表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

立ちはだかるゴーレム・セブン

 そして遂に当日を(むか)える。内部の手引きが有るので割とスムーズにブロンゾ大隊長の部隊も合流し、早駆(はやが)けで進行する一行。そして王城近くを通り過ぎ、王城より立派(りっぱ)と言われる元老院議会(げんろういんぎかい)本部を包囲(ほうい)する王権復興派(おうけんふっこうは)の面々、彼等は今や国王軍を名乗っている。

 一方議会本部を守るのは、正規(せいき)軍の一部と元魔王軍の精鋭(せいえい)部隊。数の上では国王軍の方が(まさ)ってはいるが、正規(せいき)兵や私兵に、ほぼ素人(しろうと)の市民の義勇(ぎゆう)兵が入り混じり、いかにも()せ集めなのは(いな)めない。最も戦えそうなのはキミリードの衛士(えいし)隊だが、そもそもガリーン側であるミリードの衛士隊はキミリードの倍以上の規模(きぼ)なのだ。数字で見れば負け(かく)

 だが、なぜか今ここにミリードの衛士隊の姿は無い。俺はちょっとほくそ笑む、思った以上に上手く行った様だ。そう、ある(にせ)情報により、今頃彼等はずうっと町外れの魔法研究所の方を取り囲みに行ってしまっている(はず)だ。思いのほか多くそっちへ回ってくれた様で、衛士隊の制服を相手(あいて)側にほとんど見かけない。

 元老院(げんろういん)議会本部に向かい、()ず代表で有る天上魔法研究室室長、と言うか法務(ほうむ)大臣のコバック氏が宣言(せんげん)する。

「我々は、今や消滅(しょうめつ)寸前のビリジオン王家の権威(けんい)を取り戻すべく立ち上がった! 国王がご病床(びょうしょう)にあるのをいい事に国政に力ずくで食い込み、更にこれを牛耳(ぎゅうじ)らんとする元老院と、その代表であるガリーン議長の(すみ)やかな退陣(たいじん)を要求するもので有る! 我々は新たに現国王の直系、モウス皇太子の実子(じっし)にして現国王の実の孫、コイーズ様を新たなビリジオン王国女王にいただき、女王を中心とした王国体制(たいせい)への回帰(かいき)を目指すものである!! 」

そう言い終わったコバック氏に対し、返答の代わりに矢が射掛(いか)けられて来る、雨(あられ)と。(あわ)てて護衛(ごえい)の者の大楯(おおだて)の陰に隠れるコバック氏。ちなみにコイーズは(じん)の中央に鎮座(ちんざ)する立派に飾り付けられた馬車の中、此処(ここ)にVIPが()ますよと示威(じい)しながらの置き物だ。俺とペールはその護衛(ごえい)

 コバック氏への"返答"を皮切りに、戦闘が始まる。議会本部へと侵入を試みる国王軍。これを阻止(そし)せんとする元老院軍。正門に魔法が飛び、門は徐々(じょじょ)に破壊されて行く。国王軍は()えて多面(ためん)攻撃をせず、正面突破(しょうめんとっぱ)一本に(しぼ)り攻撃を集中する。やがて門は破壊され、国王軍が突入(とつにゅう)を開始せんとする、と、そこへ元老院軍の守備(しゅび)隊が()け付け、いよいよ乱戦模様(もよう)に。

 突入経路(とつにゅうけいろ)の問題から、乱戦の中心は大きく分けて3箇所(かしょ)、正面玄関(げんかん)は当然として、搬入搬出(はんにゅうはんしゅつ)用の通用(つうよう)口、そして飛行能力の有る魔族中心に、2階のバルコニーだ。元々窓等の少ないこの国特有(とくゆう)の建築様式の問題も有り、それ以外の侵入経路(けいろ)は無視出来るレベルで有る。時々火の手が上がる事は有るが、魔法的な防火対策(たいさく)(ほどこ)されているのか、建物に燃え広がる事は無い。

 3箇所の突入経路の内、通用口には正規(せいき)軍が、バルコニーには魔王軍がそれぞれ守備(しゅび)に当たっている。そして正面玄関(げんかん)は、少数精鋭(せいえい)、と言うか数人で守っている。ただその数人と言うのが…。全身にゴツい金属鎧(きんぞくよろい)(まと)った巨漢(きょかん)の兵士達…いや、あれは、ひょっとしてロボット? いやいやそんな訳…。

