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4現場検証

「じゃあ、何で話しの内容が変わってるの?妊娠したのは、私じゃなくて別の人よ。私が捨てられたんじゃなくて、私の方から別れるって言ったのよ」

 

「ええっ、そうなの。でも確かに橘真希が妊娠したから男に捨てられたって声がしたよ」

 斎藤深雪が言う。


「私もそう聞こえたわよ」

 有村皐月も真希に言った。


 聞き間違いじゃないのか。どういうことだろう。

 真希は少し考えて指を立てて言う。

「じゃあ、検証しましょう。今からだともう練習が始まるから、今日の夜8時に私たちが2階の水呑場に行くから、あなた達は下の水呑場で何か言ってみて」


 斎藤深雪と有村皐月は頷いてわかった、と返事をした。


 夜の8時。

 食事とお風呂を終えてさっぱりした真希と琴音、そして佐倉和華の3人は、宿舎2階の廊下突き当たりの水呑場にいた。

 昨日、斎藤深雪と有村皐月が蛇口から声を聞いたと言うところである。

 そして、昨夜、真希と琴音が話しをしていた外の水呑場には、斎藤深雪と有村皐月がいた。

 グランドの方では男子数人がまた花火をしてはしゃいでいた。


「じゃあ、言うよ」

 深雪はスマホで真希に伝えた。

 真希もスマホを口に当て「OKお願い」と答えた。


 奥から3番目の蛇口の前で深雪が言う。

「皐月は、スタイルが良くて足が長い」


「ちょっと、何で私の事なのよ」

 有村皐月が不満気に深雪を見た。


 宿舎の2階では、真希達3人が奥から3番目の蛇口に耳の神経を集中させていた。

 すると、蛇口から何か声が漏れてくる。

 3人は顔を見合せた。


 斎藤深雪が蛇口に向かって話した後、深雪のスマホの電話が鳴った。開くと真希からだった。


「聞こえたよ。本当に蛇口から声が聞こえてきた」

「だけど、何であんな事言ったの?」


 深雪は、不審に思って聞き直した。

「あんな事って?」


 真希の言葉がスマホから聞こえる。

「皐月はスタイルが良いが、足が臭いって」


「何それ」

 皐月が怒る。


 深雪はあわててスマホに向かって言う。

「いえいえ、私はそんな事言ってないよ」

「私が言ったのは、皐月はスタイルが良くて足が長いって言ったの」


「えっ、でも確かに足が臭いって聞こえたよ。3人で聞いたから間違いないよ」

 スマホから真希の言葉が帰って来た。


 斎藤深雪は有村皐月と顔を見合せた。


「足が臭いって、失礼な奴が水道管の中で言い変えてるんじゃないの」

 皐月が呟いた。


 すると半分ふざけて、深雪は腰を屈めて蛇口に向かって言った。

「中に誰かいるの?」


 すると、蛇口の中から低い声が漏れてきた。

「誰もいない」


 それを聞いた深雪と皐月は、のけぞって大きな叫び声をあげた。


 その声はスマホを通して真希達にも聞こえた。

 そしてグランドで花火をしていた男子にも聞こえたらしく、彼らが「どうした」と言って駆けつけてくれた。


「水道管の中に誰かいる」

 斎藤深雪が当の蛇口を指差して男子の一人に言った。


「はぁ、何言ってるんだ」

 男子の一人がその蛇口を見て言った。


「わかった、炙り出してやろう」

と言って、他の男子が手持ち花火に火を点けて蛇口の下に花火をかざした。


 花火は勢いよく燃えあがり蛇口を包みこんで、火花と煙が立ち上がった。


 2階の真希達は何が起こってるのか分からず、スマホを聞いていた。

 

「真希、あれ」

 琴音が真希の腕を引くので真希は、蛇口を見た。

 すると蛇口から白い煙が出ていた。それとともに何か音も聞こえる。


「ぎええええ」


 真希達は、ビックリして蛇口を見つめた。

 蛇口の中から何か出てきた。

 毛むくじゃらの毛虫の様なものがうねりながら出てきた。

 真希達は、何で毛虫が蛇口から出てくるのかと思っていたら、毛虫から手の様なものが出てきて蛇口の出口を掴んで這い出てきた。

 そしてそれはボタッとシンクの中に落ちた。それは、巨大な毛虫の様だがネズミの様な肌の露出した尻尾がついていてその根元に小さな足が2本出ていた。そして毛の中から目が2つ開いて、「何をする」と喋った。

 

 真希と琴音と和華は、叫び声を上げてのけぞった。

 毛虫もどきも驚いてパニックになり、2本の手と2本の足で四つん這いに走り出してシンクを飛び出した。

 毛虫もどきは真希達の足先をすり抜けて、廊下を蛇行しながら走った。

 真希達の叫び声に驚いて、部屋の中にいたバスケ部の女子達が窓から廊下に顔を出した。

 すると毛虫もどきは更にパニックになり彼女達の目の前を走り抜けて行った。

 彼女達も走っていく毛虫もどきを見て次々に叫び声を上げていった。

 やがて毛虫もどきは廊下の板の隙間に入り込み姿を消した。

 しばらくは、阿鼻叫喚の中、そこにいた女子達は大騒ぎになっていた。

 何事かと先生達も駆けつけて来たが女子達の説明を聞いてもよくわかっていない様であった。



 その後、蛇口から声がする事はなくなった。毛虫もどきについては、多くの目撃者もいたこともありしばらくの間、学校の中で話題になった。

 結局あれは何だったのか分からずじまいだが、真希の噂も毛虫もどきの仕業だということになり、誤解は解けた。

 しかし、この騒ぎのおかげで大問題になったのは、真希の元彼氏でテニス部のキャプテンの谷島弘人が一年女子を妊娠させたことである。

 2学期が始まると二人の姿は、学校で見られなくなり、真希は少し悪い事をしたなと心に残った。

 

 

 





 




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