表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

いざ、ガリーンとの決戦

 目的地としていた元老院(げんろういん)議会本部に背を向けて俺が今向かおうとしている先、そこに見えて来たのは、無惨(むざん)破壊(はかい)された馬車の(そば)、コイーズを守り奮戦(ふんせん)するペールと、何とか牽制(けんせい)しようとして回りを飛び回るネビルブの姿だ。そして既に傷だらけのペールが必死で退(しりぞ)けている黒ずくめの襲撃(しゅうげき)者、余計な装飾を外しほぼ全身黒一色の出立(いでた)ちではあるが、間違いない、映像で見たガリーンその人だ。てっきり本部施設(しせつ)の一番奥でふんぞり返っていると思ったら、いつの間にか敵陣(てきじん)のど真ん中に出没(しゅつぼつ)し、こちらの本丸(ほんまる)を的確に(ねら)ってきた敵の親玉。さすが謀略(ぼうりゃく)担当。チキショウッ、油断(ゆだん)したぜ!

 やはりペールでは役不足か、奴の剣捌(けんさば)きによろめいている(すき)に、ガリーンの剣がコイーズを(とら)えようとする。間に合わないか⁈ 俺のそんな絶望的な見通(みとお)しを。しかしあいつが(くつがえ)した。

「クエーッ!! 」

「おわうっ!」

ガリーンの顔めがけて突っ込み、そのまま(くちばし)で攻撃し続ける、そう、ネビルブ。その(すき)にコイーズは何とかその場を逃れる。

「こぅのっ、ジャマだ!」

キレたガリーンの剣の一閃(いっせん)

「クワーッ!! 」

「ネビルブー!」

はらはらと地面に落ちるネビルブ。だがお陰で誤爆(ごばく)の心配が無くなったので、チャンスとばかりガリーンにサンダーをぶっ放す!

「うおぉ!」

ガリーンを(とら)えるエボニアム・サンダー。しかし、奴を驚かしはしたものの、期待した効果(こうか)を示さない。そうこうする内その場に到着した俺は、弾丸(だんがん)のごとくの勢いのままガリーンに体当たり! さすがにすっ飛ぶガリーン。俺は(あわ)ててそのままネビルブに取りすがる。

「おい! おい! ネビルブ、しっかりしろ!」

「やあ…ボニー様、アハハハハ…アタシ、何やってるんでクエかね。何をはっちゃけて、四天王様に()っ掛かったりしたのやら。ハハ…あほクワ…。」

「いいや良くやった! 良くやったぞぉネビルブ! だから…、勝手に死ぬなぁ!! 」

「ハハ…大げさでクエよボニー様。アタシが人助けなんかで死ぬキャラですかって…。」

そんないつもの軽口が、さすがに今は弱々しい。ペールとコイーズが心配気に寄って来る。

「こいつを(たの)む。そして、離れててくれ!」

「分かった…、ボ…ボニー?」

()け負ってくれたペールだが、反応が微妙だ。それではたと気が付いたが、ゴーレム戦で筋力(きんりょく)増大(ぞうだい)させた時、俺自身が少しサイズアップしていたのだった。今は子犬位のサイズになっている。それはまあともかく、今はガリーンをどう撃退(げきたい)するかだ。見れば丁度(ちょうど)すっ飛ばされた先で立ち直り、こちらに戻って来ようとしているところだ。性懲(しょうこ)りも無く目はコイーズを(ねら)っている。俺はサンダーをその足元に打ち込んでその歩みを止め、そのまま奴の目の前に立ち(ふさ)がる。

貴様(きさま)は…、報告に有った弟の召喚魔(しょうかんま)か…? …違う…、貴様(きさま)、エボニアム!」

「…はて、何のことやら。」

「とぼけるな! 何だその"なり"は、(あや)うく(だま)されるところだったわ!! 」

うむ、さすがにバレた。もう後には引けない。相手は魔王四天王の1人だ。ザキラムのビオレッタ並みの実力だとすれば苦戦は(まぬが)れないだろう。だが、コイツだけは許せない!

貴様(きさま)今度は何の気まぐれを起こしてわしのビリジオンにちょっかいを掛ける、国なんて物に興味は無かったんじゃないのか⁈ 全くもって忌々(いまいま)しい!」

そう()き捨てると、唐突(とうとつ)に距離を()めて来るガリーン。コイツ早っ! 奴のやや小ぶりな剣が一瞬(いっしゅん)で目の前に。()けられない! そう判断した俺は、"()けない"事を選択した。俺の肩口の突起(とっき)()えて奴の剣をまともに受け止めると、そのままホールド。そして力を込める。パキィッと、乾いた音を立ててへし()れるガリーンの剣。さすがになまくらでは無かった様でこちらも無傷では済まなかったが、最小限の被害に(とど)めたとは言えるだろう。