「ありゃアイアンゴーレムでクエ。それが1、2、3…6体、そして真ん中の一回りデカいのがミスリルゴーレムでクエ。ゴーレム・セブンってやつですな。魔道具士(まどうぐし)のガリーンの十八番(おはこ)でクエ。」

と、お馴染(なじ)みネビルブの解説。此処(ここ)はもう数がどうとかの問題ではない。こちらの兵士達の攻撃は()()す程の効果も上げている様子が無いし、ゴーレムが腕を一振りすれば10人近くの味方兵士が()き飛ばされている。文字通り鉄壁(てっぺき)の守りだ。

 突入作戦は完全に手詰(てづ)まり。このままではこちらの戦線は程無(ほどな)崩壊(ほうかい)するだろう。

 俺達と共にコイーズの馬車の守りに付いていたブロンゾ大隊長は、この事態に動き出す。

「ペール! 此処(ここ)はお前に(まか)せたい。私はあのゴーレムの相手をする。いいか、姉さんは何としても守れよ!」

「はい、もちろんです!」

力強く答えるペール。

「それとすまんが、出来ればボニーには一緒(いっしょ)に来て(もら)いたい。」

と、突然俺にお声がかかる。確かにあのゴーレムとやらは簡単に何とかなる相手では無いだろう。ペールの方へと目をやる俺。

(たの)めるか、ボニー?」

と、ペールの言葉を受け、少しヤキモキしていた俺は俄然(がぜん)その気になる。

(まか)しとけ!」

そう言って()け負うと、ネビルブは留守番(るすばん)で残し、ブロンゾ大隊長と共にゴーレム戦の現場に()け付ける。

 ()ずはゴーレムの一体にサンダーを放って見るが、余り効果を発揮(はっき)している様には見えない。やっぱりロボットって訳じゃないから回路(かいろ)がショート…とはならないらしい。

 とりあえずアイアンゴーレムの一体に接敵(せってき)、頭の周りをクルクル飛び回って牽制(けんせい)を試みるが、俺を大した脅威(きょうい)と感じていないのか、鬱陶(うっとう)しがってくれさえしない。ブンブンと腕を振り回してはその度数人の味方兵士が()っ飛ばされている。こりゃいかん…、そう思った俺は本気モードのエボニアム・サンダーを見舞(みま)う。目も(くら)む様な激しい稲妻(いなづま)がゴーレムを襲う。それでも意に(かい)した様子すら無く暴れ続けるゴーレム。だがサンダーの当たった辺りは熱で真っ赤に光っていた。効果(こうか)が無い訳では無い! と確信した俺は、今度は一点に集約(しゅうやく)したサンダーを奴の右肩の辺りに(たた)き込む。赤く光り、火花を()らし、やがて溶け始め、(つい)には肩から先、右腕全体がもぎ取れ、轟音(ごうおん)と共に地面に落下して動かなくなる。俺はそのまま(ねら)いを今度は左肩へ。さすがにもう俺を無視(むし)出来ないと感じたか、残った左腕で俺を攻撃して来るが、片腕ではバランスが取りづらい様で。腕をでたらめに振り回してはよろけて自分がクルクル回ってしまっている。そうこうする内に左腕も溶け落ち、攻撃手段(しゅだん)を失ったそのゴーレムは全く脅威(きょうい)では無くなっていた。俺の勝ち!

 でも、まだ6体の内の1体、効率(こうりつ)が悪過ぎる! 手間(てま)取っている間にこちらの戦力は既に半分以下、戦線は瓦解(がかい)していると言って良い。これじゃ駄目(だめ)だ。雷撃(らいげき)ではあれを無力化しきれない! 何か無いか? 相手は鉄の(かたまり)、だとすれば何が有効(ゆうこう)か、イメージするんだ!

 とりあえず一つ思いついた事は有るがやった事がない。()ずはなるべく具体的に頭の中にイメージを作って行く。そして、それを実現させるべく魔力を()って行く。イメージは学校の化学の実験…。

