新たな目的地と奇妙な旅仲間
この後何処へ行くべきか、正直何も考えていない。残されたビリジオン王国がどうなって行くか、気になるにはなるが、そこまで義理は無いし、コイーズの行方を問いただされたりしてもうざい。
と言う事でこっそり王城の様子を伺うと、丁度なにやら見掛けない装束の一団が城内に入って行くところだった。一応招かれて入って行く体裁では有るが、へりくだった態度は微塵も無く、押し入っている様にしか見えない。こっそり寄って見ると、ロビーの様な所でコバック氏が対応している。
「我々は隣国ダイダンより、国王、ジン・レオンの使いとして参った者で有る。」
そう高らかに宣言され、明らかに気後れした様子のコバック氏。
「どど…どの様なご用件で?」
そう言うのがやっとだ。
「この度このビリジオンで政変が有り、ガリーン元老院議長が現政権により討ち取られたと聞き及ぶ。相違ないか⁈ 」
「え、は、それは、その通り…です。」
王城の衛士達も身構えるが、使者達は動じる様子も無い。
「この土地は我らが大元帥たる魔王様より四天王のガリーンに納めよと命じて任された地である。従って、今回そのガリーンが排除された事は、明確な魔王様への造反であり、それにより生まれた新政権を認める事は断じて出来ない。」
「え、え…そんな…」
「寄って、此処ビリジオンは一時的に我がダイダンの一地方都市として併合され、魔王様がガリーンの後継を指名するその日まで、我が国王、ジン・レオンが統治する事に決定した事を宣言する!」
「そんな、勝手な!…」
さすがに声が少し大きくなるコバック氏だが、勢いは無い。
「異論は許されん! どうしても不服であれば、力で示すといい。我々がこのまま帰らなければそういう意思表示となるが…。」
何も答えられないコバック氏。ダイダンの使者一同は特に挨拶も無くとっとと回れ右して帰って行く。
「彼等がダイダンに帰り着いて報告を上げれば併合は確定となるでクエ。」
と、ネビルブが解説。ふ〜ん、そういう事になるのか。
しかし彼等を止めろという指示は出る気配は無く、もちろんそう動く者も無し。使者達は優々と王城を後にする。後にはただ頭を抱えるだけのコバック氏。
う〜ん、短かったな国王軍の天下。ダイダンに併合される? 住民にとって、それは喜ばしい事なんだろうか、ダイダン国民って幸せなのかな? と、未だ見ぬ国、ダイダンに少し興味が湧いた俺。行って見ようか…となるのに時間は掛からなかった。
都合、使者達が帰って行くのと同じ方向に飛んで行く事となった俺。今回もネビルブに俺が乗るという状況。途中使者達の上空を飛び過ぎる事になるが、彼等が向かう先の森の中、かなりの規模の軍団が駐屯しているのを見る事になる。ざっとビリジオンの国王軍と同じ規模、練度とか考えれば…、使者を帰らせなかったりしたら、ビリジオン、即日で終わってたな。
そのままネビルブの背に乗りダイダンの方向を目指すと、俺達の行くのと同じ方向に向かう騎馬の旅人の姿が有る。結構な荷物で、旅行というより夜逃げに見える。小柄な人物で、しかも単騎、護衛も無しで大丈夫なのか? と思ってはいたが、案の定小鬼の集団に襲われ出した。悲鳴が聞こえる…って、この声、女性かよ! 事情が有るのかも知れないが、不用心どころの話では無い。というか、"襲って下さい"の横断幕を掲げて歩いている様なものだ。自業自得…とは思うが、まあ、見ちゃったしなぁ。
俺はネビルブに急降下を指示、それでも多少の心得は有るのか、2体程の小鬼が倒されている。しかし小鬼の数は多い、やはり全く捌き切れず、馬から引きずり下ろされ、あわやという辺りで、彼女を避けて狙える距離まで来たという事で、エボニアム・サンダー炸裂。2〜3体仕留めたところで現場に到着し、もう2体程サンダーの餌食にすると、残りの小鬼は蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。
「大丈夫かい、さすがに女性の一人旅は無茶だろ…って…、あれ?」
ここで初めて気付いたが、それは知った顔だった。
「助けて貰った事には感謝するけどね、誰のせいでこうなったと思ってるのさ!」
「お前、ミントじゃん、何でこんな所に?」
そう、召喚魔法研究室のミント嬢だ。ただ、あのぽーっとした感じはすっかりなりを潜め、随分やさぐれた様子になっている。まあ、こっちの方が"素"なんだろうけど。
「しらばっくれるなってんだ! お前だろ、魔法研究所に国王派が全員集まって集会を開くなんて偽情報を教えやがったのは! お陰でこの負け戦だ。で、あたいのいた組織はお取り潰し。それもあたいの掴まされた偽情報のせいだって事で、組織の残党共に粛清を喰らいそうになって…命からがら逃げてきたんだ。全部お前のせいだよ!」
うん、俺のせいなのは否定しない。正直偽情報が想像以上の効果を上げてくれてホクホクしてたしな。
「まあ、恨むのは勝手だ、結局敵対関係だった訳だしな。最初にコイーズが攫われたのも、お前の手引きだったんだろ?」
「…そっからバレてたんかい。てか、どの辺からあたいを疑ってた?」
「どの辺…て言われると…、最初会った時からだなあ…。」
俺の答えに目を剥くミント。
「な…、最初からって、どの辺で? あたい、何をミスってた?」
「お前言ってたろ、職場の先輩にグイースってのがいるって。グイースって名は知っててな、そいつが何をやってたかも大体知ってる。で、それと同僚だってんだろ?」
「…コンロイ先生の心象を良くしようと思って出した名前だったのに、地雷だったのか…。」
自分のやらかした事の詳細を突き付けられ、意気消沈のミント。
「ま、お互いあの時ともう立場も違うし、会うことも無いだろう。忘れようじゃないか。って事で、じゃあな。」
「ちょっ、ちょっ、ちょっ…ちょっと待ってくれよ、お前今女の一人旅なんて危険だって言ってたじゃんかよ!」
とっととこの場を去ろうとした俺を、慌てて引き留めて来るミント。
「言ったけど…、何か?」
彼女が何を言わんとしているかは想像出来たが、とぼける俺。
「あたいが一人で逃げ出す羽目になったのは、お前のせいだって言ったろうがよ!」
「うん、だから忘れよう。」
「そんな事言うなよぉ! どうせお前だって目的地はダイダンだろ? 頼むよ、一緒に行ってくれよぉ!」
最後は拝む様にすがってくるミント。正直こいつを護衛してやる義理なんて全く無い。まあしかし、行く当てもなければ急ぐ理由も無い。
「ま、一緒に行くだけなら…いいぞ。」
「そうか! 恩に着るぜ。恨みの1割ぐらいは忘れてやるよ。」
1割かよ! こいつの面の皮も大概だな。
こうして、俺のビリジオンでの生活は終わりとなる。未だ見ぬ地、ダイダンを目指す俺とネビルブと、元敵のスパイ、ミントの、奇妙な3人旅。まあ、退屈するって事は無さそうかな。
ー第六話 終了ー