 ちいっと舌打ちして距離を取り直すガリーンに向かい、エボニアム・サンダー本気版を放つ。それはあっさりガリーンを(とら)えるが、やはり効果(こうか)発揮(はっき)しない。そして今回は分かった。俺の魔法は何か特殊(とくしゅ)装置(そうち)により阻害(そがい)されている。そのメカニズムも効力(こうりょく)も不明なので、対処(たいしょ)法も不明。実質魔法は(ふう)じられたと言っていいだろう。ではどうする? と俺が考えている間にガリーンがまた別の武器を取り出す…って、ピストル⁈

 パァンッ!…と破裂(はれつ)音を(ひび)かせ、筒状(つつじょう)の部分から小さな(かたまり)が飛び出す。って、やっぱりピストルじゃん! ピストルの(たま)()けるのはさすがに骨だ。小刻(こきざ)みに動いて(ねら)いを撹乱(かくらん)しようとするが、それでもたまに(かす)められる。どういう仕組みか奴のピストルは弾数(たまかず)が異常で、精度(せいど)は高く無さそうだがとにかく数を()ってくる。明らかにもう2(けた)()った(はず)だ。そしてとうとう肩口に直撃を()らう俺。(かた)(ゆえ)皮膚(ひふ)貫通(かんつう)こそしないが、衝撃(しょうげき)だけはまともに(もら)い、きりもみで吹っ飛ばされる羽目(はめ)になる。そして何より無茶苦茶痛い! さっき剣撃(けんげき)を喰らったのとおんなじとこだし…。

 ただ一つ気付いた事が有る。俺は別に奴にスピードで負けている訳では無い。ただ奴のフェイントを交えたトリッキーな動きに目が()れていないだけなのだ。そして奴は今、ピストルを(ねら)って()つ必要から、動きに専念(せんねん)出来ているとは言えない。となれば方針は決まって来る。奴には魔法攻撃が通じない。奴の動きに喰らい付いて、肉弾(にくだん)戦を仕掛(しか)ける、これしか無い。ピストルへの対処(たいしょ)は…()我慢(がまん)する!…という作戦(?)である。

 そうなると、まあ、こうせざるを得ないよな…、皆んなにもバレちゃうだろうけど。俺はここで突然ムクムクと大きくなり始める。蓄積(ちくせき)してあった魔力を今度は逆に体組織(そしき)に戻していく。骨になり、皮膚(ひふ)になり、筋繊維(きんせんい)になり…。一回り、二回り、大きくなっていって、いつしかすっかり元の大きさに戻った俺。これならピストルで()たれても()っ飛ばされる事は無いだろう(痛いけど)。そんな俺の姿を見て目をまん丸にしているペールとコイーズの視線が痛い。

 戦闘が再開した。相変わらず無造作(むぞうさ)にピストルを()って来るガリーン。俺は肉弾戦を目指して距離を()めて行く。的は大きくなったし距離も近いとあって弾丸(だんがん)はバンバン当たる。だがそこは予定通り"()我慢(がまん)作戦"発動だ! いてていててて…。そして遂に奴に組みつき、ピストルを持つ手を(つか)んで(ひね)り上げる。

「ぎょえぇっ!」

思わずピストルを取り落とすガリーンだが、直後にスルリと抜け出して、再度距離を取る。俺も追いすがるが、奴の逃げ足は早い。

 逃げ(ぎわ)、腰元に下げていた鞭状(むちじょう)のものを()るい、それは俺の左足に(から)み付く。そして次の刹那(せつな)、左足に電流が走る! いや比喩(ひゆ)じゃない、本当に走ったんだ! (むち)に仕込まれていた機能だろう。それが数秒。(むち)自体が焼き切れ、俺の左足が使い物にならなくなった。未だ下半身全体が(しび)れているし、左足は炭化(たんか)しているかも。

 俺は急ぎ魔力を総動員(そうどういん)し足を治しに掛かる。その(すき)に距離を取ったガリーンは(ふところ)から別のピストルを取り出す。どんだけ魔道具を隠し持ってんだよ! 今度のピストルから発射されるのはエネルギーの(かたまり)の様な(たま)で、余り真っ直ぐ飛ばないし、スピードも遅い。が、コイツが当たるとちょっと痛いでは済まない。皮膚(ひふ)を溶かし、中まで食い込んで来る。何発も()らうとやばい。しかも奴め、こっちが動けないのをいい事に、離れた場所からバンバン撃ってきやがる!

「ボニー!」

コイーズが心配の声を上げている。こんな"なり"になっても心配してくれるんだ…。

 俺は体内の魔力を更に総動員し、足の回復を最優先させる、エネルギー(だん)の命中を最小限に(おさ)えながら…。湯気(ゆげ)を立てて回復する左足、2分程度か…。

 動ける様になったと確信した瞬間(しゅんかん)、まだタカを(くく)っているガリーンに、いきなり前触(まえぶ)れなく接敵(せってき)面食(めんく)らう奴の鼻面(はなづら)めがけて渾身(こんしん)鉄拳(てっけん)()けようとするガリーン、その顔面を(とら)(そこ)ねた俺の(こぶし)は奴の首筋(くびすじ)(かす)めるに(とど)まる。そのはずみで奴が(まと)っていたマントみたいなのの留金(とめがね)が吹き飛び、ハラリとマントが外れて落ちる。