「全員そこを離れて!」

俺がそう叫ぶ。

「全員、距離(きょり)をとれ!」

(さっ)してくれた大隊長の重ねての号令(ごうれい)で、味方兵士達が全員10歩程後ずさる。その機を逃さず魔法を発動。俺の頭頂(とうちょう)部の角の間から、今度は霧吹(きりふ)き状の水分が飛び出す。それはゴーレム達に降りかかり、白煙(はくえん)を立て始める。そう、これは強烈(きょうれつ)(さん)(きり)だ。ミスト・ハリケーンとでも呼ぼうか。鉄製のゴーレムは苦しみこそしないが、その全身は見る見る赤黒く変色し、動きは目に見えて(にぶ)くなって行く。やがては動く(たび)(きし)む様な音を立てて、最後には虫が止まりそうなレベルにまでスローに。あまりの動きの鈍さにほとんど脅威(きょうい)で無くなってしまったアイアンゴーレムは、残った一般兵士達にお(まか)せする事にした。

 こうなると残るはミスリルゴーレムのみ。この伝説級の硬度(こうど)と安定性を持つ金属の身体は物理攻撃をほぼ受け付けないだけで無く、腐食(ふしょく)もほとんど起こらず、結局ハリケーンもこいつだけには効果(こうか)が無かった。

 と、突然ミスリルゴーレムの顔の真ん中に有るレンズ状の器官(きかん)から、俺に向かってビームが放たれる!

「おうあっ!」

(あわ)てて()けるが、少し翼の端が蒸発(じょうはつ)した。何だコイツ、ロボでもない(くせ)に、目(?)からビームかよ! まあ、ビームでは無く魔力を純粋(じゅんすい)なエネルギーに変えて放っている様だが。何とこの怪物の相手をここまでブロンゾ大隊長が1人でこなしていたと言うから驚きだ、(すご)いなこのベテラン衛士。まあ、俺を脅威(きょうい)と感じてくれたか、ビームがこちらを向いてくれているので助けにはなっているだろう。

 とは言えビームが発射されてから()けるのは結構ギリギリだった。だが、まずゴーレムの目がこちらを向いてからビームが発射されるというプロセスに気付けば、(よう)は奴の視線に入らない様にすれば良い訳で、それが分かってからは避けるのはかなり楽になった。徐々(じょじょ)に距離を()めていく事も出来たので、俺は奴に肉薄(にくはく)し、遂には後ろを取る。奴は頭をこちらに回そうとするが、奴の動きそのものは機敏(きびん)とは言えず、俺はその頭の後ろ側に取り付くに(いた)る。此処(ここ)なら当然ビームが飛んで来る事は無く、手足の方は大隊長の相手で(いそが)しいので、事実上此処(ここ)は安全地帯(ちたい)だ。

 さて、とは言えコイツに対して魔法で有効打(ゆうこうだ)を与えるのは難しい。電気もダメ、酸もダメ。火も風も余り効果的なイメージは無い。そうなると単純な力技(ちからわざ)でとなるが…。

 と、言う事で、俺は奴の頭に全身で()き付き、足を()()る。自分の筋繊維(きんせんい)に魔力を流し、筋力(きんりょく)嵩上(かさあ)げして行く、セルフ・ドーピングである。最初は俺を()り回していたゴーレムの頭部は、やがて動きを取れなくなり、誰もいない空しか向けなくなって、作動音だけをウインウインと立てていたが、俺が更に力を入れて行くと、遂にはミシミシと(いや)な音を立て始め、さすがのミスリルゴーレムも手で俺を(はら)い落とそうともがき始める。だがその努力は奴にとって事態を悪化させる結果となった。奴の手に(つか)まれ、引き()がされようとした俺は、その力をも利用して更に奴の頭を、引っ()()せる。そして遂に…

めりめりめり…バキーンッ!

むしり取れる奴の頭部。()しくも俺の体ごと自分の頭を手で(つか)み上げる格好(かっこう)になるゴーレム。その(かく)は頭部の方に有った様で、機能を停止(ていし)して轟音(ごうおん)と共に倒れる奴の体。(はず)みで俺が手を離したので、ごろごろと転がり出る奴の頭部にブロンゾ氏が剣を突き立て止めを()す。何とか奴の手から逃れ出た俺に、「やったな。ボニー!」と声を掛けてくるブロンゾ氏。

 さぁ、いよいよ突入だ、と未だヨタヨタと抵抗(ていこう)を続けるアイアンゴーレムの間をすり抜け施設(しせつ)内に消えて行くブロンゾ氏。俺もすぐその後に続こうと思った、その時!

「ボニー様!」

遠くで良く知る声が俺を呼ぶのが聞こえた。これは…ネビルブか? 猛烈(もうれつ)(いや)な予感を感じた俺は(そく)取って返し、コイーズの居る馬車へ最速(さいそく)()けつけんと飛ぶ。そしてそこで見た光景は…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