その瞬間、何かが上から落ちてきた。
「ぎゃっ!?」
突然現れたのは、双子の片割れだった。
「……サプラーイズ」
そう言いながら、フィクスもゆっくりと姿を現した。
「さて……楽しませてもらうか」
フィクスの口元が歪む。