3誰から聞いたの?
2階のバスケ部女子の部屋の前に来ると、中にいた10人ぐらいの子達が、真希達を振り向いた。
佐倉和華は、一人で中に入り一人の女子を入り口の方に連れて来てくれた。
「真希は、妊娠なんかしてないよ。その話し誰から聞いたの?」と和華が尋ねてくれた。
「私は、弥生から聞いたんだけど」
その女子は、部屋の中に向かって朝倉弥生の名を呼んだ。
他の女子と喋っていた朝倉弥生は振り向くと立ち上がって入り口にやって来た。
朝倉弥生に誰から聞いたか尋ねたら、斎藤深雪という女子から聞いたと言う。
入り口に集まった5人は、部屋の中を見渡した。
「深雪、いないね」
斎藤深雪は、部屋の中にいなかった。
すると窓際にいた子が手を上げて教えてくれた。
「深雪なら外にいるよ」
真希達は、その女子の所にいって窓から外を眺めた。するとグランドに降りる階段の所で、二人の女子が並んで座っているのが見えた。
真希、琴音、和華は急いで階段を降りて斎藤深雪の所にやって来た。
「斎藤さん」
真希が並んで座っている女子の背中から声を掛けた。
斎藤深雪は振り向くと、あっという顔をした。ばつが悪そうだった。
「斎藤さん、私が妊娠した噂って誰から聞いたの?」
真希は、深雪に詰め寄った。
「ごめん。聞こえたのよ、昨日の夜」
「あまりに衝撃的な話しだから、つい一人に話したらあっという間に広がって」
「誰にも話すなって言ったのよ」
誰にも話すなと言うことは、みんなに話せと言うことだ。
と真希は心の中で思った。
「聞こえたって、何処で聞こえたの?」
真希は斎藤深雪に尋ねた。
「あの2階の端の水呑場」
斎藤深雪は、宿舎の2階の端を指差した。
見るとそこは、昨日真希が琴音と話していた水呑場の上の方にある。
だがそれは、窓もない板張りになっている。
それにしても、あんなに小さい声で話してたのに、あんなに上で窓も無いのに聞こえるものなのか。
真希は、訝しがった。
「よく、私達の話し声が外から聞こえたわね」
真希はもう一度深雪に詰めた。
「違うわよ、外から聞こえたんじゃないわよ」
深雪が意外な事を言い出した。
「水道の蛇口から聞こえたのよ」
「蛇口?」
真希は深雪の顔を見て聞き直した。
「そう、夜の8時頃水呑場で歯を洗ってたら、何処からか話し声が聞こえて来たの。何処からなのか全然分からなくて、聞き耳を立ててたら水道の蛇口から声がしてたの」
「ええっ、本当に?」
「本当よ。私も隣にいたから聞いたわ」
斎藤深雪の横に座っている有村皐月が真希を見上げて言った。
皐月は、スタイル抜群な女子で斎藤深雪と仲良しだ。昨夜も並んで歯を磨いていた。
皐月が話しを続けた。
「奥から3番目の蛇口から声がしてたの。試しに詮を開けてみたけど水は出なかったわ」
真希は、はっとした。
昨夜、真希が話してた場所も奥から3番目の蛇口の前だった。あの水の出ない蛇口だ。
水道管を伝って聞こえたのだろうか。
真希は、そんな事あり得るのだろうかと不思議に思った。