「しまっ…!」

ガリーンの反応からマントが何らかの役割の有る物だったのが分かる。そしてこれまで奴が(まと)っていた魔力的な違和感(いわかん)が消え失せたのも感じた。もしや!と思い、咄嗟(とっさ)にエボニアム・サンダーを放つ。

「ぎああ〜っ!! 」

やはり、あのマントが魔法を阻害(そがい)する魔道具だった様だ。今回は明らかに効果(こうか)が有る!それでも奴がまだ立っていられるところを見ると、保険で別の魔法阻害(そがい)アイテムを未だ隠し持っているのかも知れない。でもこっちは魔法の完全な遮断(しゃだん)までは出来ていない様で、明らかにダメージを受けているガリーン。フラフラと後ずさるそのさ中、奴が手に持つピストルが突然暴発(ぼうはつ)

ッパアァンッ!!

「ずおぉっ!」

直後、今度は(ふところ)辺りで何かが炸裂(さくれつ)

ボゴオォン!!

「どはあぁ!」

更に左の腰辺りで何かが強い光を発して破裂(はれつ)した。

パシャアァン!!

「でひやあぁ!」

どうやらさっきのサンダーの影響で、奴の隠し持っていた魔道具に込められていた魔力が軒並(のきな)み暴走を起こしているらしい。そしてマントが外れた事で見える様になった奴の背中のしょい子が明らかにヤバそうなスパークを始める。

「うわわわわ…。」

(あわ)てふためいてしょい子を下ろそうともがくガリーン。しかし未だ(じゅう)の暴発のダメージが有って指先等上手く動かせない様で要領(ようりょう)を得ない。(あせ)れば(あせ)る程固定する(ひも)が解けず、当々しょい子は臨界(りんかい)(むか)える。そして遂に…。

ドゴオオオーンッ!!

辺り一面を巻き込む程の爆発! 俺は(あわ)ててコイーズとペールを後ろに(かば)う。飛んでくる爆風(ばくふう)、肉片、砂や土埃(つちぼこり)、そして爆発力の源となったであろう大量の魔力の奔流(ほんりゅう)が襲って来る。それらに耐える事(しば)し…。

 爆炎(ばくえん)の収まった時、そこに有ったのは大地に転がるガリーン"だったもの"。既に下半身と、頭部の一部のみになってしまった魔王四天王の同志(どうし)の姿で有った。

 最後の爆発の時、吹き出したエネルギーの中に俺のものだったと思われる魔力がかなり混じっていた。という事は、最後に爆発したあの"しょい子"が、マントで吸収(きゅうしゅう)した俺の魔力を()めておくタンクの様な物だったのだろう。だが魔力を()めておける状態に変換(へんかん)するのはマントの方の機能(きのう)だったのかも知れない、活性(かっせい)化したままの魔力をダイレクトに取り込んだ為、中に()めて有った魔力までひっ()き回されて、大暴発、という状況だったと推測(すいそく)する。

 とにかく、これで戦いは決したと言っていい。

「やりましたでクエな、ボニー様…。」

コイーズの腕の中のネビルブが(むか)えてくれる。さっきよりは随分(ずいぶん)ましな顔色だ。

「ボニー…でいいのか? 朝とはもう別人…ていうか別物なんだけど…。」

未だ絶賛当惑(ぜっさんとうわく)中のペールが掛ける言葉に困っている様子。

「て言うか、エボニアム様…とか?」

続いておずおずとコイーズ。

「…ボニーでいい。お前達にはそう呼ばれたい…。」

それは、この体の正体エボニアムではない、その"中身"である俺自身の願いが(あふ)れ出た言葉だった。

「…うん、分かった、ボニーちゃん…。"ちゃん"はもうさすがに無理かしら。」

そう言って笑うコイーズ、後ろで色々納得(なっとく)した顔で(うなず)いているペール。ああ、俺はこの姉弟には幸福になって欲しいと心から願う。

 その間に、何処(どこ)から様子を(うかが)っていたのか国王軍総大将のコバック氏が騎馬(きば)で現れ、ガリーンの頭部を拾い上げ、戦場中にガリーンの死を()れて回る。それにより、ガリーン派だったビリジオン貴族共がとっとと降伏(こうふく)したり元魔王軍の連中がしれっと逃亡したりで、あっさり戦線が崩壊(ほうかい)する元老院(げんろういん)軍。戦火も一気に(おさ)まり、呆気(あっけ)ない程の幕切(まくぎ)れだ。

 やがてコイーズの居る本陣(ほんじん)に、コバック氏やブロンゾ氏を始め主だった国王軍の面々が戻り、勝ちどきを上げる。その頃になってやっとミリードの衛士隊が戦場に()け付けるが、全てが終わっている事を知り、目的を失った烏合(うごう)の衆と化す。市街への被害も思いの外少なく、市民も安堵(あんど)の表情だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